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悪役令嬢は、友の多幸を望むのか
後編
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私はあれからイシュクスに戻り、念願の結婚をした。公爵を継いだラドクリフ様と。
私たちは領地運営に奔走し、幼い頃から一緒に見た夢を果たしている。
今日はガレシャ王国へ、月に一度の報告書を提出する日。
初めてこの国の首都にやってきた私には、どうしても会いたい人がいた。
「シンディー様! 来てくださったのですね!!」
「メイサ! じゃなくて、メイサルート王子妃殿下!」
「ちょ、やめてくださいませ! メイサとお呼びいただけないと、大切な友人に再会できた気がしませんわ!」
ずっと心配していたけれど、メイサは痩せるでもなく、溌剌とした明るい彼女のままだった。
そしてメイサの隣には、長い黒髪の美丈夫が。第五王子のゼレンだというその方を紹介してもらい、私もラドクリフ様もほっとする。
だって、彼は……
「ちょっとゼレン様、もう少し離れていただけません?」
「いやだ」
「わたくし、友人とお話しをしたいのですが」
「俺が聞いてはダメな話なのか?」
「そういうわけでは……」
メイサを抱きしめたまま、離そうとしないんだもの!
そしてメイサのその顔、まんざらでもないわよね?
結局はラドクリフ様が、報告書を出したいからとうまいこと言って、ゼレン様を連れ出してくれた。気遣いのできるラドクリフ様、最高の夫です!
二人になると、メイサの驚くほどの惚気を聞かされることになった。
着いたその日にゼレン様に一目惚れされ、メイサもまた一目惚れだったんだとか。そういうことって本当にあるのね。とにかく、メイサが幸せそうで良かった。
でもふとした瞬間に、メイサの額の傷が目に入り、私は唇を噛み締める。
「ごめんね、メイサ……私のせいで、きれいな顔に……」
「え? ああ、気にしておりませんわ。あの時は、この傷を利用してシンディー様の心を抉る発言をしてしまったこと……お許しくださいませ」
「いいえ! あれは私のためにしてくれたんだもの! 感謝しているの!」
私がメイサの手を握ると、メイサは嬉しそうに笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
私はラドクリフ様とイシュクス領へ戻るため、メイサにさよならの挨拶をした。
「シンディー様! 離れていても、わたくしの一番の友は、シンディー様ですわ!」
かつて悪役を演じた令嬢は。
「わたくしは誰よりも、シンディー様の幸せを祈っております!!」
今も私の幸せを願ってくれる、大切な親友で。
「私もよ! また、一ヶ月後に会いましょう!」
この友情が壊れることはない──そう、確信した。
「嫉妬してしまうな」
帰り際、私の夫が少し頬を膨らませていて、思わずフフと笑ってしまう。
「私、メイサが大好きですから」
「まったく、僕を嫉妬させて楽しいのかな?」
「そうかもしれません」
「そんなことを言う妻には、お仕置きだ」
そう言って、私は唇を塞がれた。
ああ、ちっともお仕置きになっていない。
愛されていることが心地いい。
私はキスをされながら、どこまでも青い空を見上げた。
優しい優しい悪役令嬢に感謝して。
私は、ここにある幸せを噛み締めた。
私たちは領地運営に奔走し、幼い頃から一緒に見た夢を果たしている。
今日はガレシャ王国へ、月に一度の報告書を提出する日。
初めてこの国の首都にやってきた私には、どうしても会いたい人がいた。
「シンディー様! 来てくださったのですね!!」
「メイサ! じゃなくて、メイサルート王子妃殿下!」
「ちょ、やめてくださいませ! メイサとお呼びいただけないと、大切な友人に再会できた気がしませんわ!」
ずっと心配していたけれど、メイサは痩せるでもなく、溌剌とした明るい彼女のままだった。
そしてメイサの隣には、長い黒髪の美丈夫が。第五王子のゼレンだというその方を紹介してもらい、私もラドクリフ様もほっとする。
だって、彼は……
「ちょっとゼレン様、もう少し離れていただけません?」
「いやだ」
「わたくし、友人とお話しをしたいのですが」
「俺が聞いてはダメな話なのか?」
「そういうわけでは……」
メイサを抱きしめたまま、離そうとしないんだもの!
そしてメイサのその顔、まんざらでもないわよね?
結局はラドクリフ様が、報告書を出したいからとうまいこと言って、ゼレン様を連れ出してくれた。気遣いのできるラドクリフ様、最高の夫です!
二人になると、メイサの驚くほどの惚気を聞かされることになった。
着いたその日にゼレン様に一目惚れされ、メイサもまた一目惚れだったんだとか。そういうことって本当にあるのね。とにかく、メイサが幸せそうで良かった。
でもふとした瞬間に、メイサの額の傷が目に入り、私は唇を噛み締める。
「ごめんね、メイサ……私のせいで、きれいな顔に……」
「え? ああ、気にしておりませんわ。あの時は、この傷を利用してシンディー様の心を抉る発言をしてしまったこと……お許しくださいませ」
「いいえ! あれは私のためにしてくれたんだもの! 感謝しているの!」
私がメイサの手を握ると、メイサは嬉しそうに笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
私はラドクリフ様とイシュクス領へ戻るため、メイサにさよならの挨拶をした。
「シンディー様! 離れていても、わたくしの一番の友は、シンディー様ですわ!」
かつて悪役を演じた令嬢は。
「わたくしは誰よりも、シンディー様の幸せを祈っております!!」
今も私の幸せを願ってくれる、大切な親友で。
「私もよ! また、一ヶ月後に会いましょう!」
この友情が壊れることはない──そう、確信した。
「嫉妬してしまうな」
帰り際、私の夫が少し頬を膨らませていて、思わずフフと笑ってしまう。
「私、メイサが大好きですから」
「まったく、僕を嫉妬させて楽しいのかな?」
「そうかもしれません」
「そんなことを言う妻には、お仕置きだ」
そう言って、私は唇を塞がれた。
ああ、ちっともお仕置きになっていない。
愛されていることが心地いい。
私はキスをされながら、どこまでも青い空を見上げた。
優しい優しい悪役令嬢に感謝して。
私は、ここにある幸せを噛み締めた。
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