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1-21 はじめての全身オイルマッサージ
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ドアの前で待っていると、少しして彼女の声が聞こえてくる。
「ソースケー」
「準備できましたか」
「おう、いつでもいいぜ~」
「ほんとですよね……?」
「大丈夫だって」
「し、失礼します」
言いながらおそるおそる部屋に入ると、そこにはちゃんとベッドにうつ伏せになっているリセアさんの姿があった。
彼女の身体の上には乱雑ではあるが布が掛けられており、きちんと流れの通りに対応してくれたことがわかる。
僕はホッとしながら彼女へと近づくと、所々見えている小麦色の肌を隠すように、彼女に掛かった布を正していく。
そんな僕の姿をこれまたニヤニヤとしながら見つめるリセアさん。なんだか嫌な予感がしたため、牽制するように口を開く。
「……布を蹴り上げて外すとかやめてくださいよ?」
「迷惑になるからな。今日のところはこれ以上揶揄ったりしねぇよ」
……どうやら引き際はしっかりとしているよう。っていうか、今日のところって、今後また揶揄われることがあるってこと?
少々不安になりつつも、その後は彼女と他愛もない会話をしながら、準備を進めていく。
奥のテーブルに用意していた木の容器と布を手に取り、ベッド近くの台へと置く。
ちなみに今日使うオイルは、部屋での待機中に実体化したものである。ここ数日肌寒さを感じる程度には気温も低いため、きっと心地良さを感じてもらえるだろう。
「さて、それではマッサージの方始めていこうと思います」
「おう」
「はじめてなので緊張するかもしれませんが、とりあえず全身の力を抜いて、リラックスしてくださいね。まずは左脚からやっていきますね」
「あいよー」
ここで簡単に流れを振り返っておく。
リンパマッサージにおいて重要なのはリンパ液の流れに沿うこと、主要なリンパ節のある方向に流すことである。
その主要なリンパ節が鎖骨周辺、脇の下、脚の付け根いわゆる鼠蹊部の3箇所に存在する。超簡単に言うのであれば、この3箇所に向けて手を当てて流していけばいいという訳である。
ということでまずは彼女に伝えたように左脚から流していく。
「少しだけ布を外しますね」
「んー」
彼女が返事をくれたため、うつ伏せになった彼女の足側に移動し、左脚周辺の布を捲っていく。もちろん彼女の局部が見えないように気をつけながらも、太ももあたりまで露出させる。
そのかなり際どい姿に緊張するが、彼女はお客さんで、自身はお金をいただいて施術を行うプロなのだと強く意識をし、煩悩を追い払っていく。
……よし、やっていくか。
いつものように木の容器からオイルを手のひらに出す。そして両の手を合わせた後、まずは足先から太ももにかけて両手を上下させ、オイルを塗布していく。
「……ん」
「オイルの熱さはいかがですか」
「ん、ちょうどいいけど……なんだこの感覚」
「あはは、初めてオイルを塗られる感覚ってなんだか独特でゾワゾワしますよね」
言いながらも、しっかりと手は動かして塗り広げていく。
時折リセアさんがピクリと反応を示すが、最初は仕方がないかとひとまず気にせず続けていく。
こうしてある程度塗り広げたところで、まずは足の指先から膝裏、膝裏から太ももの付け根まで、ゆっくりと手のひらを十分に密着させながらリンパを流していく。
「……ひゃっ」
唐突に聞こえてくる彼女のものとは思えない可愛らしい悲鳴。
「っと、大丈夫ですか?」
「い、いや、気にすんな。続けてくれ」
「わかりました。もしも何かあったらすぐに言ってくださいね」
「も、もちろん」
言葉と共に頷く彼女の姿を目にしながら、同様の動作を幾度か続けていく。
「な、なぁ」
「はい、どうされました?」
「こ、これで本当に身体が楽になるのか?」
「では確認してみますか」
言葉と共に、右側の脚も露出させる。そしてそのまま足の裏が天に向くように両膝を直角に曲げてもらう。
「……っ!」
「いかがですか?」
「すげぇ……左脚の方が軽く感じる……」
「ふふっ、では続きをやっていきましょうか」
「おう、頼んだ」
その後は同様のマッサージを右脚でも行った。それが終わったところで次は背中へと移る。
脚のオイルを軽く拭き取った後、再び両脚が隠れるように布を被せ、反対に首から尾てい骨辺りまで布を捲っていく。
その際、彼女の身体で潰れて広がった双丘が目に入るが、すぐに脳内の煩悩を吹き飛ばし、マッサージを続ける。
彼女の頭側へと移動し、今度は脇の下へ向けてリンパを流していく。背骨辺りから脇へ、腰辺りから脇へと同様に流れを意識して手のひらを動かす。
ここまでくるとようやくオイルの感覚にも慣れてきたのか、リセアさんからは先ほどまでのピクリとした反応は無くなり、全身の力が抜けてウットリとした表情を見せ始めた。
……よしよし、いい感じだぞ。
