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混乱の淵に立てば ー別世界への転移編ー
新:第6話:古代兵器の出陣 くぅあいこうしょにょ10
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ダーダネルス海峡海戦を書きたいと言う衝動を抑えながら書いてます。ここ最近は案が結構浮かんできてるんで……。早くここも終わらせないと(使命感)
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_偵察部隊がレッドウッド・ハイウェイ上で驚嘆している頃、ドライ市では
火の粉舞い散るドライ市。突如として現れた国籍不明軍の虐殺によりあたり一面人の死骸で埋め尽くされ、続けざまに行われたキスカアイランド作戦の第一段階で更に悲惨なことになっていたドライ市。道路に散乱するビル街からあちらこちらに散りばめられたガラス片や、廃棄された車両。そして……焼き焦げ腐敗臭を放たんとする国籍不明軍・ドライ市市民両方の、死体。
ただでさえ凄惨さ極まるそこは、さらなる地獄と化していた。
「た、隊長ッ!あの化け物……余計怒ってますよねッ!?」
ビル街の瓦礫の合間を縫いながら走る四人の屈強な男たち。
その一人、イノセンスは隣で汗水垂らして走るリンガル大尉に緊迫した表情で言う。
「し、仕方ないッ……だろッ!あのままじゃどう考えても……死ぬしかなかったんだッ!」
彼らは西部方面地方軍基地へ連絡を、と外へと出ていたはず。それなのになぜ彼らが走っているのかと言えば……。
『ッグァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!』
「ほ、ほら!また炎吐き出していますよ!俺はここで死にたくないですって!どうするんですか!?」
イノセンスはそう言うと、とてつもなく大きな咆哮が聞こえた方向、彼らの背後を一瞬見る。
彼らの背後には、ビルの合間からうっすらと見える半ば怒り狂いながらあちらこちらに炎を撒き散らす化け物……本来ならファンタジー世界でのみ登場するはずの生物、巨大なドラゴンが居た。
「やっぱり銃を撃ったのがまずかったですって!他にも手段あったでしょうにッ!?」
「そ、それもそうなんだが……いや、すまない。弁解のしようがないな」
リンガル大尉は諦めかけた表情でそう呟く。
彼らは数分前、外に出て通信を試みていた。通信がなぜだかわからないが不可能なことが判明し、いざ撤収しよう……とした時、奴が背後からビルの合間を縫って現れたのだ。我々は即座に物陰に隠れ、その場をやり過ごそうとしたものの、立ち去る気配は見せなかった。そこでやむなし、とPDR-Cを奴に向けて撃つと運がいいのか悪いのか見た目は頑丈そうな鱗を貫通。奴は突然の攻撃。それもダメージを与えたソレに激しく怒り、気づけばこの有様だ。
「とにかく今は地下鉄に向かおう!あそこであれば奴の攻撃も防げる!それから拠点に帰るんだ!いいなッ!?」
『りょ、了解ッ!』
_今度は視点を戻し、国籍不明軍後方陣地
「ゲラーウス殿ッ!これから一体どうなされるおつもりで!?」
東部13藩領主は恐怖で真っ青に染まった顔で、ゲラーウスに尋ねる。
彼らの居座るここも、彼らが見慣れた竜よりもはるかに巨大な、『龍』が放った炎の流れ弾により甚大な被害を被って居る。このままではただでさえ少ない兵士を消耗しかねない。そのためにもゲラーウスの判断は、急を要するものだった。
「うぅむ……」
だが、ゲラーウスはただ唸るばかりである。
彼としては、内心ここから手を引き本国で再度装備を整え改めて攻略に臨みたい。現状の兵力ではこの地を攻略すること能わぬどころか……敵の放ったあの謎の超大規模攻撃により全員が瞬殺されることは間違いない。そろそろ魔導電信機が使えてもいい頃合いだと思うが……仮に援軍を要請できたとして、ここに到着するまでの数日間、この場所を死守できるのか。それすらも怪しい。
だが撤退……その道もまた、不確定要素が大きすぎる。いくら母国の兵力が多いとは言え、ここに派遣した10万の兵もまた大軍。それの半分近くを失い、何の成果も得られずみすみす帰って『なんの成果も得られませんでした。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ふぅ』といったところで結果は目に見えている……粛清だ。一族もろとも死へ一直線の、粛清の嵐が吹き荒れる。それだけは何としても避けたい。
だが、一体どうすればいい?このままここを死守しようにも現状の兵力であれば弱体化したデルタニウス王国軍と言えど数で押しつぶせる。それ以前に悩みの種なのが奴……『破壊龍バハムート』だ。奴の鱗は現状持ち合わせているどの武器でも貫くことはできない。それに、竜兵隊も居ない。魔法で倒すこともできない。まさに無い無い尽くしだ。
不幸中の幸いと言えば……『破壊龍バハムート』が付近一帯の魔素を吸収していること、敵もまた同様に破壊龍バハムートに下手に攻撃を……と思ったが、そう言えば確かついさっき妙な破裂音がしていたな……。敵が奴を攻撃した……?いや……そんなまさか。
