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③
しおりを挟む「いいえ、とんでもございません。来て頂けて、ありがたい事です。申し遅れましたが、この店のマネージャーの中園と申します。何かご要望などございましたら、お気兼ねなくお申し付けくださいませ。」
中園さんが、にっこり笑顔で私にそう言ってくれた。
や、や、優しい~
神々は余裕があるから、人に優しくできるんだなあ。
「こちらの部屋へどうぞ。」
靴は脱がず、そのまま入店出来るスタイルのようだ。
奥の方の部屋に案内された。
少しだけ軋む廊下を歩くと梅の生花が。
まだ蕾のようで、開くのが楽しみになるような素敵な生花だった。
格式のあるお店は生花も素敵だなぁと、ぼんやりしていると部屋の扉の前に到着したようだった。
格子の扉を開けると、少し長めの広いテーブルと椅子。
漆塗りだろう、重厚な色をしてて、いかにも高そう。
中園さんが椅子を引いて座らせてくれた。
ああ…私なんかのためにスミマセン…ほんと。
「お上の手を煩わせてスミマセン…」
「え?」
「いえ、何も…」
少々お待ちくださいと、中園さんは部屋を出て行った。
椅子はツルスベで大きめで、座り心地がよかった。
ひんやりと冷たいが嫌な冷たさでは無く、むしろ、しっくりくる座り心地。
お高い椅子は座り心地も違うなと感心していると、少し遅れて部屋に入って来たイケおじが、テーブルを挟んだ正面に座る。
どうやらスーツの砂を少し叩いて落としてきたみたいだった。
今更ながら申し訳ない。
「あの…今更ですが、お名前お聞きしてなかったですね…私は、井上華子(イノウエハナコ)といいます。」
「ああ、そうでしたね。平山悟(ヒラヤマ サトル)といいます。」
そういって名刺を渡された。
……ん?
まてまて…私の読み間違いかな…
Realize…CEO…は?
「り…りあらいず…て、あの…」
「ああ、そこで働いているんだよ。」
「CEO…」
「一応、そういう肩書きで席を置かせて貰っているんだ。」
「う、嘘では?」
「無いねえ。信じられなかったら、会社の公式SNS見てみてね。」
急いでSNSを見てみる。
すると目の前のオジサンと同じ顔をした人が、沢山の記者の前で新事業の説明をしている動画や、お茶目に流行りのダンスを踊ったりする動画が出てきた。
「あ、それは皆が踊ってるの見たら楽しそうで、僕もやってみたんだよ。」
「へぇ……」
へぇ…じゃねぇわ…
え、え、ほんとに?
この目の前に居る人、あの世界一有名なブランド会社のCEOなの?
マジ?
今年の富豪ランキングで3位とかだったよ?
え、そんな人が…
「えええええーーーー!!!!!」
驚き過ぎて、今度は椅子から転げ落ちた。
「少し落ち着きましたか?」
「す、すみません、大声出して…」
「いえ、いつも驚かれる事が多いので、慣れました。」
転げ落ちた椅子に再び座り、お茶を飲み、何とか落ち着いた。
確かに、平山悟という名前は聞き覚えがあるし、富豪ランキングにも名前があった。
でもでも、今だに信じられない。
まだ本当かどうか信じきれていない。
少し訝しげに顔を伺うと、苦笑された。
あ、まだ半分くらい信じて無い事バレてるな。
目の前には、いつの間にか小さな小皿に入ったお菓子の用な物が置かれている。
「鰻の骨の煎餅だよ。」
「鰻の骨…」
鰻の骨って食べれるんだ…
さすがCEOは違うな…
もはやCEOは関係ないが、頭からCEOの単語が離れない。
「あ、美味しい…」
塩っけがあって、ぽりぽり食べれる。
揚げてあるのかな。
久しぶりの塩っけのある食べ物を、夢中で貪ってしまう。
「井上さん。」
「はい?」
「華子さんと呼んでも良いですか?」
「どうぞどうぞ。私は、CEOとお呼びします。」
「え。」
「嘘ですよ、平山さん。」
ニヤリと笑うと、驚いたように目をパチクリしたあと、ハハっと声を出して笑った。
もう超凄い会社のCEOでも、それが嘘でも、何でもいいや。
鰻食べさせてくれるし。
このイケおじ、なんか可愛いし。
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