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結界に挟まれた侍 3
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神雷結界はイナカマチ区画の守りの要で、かなり重要な部分である。それをつい昨日会ったばかりの独楽に任せたい、と若利は言ったのだ。
さすがに独楽も困惑して、
「他に誰か神雷結界を張ることが出来る人はいないのですか? 若様でも?」
と尋ねたが、若利は首を横に振って否定した。
「……俺の神力では、ここまでの規模の神雷結界を張ることが出来んのだ」
神力は人によって溜められる容量(キャパシティ)が違う。独楽は多い方の部類に入るが、どうやら若利はそうではないらしい。若利の口ぶりからすると、神雷自体は使えるようだが、大規模なものを使うには容量不足なのだそうだ。
「だから神雷結界がなくとも守る手段を増やそうと考えて、その一環で人を募集してはみたんだ。だが今のご時勢、なかなか良い人材がいなくてな。それで、きみはどうかと思ったんだ」
「うーん、神雷壁はよく使いますけれど、ここまで大きい結界はやってみない事にはなんとも。神力を込めるだけなら、量さえあれば誰でも出来ますけれど、発動には倍くらい神力が必要になりますからね」
独楽は腕を組んで難しい顔で唸った。
「神雷壁か……そう言えば、あれは見事だったな」
「そ、そうですか? へへへ」
若利に褒められたて、独楽はちょっと照れて笑った。独楽は前に働いていた場所でも神雷を良く使っていたが、それが当たり前に受け取られるようになってからは、こうして真正面から褒められた事が少なかった。なので若利に褒められて、嬉しかったのだ。
若利はうむうむと何度か頷いたあと、
「うむ、実に漢らしい神雷壁だった」
と言った。褒められているのは分かるのだが、素直に褒められてると受け取って良いか悩んで、独楽は「漢らしい……」と若干微妙な表情になる。だが直ぐに気を取り直して、話に戻った。
「神雷結界を張り直すためには、いったん結界を解く事になりますから、リベルタ区画のような連中がいると少し厳しいですね。張り直す際にそれなりに時間もかかるので、その間に攻め込まれてしまっては元も子もありません」
「張り直している間に、区画の守りを保つ必要がある、という事か」
「ええ。それと基本的には神雷には神雷でしか対処する事が出来ません。よほどの武人や武術の達人ならば別ですが、対抗できる手段がなければあっという間に制圧される可能性が高いですよ」
独楽の言葉に若利が苦い顔になった。リベルタ区画に攻め込まれた時の状況からして、まともに神雷を使える者はほとんどいないのだろうと独楽は思った。それならば張り直すという危険を冒さず、今ある神雷結界を維持した方がまだ安全である。
「それならば、神雷を使える人を増やせば良いのでは?」
二人の話をじっと聞いていた信太が、ふと、そんな事を提案した。
「「神雷を使える人を増やす?」」
思わず独楽と若利の声がハモる。確かに神雷が使えなければ、使えるようにすれば良い。独楽はパチリと手を鳴らした。
「信太、グッドアイデアですよ。確かにそうですね、増やせば良い。若様、先ほど神雷を使える者がいない、と仰っていましたが、神力自体をお持ちの方はいらっしゃいますか?」
「確か以前に調べた時には、住人の半数はいたはずだな」
「おや、結構いらっしゃいますね」
「まぁもともと小さな区画だからな、半数と言ってもそれほど大人数ではないよ」
人数にすれば多くはないと言う若利に、独楽は首を振った。
「それでも大丈夫です。正直、小さな区画ですから、もっと少ないと思っていたのですよ」
神雷は便利な力ではあるが、誰もが使えるわけではない。まず前提条件として神力を貯める事が出来るか否か、というのが重要になる。
神力とは例えるならば流れる水のようなものだ。その水を受け止める器がなければ垂れ流しになってしまう。だからこそ神力を貯める器が必要になるのだが、誰もがそれを体の内側に持っているわけではない。大きさは様々だが、器がなければ神力は溜まらず、神雷を扱う事は出来ないのだ。
「そうか、そう言って貰えると助かる」
ほっとした様子の若利に、独楽はにこりと笑い掛ける。
「仕事の合間の時間を見て、希望者に神雷の扱い方を教える、というのは如何でしょうか?」
「ほほう、つまりそれは……つまり神雷教室、という奴だな! それは良い、何より面白そうだ!」