「……今はここでおとなしく待つほかあるまい。たとえ今動いたところであの『龍』に殲滅されるのは目に見えている」
「で、ですが!!」
諸藩王らからしても、ここで食い下がるわけにはいかない。
美味い汁を吸うためだけに自藩に駐在するほぼ全ての軍を率いてきたとも言える彼らからすれば、ここで手駒を失うと言うのは何としても避けたい。それ以前に、まず自分たちの命が心配なのだ。
「……だがここで撤退したとして……どうなるか。貴殿らでも十分想像の範疇にあるはず。違うか?」
だが同時に、背後にそびえ立つ本国皇室直々の粛清《かんげい》を避けたいのもまた事実。
八方塞がりである。
コンコン__ガチャッ
と、そこで場の雰囲気を乱すかのように金属製のドアがゆっくりと開かれる。
そこに立って居たのは、箱型の物体__魔導電信機を両手で抱えた伝令兵だった。
「しょ、諸藩王ら様方が会議をしているところ失礼いたしますッ!ゲラーウス殿に本国から直々の連絡ですッ!」
「何?もう通信が復旧したのか?」
ゲラーウスは半信半疑の状態で伝令兵に尋ねる。
「そ、そのようで……とにかく至急とのことですッ!」
「今は大事な会議中だというのに……なんと無礼な」
誰かがそう言うが、相手からすれば我々の状況など把握できない。本国に通信を怠って居た時点で我々にそう言う道理はないだろう。
伝令兵は部屋の中に転がって居た机を立て直しその上に魔導電信機を置く。
「ど、どうぞ!」
伝令兵はそう言うと、受話器をゲラーウスに手渡す。
ゲラーウスはそれを手に取ると、真剣な眼差しで口を開いた。
「デルタニウス王国攻略軍の……ゲラーウスだ。現在取り込み中なのだ。手短に終わらせてもらいたい」
『……はぁ。やっと繋がったか。んーっと……これで何回目だっけな』
受話器越しに聞こえた声。それは彼__ゲラーウスも、聞いたことがない声だった。
私が高々一攻略軍の司令官だとは言え、相手は司令官であることに変わりはない。だが……この男はゲラーウスの知る誰よりも胡散臭《うさんくさ》い匂いがプンプンする。
「し、失礼だが君は一体誰なのだね?私の知る通信員じゃないように聞こえるが……」
ゲラーウスの質問に、受話器越しの相手は快い声で返答する。
『あぁ?俺か?俺は帝国軍部監査機関の「ヴロミコ」って者さ。これから……よろしくな?』
受話器越しのソイツは、ひどくいやらしい声でそう答えた。
_数分後、次は再びドライ市へと視点を移す
サッカースタジアムに避難していた数百名ちょっとの老若男女と警備隊員達。彼らもまた、突如としてサッカースタジアム外に出現した『ドラゴン』にど肝を抜いて居た。
「ムライ、これ……まずくないか?」
数少ない残存ドライ市警備隊の一人であり、現在はサッカースタジアム防衛のため北玄関口に配属されたゼレットは、エントランスから見える景色を横目に、心配げな口調で言う。
「確かに……火の粉舞い散るドライ市、か……。まるで紛争地帯だな」
ムライは目を細め、外を縦横無尽に飛び回るドラゴンを凝視する。
数分ほど前、突如として現れたかと思えば、とてつもなくうるさい咆哮を吐き出したあの怪物《モンスター》。彼らとしても眼前に広がる、怪獣映画よろしく怪物が次々と町の家々を破壊する光景を絶対に信じたくはないが、これは確かな現実《ノンフィクション》。
二人は一同に、『ちょっくら通信してくる』という言葉を放ち数人の部下のみを引き連れ市街へと向かった警備長らの安否が心配であった。
何せこの状況。敵がどこから現れるかもわからない市街地で、さらにあの怪物を+αされた状況なのだ。何が起こるか、検討もつかない。
「どうする?最悪警備隊長も通信機と共にヴァルハラ超特急に乗り込んでるかもしれないぞ?」
「だとしたら……。いや、そんなことを考えるのはやめよう……。きっと帰ってくる。そしたらもう一度酒でも飲んでさ……」
ムライはしんみりとした声で、それだけ言う。
「そうだな……。きっとあの隊長のことだ。生きてるに違いない」
一体どこからその自信が出てくるのかはわからないが、それはともかくとして彼らは隊長の帰りを待つ…………必要もなかった。
「はぁ……はぁ……。お前ら、随分と心配してくれんじゃん」
入り口から『ヌッ!』と言う効果音がぴったりな動きで姿を現した数名の人物……いや、警備隊員服を着込んだ、彼ら。
「た、隊長!?一体どうやってここに……ッ!?」
ゼレットは驚愕の表情でリンガル大尉に尋ねる。
「いやいや……大変だったよ。伝記にでもしようかな」
リンガル大尉は服についた汚れを叩《はた》き、間髪入れずに真面目な表情で告げる。
「それよりも、だ。ついさっき西部方面地方軍基地との連絡が取れた。……よな?」
リンガル大尉は心配げな表情で背後に立つ部下の一人を見つめると、意を汲んだのか、ただ『はい』とだけ答える。
「おぉ!やったじゃないですか!それで……援軍は?」
まるで餌をねだる犬のような目でゼレットは尋ねる。
「喜べ。A-10G-4を4機ほどよこしてくれるとのことだ」
_西部方面地方軍基地
しばらく通信が途絶えていたドライ市警備隊との通信が復旧した瞬間にあちら側から『ドラゴンによる大規模市街地攻撃を受けている』との一報を受けた西部方面地方軍基地。
