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1-7 部屋決め後のあれこれ

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 夕飯を食べ、部屋を決め、各部屋にとりあえずの布団を並べた後、桔梗達はリビングで各々好きな場所に座りながら、ボーッとテレビを眺めていた。

 時折会話はあるが、テレビが物珍しいのか、少女達は基本的にそちらにばかり気を取られている。

 と。

 ここで突如、電子音がリビングへと響き渡った。

 すると桔梗の膝の上で眠っているラティアナがピクリと反応を示し、それに続くようにテレビに釘付けだった3人の少女がバッと顔を上げると、驚き声を上げる。

「な、何の音っすか!?」

 言って、周囲を見回しながら毛を逆立てるシア。

「て、敵襲ですの!?」

 触発されたのか、ルミアも焦りをみせ、

「……リウが……叩き潰す」

 リウがフンスと息を吐き、やる気を見せた。
 堪らず桔梗が声を上げる。

「いや、物騒だな! ……大丈夫。よく聴いて」

 桔梗の声に落ち着き、3人は耳を澄ます。
 するとそんな彼女達の耳に『お風呂が沸きました』という機械的な女性の声が届く。

「……女」
「……女っすね」
「……桔梗様……まさか私達以外の女性とも同居して……」

「いや、そこ!? あ、でもそうか。向こうには録音とか無いし、そういう発想にもなるか」

 テレビをつけた際も彼女達は驚いていたが、あれはまだ話している人間の顔が見えている為か、困惑しつつもなる程と納得はしていた。
 しかし今回は声だけ。姿形が見えないのに声だけが響いてしまうと、どうしてもどこかに声の主が隠れているのではないかと考えてしまうようだ。

 という訳で、今後もこういった誤解を招く事が無いよう、こちらの世界は魔法がない代わりに科学が発達しているということ、今回の声が録音したものであるという事を少女達へと丁寧に説明していく。

 すると、大枠は理解できたのか、うんと頷いた後、シアは目を輝かせた。

「はぇー! かがくのちからってすげーっす!」

「こっちからすれば魔法ってすげーだからね。これが文化の違いか」

 初めて魔法を目にした時は本当驚いたなと、過去を思い返しながら桔梗は微笑む。
 しかし、すぐに本来の目的から随分と離れてしまった事に気付いた桔梗は、ハッとした後言葉を続ける。

「──なんて事は今は良いんだよ。……とりあえずお風呂が沸いたから順番に入るよー」

「はいはい! ご主人と──」

「そのやりとりはさっきやりました!」

 手を挙げ主張するシアに、桔梗がツッコむ。

「……ちぇー」

 つまらなそうにするシア。
 そんな彼女の姿に苦笑いをした後、桔梗は少女達を見回す。

「申し訳ないけど、向こう程風呂は大きくないから、1人か、僕以外の! 2人で入る事になるよ」

 僕以外のを強調して伝える桔梗に、ルミアが微笑みつつ提案をする。

「1人ずつですと時間も掛かりますし、2人ずつに致しましょう」

 ルミアの声の後、すぐにリウが口を開く。

「……リウ……お姉ちゃん。だから……ラティの……お世話……する」

「ふふっ。わかりましたわ。なら、シア。私達が一緒ですわね」

「背中流すっすよー!」

 言ってシアは立ち上がると、ルミアの方へと駆け寄った。

 2人ずつ入ると決まってからは早かった。

 桔梗がまずお風呂の使い方を教える。覚えの良いルミアとリウはきちんと理解したのかウンと頷き、脳筋のシアは途中からこんがらがったのか、頭を抱えわかんないっすー! と嘆く。ラティアナは桔梗が起こした後、寝ぼけながらフワフワと宙を舞っている。

 次に皆で相談し、桔梗、リウとラティアナ、シアとルミアの順でお風呂に入る事が決定。

 その後、決めた順でお風呂へと入る桔梗達。

 先に入り終えた桔梗は、初日だし何かしらの問題が起こるかなと危惧していたのだが、優秀な彼女達──シアを除く──からすればこれしき屁でもないようで、特にこれといったハプニングも無く無事全員お風呂に入る事ができた。

 という事で風呂上がり。

 皆は何をしているのかと言うと、何故か少女達が列を成して座っていた。
 因みに彼女達の身を包む寝巻きは、空間魔法の応用であるアイテムボックス内に入っていた異世界の寝巻きである。

 そんな寝巻きを着ながら、正座をし、ワクワクとした視線を一方へと向ける少女達。

 その視線の先には、ソファへと座る桔梗と、桔梗の股の間に座るラティアナが居て──

「ラティ、熱くないかー」

「うん!」

 桔梗の問いかけにラティアナが笑顔で答え、足をバタバタとさせる。
 そんな笑顔のラティアナの髪は温風によって風に靡き、桔梗の手やブラシによって綺麗に梳かれていた。

 そう、現在桔梗達が何をしているのかと言うと、風呂上がりの皆の髪を乾かしているのである。

 乾かすだけならばドライヤーの使い方でも教えればそれで済む筈だ。

 では、何故桔梗が乾かす事になっているのかと言うと、お風呂から上がり、リビングへと一番乗りでやってきたラティアナが、桔梗にお願いしたのである。
 そしてそれを見たリウ、ルミア、シアが「私も!」と声を上げ、結局全員の髪を乾かす事になったのだ。

