上 下
32 / 37

1-31 帰宅とナデナデの連鎖

しおりを挟む
 唯香と別れた桔梗は、家で待つ少女達が心配だった事、予定よりも帰宅が遅くなってしまい普段の夕食の時間に間に合いそうにない事から、少々早足で帰路へと着く。

 そのまま特に何も起こる事なく家へと辿り着いた桔梗は、鞄から鍵を取り出すと、鍵穴へと差し込みガチャリと回す。
 そして鍵を抜き取り、意気揚々とドアを開け──

「ただい──おわぁ!」

 ──瞬間、弾丸の如きスピードで金色の何かが桔梗の方へと飛んでくる。

 慌てながらも、それを上手いこと衝撃を吸収しつつ何とか胸で受け止める。
 驚きに鼓動を早めながらも腕の中へと目を向けると、そこには満面の笑みで桔梗へと抱きつく金色の妖精の姿が。──ラティアナである。

 ラティアナはギューっと抱きついた後、顔を桔梗の方へと向けると満面の笑みを浮かべ、

「ごしゅじんたま!」

 その声に、ニコリと微笑む桔梗。

 非常にほんわかした場面であるが、先程のラティアナを常人が受け止めようとすれば、間違い無く腹に風穴が空いている。それ程までのスピードと威力であった。

 しかしそんな殺人級の飛びつきを見せたラティアナだが、やはり本人はそんな事一切気づいてないとばかりに真っ白な歯を存分に見せながら笑うと、

「ごしゅじんたまおかえりー!」

 言って桔梗へと再びギュッと抱きついた。

 その抱擁を受けた後、ラティアナを下ろすと、桔梗はしゃがみ込み彼女と視線を合わせる。

「ただいまラティ。良い子にしてた?」

「うん!」

 頷くラティアナの頭を思わず撫でる。
 それが嬉しかったのか、ラティアナはにへらと表情を崩した。

 その後、桔梗は立ち上がると、リビングの扉の前に立つ3人へと視線を向けた。

「シア、リウ、ルミアも大丈夫だった?」

「問題ないっす!」

 言ってシアがフンスと息を吐き、

「……完璧」

 リウがサムズアップをし、

「余裕でしたわ!」

 ルミアは腰に手を当てふふんと得意げな表情を作る。

「そっか。よかった」

 そんな3人の姿に、桔梗は安堵の息を吐いた。そして、靴を脱ぎ家へと上がろうとした所で、

「ご主人!」

「……ん?」

 突然シアが桔梗の名を呼んだかと思うと、早足で近づき、桔梗へと頭を差し出した。
 そしてそのまま狼耳をぴょこぴょこ、尻尾を小さくフリフリとする。

 ……あ、これは期待してる奴だ。

 桔梗は思わず小さく笑うと、右手をシアの柔らかな白髪へとのせ、そのまま優しく撫でた。

「ふへへ……」

 シアがだらしなくも幸せそうな表情を作る。
 すると、それを目にしたリウが物欲しげな表情で近づいてくる。

「リウも……」

 控えめに要求するリウ。

「はいよー」

 桔梗は柔らかな笑みで返事をすると、リウの艶やかな黒髪に指を通す。

「……んぅ……極楽……」

 桔梗の温かく大きな手の感触に、リウは心底安心しきった様子で、気持ち良さそうに目を細めた。

 と。そんな2人の様子を、未だ後方で羨ましそうに見つめるお姫様が1人。

「…………うぅ」

 勿論ルミアである。ルミアはリウに続きたいが、ラティアナを入れて4人もナデナデを要求しては桔梗の労力が高くなってしまうと、謎の遠慮から何とか気持ちを抑えているのである。

 その姿を目にし、桔梗は苦笑した。

 桔梗と同い年のシアがこうも無邪気にナデナデを要求しているのである。一つ年下のルミアが遠慮する必要など無いだろう。

 そう思った桔梗は、潤んだ瞳の小動物のように儚く弱々しい様子のルミアへと声を掛ける。

「おいでルミア」

「……! 桔梗様!」

 その一言で、思いが爆発したのか、ルミアは上品に桔梗へと駆け寄ると、胸の前で両の手を絡ませ、目を閉じたまま控え目に頭を寄せる。最高級の絹糸の如き銀髪がさらりと流れる。

 桔梗は壊れ物を触るかの様に、その美しい髪を優しく撫でた。

「あぁ……至福のひと時ですわ……」

 言ってルミアはポワポワとした表情を見せた。

 こうして撫で撫でタイムも終わり、幸せそうな表情の4人。
 桔梗にとっても幸せのひと時である少女達との触れ合いも終わり、さてとと靴を脱ぐと、リビングへと向かう。
 そして、伸びの後に、

「夕飯作るか」

 と桔梗が言うと、彼の右隣にルミアが寄り、

「お手伝い致しますわ!」

 と言い、左隣にリウが寄ると、

「……お皿……並べる」

 と言う。続くようにラティアナは妖精の姿に戻り、

「らてぃもー!」

 と声を上げながら桔梗の頭上を飛び回り、

「味噌汁作るっすよー!」

 シアはやる気満々で拳を突き上げる。
 そんな微笑ましい彼女達の姿に、桔梗は何度目か柔らかく微笑み、

「ありがとうみんな。んじゃやろうか」

 と言い、桔梗を囲む少女達が、

「「「「おー!」」」」

 と元気の良い声を上げた。そしてそのままリビングへと向かいつつ──

「あ、ご主人ご主人! 全部終わったらゲームやりたいっす!」

「いいよー。今日は負けないからね」

「……リウもやる」

わたくしも!」

「らてぃもー!」

「勿論っす! みんなでやるっすよー!」

 桔梗にとって久しぶりとなる学校に、転移前とは明らかに変わった周辺環境。
 そんな急速な変化に揉まれたこの日も、しかし少女達と過ごす夜は、変わらず騒がしくも退屈のしない楽しい時間となるのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...