司令官らは半ばヤケクソになり『A-10G-4を1個小隊を投入しろ。あいつらもM1エイブラムスをスクラップに変える作業ばかり続けるのよりも実戦がいいだろ』との一言で援軍派遣を決定。以降滑走路上は大騒ぎとなり、航空要員達は大慌てでA-10G-4計4機の出撃準備を開始した。一分一秒の遅れは、ドライ市の消滅を記すかもしれないのだから。
と、言うことで出撃命令が発令された第2飛行分隊。この分隊に所属するA-10かと言って、血気盛んなA-10乗り達も同様である、と言うわけにもいかなかった。
「よっしゃお前らぁぁぁぁぁぁぁああっ!久々の実戦だぞぉぉぉぉおおっ!」
『ゥウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッ!!!!』
彼ら計4名、通称『オラクル(神託。神のお告げという意味)』と呼ばれるA-10パイロット達は屈強な筋肉の塊とも呼べる己の肉体の上にパイロットスーツを着込み、小隊長に続け歓喜の声を上げる。
彼らが駆る『A-10』は陸軍から『対地の女神』などと呼ばれており、それに呼応するかのように様々な伝説を残している……らしい。
例をあげれば『胴体着陸でパイロットが無事』だとか、『エンジンが片方吹っ飛んだにもかかわらず基地に帰還した』、『湾岸戦争では140機ほどが出撃し、被撃墜はたったの数機』などがある。
機首に搭載されたGAU-8『アヴェンジャー』は、150年以上前に生まれた骨董品。だが、それから放たれる大質量攻撃は現在の第7世代主力戦車程度であれば難なく破壊できるほどの威力を持つ。
また戦闘空域に数時間は滞空できる能力等も保持し、陸軍からは熱狂的なファンによる絶大な信頼を得ており、採用から100年以上が経った現在、2度目(GAU-8の生産が打ち切られていたため)の量産が続けられるM2ブローニング重機も顔負けの古代兵器と化していた。
彼らは満足いくまで叫び散らすと、各々はそれぞれの愛機《破壊神》が駐機された格納庫《ハンガー》へと向かって行く。
その一人、第2飛行分隊所属、計4名の中でも特に小柄な身長のアンドリューは誰よりも一足早くハンガーへと向かう。
「あ、どうも。整備・兵装積載はどうなっていますか?」
アンドリューからの質問に、すでに一連の作業を終えたのか、ブルー一色の作業着を着た整備担当の代表者が『いつでも問題無しです』と、述べる。
もともとの性格は荒いアンドリューも、この時だけは彼ら整備員達に敬語で接す。整備員達の行う整備なしに、航空機は飛ぶことすらままならないのだから。
「そうですか。では行って来ます」
「そう言えば今回は久々の実戦……でしたね。しかも相手は得体も知れない相手……と言うよりも、ドラゴンだとか?」
代表者は心配げな口調でアンドリューに尋ねる。
「まぁそうですね……。ですが問題はないですよ。なにせ私が乗るのは空飛ぶ戦車ですから。こいつはまさに私の聖剣エクスカリバー……。ドラゴンだろうがなんだろうが、確実にうち仕留めてやりますよ」
「そしたら今度は基地でドラゴン肉を使ったBBQでもやりますか?」
「いいですね、それ!帰ったら一緒にやりましょう!」
「ですね!……っと、ついつい話してしまい申し訳無いです。戦闘用UAVも初実戦ということですし、我々としては内心不安な点もあることですが……戦果の報、期待しておきますよ!」
代表者はそう言い、格納庫の隅に駐機されるMQ-9にも似た(実際設計を簡素化したものである)戦闘用UAVを見つめる。
……そう。これがA-10G-4最大の特徴の一つ。『戦闘用UAV』という安直なネーミングセンスの代物ソレだ。詳しくは下の方に書いてあるが、この存在を一言で表すならば『A-10の守護者』だ。
「はい。それでは」
最後に握手を交わし、互いに敬礼し合うと、アンドリューは整備員達の見送りを背に一般的な灰色迷彩が施されたA-10へと乗り込む。
今回A-10の主翼下の計11箇所のハードポイントにはそれぞれ『クラスター爆弾x2』、『ナパーム爆弾x2』、『Mk.82(500ポンド爆弾)自由落下爆弾x4』。それと一般兵装であるECM(電子妨害装置)とAIM-132 ASRAAM2発が搭載されている。このような中途半端な装備にしたのはドラゴンの攻撃能力・防御能力が未知数なためである。
操縦席内に乗り込み、キャノピーを閉じた後小さくこう呟く。
「オッケー、ゴーグル」
『——————声帯認証…完了。顔面スキャン…完了。航空兵番号109867、アンドリューと断定』
幼女の声にも似た声でソレは、彼の耳元でそう語り掛ける。
彼が呼びかけた…否。起動したそれの名は、通称『ゴーグル』。このA-10G-4改装プログラムの一つとして組み込まれた新機能の一つであり、自立型AIだ。
某真っ白マシュマロロボットよろしく飛行中の退屈な時間は、『彼女(便宜上そう呼ばれている)』と会話することで、緊張感を発散させよう!』という才能ある若者達の、粋な計らいにより実現した。
『こんにちはパイロットさん!今日もよろしくね!』
さっきとは打って変わってたたき出されるこの破壊力あるセリフ。あぁもうたまらねぇぜ!!