何やら若利の心の琴線に触れたらしい。目をきらきらと輝かせ、ウキウキし始める若利に独楽は小さく笑うと、神雷居室の予定を立て始めるのだった。
さすがに独楽も困惑して、
「他に誰か神雷結界を張ることが出来る人はいないのですか? 若様でも?」
と尋ねたが、若利は首を横に振って否定した。
「……俺の神力では、ここまでの規模の神雷結界を張ることが出来んのだ」
神力は人によって溜められる容量(キャパシティ)が違う。独楽は多い方の部類に入るが、どうやら若利はそうではないらしい。若利の口ぶりからすると、神雷自体は使えるようだが、大規模なものを使うには容量不足なのだそうだ。
「だから神雷結界がなくとも守る手段を増やそうと考えて、その一環で人を募集してはみたんだ。だが今のご時勢、なかなか良い人材がいなくてな。それで、きみはどうかと思ったんだ」
「うーん、神雷壁はよく使いますけれど、ここまで大きい結界はやってみない事にはなんとも。神力を込めるだけなら、量さえあれば誰でも出来ますけれど、発動には倍くらい神力が必要になりますからね」
独楽は腕を組んで難しい顔で唸った。
「神雷壁か……そう言えば、あれは見事だったな」
「そ、そうですか? へへへ」
若利に褒められたて、独楽はちょっと照れて笑った。独楽は前に働いていた場所でも神雷を良く使っていたが、それが当たり前に受け取られるようになってからは、こうして真正面から褒められた事が少なかった。なので若利に褒められて、嬉しかったのだ。
若利はうむうむと何度か頷いたあと、
「うむ、実に漢らしい神雷壁だった」
と言った。褒められているのは分かるのだが、素直に褒められてると受け取って良いか悩んで、独楽は「漢らしい……」と若干微妙な表情になる。だが直ぐに気を取り直して、話に戻った。
「神雷結界を張り直すためには、いったん結界を解く事になりますから、リベルタ区画のような連中がいると少し厳しいですね。張り直す際にそれなりに時間もかかるので、その間に攻め込まれてしまっては元も子もありません」
「張り直している間に、区画の守りを保つ必要がある、という事か」
「ええ。それと基本的には神雷には神雷でしか対処する事が出来ません。よほどの武人や武術の達人ならば別ですが、対抗できる手段がなければあっという間に制圧される可能性が高いですよ」
独楽の言葉に若利が苦い顔になった。リベルタ区画に攻め込まれた時の状況からして、まともに神雷を使える者はほとんどいないのだろうと独楽は思った。それならば張り直すという危険を冒さず、今ある神雷結界を維持した方がまだ安全である。
「それならば、神雷を使える人を増やせば良いのでは?」
二人の話をじっと聞いていた信太が、ふと、そんな事を提案した。
「「神雷を使える人を増やす?」」
思わず独楽と若利の声がハモる。確かに神雷が使えなければ、使えるようにすれば良い。独楽はパチリと手を鳴らした。
「信太、グッドアイデアですよ。確かにそうですね、増やせば良い。若様、先ほど神雷を使える者がいない、と仰っていましたが、神力自体をお持ちの方はいらっしゃいますか?」
「確か以前に調べた時には、住人の半数はいたはずだな」
「おや、結構いらっしゃいますね」
「まぁもともと小さな区画だからな、半数と言ってもそれほど大人数ではないよ」
人数にすれば多くはないと言う若利に、独楽は首を振った。
「それでも大丈夫です。正直、小さな区画ですから、もっと少ないと思っていたのですよ」
神雷は便利な力ではあるが、誰もが使えるわけではない。まず前提条件として神力を貯める事が出来るか否か、というのが重要になる。
神力とは例えるならば流れる水のようなものだ。その水を受け止める器がなければ垂れ流しになってしまう。だからこそ神力を貯める器が必要になるのだが、誰もがそれを体の内側に持っているわけではない。大きさは様々だが、器がなければ神力は溜まらず、神雷を扱う事は出来ないのだ。
「そうか、そう言って貰えると助かる」
ほっとした様子の若利に、独楽はにこりと笑い掛ける。
「仕事の合間の時間を見て、希望者に神雷の扱い方を教える、というのは如何でしょうか?」
「ほほう、つまりそれは……つまり神雷教室、という奴だな! それは良い、何より面白そうだ!」
何やら若利の心の琴線に触れたらしい。目をきらきらと輝かせ、ウキウキし始める若利に独楽は小さく笑うと、神雷居室の予定を立て始めるのだった。
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