上 下
14 / 44
新米冒険者とそれなり冒険者

しおりを挟む
 冒険者の町ライゼンデ。
 王都に次いで大きく、栄えているというその町は、昼夜問わずに多くの冒険者達で賑わっていた。
 その理由は、この町には冒険者達を支援する『冒険者ギルド』という組織発祥の地で、その本部があるからである。

 ライゼンデは、もともと小さな村であった。
 だがそこに冒険者ギルドが作られてからは、あちこちから人が集まるようになった。
 人が集まれば食べ物や薬、衣料品や日用雑貨など様々なものが必要になる。その需要を嗅ぎつけた商人達もぞくぞくと集まり、やがて今のような大きな町へと姿を変えたのである。

 さて、そんなきっかけとなった冒険者ギルド。その建物は、このライゼンデの町の中央に建っている。
 東西南北どこからも目立つその建物の、木製の扉をキイと鳴らして中に入れば、今日も今日とて大勢の冒険者達で賑わっていた。

 筋骨隆々な大柄の戦士もいれば、獣の姿をした弓使いいて、耳が尖った高慢そうな顔立ちの魔法使いもいる。
 ここに集まった冒険者達は、種族も生い立ちも様々だ。だが彼ら、彼女らは一様にして『冒険者』である。

 そしてその『冒険者』という立場は、彼らにとっての誇りであった。
 その誇りの前では種族や生い立ちは一切関係がない。性格が合う合わないはあるが、冒険者を名乗る者達は皆一様に同じであり、仲間であった。

 さて、そんな冒険者達で賑わう建物の奥。そのちょうど中央付近に冒険者ギルドの受付がある。
 受付のカウンター向こうでは、冒険者ギルドで働く職員達が、今日もせかせかと忙しそうに動き回っていた。

 そんな職員の中で、ひと際目立つのが、立派な白髭を生やした強面の老人だ。
 がっしりとした体躯と、威厳。彼が今代の冒険者ギルドのギルドマスター、アイザック・グロウである。
 そのアイザックの前には、駆け出し冒険者のセイルとハイネルが立っていた。

「しかし、昨日は悪かったなぁ。そんな事になっているとは思わなかった」
「いえ。むしろ僕達の方こそ、遺跡を一部壊してしまって申し訳ありません」
「いいや、ありゃあ、しょうがねぇさ」

 昨日、セイルとハイネルは白雲の遺跡から戻って来たのだが、大分時間が掛かってしまい、町に到着した時には日がどっぷりと暮れていた。
 その時には町の門のところにアイザックと、数人の冒険者達が集まっていて、ちょうど捜索隊が出されるところだったのだそうだ。
 アイザックや冒険者達は二人の無事を喜んでくれた。
 その時に遺跡での事を簡単に説明したのだが、とりあえずその日はもう遅いという事で、翌日に状況説明をしてくれ、という話になったのだる。
 それで、二人はこうして冒険者ギルドにやって来ていたのだ。

「それでは、まずはこれが白雲の花です」

 本来ならば受付で行う事なのだが、今日はここで良いと言われ、セイルとハイネルはそれぞれに採取した白雲の花をカウンターに置いた。
 アイザックはそれを手に持って確認をすると、近くに座っていたギルド職員を呼ぶ。
 アイザックが白雲の花を手渡し、セイルとハイネルの名前を告げると、ギルド職員は頷いて奥の部屋に行った。
 そして直ぐに銀色の小さな懐中時計を二つ持って戻って来る。
 アイザックはそれを受け取ると、懐から折り畳み式のナイフを取りだし、文字を刻んだ。

 文字を刻み終えると、アイザックは懐中時計をカウンターに置いた。
 セイルの手のひらに乗せても小さいくらいの懐中時計である。
 懐中時計のフタには八つの角をもつ太陽と、二つの小さな星の紋様が刻まれていた。
 この紋様は冒険者ギルドのマークである。
 何度忘れようと変わらずそこにあり、自分達を見守り、照らす太陽と星。そう言った意味があるのだと、試験の説明を受けた時にセイルは聞いた。
 セイルとハイネルはばっと顔を上げてアイザックを見る。アイザックはニッと笑ってみせた。

「合格だ。おめでとう、新人冒険者諸君」

 さあ受け取れと両手を開くと、セイルとハイネルは同時に懐中時計に手を伸ばした。
 ひっくり返してみれば、その裏側にはそれぞれの名前と資格を取得した日時が刻まれている。
 二人は懐中時計のフタをドキドキしながら開いた。
 そうしてギルドの壁に掛けられた時計の時間を確認しながら、長針と短針合わせ、ネジを巻く。
 カチカチと小さな音を立てて懐中時計は動き出した。

「~~~~~~ッ」

 感極まったようにお互いの顔を見合わせ、笑い合うセイルとハイネルの様子に、アイザックは表情を緩めた。
 アイザックが久しぶりに見る、新人冒険者らしい反応だった。

「それと、これもだな。今回の依頼の報酬だ」

 アイザックはカウンターにコインが入った袋を二つ置く。

「念のため、中身を確認してくれ」

 そのまま受け取ろうとしてた二人は、慌てて中を確認する。
 これは信用がないからとかそういう問題ではなく、ギルドの決まりだ。
 後で問題が起こって揉めないように、報酬等はその場で確認する事になっている。
 嬉しそうに中を覗いた二人は、金額に目を丸くした。

「何だか多くないですか?」
「迷惑料込みだ。調査不足で危険な目に合わせて悪かったな」

 二人が有難くそれを受け取ると、アイザックは話を続けた。

「それで、だ。遺跡の事についてなんだがな。遺跡の調査を頼む予定の奴が、諸事情でまだ戻って来ていないんだ。何度も悪いんだが、今日の午後にまた来て貰えるか?」

 そして、済まなそうにそう言った。
 セイルとハイネルも特に予定はなかったし、何より昨日の今日なのでしっかりと疲労が残っており、少しのんびりしたいところだったので、頷く。

「ええ、構いません」
「悪いな。それじゃあ、頼むわ」
「はーい」

 二人は懐中時計と、初めて得た報酬を大事に抱え、足取り軽く冒険者ギルドを出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...