実際彼女の存在は他軍でも認知されており、実際『あれ俺にもよこせ』だとか、『えっちだ』、『世界を彼女で埋め尽くそう。そして真の平和を……』だなんて声が各所から上がっている。
「そ、そうだな…今日も頼んだぞ」
『任せて任せて!それじゃ離陸準備、パパっと終わらせちゃうね!』
彼女の陽気な声の元、機内の機器が起動を開始。機体後部にある2基の民生ターボファンエンジンが、そしてそのさらに後方に駐機してあった4機の戦闘用UAVのエンジンも唸りを上げ、それぞれがアヒルの親子よろしく微速で徐々にハンガーより外へと移動。後ろからの整備士たちの熱い声援と滑走路要員の誘導の元、ゆっくりと離陸地点まで移動する。
滑走路上では作戦実施予定のキスカアイランド作戦第二段階に向け、今現在各部隊がそれぞれの作業を実施中であり、離陸地点に移動するまでに何度も旧式のハンヴィー等に乗って移動する整備兵その他諸々を見かける。もちろんその中には第二飛行分隊僚機の姿もあった。
そんな中アンドリュー(とゴーグル)、それと4機の戦闘用UAVは着々と離陸ポイントへと向かう。
—
——
—
離陸ポイントに到達し、第二飛行分隊は可動翼(フラップ、エルロン、ラダーetcの事)の点検を完了次第一番機から滑走路を滑走、離陸する。
そして次は、アンドリューの番だ。
「管制塔。こちらオラクル3。離陸許可を」
『こちら管制塔。オラクル3、了解した—————』
管制塔要員は一瞬喉を詰まらせると、ただ一言、『幸運を祈る』とだけ伝える。管制塔要員にも彼らの攻撃目標は伝えてある。
——曰く、ドラゴン。
彼らとしても信じたくは無いが、司令部は何度聞き直してもただ『空飛ぶトカゲっていう名のドラゴン。あとついでに火を噴くらしいから気をつけてね』としか答えないのだ。それ以外は……全くもって未知数。もしかすると、彼らでもやられるかもしれない。そんな不安が、管制塔要員の脳裏には浮かんでいた。
「……やって、やりますよ。なぁ?ゴーグル」
『はい!ドラゴンだろうがなんだろうが関係はないです!パパッと30ミリをぶっ放してミンチに変換する。それだけの簡単なお仕事ですから!』
さらっと物騒なことを言うのは日常茶飯事なので気にしないが……彼女の言うことは少なくとも嘘ではない。
もしこれが仮にファンタジー世界だとしても、さすがに我らがGAU-8アヴェンジャーの放つ劣化ウラン弾とタングステン弾の破片が少し当たっただけで人体の一部が吹っ飛ぶほどの無慈悲な攻撃を防げるとは到底思えないのだから。
「それじゃぁ……」
アンドリューはスロットルレバーを強く握る。
「行くか!」
『はい!』
力強くスロットルレバーを押し込む。後部の2機のエンジンが移動時とは比べ物にならないほどのエンジンを発し機体は徐々に加速。その後ろを戦闘用UAVは一糸乱れぬ動きで追従する。
ここに、大殺戮《パーティー》の火蓋が切って落とされた。
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AIM-132 ASRAAM
AIM-9サイドワインダーの後継ミサイルとして開発されていたイギリス開発の赤外線誘導空対空ミサイル。倉庫で設計図とともに眠っていたのを兵技開発本部が発見。それをそのまま流用し今現在試験的に一部方面地方軍基地に配備されている。
A-10G-4
不動の地位を築いた通称『A-10神(らしい』。
30ミリガトリング砲であるGAU-8アヴェンジャーを機首に装備。7tを超えるペイロードを保持し、11箇所のハードポイントに各種武装を搭載可能(比較?として同時期に開発された旧ソ連の攻撃機、Su-25の最大搭載可能量は4400キロ。頭おかしい)。
初飛行が1972年のこのおじいちゃんはエルディアン連邦設立20周年を迎えた2099年半ば、周辺各国の制空戦闘機の技術的・性能的進歩、そして機体そのものの設計の古さにより退役を迫られていた。各地の元A-10乗り達が別れを惜しみ、またあるもの達はそれに反発する。
そんな中、天使(悪い意味で)よろしく舞い降りたのが定番、兵技開発本部であった(またお前か)。
彼らはみんな大好きA-10が退役間近であることを知ると、おそらくは冗談半分で*『A-10が敵制空権内で活動できるようにすればいいんでしょ?』と思ったのか、数週間も経たずに改造案を軍部に提出。その案の内容は単刀直入で、『戦闘用UAVをお好みの数引き連れることが可能な空中空母にしたYO!』と言うものだった。
そして結果が……これである(A-10G-4とその後ろを追従する4機の戦闘用UAVを横目に。
スペック
デフォルトで戦闘用UAVを引率できる点以外は外見上は同じ。一時期にはGAU-8をGAU-12や、レーザー兵器に換装する話が出ていたが大正義アヴェンジャーの威力に立ち向かうことは叶わなかった。
エンジンは環境汚染対策のトレンド、電気・ジェット混合駆動の5000馬力級エンジン2基に換装……予定だったが、そちらは開発が間に合わず渋々低燃費の5000馬力級民生ターボファンエンジンに換装された。
機器類も一新され、機内には自立型AIを搭載。パイロットの暇な時間を会話《サポート》?する。
なおアヴェンジャーには兵技開発部の粋な計らいにより(?)専用弾薬として、30ミリ弾仕様のMinengeschoss(薄殻弾頭を使った榴弾。第二次大戦時ドイツが使用した弾薬で、これを使用したMk108 30ミリ機関砲はB-17を数発で粉砕した)が開発された。なぜ作ったかは諸説あるが、一番有力な説に『対歩兵用に作った。それに母国の兵器だし……構わないでしょ?後悔も反省もしていない。むしろ誇っていいだろう(当時はドイツ系の人物が所長だった』というものがある。普通そこは榴弾でいいだろ。
一部Wikipediaより引用。
*この時の資料はなぜか焼却処分されてしまったため、詳細な彼らの動機は不明である。
戦闘用UAV
A-10神の守護者。武装は通常型”であれば”アルフォンス社製小型空対空ミサイル4基(ロッキードが現在制作中の小型地対地ミサイルの流用。主に空中待機・奇襲・偵察を仕掛ける軍用ドローンに使用。一応戦闘機相手にも使えないわけではない)、フレア十数発。それとは別に弾切れ時のみに作動する特攻攻撃機能付き。一般的には旧式のMQ-9の設計を簡素化・安価化した無人航空機を指す。
完全A-10護衛用UAVと開発されたが、どうやら兵技開発本部はさらなる悪用を目論んでいるようで……?
