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2-3 ルキア
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翌日、水曜日。昨日の会話の通り、この日が返済日ということで、僕はアナさんと共にその場所へと向かう。今回の目的地は、まごころよりもさらに中心から離れた所にある、小さな居酒屋。
中心から離れるということ、得体の知れない相手の元へ向かうということで、少々怖さもある。
しかし現状少し前を歩くアナさんが恐怖や不安を顔に出していない以上、僕ばかりビビっている訳にもいかないため、なんとか平静を保ちつつ彼女の後をついていく。
こうして歩くこと十数分。ついに僕たちは目的地へと到着した。
「ここが……」
言葉と共に建物を眺めていると、アナさんは小さく息を吐いた後、真剣な面持ちでこちらへと視線を向けてくる。
「……ソースケさん、準備はよろしいですか?」
その言葉に、僕もフゥと息を吐いた後、
「えぇ、行きましょうか」
と言いながら小さく頷く。こうして僕たちは入り口の扉をゆっくりと開け、店内へと入った。
おそるおそる辺りを見回す。こういってはなんだが、その内装から思いの外きちんとした飲食店という印象を受ける。しかし──人の姿はない。
店の内装を見るに基本夜営業で、朝とか昼の客が訪れない時間帯に取引をしてる感じか? ただ、誰もいないのは少々不気味だ。……いつもこうなのだろうか。
そう訝しみながら、アナさんの方へと視線を向けると──彼女はどこか困惑した様子であった。
「あれ、誰もいない……?」
「普段はどんな感じですか?」
アナさんは僕の方へと視線をやると、再度口を開く。
「仮面とローブを身に纏った方が、決まって1番奥の席に座っているので、お金を渡して……その月の返済は完了という流れです」
「向かうが遅れたことは?」
「一度もありません」
……うーん。たまたま遅れただけ? それとも別の何かが?
そのあまりの不気味さに恐怖を覚えながらもそう考えていると──その声はあまりにも唐突に、ごく自然に聞こえてきた。
「……ごめんごめん。遅くなっちゃって」
この場に似つかわしくない、幼さの感じる中性的な声音。その声と共に、居酒屋の奥からコツコツと軽々しい足音を響かせながら、ローブと仮面を身に纏った者が現れた。
……ローブに仮面。こいつがスウェルティアのメンバーか? ……ただ、話と違う。
目前に悠然と立つ不気味な存在。しかしその身長はせいぜいが150cm程度という低さであり、先ほどの声を聞く限りでは、おそらく女性であろう。
……アナさんが嘘をついた? いや、そんなはずはない。現に彼女も驚いている。
チラとアナさんの方へと視線をやれば、彼女はその目を大きく見開いていた。少なくとも、彼女にとってもこの展開は予想外だったのだろう。
……なぜいつもと違う? いや、それよりも──なんだこの圧は。
困惑と恐怖と様々な感情がないまぜになる中、僕はふととある話を思い出した。それはリセアさんにマッサージをしていた際、彼女から聞いた話。
──たとえばAランク以上の魔物など、圧倒的に格上の存在と対峙した時、たとえ魔力の扱いに不慣れな人でも、ジリジリと痛みを感じる程の圧を感じることがあると。
もしも今僕が感じているこの圧がそうなのだとしたら──目前に自然に佇むソレは……絶対に太刀打ちできない、正真正銘の化け物だということになる。
冷や汗をかきながら、目を離せずにいる僕とアナさん。そんな僕たちの前で、ソレは当たり前のように言った。
「ん? なんでボクを見つめて……って、あ、そっか。自己紹介しないと誰だかわからないよね。……はじめまして。ボクの名前はルキア。『スウェルティア』のリーダーだよ。よろしくね」
……今、なんていった?