以前魔力不足で倒れたことを教訓とし、ずっとではなく時折スキル『エステ』の淡い光も使用する。これでよりリラックス効果を狙いつつ背中周りのマッサージを終える。
「リセアさん、それでは仰向けになっていただけますか?」
「んー」
布が落ちないよう僕の方で抑えつつ、ぼーっとした様子のリセアさんに向きを変えてもらう。
「ありがとうございます。ではまた足先からやっていきますね」
言葉の後、先程同様に仰向けの状態で両脚のマッサージを、続いて手指から二の腕辺りまで流し終えたところで、ラスト首回りからデコルテにかけてのマッサージとなる。
再び彼女の頭側へと移動し、まずは仰向けになっている彼女の首の後ろへ両手を滑り込ませ、うなじ辺りに指が当たるようにしてグーっと軽く圧をかけていく。
……この辺りはアナさんと同じでだいぶ硬いなぁ。
思いながら圧をかけていると、ウットリとした様子でリセアさんが小さく声を漏らす。
「あー」
「ここ気持ちいいですよね」
「これやばいー」
どんどんと語彙力がなくなっていく彼女の姿に微笑みつつ、今度は首から鎖骨周りへ、胸元から脇付近へとリンパを流していく。
その際、やはり指の先がどうしても胸元に触れてしまうが、無心無心と心の内で唱えながら何度も何度も流していく。
──と。ここで不意に、リラックスした表情のリセアさんが目を瞑ったままポツリと呟いた。
「……なぁ、ソースケ」
「はい」
「あんたはあたしのことどう思うよ」
「どう……というと?」
「ほら、アナとかは女って感じがするだろ? でもあたしはさ、何ていうか女らしくねぇし、ほら肌も乾燥してたりしてさ、こうしてマッサージ受けたりすんのもなんかちげぇのかなって」
確かに彼女が最初に悩みで言っていたように、肌が乾燥しているというのは間違いない。少なくともこうして触れていてわかる程度にはカサつきが見られる。
「──って、わりぃ、初対面のあんたに言うことじゃなかったな。忘れてくれ……」
一拍置いて、僕はゆっくりと口を開く。
「……リラックスすると、なぜだか抱えていたものを吐き出したくなりますよね。僕もそうでした」
「あんたも?」
「えぇ、そうですよ」
マッサージを受けてリラックスをしている状態で、時折セラピストさんに心の内を話してしまうことがあった。
仕事のこれがしんどいだとか、友人も家族もいなくて、なんか自分の居場所がないように感じることがあるだとか。
それに対してセラピストさんが具体的にどうこう言ってくれる訳ではないが、それでもこうして話を聞いてもらっているだけでも、その一瞬だけは抱えていたものが軽くなったように思えたものだ。
「だからもしリセアさんがお嫌でなければ是非お話しください。もちろん僕がそのすべてを解決できるなんて大それたことは言いませんが、少なくともこうして話を聞くことならできますから」
「そっか」
その後彼女は自身の悩みを打ち明けてくれた。
昔はアナさんのように女らしくいたいという思いがあったこと。そしてそうなれるよう努力したが、どうしても肌の質感や髪質などが良くならない上、それ以上の改善方法が思いつかず、いつしか諦めて無頓着になってしまったことなど。
……そうなろうと思ってなれない時の辛さも、そうなろうと努力する時のしんどさもどちらも同じく苦しいもの。
色々なものを諦めた人生だった前世を思い出しながら、僕は心の内でそう思う。
そして同時に、きっと美容文化の発達していないであろうこの世界において、彼女の抱える悩みというのは前世の女性が抱えるそれよりもはるかに難しく、一般的には簡単に解決しようもないものなのだろう。
──でも今回彼女が明かしてくれた悩みは、間違いなく僕の力なら解決できる。現状のスキル効果ではその悩みを完全に取り払うことはできないかもしれないが、少なくとも今よりも確実に改善させることはできる。
そしてきっとマッサージが終わって少ししてから、 彼女にそのことをはっきりと実感してもらえるはずだ。
そんな心の内と共に、その効果を実感した時の彼女の喜びの表情を思い浮かべながら、時間いっぱいまで真剣にマッサージを続けていった。
「ソースケー」
「準備できましたか」
「おう、いつでもいいぜ~」
「ほんとですよね……?」
「大丈夫だって」
「し、失礼します」
言いながらおそるおそる部屋に入ると、そこにはちゃんとベッドにうつ伏せになっているリセアさんの姿があった。
彼女の身体の上には乱雑ではあるが布が掛けられており、きちんと流れの通りに対応してくれたことがわかる。
僕はホッとしながら彼女へと近づくと、所々見えている小麦色の肌を隠すように、彼女に掛かった布を正していく。
そんな僕の姿をこれまたニヤニヤとしながら見つめるリセアさん。なんだか嫌な予感がしたため、牽制するように口を開く。
「……布を蹴り上げて外すとかやめてくださいよ?」
「迷惑になるからな。今日のところはこれ以上揶揄ったりしねぇよ」
……どうやら引き際はしっかりとしているよう。っていうか、今日のところって、今後また揶揄われることがあるってこと?