ゴーグル
自立型AI。何を思ったのか兵技開発本部はA-10に彼女を搭載、搭載機に乗り込んだパイロットを一撃で即死(違う意味で)させる心理兵器(?????)である。
通常は主に戦闘用UAVの操作を司るが、GSP衛星とのリンクが可能な状況で、なおかつ付近の地形情報を事前に読み込ませていれば彼女一人で離陸・飛行・攻撃・飛行・着陸のすべての行動を可能とする。
愛称は『アイちゃん』、『神の落とし子』、『世界平和の使者』その他etc。
アンサイ〇〇ペディア版のA-10の説明文を見て不覚にも笑ってしまった。
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_偵察部隊がレッドウッド・ハイウェイ上で驚嘆している頃、ドライ市では
火の粉舞い散るドライ市。突如として現れた国籍不明軍の虐殺によりあたり一面人の死骸で埋め尽くされ、続けざまに行われたキスカアイランド作戦の第一段階で更に悲惨なことになっていたドライ市。道路に散乱するビル街からあちらこちらに散りばめられたガラス片や、廃棄された車両。そして……焼き焦げ腐敗臭を放たんとする国籍不明軍・ドライ市市民両方の、死体。
ただでさえ凄惨さ極まるそこは、さらなる地獄と化していた。
「た、隊長ッ!あの化け物……余計怒ってますよねッ!?」
ビル街の瓦礫の合間を縫いながら走る四人の屈強な男たち。
その一人、イノセンスは隣で汗水垂らして走るリンガル大尉に緊迫した表情で言う。
「し、仕方ないッ……だろッ!あのままじゃどう考えても……死ぬしかなかったんだッ!」
彼らは西部方面地方軍基地へ連絡を、と外へと出ていたはず。それなのになぜ彼らが走っているのかと言えば……。
『ッグァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!』
「ほ、ほら!また炎吐き出していますよ!俺はここで死にたくないですって!どうするんですか!?」
イノセンスはそう言うと、とてつもなく大きな咆哮が聞こえた方向、彼らの背後を一瞬見る。
彼らの背後には、ビルの合間からうっすらと見える半ば怒り狂いながらあちらこちらに炎を撒き散らす化け物……本来ならファンタジー世界でのみ登場するはずの生物、巨大なドラゴンが居た。
「やっぱり銃を撃ったのがまずかったですって!他にも手段あったでしょうにッ!?」
「そ、それもそうなんだが……いや、すまない。弁解のしようがないな」
リンガル大尉は諦めかけた表情でそう呟く。
彼らは数分前、外に出て通信を試みていた。通信がなぜだかわからないが不可能なことが判明し、いざ撤収しよう……とした時、奴が背後からビルの合間を縫って現れたのだ。我々は即座に物陰に隠れ、その場をやり過ごそうとしたものの、立ち去る気配は見せなかった。そこでやむなし、とPDR-Cを奴に向けて撃つと運がいいのか悪いのか見た目は頑丈そうな鱗を貫通。奴は突然の攻撃。それもダメージを与えたソレに激しく怒り、気づけばこの有様だ。
「とにかく今は地下鉄に向かおう!あそこであれば奴の攻撃も防げる!それから拠点に帰るんだ!いいなッ!?」
『りょ、了解ッ!』
_今度は視点を戻し、国籍不明軍後方陣地
「ゲラーウス殿ッ!これから一体どうなされるおつもりで!?」
東部13藩領主は恐怖で真っ青に染まった顔で、ゲラーウスに尋ねる。
彼らの居座るここも、彼らが見慣れた竜よりもはるかに巨大な、『龍』が放った炎の流れ弾により甚大な被害を被って居る。このままではただでさえ少ない兵士を消耗しかねない。そのためにもゲラーウスの判断は、急を要するものだった。
「うぅむ……」
だが、ゲラーウスはただ唸るばかりである。
彼としては、内心ここから手を引き本国で再度装備を整え改めて攻略に臨みたい。現状の兵力ではこの地を攻略すること能わぬどころか……敵の放ったあの謎の超大規模攻撃により全員が瞬殺されることは間違いない。そろそろ魔導電信機が使えてもいい頃合いだと思うが……仮に援軍を要請できたとして、ここに到着するまでの数日間、この場所を死守できるのか。それすらも怪しい。
だが撤退……その道もまた、不確定要素が大きすぎる。いくら母国の兵力が多いとは言え、ここに派遣した10万の兵もまた大軍。それの半分近くを失い、何の成果も得られずみすみす帰って『なんの成果も得られませんでした。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ふぅ』といったところで結果は目に見えている……粛清だ。一族もろとも死へ一直線の、粛清の嵐が吹き荒れる。それだけは何としても避けたい。
だが、一体どうすればいい?このままここを死守しようにも現状の兵力であれば弱体化したデルタニウス王国軍と言えど数で押しつぶせる。それ以前に悩みの種なのが奴……『破壊龍バハムート』だ。奴の鱗は現状持ち合わせているどの武器でも貫くことはできない。それに、竜兵隊も居ない。魔法で倒すこともできない。まさに無い無い尽くしだ。
不幸中の幸いと言えば……『破壊龍バハムート』が付近一帯の魔素を吸収していること、敵もまた同様に破壊龍バハムートに下手に攻撃を……と思ったが、そう言えば確かついさっき妙な破裂音がしていたな……。敵が奴を攻撃した……?いや……そんなまさか。
