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1-9 ねぼすけ少女と朝ごはん

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 言葉の後、2人は簡単な身支度をし、朝食の準備へと取り掛かった。

 朝食の準備と言っても、メニューは非常に簡単なものであり、ご飯、味噌汁、サラダ、焼鮭に、一昨日──桔梗からすれば約3年前になるが──の残りモノである煮物である。
 ご飯は昨晩に予約炊飯をしていた為既に炊き上がっており、煮物は温めるだけ。

 と言う事で用意するものは実質味噌汁、サラダ、焼鮭の3点であり、これらもそれ程時間が掛かるものではない為、朝食はすぐに完成した。

 その朝食を桔梗がテーブルへと並べようとすると、ルミアが代わりにやってくれると言う。

 ならばと、桔梗は未だ夢の中である3人を起こしに行く事にした。

 階段を上り、2階へ。

 上がってすぐの所に一部屋あり、まずはこの部屋の住人──シアから起こそうと考える。

 部屋の前へと行くと、トントンと扉をノックし、彼女の名を呼ぶ。

 ──しかし、返事はない。

 こうなれば仕方ないと、

「シアー……入るよー」

 と言い、ゆっくりと伺うように部屋の中へと入った。

 室内は非常に殺風景であった。

 8畳程のこじんまりとした部屋と、中央付近に無造作に置かれた布団。
 入口の向かいには、大きな窓が一つあるが、現在は遮光カーテンにより光が遮断されている。しかし、カーテンの閉め方が甘かったのだろう。ほんの少し空いた隙間から日の光が漏れ入り、布団上に光の橋を渡している。