少々不安になりつつも、その後は彼女と他愛もない会話をしながら、準備を進めていく。
奥のテーブルに用意していた木の容器と布を手に取り、ベッド近くの台へと置く。
ちなみに今日使うオイルは、部屋での待機中に実体化したものである。ここ数日肌寒さを感じる程度には気温も低いため、きっと心地良さを感じてもらえるだろう。
「さて、それではマッサージの方始めていこうと思います」
「おう」
「はじめてなので緊張するかもしれませんが、とりあえず全身の力を抜いて、リラックスしてくださいね。まずは左脚からやっていきますね」
「あいよー」
ここで簡単に流れを振り返っておく。
リンパマッサージにおいて重要なのはリンパ液の流れに沿うこと、主要なリンパ節のある方向に流すことである。
その主要なリンパ節が鎖骨周辺、脇の下、脚の付け根いわゆる鼠蹊部の3箇所に存在する。超簡単に言うのであれば、この3箇所に向けて手を当てて流していけばいいという訳である。
ということでまずは彼女に伝えたように左脚から流していく。
「少しだけ布を外しますね」
「んー」
彼女が返事をくれたため、うつ伏せになった彼女の足側に移動し、左脚周辺の布を捲っていく。もちろん彼女の局部が見えないように気をつけながらも、太ももあたりまで露出させる。
そのかなり際どい姿に緊張するが、彼女はお客さんで、自身はお金をいただいて施術を行うプロなのだと強く意識をし、煩悩を追い払っていく。
……よし、やっていくか。
いつものように木の容器からオイルを手のひらに出す。そして両の手を合わせた後、まずは足先から太ももにかけて両手を上下させ、オイルを塗布していく。
「……ん」
「オイルの熱さはいかがですか」
「ん、ちょうどいいけど……なんだこの感覚」
「あはは、初めてオイルを塗られる感覚ってなんだか独特でゾワゾワしますよね」
言いながらも、しっかりと手は動かして塗り広げていく。
時折リセアさんがピクリと反応を示すが、最初は仕方がないかとひとまず気にせず続けていく。
こうしてある程度塗り広げたところで、まずは足の指先から膝裏、膝裏から太ももの付け根まで、ゆっくりと手のひらを十分に密着させながらリンパを流していく。
「……ひゃっ」
唐突に聞こえてくる彼女のものとは思えない可愛らしい悲鳴。
「っと、大丈夫ですか?」
「い、いや、気にすんな。続けてくれ」
「わかりました。もしも何かあったらすぐに言ってくださいね」
「も、もちろん」
言葉と共に頷く彼女の姿を目にしながら、同様の動作を幾度か続けていく。
「な、なぁ」
「はい、どうされました?」
「こ、これで本当に身体が楽になるのか?」
「では確認してみますか」
言葉と共に、右側の脚も露出させる。そしてそのまま足の裏が天に向くように両膝を直角に曲げてもらう。
「……っ!」
「いかがですか?」
「すげぇ……左脚の方が軽く感じる……」
「ふふっ、では続きをやっていきましょうか」
「おう、頼んだ」
その後は同様のマッサージを右脚でも行った。それが終わったところで次は背中へと移る。
脚のオイルを軽く拭き取った後、再び両脚が隠れるように布を被せ、反対に首から尾てい骨辺りまで布を捲っていく。
その際、彼女の身体で潰れて広がった双丘が目に入るが、すぐに脳内の煩悩を吹き飛ばし、マッサージを続ける。
彼女の頭側へと移動し、今度は脇の下へ向けてリンパを流していく。背骨辺りから脇へ、腰辺りから脇へと同様に流れを意識して手のひらを動かす。
ここまでくるとようやくオイルの感覚にも慣れてきたのか、リセアさんからは先ほどまでのピクリとした反応は無くなり、全身の力が抜けてウットリとした表情を見せ始めた。
……よしよし、いい感じだぞ。
以前魔力不足で倒れたことを教訓とし、ずっとではなく時折スキル『エステ』の淡い光も使用する。これでよりリラックス効果を狙いつつ背中周りのマッサージを終える。
「リセアさん、それでは仰向けになっていただけますか?」
「んー」