「……今はここでおとなしく待つほかあるまい。たとえ今動いたところであの『龍』に殲滅されるのは目に見えている」
「で、ですが!!」
諸藩王らからしても、ここで食い下がるわけにはいかない。
美味い汁を吸うためだけに自藩に駐在するほぼ全ての軍を率いてきたとも言える彼らからすれば、ここで手駒を失うと言うのは何としても避けたい。それ以前に、まず自分たちの命が心配なのだ。
「……だがここで撤退したとして……どうなるか。貴殿らでも十分想像の範疇にあるはず。違うか?」
だが同時に、背後にそびえ立つ本国皇室直々の粛清《かんげい》を避けたいのもまた事実。
八方塞がりである。
コンコン__ガチャッ
と、そこで場の雰囲気を乱すかのように金属製のドアがゆっくりと開かれる。
そこに立って居たのは、箱型の物体__魔導電信機を両手で抱えた伝令兵だった。
「しょ、諸藩王ら様方が会議をしているところ失礼いたしますッ!ゲラーウス殿に本国から直々の連絡ですッ!」
「何?もう通信が復旧したのか?」
ゲラーウスは半信半疑の状態で伝令兵に尋ねる。
「そ、そのようで……とにかく至急とのことですッ!」
「今は大事な会議中だというのに……なんと無礼な」
誰かがそう言うが、相手からすれば我々の状況など把握できない。本国に通信を怠って居た時点で我々にそう言う道理はないだろう。
伝令兵は部屋の中に転がって居た机を立て直しその上に魔導電信機を置く。
「ど、どうぞ!」
伝令兵はそう言うと、受話器をゲラーウスに手渡す。
ゲラーウスはそれを手に取ると、真剣な眼差しで口を開いた。
「デルタニウス王国攻略軍の……ゲラーウスだ。現在取り込み中なのだ。手短に終わらせてもらいたい」
『……はぁ。やっと繋がったか。んーっと……これで何回目だっけな』
受話器越しに聞こえた声。それは彼__ゲラーウスも、聞いたことがない声だった。
私が高々一攻略軍の司令官だとは言え、相手は司令官であることに変わりはない。だが……この男はゲラーウスの知る誰よりも胡散臭《うさんくさ》い匂いがプンプンする。
「し、失礼だが君は一体誰なのだね?私の知る通信員じゃないように聞こえるが……」
ゲラーウスの質問に、受話器越しの相手は快い声で返答する。
『あぁ?俺か?俺は帝国軍部監査機関の「ヴロミコ」って者さ。これから……よろしくな?』
受話器越しのソイツは、ひどくいやらしい声でそう答えた。
_数分後、次は再びドライ市へと視点を移す
サッカースタジアムに避難していた数百名ちょっとの老若男女と警備隊員達。彼らもまた、突如としてサッカースタジアム外に出現した『ドラゴン』にど肝を抜いて居た。
「ムライ、これ……まずくないか?」
数少ない残存ドライ市警備隊の一人であり、現在はサッカースタジアム防衛のため北玄関口に配属されたゼレットは、エントランスから見える景色を横目に、心配げな口調で言う。
「確かに……火の粉舞い散るドライ市、か……。まるで紛争地帯だな」
ムライは目を細め、外を縦横無尽に飛び回るドラゴンを凝視する。
数分ほど前、突如として現れたかと思えば、とてつもなくうるさい咆哮を吐き出したあの怪物《モンスター》。彼らとしても眼前に広がる、怪獣映画よろしく怪物が次々と町の家々を破壊する光景を絶対に信じたくはないが、これは確かな現実《ノンフィクション》。
二人は一同に、『ちょっくら通信してくる』という言葉を放ち数人の部下のみを引き連れ市街へと向かった警備長らの安否が心配であった。
何せこの状況。敵がどこから現れるかもわからない市街地で、さらにあの怪物を+αされた状況なのだ。何が起こるか、検討もつかない。
「どうする?最悪警備隊長も通信機と共にヴァルハラ超特急に乗り込んでるかもしれないぞ?」
「だとしたら……。いや、そんなことを考えるのはやめよう……。きっと帰ってくる。そしたらもう一度酒でも飲んでさ……」
ムライはしんみりとした声で、それだけ言う。
「そうだな……。きっとあの隊長のことだ。生きてるに違いない」
一体どこからその自信が出てくるのかはわからないが、それはともかくとして彼らは隊長の帰りを待つ…………必要もなかった。
「はぁ……はぁ……。お前ら、随分と心配してくれんじゃん」
入り口から『ヌッ!』と言う効果音がぴったりな動きで姿を現した数名の人物……いや、警備隊員服を着込んだ、彼ら。
「た、隊長!?一体どうやってここに……ッ!?」
ゼレットは驚愕の表情でリンガル大尉に尋ねる。
「いやいや……大変だったよ。伝記にでもしようかな」
リンガル大尉は服についた汚れを叩《はた》き、間髪入れずに真面目な表情で告げる。
「それよりも、だ。ついさっき西部方面地方軍基地との連絡が取れた。……よな?」
リンガル大尉は心配げな表情で背後に立つ部下の一人を見つめると、意を汲んだのか、ただ『はい』とだけ答える。
「おぉ!やったじゃないですか!それで……援軍は?」
まるで餌をねだる犬のような目でゼレットは尋ねる。
「喜べ。A-10G-4を4機ほどよこしてくれるとのことだ」
_西部方面地方軍基地
しばらく通信が途絶えていたドライ市警備隊との通信が復旧した瞬間にあちら側から『ドラゴンによる大規模市街地攻撃を受けている』との一報を受けた西部方面地方軍基地。