その言葉が信じられず固まっていると、ルキアと名乗ったソレが首を傾げた。
「ん? なんでまだ固まって……って、あーごめんね。こんなもの付けてたら失礼だよね」
そう言うと、ルキアは至極当然とばかりにフードを外した。
瞬間、闇とは対極の真っ白でサラサラとしたミディアムショートの髪が揺れる。
次いで仮面を外せば、いまだ10代中盤か、あどけなさの残る可愛らしい容貌が現れ──溢れそうなほどに大きくはっきりとした金色の双眸で、僕たちを見つめてくる。
「はい、これでどうかな?」
言葉の後、ルキアはニッコリと笑う。その笑顔からは、一切の邪気を感じられない。
僕は尚更混乱をしながらも、気になることを彼女へと問う。
「なんでスウェルティアのリーダーがここに? それに顔は隠してるんじゃ……」
「なぜボクがここにいるか……というのは後で話すとして、なぜ顔を見せたかは、その方が緊張がほぐれると思ったからかな」
……意味がわからない。普段顔を隠しているのに、緊張をほぐすために見せた? ダメだ。訳がわからなすぎて、逆に落ち着いてきた。アナさんは……彼女も何とも言えない顔をしているな。
そんな僕たちの姿を見た後、
「よかった。緊張はほぐれたみたいだね。……じゃあ、少しだけお話をしよっか。──きっと、2人も聞きたいことがたーくさんあるだろうしね」
という言葉と共に、ルキアは再び屈託のない笑みを浮かべた。
中心から離れるということ、得体の知れない相手の元へ向かうということで、少々怖さもある。
しかし現状少し前を歩くアナさんが恐怖や不安を顔に出していない以上、僕ばかりビビっている訳にもいかないため、なんとか平静を保ちつつ彼女の後をついていく。
こうして歩くこと十数分。ついに僕たちは目的地へと到着した。
「ここが……」
言葉と共に建物を眺めていると、アナさんは小さく息を吐いた後、真剣な面持ちでこちらへと視線を向けてくる。
「……ソースケさん、準備はよろしいですか?」
その言葉に、僕もフゥと息を吐いた後、
「えぇ、行きましょうか」
と言いながら小さく頷く。こうして僕たちは入り口の扉をゆっくりと開け、店内へと入った。
おそるおそる辺りを見回す。こういってはなんだが、その内装から思いの外きちんとした飲食店という印象を受ける。しかし──人の姿はない。
店の内装を見るに基本夜営業で、朝とか昼の客が訪れない時間帯に取引をしてる感じか? ただ、誰もいないのは少々不気味だ。……いつもこうなのだろうか。
そう訝しみながら、アナさんの方へと視線を向けると──彼女はどこか困惑した様子であった。
「あれ、誰もいない……?」
「普段はどんな感じですか?」
アナさんは僕の方へと視線をやると、再度口を開く。
「仮面とローブを身に纏った方が、決まって1番奥の席に座っているので、お金を渡して……その月の返済は完了という流れです」
「向かうが遅れたことは?」
「一度もありません」
……うーん。たまたま遅れただけ? それとも別の何かが?
そのあまりの不気味さに恐怖を覚えながらもそう考えていると──その声はあまりにも唐突に、ごく自然に聞こえてきた。
「……ごめんごめん。遅くなっちゃって」
この場に似つかわしくない、幼さの感じる中性的な声音。その声と共に、居酒屋の奥からコツコツと軽々しい足音を響かせながら、ローブと仮面を身に纏った者が現れた。
……ローブに仮面。こいつがスウェルティアのメンバーか? ……ただ、話と違う。
目前に悠然と立つ不気味な存在。しかしその身長はせいぜいが150cm程度という低さであり、先ほどの声を聞く限りでは、おそらく女性であろう。
……アナさんが嘘をついた? いや、そんなはずはない。現に彼女も驚いている。
チラとアナさんの方へと視線をやれば、彼女はその目を大きく見開いていた。少なくとも、彼女にとってもこの展開は予想外だったのだろう。
……なぜいつもと違う? いや、それよりも──なんだこの圧は。
困惑と恐怖と様々な感情がないまぜになる中、僕はふととある話を思い出した。それはリセアさんにマッサージをしていた際、彼女から聞いた話。
──たとえばAランク以上の魔物など、圧倒的に格上の存在と対峙した時、たとえ魔力の扱いに不慣れな人でも、ジリジリと痛みを感じる程の圧を感じることがあると。
もしも今僕が感じているこの圧がそうなのだとしたら──目前に自然に佇むソレは……絶対に太刀打ちできない、正真正銘の化け物だということになる。
冷や汗をかきながら、目を離せずにいる僕とアナさん。そんな僕たちの前で、ソレは当たり前のように言った。
「ん? なんでボクを見つめて……って、あ、そっか。自己紹介しないと誰だかわからないよね。……はじめまして。ボクの名前はルキア。『スウェルティア』のリーダーだよ。よろしくね」
……今、なんていった?
その言葉が信じられず固まっていると、ルキアと名乗ったソレが首を傾げた。
「ん? なんでまだ固まって……って、あーごめんね。こんなもの付けてたら失礼だよね」
そう言うと、ルキアは至極当然とばかりにフードを外した。
瞬間、闇とは対極の真っ白でサラサラとしたミディアムショートの髪が揺れる。
次いで仮面を外せば、いまだ10代中盤か、あどけなさの残る可愛らしい容貌が現れ──溢れそうなほどに大きくはっきりとした金色の双眸で、僕たちを見つめてくる。
「はい、これでどうかな?」
言葉の後、ルキアはニッコリと笑う。その笑顔からは、一切の邪気を感じられない。
僕は尚更混乱をしながらも、気になることを彼女へと問う。
「なんでスウェルティアのリーダーがここに? それに顔は隠してるんじゃ……」
「なぜボクがここにいるか……というのは後で話すとして、なぜ顔を見せたかは、その方が緊張がほぐれると思ったからかな」
……意味がわからない。普段顔を隠しているのに、緊張をほぐすために見せた? ダメだ。訳がわからなすぎて、逆に落ち着いてきた。アナさんは……彼女も何とも言えない顔をしているな。
そんな僕たちの姿を見た後、
「よかった。緊張はほぐれたみたいだね。……じゃあ、少しだけお話をしよっか。──きっと、2人も聞きたいことがたーくさんあるだろうしね」
という言葉と共に、ルキアは再び屈託のない笑みを浮かべた。
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