 正直ラティアナと、かろうじてリウは仕方がないとしても、それ以外の2人は自分でできるのではと桔梗は思う。
 が、彼女達は地球にやってきてまだ数時間なのだ。やはり不安やら何やらで少しでも近くに居たいのだろうと納得した。

 その後少女達に見守られながら、ラティアナの髪を乾かす事数分。遂にラティアナの髪は乾き、ツヤツヤになった。

「はい、終わったよー」

「ごしゅじんたまありがと!」

 言って妖精サイズに戻ると、桔梗の頭の上に乗っかる。

「はいよー。……じゃ、次は──リウか」

 立ち上がり頷くリウ。桔梗の近くへとよると、いつもの無表情で一言。

「桔梗……優しく……してね」

「その言い方何かえっちぃっす!」

 堪らずシアが声を上げる。

「……?」

「な、なんでもないっす」

 しかし、あいも変わらず無自覚であった為、これ以上言ってはまたこちらが火傷するだけだと考え口を閉じた。

 リウはと言うと、シアの言葉に首を傾けた後、再び歩くとソファに座る桔梗の前に立ち、ゆっくりと腰を下ろした。──ラティアナ同様、桔梗の股の間に。

「……えっと」

 目前のリウから漂う風呂上がりの良い匂い、空気を伝い届くお風呂上がりの体温、そして少しだけ触れる彼女の柔らかい身体に桔梗は思わず顔を赤らめる。

「……やらない……の?」

 そうとは知らないリウは桔梗に背を向けたまま首を傾げる。
 桔梗は無理矢理心を落ち着かせると、

「うん、やりたいんだけどさ。リウの身長でここに座られると、高さ的にやり辛いんだよね」

 桔梗の言葉を受け、すぐに後ろを向くリウ。
 すると思いの外近くに桔梗の顔があり──

「……なるほど」

 リウはボーッと桔梗の顔を見つめた後、ゆっくりと顔を前へ向ける。
 そして赤ら顔のまま、桔梗の足元、カーペットの上へとちょこんと座り直した。

 それを見て、桔梗はうんと頷いた後、シアとルミアの方へと目を向ける。

「……という事で、シアとルミアもこの位置でお願いね」

 2人は羨ましいといった表情を浮かべながらも、うんと頷いた。

 ◇

 色々な事がありながらも、特別大きなハプニングが起きる事もなく、楽しくのんびりと過ごす事数時間。
 時刻は22時になった。

 髪を乾かした後は元気にはしゃいでいた少女達も流石に疲れたのだろう。
 現在、ソファに座る桔梗の膝の上で3歳児程のサイズになったラティが、桔梗の右でリウが寝てしまっている。
 桔梗を除きこの中で最年長である──リウは人間換算で考える──シアも、先程までの騒がしさはどこへやら、今は桔梗の左でこっくりこっくりと船を漕いでいる。

「みんな寝てしまいましたね」

 そんな中、少女達の中で唯一起きていたルミアが、微笑ましそうに眠る彼女達を見つめる。

「……今日一日だけで本当色々あったからなぁ。そりゃ、疲れるよね」

 言って桔梗もルミアの視線を追い、眠る少女達へと目を向ける。

「ふふっ……本当色々ありましたね」

「ルミアも疲れたよね」

 言って柔らかく笑う桔梗。
 対しルミアも桔梗と同様優しげな笑顔になると、

「はい。色々ありましたから」

 ──笑顔で言う彼女の色々。

 その言葉の奥に、悲哀が隠れているような気がして。
 桔梗はぐっと表情を引き締めると、力強い眼差しをルミアへと向け、

「……絶対、連絡取れる方法を見つけ出すから」

 桔梗の言葉に、ルミアは小さく目を見開いた後、再び柔らかい表情を浮かべる。

「……桔梗様。確かにお父様達と突然別れる事になったのは悲しいですわ。しかし、それよりも──」

 近づき、桔梗の手を両手で包み込む。

「──今、こうして桔梗様の隣に居れる。……それが何よりも嬉しいのです。だから、私は大丈夫ですわ」

「……そっか」

 ルミアの力強い声に、桔梗はこれ以上言葉は何も言わず、小さく頷くのであった。

 ◇

 ルミアも疲れているだろうという事で、桔梗達はそろそろ寝ることにした。

 ルミアと協力し、ラティアナ、リウ、シアの順で彼女らを部屋へと連れて行き、布団に寝かせる。

 そして全員を寝かせた後、2人は互いの部屋の前で、

「ルミア、おやすみ」
「おやすみなさい、桔梗様」

 と声を掛けると、それぞれ部屋へと入った。

 桔梗が部屋に入ると、途端に聞こえてくる寝息。

 誰のものかと言えば、3歳児サイズのままはしゃぎそのまま眠ってしまったラティアナである。

 流石に3歳児サイズでは、桔梗の部屋の中で他に寝かす場所が無かった為、現在彼女は桔梗のベッドの上で気持ちよさそうに眠っている。

 その幸せそうな表情に思わずクスリと笑う桔梗。
 すぐにベッドへと近づくと、ラティアナの横で横になった。

「…………」

 真っ暗闇の中、カチリカチリと刻む時計の音と、ラティアナの寝息が響く。

 その中で、桔梗は天井へと目をやると、明日の予定へと思考を向け、思う。

 とにかく、彩姫の母に彼女達の事を理解して貰い、どうにか力を貸して貰いたいなと。
 そして、彼女達が幸せに暮らせるようになれば良いな、と。
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