司令官らは半ばヤケクソになり『A-10G-4を1個小隊を投入しろ。あいつらもM1エイブラムスをスクラップに変える作業ばかり続けるのよりも実戦がいいだろ』との一言で援軍派遣を決定。以降滑走路上は大騒ぎとなり、航空要員達は大慌てでA-10G-4計4機の出撃準備を開始した。一分一秒の遅れは、ドライ市の消滅を記すかもしれないのだから。
と、言うことで出撃命令が発令された第2飛行分隊。この分隊に所属するA-10かと言って、血気盛んなA-10乗り達も同様である、と言うわけにもいかなかった。
「よっしゃお前らぁぁぁぁぁぁぁああっ!久々の実戦だぞぉぉぉぉおおっ!」
『ゥウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオッ!!!!』
彼ら計4名、通称『オラクル(神託。神のお告げという意味)』と呼ばれるA-10パイロット達は屈強な筋肉の塊とも呼べる己の肉体の上にパイロットスーツを着込み、小隊長に続け歓喜の声を上げる。
彼らが駆る『A-10』は陸軍から『対地の女神』などと呼ばれており、それに呼応するかのように様々な伝説を残している……らしい。
例をあげれば『胴体着陸でパイロットが無事』だとか、『エンジンが片方吹っ飛んだにもかかわらず基地に帰還した』、『湾岸戦争では140機ほどが出撃し、被撃墜はたったの数機』などがある。
機首に搭載されたGAU-8『アヴェンジャー』は、150年以上前に生まれた骨董品。だが、それから放たれる大質量攻撃は現在の第7世代主力戦車程度であれば難なく破壊できるほどの威力を持つ。
また戦闘空域に数時間は滞空できる能力等も保持し、陸軍からは熱狂的なファンによる絶大な信頼を得ており、採用から100年以上が経った現在、2度目(GAU-8の生産が打ち切られていたため)の量産が続けられるM2ブローニング重機も顔負けの古代兵器と化していた。
彼らは満足いくまで叫び散らすと、各々はそれぞれの愛機《破壊神》が駐機された格納庫《ハンガー》へと向かって行く。
その一人、第2飛行分隊所属、計4名の中でも特に小柄な身長のアンドリューは誰よりも一足早くハンガーへと向かう。
「あ、どうも。整備・兵装積載はどうなっていますか?」
アンドリューからの質問に、すでに一連の作業を終えたのか、ブルー一色の作業着を着た整備担当の代表者が『いつでも問題無しです』と、述べる。
もともとの性格は荒いアンドリューも、この時だけは彼ら整備員達に敬語で接す。整備員達の行う整備なしに、航空機は飛ぶことすらままならないのだから。
「そうですか。では行って来ます」
「そう言えば今回は久々の実戦……でしたね。しかも相手は得体も知れない相手……と言うよりも、ドラゴンだとか?」
代表者は心配げな口調でアンドリューに尋ねる。
「まぁそうですね……。ですが問題はないですよ。なにせ私が乗るのは空飛ぶ戦車ですから。こいつはまさに私の聖剣エクスカリバー……。ドラゴンだろうがなんだろうが、確実にうち仕留めてやりますよ」
「そしたら今度は基地でドラゴン肉を使ったBBQでもやりますか?」
「いいですね、それ!帰ったら一緒にやりましょう!」
「ですね!……っと、ついつい話してしまい申し訳無いです。戦闘用UAVも初実戦ということですし、我々としては内心不安な点もあることですが……戦果の報、期待しておきますよ!」
代表者はそう言い、格納庫の隅に駐機されるMQ-9にも似た(実際設計を簡素化したものである)戦闘用UAVを見つめる。
……そう。これがA-10G-4最大の特徴の一つ。『戦闘用UAV』という安直なネーミングセンスの代物ソレだ。詳しくは下の方に書いてあるが、この存在を一言で表すならば『A-10の守護者』だ。
「はい。それでは」
最後に握手を交わし、互いに敬礼し合うと、アンドリューは整備員達の見送りを背に一般的な灰色迷彩が施されたA-10へと乗り込む。
今回A-10の主翼下の計11箇所のハードポイントにはそれぞれ『クラスター爆弾x2』、『ナパーム爆弾x2』、『Mk.82(500ポンド爆弾)自由落下爆弾x4』。それと一般兵装であるECM(電子妨害装置)とAIM-132 ASRAAM2発が搭載されている。このような中途半端な装備にしたのはドラゴンの攻撃能力・防御能力が未知数なためである。
操縦席内に乗り込み、キャノピーを閉じた後小さくこう呟く。
「オッケー、ゴーグル」
『——————声帯認証…完了。顔面スキャン…完了。航空兵番号109867、アンドリューと断定』
幼女の声にも似た声でソレは、彼の耳元でそう語り掛ける。
彼が呼びかけた…否。起動したそれの名は、通称『ゴーグル』。このA-10G-4改装プログラムの一つとして組み込まれた新機能の一つであり、自立型AIだ。
某真っ白マシュマロロボットよろしく飛行中の退屈な時間は、『彼女(便宜上そう呼ばれている)』と会話することで、緊張感を発散させよう!』という才能ある若者達の、粋な計らいにより実現した。
『こんにちはパイロットさん!今日もよろしくね!』
さっきとは打って変わってたたき出されるこの破壊力あるセリフ。あぁもうたまらねぇぜ!!