 何とも物寂しさを感じてしまう場景だ。

 しかし、それも仕方がないか。
 何故ならば未だ転移翌日。家具等を揃える時間など無かったのだ。

 恐らくあと1週間もすれば、今よりは人気のある部屋へと変わる事だろう。

 ……まぁ、まずはそんな事より。

 一歩二歩と室内を進む。
 そして、布団の前に立ち──その少し右へと視線を向ける。

 するとそこには、相変わらず寝相が悪いのか、掛け布団を蹴飛ばし、真っ白なお腹を出して寝ているシアの姿があった。

 近づき、しゃがみ込み、じっとシアの顔を見る。

「……幸せそうだな」

 言って、思わずクスリと笑ってしまう。

 仰向けでにへらと笑いながら眠るシア。何か良い夢でも見ているのだろうか。

 ……これは起こしにくいな。

 見てるこっちまで幸せになってしまうようなシアの表情。起こさなければならないのに、少し気が引けてしまう。

 しかし、だからと言って起こさないという選択肢はない為、桔梗はシアへと優しく声を掛ける。

「おーいシアー。起きてー」
「……んー……あと5ふん……っす」
「……またベタな。ほら、朝だぞー」

 声だけでは起きないようなので、シミひとつない柔らかそうな頬をツンツンとする。

「あと10ぷん……っす」
「増えてどうする。ほーらー、おーきーろー」

 それでも起きない為、両手を使い、両頬をムニムニ。

「……んぁ……あと50年……っす」
「それ長命種が言うやつ! ……って、絶対起きてるでしょ」
「………………」
「いや、寝てんのかい」

 ……流石朝から話題に事欠かない奴だなシアは。

 しかし、こうまでしても目を覚さないとは。

 例え世界を跨いでも、生活習慣は変わらないという訳か。

「……はぁ。結局いつものやらないとか」

 言って、両手をワキワキとさせる。
 そしてその手をゆっくりとシアの身体へと近づけていき──

「…………南無」

 という桔梗の言葉の後、

「…………んにやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 室内にシアの悲鳴が響き渡った。

 ◇

 シアの部屋を出る桔梗。
 やり遂げた様子でフーと息を吐く彼の背後では、笑い、服装を乱しながらピクピクとしているシアの姿が。

 しかし、そんなシアに構う事なく、桔梗は次の部屋へと向かう。
 そしてシアの時同様ノックし、声を掛ける。

 が、こちらも返事は無い。
 仕方なしに、部屋へと入る。

 すると、先程同様殺風景な室内が桔梗の目に入る。

 8畳程のこじんまりとした部屋に、唯一置かれた布団。

 内装自体はシアの部屋と全く同じなのだが、しかし部屋の主の寝相だけは180度異なっていた。

 桔梗は、スッポリと布団に収まりながら、スースーと可愛らしい寝息をたてている部屋の主──リウの元へと近づくと、しゃがみ込み優しく声を掛けた。

「リウー朝だぞー」

 すると、間髪入れずにリウがバッと上半身だけ起こす。

「おっ、起きたか。偉いぞーリウ」
「…………」

 しかし様子がおかしい。

「…………ん?」

 不審に思った桔梗は、グッとリウの顔を覗き込む。──目を瞑っていた。

「なんだ、寝ぼけ──ッて!?」

 苦笑いをし、再度声を掛けようかと考えた所で、突然リウが動き出し、桔梗を胸に抱きしめると、そのまま布団へと倒れ込んだ。

「……桔梗……抱き枕……」

 言って、リウは桔梗をぎゅっと抱きしめる。

「……リ、リウ! 僕は抱き枕じゃ──って力強っ!」

 豊満な胸に顔を埋め、顔を真っ赤にしながらも、何とか抜け出そうとするが、抜け出せない。

 流石魔王の娘……とでも言うべきか。
 やはり例え勇者と呼ばれた桔梗でも、通常状態では力負けしてしまうようだ。

 が、だからと言ってこのまま抱き枕役を担い続ける訳にはいかない。

 という事でとっておきを使う事にした。

 桔梗は少しだけもぞもぞと動くと、何とか声を出しせるだけの隙間を確保する。
 そして、スーッと息を吸うと、眠っているリウに届くよう、いつもより気持ち大きな声で、

「リウー起きないと朝飯抜きだぞ!」

「…………ッ!」

 瞬間、リウはパチリと勢いよく目を開けると、半ば反射的に、

「……それは……しんどい」

 と悲しげな声を上げた。

「おはよ、リウ」

 未だ拘束の中にありながら、桔梗はリウの方へと顔を向け、声を上げる。

 すると、その声に導かれるようにリウが視線をゆっくりと胸元へと持っていき──

「……桔梗……抱き枕……?」

「どんな夢を見てたか知らないけど、僕は本物だよ」

 言って苦笑いを浮かべる桔梗を、リウは夢と現の狭間にいるような、ボーッとした視線で見つめる。

 そしてそのまま数瞬が経過した所で、これが現実だと理解したのだろう、リウはボッと顔を赤らめると、すぐに力を緩めた。

 桔梗はリウの胸元から顔を離すと、立ち上がる。
 次いで、照れからくる顔の赤さを誤魔化すかのようにリウへと背を向けた。

「じゃあ、次はラティを起こしてくるから、先に下行っててね」

 捲し立てるように言う桔梗に、リウは、

「……わかった」

 と、こちらも未だ赤ら顔のまま素直に頷いた。

 それを受け、桔梗が部屋を出ようとした所で、リウが口を開く。

「……桔梗」
「……ん?」

 振り返る桔梗。
 そんな彼に向け、リウは柔らかい笑顔を作ると、

「……いつも……ありがとう」

 と言う。その言葉に、

「はいよ」

 と桔梗は笑顔を返すのであった。

 ◇

 最後はラティアナである。

 リウの部屋を出た桔梗は、自室へと向かうと、今度は特に声を掛ける事もなく部屋へと入った。

 そしてベッドへと近づくと、上下逆さま、枕側に足を投げ出し眠るラティアナへと声を掛けた。

「ラティー朝だよー」

 すると、言葉の後少しして、ラティアナが目を擦った後、ゆっくりと目蓋を開ける。

「……ごしゅじんたま」

「お、ラティ起きた?」

「……うん、おきた」

 にへらと笑った後、頷くラティアナ。

 桔梗は手を伸ばすと、

「偉いぞーラティ」

 と言い優しく頭を撫でた。

 その後、ベッドから出たラティアナと手を繋ぐと、2人は一階へと降りていった。

 どうやら寝起きで言えば、3人の中ではラティアナが1番のようである。

 ◇

 全員がリビングへと揃った為、朝食をとる。

 メニューとしてはこれぞ『和』というべき内容であったが、どうやら異世界からきた彼女達の口にも合ったようで、皆残す事なく綺麗に食べ終えた。

 その後、洗面所など諸々の説明をしながら身支度をし、全員の準備が整った所で。

 タイミングよく、ピンポーンというインターホンの音がリビングへと響いた。

 急いで玄関に向かい鍵を開け、ガチャリとドアを開く。

「……どうしたのその格好」

 何とも言えない表情でそう言う桔梗の視線の先には、死んだ目で絢爛豪華なドレスに身を包んだ彩姫の姿があった。

 元がスタイル抜群で美しい彩姫だ。当然ドレス姿も非常に似合っているのだが、日本の、それも何の変哲もない街では、あまりにも奇抜で不釣り合いな衣装と言えた。

 そんなドレスに身を包んだ彩姫は、桔梗の視線に同意するかのように何とも言えない表情になると、

「……聞かないで頂戴」

 と言い、乾いた笑いを浮かべた。

 彼女の表情からして、大方、彩姫がした異世界の話を受け、彩姫母がこの服を着させたのだろう。

 よく似合っている事から、流石ファッションデザイナーとでも言うべきか、ぶっ飛び具合から流石彩姫母とでも言うべきか、どちらにせよドレスに身を包んだ彩姫が美しい事には変わりなかった為、桔梗はニコリと笑うと、

「凄く綺麗だよ、彩姫」

 と言う。桔梗の言葉に、先程までとは一転、顔を赤らめる彩姫。

「……えっと……その……ありがと。……って、そんな事は良いのよ! とにかく行きましょ!」

 言って、彩姫はくるりと向きを変えると、家の前に止まるリムジンの方へと歩いていく。

 ──家の前に止まるリムジンに、ドレスに身を包んだ彩姫、そしてこの世界では有り得ない容姿の少女達。

 ……なるほど、これは急いだ方が良さそうだ。

 現状を鑑みて、明らかに目立つなと思った桔梗は、少女達を引き連れ急いでリムジンへと乗り込んだ。
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