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1-15 ファリヲカート(前)

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 時刻は午後9時。幼児であるラティアナは床についたが、桔梗達が寝るにしてはまだ少し早い時間帯。

 皆が何をしているかと言うと、各々自由に過ごしていた。

 ルミアと彩姫は、アイテムボックスにしまっていた自身の武器の手入れをしながら、世間話を。シアはくしなどを有効に活用しながら、熱心に尻尾の毛繕いを。
 桔梗はソファに腰掛けながらテレビを見ており、その横ではここぞとばかりにリウが身を寄せている。

 ……と、ここで。

 毛繕いを終えたシアが、どうやらやる事が無くなったようで、突然部屋の物色を始めた。異世界には無いものばかりが並ぶ為物珍しいのか、様々なものを手に取っては「はー!」とか「ほへー!」とか理解したのかしていないのかわからない声を上げている。

 そんな中で。

「…………ん?」

 本能的に感じる何かがあったのだろうか、シアは何やら期待した表情で、とある機械を指差す。

「ご主人、これなんすか?」

「それはゲーム機だね。あのテレビと繋いで色々なゲームが出来る」

「ゲームって……リバーシ……とか?」

 リバーシの様なボードゲームは、異世界で暇な時に皆に教えよくやっていた。
 リウはリバーシを始めとした所謂、二人零和有限確定完全情報ゲームに軒並み強く、また気に入っている。その為、リバーシの様なゲームが出来るのかとワクワクしているようで、身を寄せている桔梗の右腕をキュッと握る。

 そんなリウの温もりを感じながら、桔梗は皆に説明をする。

「もちろんリバーシみたいなゲームもあるよ。ただ、そういったボードゲームだけじゃなくて、テレビゲームにはもっと幅広いジャンルがあるんだ。……って言っても分からないか。……うん、よし。どうせならやってみる?」

 桔梗の言葉にシアがパァーッと表情を明るくし、ピョンと飛び跳ねる。

「やるっすー!」

「……負けない」

 ふんすとやる気を見せるリウ。そんな2人の様子に微笑んだ後、桔梗は視線を武器の手入れをする2人へと向ける。

「ルミアと彩姫もどうかな」

「参加致しますわ!」

 言って、頑張るぞと胸の前で両拳を握るルミア。その隣の彩姫もどこか浮き足立った様子で、

「私も参加するわ。ただテレビゲームとかやった事が無いから、出来れば簡単なのが良いわね」

「簡単……そうだな、なら──これかな」

 そう言ってゴソゴソとした後、一つのパッケージを取り出す。桔梗の背後からシアがピョコッと顔を出しそのパッケージをじっと見つめ──

「ファリヲカート……っすか?」

 ──ファリヲカート。

 トリッキーなコースや、順位に多大な影響を与える幾つものアイテムが登場するレースゲームである。
 その人気は凄まじく世界中にファンがおり、時には世界大会が開催されたりもする。

 確かに極めるとなると時間と労力が必要になるが、基本操作やルールは比較的簡単であり、今回やるゲームとして最適だろうと桔梗は考えこれを選択した。

「そ。さっき乗った車に近いものを操作して、順位を競うゲームだね」 

「おお! 面白そうっす!」

「……頭……つかう?」

「そう、だね。アイテム……相手の妨害をしたり、自分に有利な状況を作り出したりするものなんだけど、これをいつ使うかとか、ちょっとした駆け引きで頭を使うかもしれないね」

「……ん、楽しみ」

「初めてだからワクワクするわね」

「はい!」

 言いながら、テレビ前のソファへと近づく彩姫とルミア。

 ラティアナ以外の全員がテレビの周辺へと集まった所で、桔梗は皆にコントローラーを渡し、ソファへと腰掛ける。

「よし、じゃあ始めるよ」

 言って電源ボタンを押すと、同時に画面が切り替わり、軽快な音と共にファリヲカートの文字がドンとテレビに表示される。

 ワイワイと楽しそうな少女達。

 そこに交ざりながら、桔梗は操作を進めていく。

「……コースは……まずは簡単なここにして……」

 と呟きながらアレコレと選んでいく。とりあえず今回は1番簡単な楕円のコースで、NPCは無しで行う事に。

 操作を進め、キャラクター選択画面になる。

「よし、じゃあ自分が操作するキャラクターを選ぼうか」

 そう言い、皆にコントローラーの操作方法や簡単なゲームの説明を行う。
 順応性の高い少女達はこれでおおよそ理解したのか、皆画面をじっと見ながら好きなキャラクターを選んでいく。

「私はこのお髭の素敵なおじ様にしますわ」

 言って赤帽子のおじさん、ファリヲを選ぶルミア。

「リウは……強そうな……これ」

 ファリヲのライバル、グッパ様を選ぶリウ。

「よし……ビビッときたこいつにするっす!」

 茶ゴリラ、ドゥンキーを選ぶシア。

「私は……この娘にしようかしら」

 ファリヲゲームの囚われ役、ビーチ姫を選ぶ彩姫。

 皆が選んだのを確認し、桔梗はうんと頷いた後、彼の相棒である緑の怪獣ヒョッシーを選択。画面が進む。

 と、ここでゲームが始まる前にレースをする際の簡単な操作方法と、アイテム名、そしてその効果について教える。
 後はレースをやりながら覚えていこうという事で、いよいよ1回目のレーススタートである。

 カウントダウンが始まる。と、ここで思い出したかの様に、

「あ、言い忘れてたけど、カウントに合わせてタイミング良く発進すると加速するよ」

 桔梗の言葉にうんと頷く皆。真剣な顔で画面を見つめスタートを待つ。しかしそんな中、あたふたしている者が1人──

「カウント……!? 何すかそれ! え、あ、ゼロって、あ──あぁぁぁ! 何か爆発したっすー!」

 カウントゼロと共に加速を決める皆。しかしシアだけはミスり、エンストを起こしてしまう。

 こうしてレースは始まった。
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