布が落ちないよう僕の方で抑えつつ、ぼーっとした様子のリセアさんに向きを変えてもらう。
「ありがとうございます。ではまた足先からやっていきますね」
言葉の後、先程同様に仰向けの状態で両脚のマッサージを、続いて手指から二の腕辺りまで流し終えたところで、ラスト首回りからデコルテにかけてのマッサージとなる。
再び彼女の頭側へと移動し、まずは仰向けになっている彼女の首の後ろへ両手を滑り込ませ、うなじ辺りに指が当たるようにしてグーっと軽く圧をかけていく。
……この辺りはアナさんと同じでだいぶ硬いなぁ。
思いながら圧をかけていると、ウットリとした様子でリセアさんが小さく声を漏らす。
「あー」
「ここ気持ちいいですよね」
「これやばいー」
どんどんと語彙力がなくなっていく彼女の姿に微笑みつつ、今度は首から鎖骨周りへ、胸元から脇付近へとリンパを流していく。
その際、やはり指の先がどうしても胸元に触れてしまうが、無心無心と心の内で唱えながら何度も何度も流していく。
──と。ここで不意に、リラックスした表情のリセアさんが目を瞑ったままポツリと呟いた。
「……なぁ、ソースケ」
「はい」
「あんたはあたしのことどう思うよ」
「どう……というと?」
「ほら、アナとかは女って感じがするだろ? でもあたしはさ、何ていうか女らしくねぇし、ほら肌も乾燥してたりしてさ、こうしてマッサージ受けたりすんのもなんかちげぇのかなって」
確かに彼女が最初に悩みで言っていたように、肌が乾燥しているというのは間違いない。少なくともこうして触れていてわかる程度にはカサつきが見られる。
「──って、わりぃ、初対面のあんたに言うことじゃなかったな。忘れてくれ……」
一拍置いて、僕はゆっくりと口を開く。
「……リラックスすると、なぜだか抱えていたものを吐き出したくなりますよね。僕もそうでした」
「あんたも?」
「えぇ、そうですよ」
マッサージを受けてリラックスをしている状態で、時折セラピストさんに心の内を話してしまうことがあった。
仕事のこれがしんどいだとか、友人も家族もいなくて、なんか自分の居場所がないように感じることがあるだとか。
それに対してセラピストさんが具体的にどうこう言ってくれる訳ではないが、それでもこうして話を聞いてもらっているだけでも、その一瞬だけは抱えていたものが軽くなったように思えたものだ。
「だからもしリセアさんがお嫌でなければ是非お話しください。もちろん僕がそのすべてを解決できるなんて大それたことは言いませんが、少なくともこうして話を聞くことならできますから」
「そっか」
その後彼女は自身の悩みを打ち明けてくれた。
昔はアナさんのように女らしくいたいという思いがあったこと。そしてそうなれるよう努力したが、どうしても肌の質感や髪質などが良くならない上、それ以上の改善方法が思いつかず、いつしか諦めて無頓着になってしまったことなど。
……そうなろうと思ってなれない時の辛さも、そうなろうと努力する時のしんどさもどちらも同じく苦しいもの。
色々なものを諦めた人生だった前世を思い出しながら、僕は心の内でそう思う。
そして同時に、きっと美容文化の発達していないであろうこの世界において、彼女の抱える悩みというのは前世の女性が抱えるそれよりもはるかに難しく、一般的には簡単に解決しようもないものなのだろう。
──でも今回彼女が明かしてくれた悩みは、間違いなく僕の力なら解決できる。現状のスキル効果ではその悩みを完全に取り払うことはできないかもしれないが、少なくとも今よりも確実に改善させることはできる。
そしてきっとマッサージが終わって少ししてから、 彼女にそのことをはっきりと実感してもらえるはずだ。
そんな心の内と共に、その効果を実感した時の彼女の喜びの表情を思い浮かべながら、時間いっぱいまで真剣にマッサージを続けていった。
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