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ウッドゴーレム

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 どしん、どしんと重量級のものが動く振動を響かせながら、遺跡の回廊をウッドゴーレムが歩いている。
 そのウッドゴーレムの前には、ストレイと、セイル、ハイネルが順に並んで歩いていた。

「…………」

 ふと、ストレイが足を止め、ゴーレムを振り返った。
 すると芋づる式にセイルとハイネルの足も止まる。そしてそれに合わせるように、ウッドゴーレムも足を止めた。

「…………」

 そしてストレイが歩き出す。セイルとハイネルも歩き出し、ウッドゴーレムも歩き出す。

(何コレ)

 ストレイは正直にそう思った。
 三人が足を止めればウッドゴーレムも止まり、三人が歩けばウッドゴーレムも歩く。まるで親鳥の後ろをついて走る雛鳥のようでだと、ストレイは思った。
 まぁ、雛鳥と言うには、ずいぶんと大きな相手ではあるが。

「いやあ、それにしてもゴーちゃんは良い子ですねぇ」
「ですねぇ」

 セイルとハイネルが何やら楽しげに頷きあってる。
 二人は歩きながら、ウッドゴーレムと遊んでいいた。
 セイル達がその大きなウッドゴーレムの腕じゃれつけば、ウッドゴーレムはひょいと腕を上げ、二人を持ち上げる。まるで親が赤子にするような『高い高い』のようだとストレイは思った。

「…………」

 歩きながらちらりと振り返ると、ストレイの視線に気づいたウッドゴーレムは一瞬動きを止め、ゆっくりとした動作で動き近くの石柱に隠れた、ように見えた。

(逃げ、られた……!?)

 もしかしたら、そういう動きではなかったのかもしれない。
 だがストレイはそれを見て、頭の上にガーンと瓦礫を落とされたような衝撃を感じた。
 何とも言えないその衝撃に、ストレイはよろよろと後ずさると、近くの壁に寄り掛かる。

(べ、別に……別にショックなんか受けていないし)

 誰に対しての言い訳なのか、ストレイは心の中でそう叫んだ。
 誰が見てもショックを受けている事は丸わかりである。そんなストレイを見て、セイルが気遣うように近づいて微笑む。

「大丈夫ですよストレイ。ほら、きっとゴーちゃんは人見知りなんですよ」
「ゴーレムが人見知り!?」
「大丈夫、しばらくすれば慣れます」
「慣れるの!?」

 そう言うと、セイルはウッドゴーレムの方を向いた。つられてストレイも顔を向ける。
 視線の先では、石柱から姿を現したウッドゴーレムが、ハイネルがじゃれ合っていた。

「ははは、ゴーちゃん高い高い!」

 ウッドゴーレムは両手でハイネルの体を掴むと、軽々と空中に向かって投げてはキャッチし、投げてはキャッチしを繰り返している。
 危ない方の『高い高い』を見ながらストレイは、

「く、悔しくなんてないんだからな!」

 心の中だけでは我慢出来なかったようだ。
 くっと顔を逸らすと、悔し紛れにそう言った。

「……ん?」

 ふと、その時。
 逸らした先で何かを見つけたストレイが、不意に、不思議そうな声を漏らした。

「どうしました?」
「いや、あそこ」

 四体のストーンゴーレム達が眠る側の回廊の途中、ちょうど制御盤がある辺りだ。
 そこには人一人入れそうなくらいの穴が空いている。
 近づいてみると、そこはどうやら遺跡の内部に繋がっているようだった。

「この遺跡、まだ奥があったのか……」

 白雲の遺跡は、セイル達やウッドゴーレムが暴れた事により、色々な場所が崩れている。これもその一つなのだろう。そうして生まれたらしき穴を、ストレイは覗き込む。

「念のため確認しておくか……お前達はどうする?」
「行きます行きます」
「冒険ヒャッホイ」
「ヒャッホイって」

 ところどころから光は漏れているものの、薄暗い通路である。
 ストレイは腰のカンテラを外して手に持つと、火を点けて穴の中へと差し入れた。
 どうやら今いる回廊と同じくウッドゴーレムが入っても問題ないくらいの高さと広さはありそうだ。
 だが、残念ながらそこへ入るまでの穴は、今のままではウッドゴーレムは入ることが出来ない。

「ここで待っていて下さいね」

 ハイネルがそう言うと、ウッドゴーレムは頷いて穴の横の壁に座り込んだ。
 膝を抱えている。
 その様が可愛くてセイルはにこにこ笑っていたが、ストレイは何とも形容しがたい顔でそれを見ていた。だがそのまま何も言わずに顔を逸らすと穴をくぐった。
 ストレイの後を追ってセイルとハイネルも穴をくぐって通路へと入った。
 ぽつりと呟いた声は空に吸い込まれていった。
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