家族ごっこ

夜光水

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私はあなたの愛を信じない

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トラックに跳ねられて、異世界あるあるネタみたいな死に方をした俺は、気付けば知らない島の浜辺に立っていた。家族や恋人を残してきた心配はあったが、それ以上にパソコンの中にあるマル秘データが一番の心残りだ。
(てか、ココが天国? 思ってたのとだいぶ違うな)
もっと楽園のような場所を想像していたのに、なんだか無人島に漂流した気分だ。海にも入れるし、近くに生えている木も普通に触れられるし、天国以前に本当に死んだのかと思えてしまう。
でも、トラックに轢かれた衝撃も痛みも夢にしては出来過ぎてるし・・・・
「ありえないよな・・・・」
自分の身体を見下ろしながら呟く。折れていた身体は健康体そのもので、しかもフルチンだ。
仮に轢いた奴が俺をこの島に連れてきたという可能性も考えたが、自分で見ても絶対に助からないと思った怪我をした痕がない上に、全裸で島に放り出す意味も分からない。
(なんにせよ。まずは島の探索しないと始まらねぇか)
海の反対側は森という事もあって少し躊躇いもしたが、覚悟を決めて俺は森の中へと足を踏み出した。しばらく歩いてみたが、不思議な事に虫とか他の動物は見つけれず、代わりに体感で1,2時間歩くごとに所々に美味そうな木の実や誰か立てたのか分からない家が何件も立っていた。
「誰かいませんかー!?」
5件目の家の中に入り、家の中を覗いてみるが、稼働している中身入りの冷蔵庫やエアコン、ベットなんかは普通にあるのに人のいる気配はなく、タンスの中には服も一つも入っていなかった。
(マジで、この島なんなんだよ?)
初めはラッキーだと思っていたが、こうも続くと気持ち悪さが先立ってくる。
でも、一番に気持ち悪いのは、どれだけ歩いても疲れない身体と腹が減らない事かもしれない。
「いっその事、今日はここに泊まってみるか」
もしかしたら外に出かけているだけかもしれないし、仮に家の中で会ったら事情を話せば、きっと分かってもらえるだろう。楽観的だとは自分でも思ったが、これも体感だが8,9時間近く歩き続けていたら流石に歩くのも嫌になったのもある。
「はぁ・・・もしかして、この世界にいるのって俺だけだったりしないよな?」
清潔なベットの上に倒れこみ、天井の木目を眺めながらため息を漏らす。普通ならドット疲れが押し寄せても良い筈なのに、気分と正反対に体力が有り余ってる。
(明日になったら、もう少しだけ誰か探してみるか・・・・)
目を閉じると睡魔はすぐに訪れ、あっさりと意識を手放した。
翌日、やはり家の住民はいないのか、帰って来た気配もなく、俺はため息を吐くとベットから起き上がって、再び島の探索を続けることにした。
(てか・・・広すぎねぇ?)
昨日と合わせて、結構な距離を歩いている筈なのに、反対側の海は一向に見えてこない。
同じ場所をグルグル回っている可能性も考えたが、和風・洋風・中華風と料理の様に出くわす家は毎回違うからそれもあり得ない。
「だぁー!!もう無理!!誰か、誰かいないのか―!!」
大声で叫びまくりながら進んでいくと、ようやく森の出口が見えてきた。
(うっしゃああぁぁ!!)
森の景色にもうんざりしていたし、走って森を抜けると今度は草原が広がっていた。森の匂いとは違う風の香りと太陽の光、そして・・・まるでファンタジーでよく出てくるユグドラシルのような大樹に凭れ掛かって、体育座りで俯いている全裸の少年を見つける。
「いた・・・いた!!人がいた!!」
話し相手に飢えていた俺は、速攻で少年に駆け寄っていく。
(まずは怪しい奴じゃねぇって、アプローチしないとな・・・)
興奮で荒くなる息で、目の前まで行き、そのまま目線を合わせるようにしゃがみ込むと、少年はまるで待っていたかのように顔を上げる。サラサラとした黒髪は風で揺れ、タレて黒くて大きな瞳はまっすぐおれを見つめ、絹のように白い肌をした少年に
(キレイだ・・・・)
何を話そうかと考えていた頭の中身が全て消し飛んでいく。付きあっていた恋人にも感じた事の無い胸の高鳴りを押さえられなくなっていた。その目で俺をもっと見てほしい。声を聴きたい。笑ってる顔とかも見てみたい。色んな感情が一気に溢れだして、爆発して・・・・
「「愛してる。結婚して家族になってくれ」」
産まれて初めてのプロポーズをしていた。
「・・・・・・は?」
でも、俺の言葉を拒絶するように少年は顔を歪め、キレイな黒い瞳が涙を溜めていく。
(やべっ、こ、怖がらせちまったかなっ・・・?)
そのまま泣き出されたらどうしようかと心臓がバクバクと音を鳴らすが、少年はすぐに表情を消してしまう。ホッとした反面。何も感じていないような顔が寂しくて複雑な気持ちになる。
「い、いきなり、ごめんな?お、俺の名前は春樹だ。気が付いたらココにいてさ・・・」
少しだけ冷静になった頭で、自己紹介と現状を伝えるが、少年は一切反応を示してくれなくて、まるで人形を相手にしているように感じられる。色々と聞いてみたが、それにも何も答えてくれなくて、おそるおそる触れてみると、一瞬だけビクッと身体を揺らす。
「ココで話すのもなんだしさ、良かったら近くに空き家があったから、そこまで行こうぜ?」
そう言っても、少年はうんとも嫌だとも言わず、焦れた俺は少年に怖がられるのを覚悟しながら華奢な身体を抱き上げる。
(うわっ、スベスベで暖かくて柔らけぇ・・)
落ちないようにお尻に手を当てて支えると、良からぬ感情が出そうになるのを必死に押さえ、雨が降ってる時に植物から感じる甘い匂いを感じながら、俺は森で見つけた家を目指した。
「・・・・あれ?」
「すぅ・・すぅ・・・・」
気付くと少年は、俺の腕の中で気持ち良さそうに寝息を立てており、無意識に首の後ろに回された小さな腕を伸ばしてくれる。ただ温もりを求められただけかもしれないが、初めて示された行動に俺は感動する。ただ・・・・
「や、やべぇ・・・やっべぇよ。どうしよう・・・」
その感触は下半身の一部に直結して、ずっと耐えていたのに少年の尻たぶを擦りながら感動を台無しにしてくれる。コレが暢気な俺と傷だらけの少年と最初の出会いだった。
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