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1-4 はじめての異世界(地球)飯2
しおりを挟む皮が剥かれ、半分になった玉ねぎがドンと乗っかるまな板。
その前には、どこか緊張した面持ちのシアが、右手に包丁を握りながら立っている。
「ううっ……本当にやるっすか……」
先程まではノリノリで嘘泣きまでしていたシアも、流石に本当にやるとなると、頭に過去の失敗がフラッシュバックするようで、どこか不安げだ。
と、そんなシアの元へと桔梗が近づく。
そして、決して特別な事ではないとばかりに平然とした様子で彼女の後ろへ立つと、
「じゃあ少し失礼して」
言って、なるべく触れないようにと気をつけながら腕を回し、シアの手に自身の手を重ねた。
「「「…………!?」」」
想定外過ぎる桔梗の行動に、シア以外の3人はピクリと反応を示し、
「……ご、ごごごごご主人!? な、何してるんすか!?」
シアは突然の接近と接触にボンッと顔を赤らめる。
対し桔梗はけろっとした表情で、
「何って、切り方を教えようと」
この言葉を受け、ぐぬぬ~と、重なったシアと桔梗の手を見つめていたルミアが、堪らずといった様子で声を上げる。
「……切り方を教えるだけなら、口頭で説明すれば良いと思いますわ!」
「いや、でもこの方が確実だし」
「……ううっ。確かにそうですけど……」
桔梗の言葉が正論であった事もあり、ルミアにはこれ以上言えることは無かった。
という訳で共同作業については継続である。
3人の少女達が様々な感情を抱いた瞳でじーっと見つめる中、桔梗はシアへと優しく声を掛ける。
「いくよ、シア」
正しい持ち方へと矯正する為か、桔梗が重ねた手をキュッと握る。
「……! ……は、はいっす」
突然上がる手の密着度。
手から伝わる桔梗の体温。
否、それだけではない。
……手以外は触れてないのに、何だか身体があったかいっす。
直接触れてはいないのに、触れてしまいそうな程近い距離だからか、空気を伝い桔梗の熱がシアへと伝わるのだ。
そのほのかな温みに、シアは身体をもじもじとさせる。
……うぅ。何でっすか。いつも自分からくっつきに行ってる筈なのに。……直接触れてない今日の方が……何かムズムズするっす。
そんな心地良くも、むず痒い感覚にシアが包まれている中、桔梗は酷く真剣なのかそんな些細な事は気にならないとばかりに、優しげな表情のまま口を開く。
「……玉ねぎを切るときはね、まず手をここに添えて……そう。で、包丁をこうやってトントンって……」
重ね合わせた手に少しばかり力を込め1回2回と玉ねぎを切る。
「……こうっすか?」
先程の動きを真似るように一度刃を入れる。
多少押し切るような形になってはしまったが、見事玉ねぎを切る事ができた。
「そうそう、良い感じ」
「ふへへっ。できたっす」
へにゃりと笑う。
「よし、この感覚を忘れない為に続けようか」
「はいっす。……とん……とん……」
「うんうん、上手上手」
耳元から聞こえる桔梗の声に、シアはほんのりと頬を赤らめた後、柔らかい笑みを浮かべる。
そしてそのまま、何となしにチラと顔を右にやると……そこには大好きな桔梗の顔が。
「……ご主人」
ぼーっとしたまま、ポツリと名を呼ぶ。
「どうした、シア」
その声に桔梗が反応し──2人の目が合う。
「「…………」」
訪れる静寂。
それはほんの数瞬の事であったが、シアからすれば何秒にも何十秒にも感じられ……。
「……何でもないっす」
……堪らずといった様子でシアは玉ねぎへと視線を戻した。
「…………?」
首を傾げる桔梗。
対しシアは、そんな彼の腕の中で、熟れたトマトのように真っ赤な顔のまま、思わず出てしまうニヤケ顔を抑えようとグッと力強く口を結ぶのであった。
──と。
そんな2人の様子をこれまでじっと見ていたルミアであったが、ここで辛抱堪らなくなったのだろう、
「私達は何を見せられてるんですの!?」
と、身を乗り出しながら、困惑と幾分かの嫉妬が入り混じった声を上げるのであった。
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