1日1小説書けるかな(短編集)

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(1日目)お嫁さんは御飯を食べない

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 公園。
 知らない者同士が5人ほど話をしていたが、不意にその中の1人のおばあさんが自分の家のことを話し始めると、
「ウチの嫁、御飯を食べないのよ~」
「えっ?」
 皆、驚いた。

「ほんとなのよ~」
 そう言うおばあさんはどこか得意気だ。
「嫁が食べ物を食べているところ、私、見たことないのよ。
ホラ、昔話で
『御飯を食べない嫁が、実は頭に口があって、見ていないところで御飯を食べていた』
みたいな話があるでしょ?
ウチの嫁も、私が見ていないところで御飯を食べているんじゃないか? とも思って、見張ってもみたけど。
ほんとに全然食べないのよ~」

「そうなんだー」
 おばあさんの話に、皆、曖昧な微笑みを浮かべながら、相槌を打った。

「そうなのよ~」
 おばあさんは皆を訳知り顔で見渡し頷いてみせ、
「御飯を食べられないなんて、かわいそうに……といつも思うのよ」
 満足したのか、その場から去っていった。

 おばあさんが見えなくなると、皆、

「気の毒ね~」
「ほんと」

 口々に言い合う。

「あのおばあさん、まだ御飯食べているの?」
「進化する前の、人間なのよ」
「人間もちょっと前までは全員、御飯を食べていたって言うものね。
今はほとんどの人が植物みたいに光合成ができるけど」

「あのおばあさんのお嫁さん、えらいわよー。
おばあさんにおばあさん自身が『進化から取り残された人』と教えずに、黙って御飯を用意してあげているんでしょ」
「優しいお嫁さんだわねー」

 その夜。
 おばあさんの家では、おばあさんが1人御飯を食べていた。

「おまえは、今日も御飯を食べんかね」
 おばあさんが訊くと、お嫁さんはにこやかに頷く――「はい。お義母さん」

「息子はまだ帰らんかね」
「もう少しで帰りますわ」

「ちょっと働き過ぎじゃないかね」
 おばあさんはため息を吐いた。
「一緒に食事もできないなんて……」

 お嫁さんは黙って義母を優しく見つめた。
 お嫁さんの夫――おばあさんの息子――はおばあさんが御飯を食べるから食費を稼ぐために人より働いているのだ。
 御飯を食べる人がほとんどいないこの世界の『食べ物』はとても高いから、必然的に働く時間が長くなる。
 そのことをおばあさんはわからない……

「1人で食べる食事は寂しいよ……」
 つぶやくおばあさんに、お嫁さんは「きっとそうね」と優しく答えた。
 おばあさんが少しぼけていることをお嫁さんは知っていた。

 だっておばあさんだって知っているはずだから。
 自分の息子は御飯を食べない『進化した人間』であることを。
 おばあさんが産んだのだから……

 そのことを忘れてしまっているなんて、ぼけているのだ……。

 お嫁さんはおばあさんを見ながらいつも思う。
(食費を稼ぐあの人も大変そうだけど。
食事を作る私も大変だけど。
御飯を食べなきゃいけないお義母さんも大変そうね)

 咀嚼して……
 飲み込んで……
 消化して……
 見るからに大変そうだ。

(御飯を食べなきゃいけないなんて。
かわいそうなお義母さん)
 お嫁さんは同情した。





 ――終――
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