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先輩と後輩
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しおりを挟む「ハイネル」
「やあ、ハイネル」
フランが手を振ると、ハイネルは少しだけ眉間にしわを寄せた後、セイルを見て、それからリゾットとパニーニを見て、再びフランに視線を戻した。
その視線には僅かに困惑の色が混ざっている。
「ハイネル?」
「……ダブルデートですか? フランは趣味が変わりましたね」
フランは思わず噴き出した。
セイルはむう、と口を尖らせる。
「ハイネルには後でお話があります」
「はっはっは」
ハイネルはそんなセイルに笑って、言った言葉を誤魔化した。
だが、まぁ、セイルの方も半分以上は冗談だったので直ぐに表情を戻す。
「先ほど、そちらのお2人がスリの被害に合われまして。たまたまそこに居合わせたら、襲われかけまして。そこをフランさんに助けて貰ったんです」
「えっ大丈夫なのですか?」
セイルの言葉にハイネルは驚いた顔で、怪我がないかと心配そうに見回す。
心配してくれるハイネルに、セイルはぱっと両腕を軽く上げて笑った。
「無傷です」
「そうですか、それは……どうも、助かりました」
「いや、こちらも助かったと言うか何と言うか」
ハイネルの礼にフランはもごもごと言い辛そうにそう言うと、その場の様子をみて察したらしいハイネルが「ああ」と小さく呟いた。
「お前、いつまでもそれが苦手なんだな」
「いや、ははは……」
ハイネルの言葉にフランは困ったように笑った後、すっと立ちあがった。
「さて、それじゃあ、そろそろ俺は行くよ」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
フランはセイルやリゾット達ににこりと笑い掛けると「またね」と手を振って去って行った。
そしてリゾットとパニーニも同じように立ち上がる。
「それじゃあ、僕達もそろそろ」
「あ、冒険者証の申請ですね。頑張ってください。筆記と、軽い実技がありますけど、そんなに難しいものではないので、落ち着いて……」
「「筆記!?」」
二人を応援したセイルの言葉に、リゾットとパニーニは揃って凍りついた。
その反応にセイルは目を丸くした。もしかして、試験がある事を知らないのだろうか。
「…………勉強、手伝いましょうか?」
「先輩!!!」
ハイネルがぽそりとそう言うと、リゾットとパニーニは膝をついてハイネルを拝んだ。
◇
夕暮れ時。
セイル達は自分達が泊まる宿屋の前で、手をぶんぶんと振って自分達の宿へと変えるリゾット達を見送った。
アイス屋を出た後、リゾットとパニーニを含めた四人はセイル達が泊まる宿へと戻ると、ハイネルの部屋で筆記テスト対策用の勉強会が開かれた。
先生役がハイネルで、助手役がセイルである。
ハイネルは自作だと言う勉強用のノートを出し、リゾットとパニーニに丁寧に教えていた。
自分の勉強のついでに作ったとハイネルは言っていたが、細かく、見やすく、分かりやすくまとめてある。
相当に、努力をしたのだろう。
精霊術師として冒険者になる為に、誰にも文句を入れない為に。
ログを見なくても伝わってきたそれを見ながら、フランがハイネルを褒めていた事も思い出して、セイルは思わず口元を上げた。
「どうしました?」
「いえ、ちょっと思い出し笑いを」
セイルの言葉に不思議そうにハイネルは首を傾げた。
「ハイネル」
「はい?」
つい「フランさんが褒めていましたよ」と言おうとして、セイルは言葉を飲み込んだ。
その代わりに別の話題を口にする。
「……マジックアイテム、良いの見つかりました?」
「フッ聞きたいですか? ええ、ええ、もちろんです。今日も素晴らしいマジックアイテムと出会いましたとも! まずはこの――――」
だんだんと橙色の空が夜の黒色へと変わっていく中、ハイネルは待っていましたとばかりに熱弁をふるい始める。
セイルはそれを聞きながら「しまった、言葉のチョイスを間違えた」と、頭を抱えたのだった。
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