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プロローグ

プロローグ

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 綺麗な青空の下に広がる、白亜の遺跡。
 かつての栄華はどこへやら、見る影もないくらい朽ちたそこを、二人の若者が息を切らせて走っている。
 一人は十五、六くらいの少女。もう一人は二十代前半くらいの青年だ。

 必死の形相で走る二人を、彼女らの背丈より遥かに大きい木製のゴーレムが追いかけている。
 速度とては人で言うところ、急ぎ足程度だ。

 しかし、追いかける速さが何だと言うのだ。
 重々しい足音を響かせ、感情の読めないゴーレムが、真っ直ぐにこちらへ向かってくる様は、恐怖以外の何者でもなかった。

「うわー! うわー! 何ですかあれ! ちょう怖い! 安全なのではー!?」

 薄茶のショートヘアの少女が、後ろを確認してそう叫ぶ。
 空色の爽やかな瞳が、迫りくるゴーレムを映す。
 そんな彼女に向かって、隣を走る翡翠色の髪の青年が、

「いやはや、びっくりですね!」

 などと、眼鏡を指で押し上げて、元気にそう答えた。
 言葉だけでは呑気にも聞こえるが、彼も彼とて、黒色の三白眼を見開いている。

「どうします、ハイネル!? 逃げますか、それとも隠れますか!? 倒すのは……あ、無理だ、これ」

 少女は自分の手に持った杖を見た。音叉のような形をした華奢な造りのそれ。
 見ただけで分かるように、これは基本的に物理的な攻撃には向いていない。簡単に言えば殴ったら折れる。
 そもそも殴りに行った時点で、自分がぺしゃんこに押しつぶされてしまう事だろう。
 少女がどうしたものかとあわあわとしていると、ハイネルと呼ばれた青年が眼鏡をキランと光らせた。 

「安心してください、セイル。奥の手があります!」

 ハイネルは鞄に手を突っ込むと、中から赤色のボールを取り出した。
 何だこれ。
 セイルがそう思っているとハイネルは一度足を止め、

「行きますよー!」

 と、赤いボールをゴーレムに向かって投げつけた。
 ヒュン、
 と音を立てて飛んだボールは、ゴーレムにぶつかると同時に、
 ドォン、
 と腹に響くようなけたたましい音を立てて爆発した。

「うわあ」

 セイルは思わずポカンとした表情を浮かべる。
 まさに奥の手と呼ぶに相応しい威力だ。
 目の前で爆発音と共に、ごうごうと燃え上がるゴーレム。
 それを見ながらセイルは、素直にすごい、と呟く。
 そして。

(……師匠。外の世界はなかなかに、波乱万丈のログ、、でいっぱいです)

 と、はるか遠くでのんべんだらりとしているであろう、自分の師に向かって、そんな事を思った。


 彼女達が何故、こうしてゴーレムに追いかけられているのか。
 時間は、少し遡る。
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