私は彼のメイド人形

１３

「･･･それじゃ、俺は学園へ行ってくる。変なことはするなよ！！くれぐれも！！」

はいはい、いってらっしゃいませ～。

･･･さて、坊っちゃんは馬車に揺られて学園へ行かれました。ここからは私の天下のお時間です！
とはいえ、別に何か出来るわけでもないので･･･ええ、暴食も昼寝もできませんからね、この体。何もすることが出来ないので、私は地道にお屋敷の掃除をしましょう。もはや趣味ですね。
というわけで、お庭の倉庫から引っ張り出してきた草刈り鎌を手にレッツ草刈り！
このお屋敷の前庭園は広いのですが、雑草ボウボウで東屋なんかツタで埋もれてますからね。なので、地道ーに草を刈っていきましょうか。
ザッシュザッシュと草を刈り刈り、出たゴミは集める場所へぽーい。驚異的怪力と腰痛に悩まされない素敵ボディのお陰で苦もなく作業は進んでいきます。スタミナがないのってありがたいですねー。
そんな感じで入り口周辺から徐々に周囲を刈りまくっていけば、ようやく三分の一が芝生になりました。
ふーいい汗掻いたぜ、とばかりに汗を拭うふり。こういうのは心持ちが大切です。
では、山の如くな引っこ抜いた雑草を、テキパキと裏のゴミ捨て場へ持って行きましょうか。ああ、芝刈り機という文明の利器が恋しい物です。

･･･おや？

ゴミ捨て場までやってきたとき、ふと、音が聞こえました。
そろそろとゴミ捨て場･･･ようは大穴の中に生ゴミやらが放り込まれてるんですがね、そこを覗き込んだら、なんと浮浪者が一人、ゴミくずを漁ってました。
あらやだ、乞食ですか？困るんですよね、ゴミ漁られるの見られたら、私が怒られます。
なので、声を掛けることにしました。

「あの」

「っ！？」

こちらへ振り返った薄汚い浮浪者。
予想外に、その相貌はまだ若く、しかし顔は恐怖というか、恐慌に包まれています。なんでしょうかね、と首を傾げた時、

「･･･ぁぁぁあああああああぁあっっっ！！！」

「･･･！？」

男が飛びかかってきました。っていうか脚力すごっ！？一メートルの段差をひとっ飛びで飛び越えましたよ！？
驚く間もなく男は私を押し倒し、その首に両手を掛けます･･･って、えぇ･･･？

「はぁ･･･！はぁ･･･だ、誰にも見つかっちゃだめなんだ、だめ、だめ、だめ･･･」

ブツブツ呟きながら首を絞めてますけど、ちょっと、お兄さん？それ意味ないですよー･･･ああ、完全にパニクってますねぇ。
仕方ない。

「うわぁあっ！？」

下から相手の首を掴んで逆に転がしてやります。そのままマウントポジションを取り･･･、

「ひっ･･･う、あ･･･！？」

･･･う、う～ん、どうしましょうか？追い出すにしても、私殺されかけましたし。このまま警察っぽいところに突き出すのが一番なんでしょうけども。

･･･ん？あれ？
目の前のお兄さん、凄い汗だらだらだったと思ったら、ひゅーひゅーと呼吸が細くなっていきます。
って、ちょっと！過呼吸ですか！？
ああもう、仕方ないですねぇ！

･･･とりあえず、私はお兄さんを介抱することにしました。ほら、この袋口に当てて息吸って～･･･ちょっと！ちゃんと吐きなさい！吸い過ぎですっての！！


・・・・・・・


で、ですね。

過呼吸でゼイゼイいってるお兄さんを介抱し、そのまま家の中の談話室のソファに寝かせました。汚れ？そんなことより人助けですよ。

「ご無事ですか？」

ソファの上で寝ているお兄さんは、こっちを恐怖の目で見てます。なんでしょうかねぇ、その視線。私、そんなに怖いですか？まあ表情筋は死んでるんで常にアルカイックスマイルですが。
･･･ん？おや？
よく見てみると、お兄さんの首には、鉄の首輪が。
ああこれ･･･アレですか、奴隷ですね、はい。

この国には、意外なことに奴隷が存在しています。ええ、ゲーム内でもそれとなく示唆はされてましたが、実物を拝むのは初めてです。まあつまり、この方は誰かの所有物なんですよ、困ったことに。
う～ん、ますますもって、どうしましょう。
取得物届けを出さないと横領になっちゃいますし･･･え、そういう問題じゃない？

「･･･きみ、は･･･ご、ご主人さまの、追っ手じゃ、ないの･･･？」

ん？ご主人さま？

「この屋敷の主は、ラクル・イズレルカ様です。貴方のご主人とやらとは関係がないかと」

たぶん。

「ちがう、の･･･？」
「ええ」

私が肯定すれば、そのお兄さんは急にボロボロと泣き出しました。あらあら。

「ご、ごめん、ごめんなさい･･･お、俺･･･追っ手だと、思って･･･」

ああ、脱走奴隷って事ですか。だから人目を気にしてパニックになって私を襲った、と。

「ごめん･･･だ、だから、あの･･･な、なんでもする、から･･･」
「確約もなく何でもする、というのはいただけませんね」
「っ！」

ビクビクしちゃってますねぇ。完全に怖がってますよ。
しかし、う～ん、どうしましょう？拾っちゃったものは仕方がないので、このまま逃がしてあげてもいいんですけど･･･あ、このソファの汚れ、絶対に怒られますよね。くっ！カバーじゃないから洗えない･･･今から洗っても間に合わない･･･！ここで逃したら私がお叱りを受けます！
･･･そうですね。

「それでは、私のご主人様に判断を仰ぎましょう」

秘技、他人任せ！
後はもうラクル様が適当にやってくださるでしょう。私は気にせず草刈りすることにします。
というわけで、私は適当にお兄さんをソファに寝かせたまま、草を刈りに行きます。え、盗みとかするんじゃないかって？
ふふふ、大丈夫ですよ。
なんと私、感知レーダーが搭載されてます！
視界の裏にピコピコプーとレーダーが現れて、周囲一帯の生命の位置を知ることが出来ます。しかも動体センサー付き！なんと高性能！
ともあれ、センサーを常時展開しながら草刈りします･･･視界が邪魔ですね、これ。

………で。

夕刻になり、ラクル様が帰ってきました。

「悪さはしなかっただろうな？」

開口一番これです。まったく、信頼してくれませんね。

「悪さはしておりません。少し拾い者をしただけで」
「拾い物だと？この俺の許可を取らずに何を拾ってきた。猫か？」
「まあ、似たようなものですね」
「ちっ！俺は動物が嫌いなんだ･･･そんなの、とっとと捨ててこい！！」

あらあら、悪役は動物好きだとギャップ萌えなんですけどね、ラクル様は違ったようで。
そう思っていれば、先に屋敷に入ったラクル様、

「･･･って、誰が人間を拾ってきて良いと言ったぁぁー！！？」

ズダダダーッと戻ってきて突っ込みのストレートパンチ！あーれー、と私の首はすっ飛んでいって池ポチャしました。
あ、ちょっとラクル様！今視界が水で何も見えないんですけど！ちょっと待って～！！