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ネトゲ日和

14話 矢のように進軍そして

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 あかり君が大盾を構えて突進する。その後ろに俺とヌーが続いていく。
 一番早く反応した首なし騎士がチェーンを振り回し、あかり君に自分の頭部を打ち付けようとした。

「はぁっ! シールドチャージっ」

 大盾を使いそれを弾くあかり君。勢いを止めず、部屋を横断するべく加速していく。

「無敵スキルか!」
「前方だけです……っ、追い付かれたら終わりです! 一日一回制限なのでっ」

 今までスキルの話題に絡んでこなかったが……なるほど、出し惜しみに値するスキルだ。
 あかり君の輝く大盾が周囲のモンスターを次々に吹き飛ばしていく。
 俺たちもすぐ後に続き、通路を渡り、階段を上る。

「よし、このままゴールまで突っ走れ! その後のことはその時に考えるぞ」

 大広場のモンスターたちが気付き、横から迫ってくるが、最短を真っ直ぐに進むだけの俺たちにはぎりぎりのところで攻撃が届かない。

「いいぞあかり君! 前だけを見て走っていれば攻撃は当たらない」

 つまり、この道が続く限りは無敵だ。

「ぬわーっ。うしろうしろ。」
「ヌー、振り向くな前だけを見……ろ?」

 後ろのヌーへ注意するつもりで振り返った。
 おぞましい量の地獄めいたモンスターの群れがあった。驚きはしたが、それはまあ想定内だった。
 何よりも不気味かつ俺の危機感の警鐘を打ち鳴らしたのは、すぐ後ろを追いかけてくる赤フードの杖が鈍く輝いていたからだった。

「まずい……遠隔攻撃だ! 避けろッ」

 叫ぶと同時に、真横をのつぶてが通り抜けていく。
 そこ先にいるのは――

「ああっ! なんか小さいのに張り付かれました!」

 よく見ると、それは大量の虫だった。赤、白、黄色などのカラフルな虫たちがあかり君の鎧に張り付き、隙間から中に入っていく。

「ひええっ! ライフじわじわ削れてます、後ろからDOT系のスペル食らったみたいですっ……このままだと倒れちゃいます」
「ぬぅ。どっと?」
「ダメージ・オーバー・タイムだ。時間ごとにダメージが蓄積していく嫌らしい状態異常だな。毒みたいなもんだ」
「やばいな。どうする? 小森。」
「任せろ!」

 杖を構える。
 やっと来たぜ俺の番。今度こそ空振りはナシだ。

「ホアアー! ライトヒーリングッッ!!」

 全力で叫んだ。なんて気持ち良いんだ。
 ちなみにこの家は壁に埋まってる石棺のような建築物なのでお隣さんの心配は要らない。

「おおっ、小森さん ヒーラーだったんですねっ! 頼もしいです」
「あかり君が戦士をやるのを想定していたのさ」
「でもなんか。地味?」

 あかり君のライフが減るたびにライトヒーリングを打ち込む。たしかに地味な作業だが、これはRPGでは鉄板の構成なのだ。

「ヌーは初心者だからなぁ。ヒーラーの有り難みはいなくなった時にしか分からんものなのだ」
「そうですよヌーさん! はぁ……ありがたや」

 あかり君って俺が思ってるよりもずっとゲーマーだなこれ。わりと本気で拝んでる。

「隊長閣下! ゴールが見えてきましたっ」
「む……ついにか」

 巨大で開くのに一苦労ありそうな扉が見えてくる。重々しい雰囲気からしてボス部屋に続く扉に違いない。

「私は後ろを見れないのですが……どうなっていますか?」
「あまり言いたくはないが……」

 奴ら全く諦める気配がない。よくあるMMOだとMPK敵を利用した殺人防止のためにトレインに制限がかかるのだが……諦めているモンスターがいるようには見えない。おそらく全ての敵が俺たちを追いかけて来ている。
 扉を開けている時間は無いだろう。

「戦うしかなさそうですね!」
「うむ……相手に不足なし、だな」

 あかり君が反転し、俺たちを守るように大盾を構え直す。
 俺もヌーも準備はとっくに完了している。
 そのためのスピーチだったからな。

「来ます!」
「足掻いてやろうぜ! 最後まで──」

 怒涛のモンスターの群れがあかり君目がけて突っ込んできた。
 彼女は大盾を地に突き刺すように置いて猛攻を受け止めていく。
 もうすでに無敵モードではない。大盾の上からどんどんとダメージが貫通し、体力を削っていく。

「うおおお! ライトヒーリング! ライトヒーリング! ライトヒーリング!」

 俺は夢中になってスキル名を連呼した。
 マナは勢いよく減っていき、すぐに底をついた。

「ぐう……ここまでか」
「小森さんバンザーイ!」

 全てを察したあかり君が両手を天高く持ち上げるモーションをした。すぐにモンスターの群れに隠れて見えなくなる。

「その心意気やよし! 俺もやるぞ……あかり君バンザーイ!」

 モンスターの群れが移動する。
 あかり君はすでに物言わぬ棺桶と化していた。
 律儀にもパソコンの前で口をつぐんでいる。

 ヒーラーである俺は二番目にヘイト敵意を稼いでいた。あかり君を喰らい尽くしたモンスターの群れは、当然のようにこちらに向かい、俺を取り囲む。

「ぐわぁーーーっ!」

 首無し騎士の頭が腹にめり込み、赤フードの虫が手足を食い千切り、一つ目巨人のデコピンが俺の頭を吹き飛ばす。

 やがて、俺もあかり君と同じように物言わぬ棺桶となった。

「……」
「……」
「……。」

 ヌーはまだ生きてるんだから何か言えよ!
 と思ってヌー本体の方を見てみると、じっと画面に集中していた。
 あるいは呆然としているのか……。
 まあ出来ることが死体の復活だからな。この場で復活させて、また殺されるところを見るだけというのも違うだろう。そういう意味で何をするべきか考えているのかもしれない。

 ちらっとあかり君を見ると、必死にパソコンを指差していた。そんな必死になるなら喋ればいいのにと思いつつ、画面にふたたび目を向ける。

 すると、不思議な現象が起こっていた。

 俺とあかり君を棺桶に変えたモンスター達が持ち場に帰っていくではないか!
 視線はがっつりヌーの方へ向いているのに、後ずさりするようにどんどん数を減らしていく。

 やがて、最後のモンスター(憎たらしい首なし野郎)が配置につき、視線をヌーから外した。

 一体何が起こったのか。
 言いたいことは山ほどあるのだが……あかり君は頑なに口を閉ざしている。

 放心状態のヌーへ必死に呼びかける俺たち。

「……!(ヌーさんっ 起こしてください!)」

 ただし声は出さないまま。

「……!!(気づいてくれヌー! 死体は喋っちゃいけないんだ!)」

 なんとなく喋ったらいけないみたいな空気のせいで、俺とあかり君はパソコンの前でリアル・モーション大会を繰り広げる事になっていた。
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