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1-20 マッサージの準備とからかい

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 階段を上り、彼女を203号室へと連れていく。そして部屋に入り、入り口の扉を閉めた瞬間、リセアさんは辺りを見回し小さく笑った。

「なんかダンジョンみてぇな雰囲気だな」

「ダンジョン?」

「そ。薄暗さとかこの妖しい感じとかな」

 ……やっぱりこの世界にもダンジョンがあるのね。そして中はこれくらい薄暗いと。

 そんな他愛もない会話をしながら、まずは椅子へと腰掛けてもらう……のだが、流石に邪魔になるため、先に鎧と剣は外してもらった。

 鎧の中は一般的な麻製の服ではなく、伸び縮みしそうな薄手のTシャツに近い服であった。おそらくだが、かなり高価な肌着なのだろう。
 ピッチリとしたその肌着は彼女のスタイルの良さをこれでもかと……って今はそんなことはどうでもいいか。

 ちなみに今回は1階で料金をいただいたが、基本的にはここで支払いをしてもらう予定である。また常連さんや事前にメニューを知っている人は別として、メニュー表の提示と簡単な内容の説明もここで行うことになっている。

 リセアさんの場合はすでに料金をいただいており、必要なのはこれからの流れを説明するのみである。

 と、彼女を椅子に案内し、今後の手順を脳内で確認しながらも……僕の心臓はバクバクと鼓動を早めていた。
 なにせ全身オイルマッサージを受けたことはあれど、誰かにやるのは初めてなのだ。

 それに前回アナさんにやったマッサージとは違い、今回はお金を払ってもらっている。つまり相手は紛れもなくお客様だということだ。だからこそ、初めてで上手くいかなかったでは済まされない。

 ……手順は大丈夫。力の加減等も、スキルの効果により問題ないことは前回のアナさんへのマッサージで確認済み。だから……大丈夫。

 そう1人考えていると、どうやらそれが表情に出ていたようで、リセアさんがニヤリと小さく笑いながら声を掛けてきた。

「緊張してんな」

「……!? そ、そうですね」

「ま、あんま気負うなよ。アナからあたしが初の客って聞いてるし。それにあたし相手だからな、ミスってもいいし、テキトーでもいいんよ?」

「お気遣いありがとうございます。……でも適当にはやりませんよ。料金をいただいている以上、絶対に満足して帰っていただきます」

「そっか」

 力強くそう言い切った僕の声に、リセアさんは小さく口角を上げなら言葉を返した。

 ……最初は怖い人かと思ったけど、やっぱりアナさんの友人ともあっていい人だな。

 気遣いから言ってくれたであろう彼女の言葉のおかげで、先程までの嫌な緊張はなくなり、程良い緊張になった。

 ……よし、これならやれる。

 そう内心で思いながら、僕はこの後のマッサージ内容について軽く説明をする。
 オイルマッサージのことは詳しくわからずとも、事前にマッサージやその時の格好などはアナさんからある程度聞いているようなので、今回はあくまでも簡単にだ。

 次いで彼女の最近の身体的な悩みについて問うてみる。

「んー悩みか? そうだなぁ。首とか肩辺りが重いのと、あとは肌が乾燥してることかね?」

 ……なるほど。それなら今回のマッサージである程度改善できそうだ。

 リセアさんの悩みを聞いてそう考えた後、続いてこの後の準備についての説明を行った。

 準備といっても、大した流れではない。

 服を全て脱ぎ、用意した布とお湯で身体を拭き、ベッドの上にうつ伏せになった状態で、自身の身体の上に布を被せてもらうだけだ。

 その辺りもわかっていたようで、リセアさんはうんと頷く。

「それではご準備をお願いします。部屋の外で待機してますので、終わったらお声がけください」

「あいよ~」

 そう返事をした後、彼女はさも当然とばかりに薄手の肌着を捲り上げ、小麦色の素肌を晒した──僕が部屋から出る前に。

 ……いやはや随分と立派なものをお持ちで……っじゃなくて!?

「ちょっ! なんで脱いでるんですか!?」

 言いながら、僕は瞬時に彼女に背を向ける。

「は? いや、お前が脱げって」

「僕が部屋を出た後で、ですよ!?」

 会話中も彼女は服を脱いでいるのか、衣擦れの音が聞こえてくる。その音と共に、リセアさんはあっけらかんとした様子で小さく笑った。

「んあーそうか。ごめんごめん」

「……言いながら脱いでますよね?」

「そうやって背を向けてりゃ大丈夫だろ?」

「そうですけど……もう、気を付けてくださいね」

「あーい」

「では、改めて僕は部屋を出ますので──」

「あ、ちょソースケ」

「はい、なんでしょうか」

「聞きたいことあんだけど、ちょいとこっち向いてくれる?」

 そう言って、リセアさんは僕を呼び止めてくる。
 僕は先程の経験から少々警戒しながら彼女に問いかける。

「今、裸ですよね?」

「いんや、置いてあった布巻いてる」

「し、信じますよ?」

 言いながら、僕はゆっくりと目を瞑りながら振り向いていく。
 そして少しずつ目を開けると……そこにはちゃんと布を巻いた彼女の姿があった。

 その姿に、僕はほっとしながら声を上げる。

「それで聞きたいことって──」

 僕が言い終わるよりも先に、リセアさんは「じゃーん」と言いながら布を外すと、ニヤニヤとした笑みを浮かべてくる。

 ……筋肉質ではあるが女性らしい体。出るところは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいて作り物のように綺麗───って!

「ちょ……!?」

 再び慌てて目を逸らす僕の姿に、リセアさんは楽しげな笑い声を上げる。

「か、揶揄わないでくださいよ!」

「悪い悪い。なんかソースケの反応が新鮮でよ」

「まったく……」

 リセアさんの言葉を背に、これは先が思いやられるなと思いながら、ちゃんと準備をするようにと伝えた後、僕は今度こそ部屋を出た。
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