実際彼女の存在は他軍でも認知されており、実際『あれ俺にもよこせ』だとか、『えっちだ』、『世界を彼女で埋め尽くそう。そして真の平和を……』だなんて声が各所から上がっている。
「そ、そうだな…今日も頼んだぞ」
『任せて任せて!それじゃ離陸準備、パパっと終わらせちゃうね!』
彼女の陽気な声の元、機内の機器が起動を開始。機体後部にある2基の民生ターボファンエンジンが、そしてそのさらに後方に駐機してあった4機の戦闘用UAVのエンジンも唸りを上げ、それぞれがアヒルの親子よろしく微速で徐々にハンガーより外へと移動。後ろからの整備士たちの熱い声援と滑走路要員の誘導の元、ゆっくりと離陸地点まで移動する。
滑走路上では作戦実施予定のキスカアイランド作戦第二段階に向け、今現在各部隊がそれぞれの作業を実施中であり、離陸地点に移動するまでに何度も旧式のハンヴィー等に乗って移動する整備兵その他諸々を見かける。もちろんその中には第二飛行分隊僚機の姿もあった。
そんな中アンドリュー(とゴーグル)、それと4機の戦闘用UAVは着々と離陸ポイントへと向かう。
—
——
—
離陸ポイントに到達し、第二飛行分隊は可動翼(フラップ、エルロン、ラダーetcの事)の点検を完了次第一番機から滑走路を滑走、離陸する。
そして次は、アンドリューの番だ。
「管制塔。こちらオラクル3。離陸許可を」
『こちら管制塔。オラクル3、了解した—————』
管制塔要員は一瞬喉を詰まらせると、ただ一言、『幸運を祈る』とだけ伝える。管制塔要員にも彼らの攻撃目標は伝えてある。
——曰く、ドラゴン。
彼らとしても信じたくは無いが、司令部は何度聞き直してもただ『空飛ぶトカゲっていう名のドラゴン。あとついでに火を噴くらしいから気をつけてね』としか答えないのだ。それ以外は……全くもって未知数。もしかすると、彼らでもやられるかもしれない。そんな不安が、管制塔要員の脳裏には浮かんでいた。
「……やって、やりますよ。なぁ?ゴーグル」
『はい!ドラゴンだろうがなんだろうが関係はないです!パパッと30ミリをぶっ放してミンチに変換する。それだけの簡単なお仕事ですから!』
さらっと物騒なことを言うのは日常茶飯事なので気にしないが……彼女の言うことは少なくとも嘘ではない。
もしこれが仮にファンタジー世界だとしても、さすがに我らがGAU-8アヴェンジャーの放つ劣化ウラン弾とタングステン弾の破片が少し当たっただけで人体の一部が吹っ飛ぶほどの無慈悲な攻撃を防げるとは到底思えないのだから。
「それじゃぁ……」
アンドリューはスロットルレバーを強く握る。
「行くか!」
『はい!』
力強くスロットルレバーを押し込む。後部の2機のエンジンが移動時とは比べ物にならないほどのエンジンを発し機体は徐々に加速。その後ろを戦闘用UAVは一糸乱れぬ動きで追従する。
ここに、大殺戮《パーティー》の火蓋が切って落とされた。
______
AIM-132 ASRAAM
AIM-9サイドワインダーの後継ミサイルとして開発されていたイギリス開発の赤外線誘導空対空ミサイル。倉庫で設計図とともに眠っていたのを兵技開発本部が発見。それをそのまま流用し今現在試験的に一部方面地方軍基地に配備されている。
A-10G-4
不動の地位を築いた通称『A-10神(らしい』。
30ミリガトリング砲であるGAU-8アヴェンジャーを機首に装備。7tを超えるペイロードを保持し、11箇所のハードポイントに各種武装を搭載可能(比較?として同時期に開発された旧ソ連の攻撃機、Su-25の最大搭載可能量は4400キロ。頭おかしい)。
初飛行が1972年のこのおじいちゃんはエルディアン連邦設立20周年を迎えた2099年半ば、周辺各国の制空戦闘機の技術的・性能的進歩、そして機体そのものの設計の古さにより退役を迫られていた。各地の元A-10乗り達が別れを惜しみ、またあるもの達はそれに反発する。
そんな中、天使(悪い意味で)よろしく舞い降りたのが定番、兵技開発本部であった(またお前か)。
彼らはみんな大好きA-10が退役間近であることを知ると、おそらくは冗談半分で*『A-10が敵制空権内で活動できるようにすればいいんでしょ?』と思ったのか、数週間も経たずに改造案を軍部に提出。その案の内容は単刀直入で、『戦闘用UAVをお好みの数引き連れることが可能な空中空母にしたYO!』と言うものだった。
そして結果が……これである(A-10G-4とその後ろを追従する4機の戦闘用UAVを横目に。
スペック
デフォルトで戦闘用UAVを引率できる点以外は外見上は同じ。一時期にはGAU-8をGAU-12や、レーザー兵器に換装する話が出ていたが大正義アヴェンジャーの威力に立ち向かうことは叶わなかった。
エンジンは環境汚染対策のトレンド、電気・ジェット混合駆動の5000馬力級エンジン2基に換装……予定だったが、そちらは開発が間に合わず渋々低燃費の5000馬力級民生ターボファンエンジンに換装された。
機器類も一新され、機内には自立型AIを搭載。パイロットの暇な時間を会話《サポート》?する。
なおアヴェンジャーには兵技開発部の粋な計らいにより(?)専用弾薬として、30ミリ弾仕様のMinengeschoss(薄殻弾頭を使った榴弾。第二次大戦時ドイツが使用した弾薬で、これを使用したMk108 30ミリ機関砲はB-17を数発で粉砕した)が開発された。なぜ作ったかは諸説あるが、一番有力な説に『対歩兵用に作った。それに母国の兵器だし……構わないでしょ?後悔も反省もしていない。むしろ誇っていいだろう(当時はドイツ系の人物が所長だった』というものがある。普通そこは榴弾でいいだろ。
一部Wikipediaより引用。
*この時の資料はなぜか焼却処分されてしまったため、詳細な彼らの動機は不明である。
戦闘用UAV
A-10神の守護者。武装は通常型”であれば”アルフォンス社製小型空対空ミサイル4基(ロッキードが現在制作中の小型地対地ミサイルの流用。主に空中待機・奇襲・偵察を仕掛ける軍用ドローンに使用。一応戦闘機相手にも使えないわけではない)、フレア十数発。それとは別に弾切れ時のみに作動する特攻攻撃機能付き。一般的には旧式のMQ-9の設計を簡素化・安価化した無人航空機を指す。
完全A-10護衛用UAVと開発されたが、どうやら兵技開発本部はさらなる悪用を目論んでいるようで……?
ゴーグル
自立型AI。何を思ったのか兵技開発本部はA-10に彼女を搭載、搭載機に乗り込んだパイロットを一撃で即死(違う意味で)させる心理兵器(?????)である。
通常は主に戦闘用UAVの操作を司るが、GSP衛星とのリンクが可能な状況で、なおかつ付近の地形情報を事前に読み込ませていれば彼女一人で離陸・飛行・攻撃・飛行・着陸のすべての行動を可能とする。
愛称は『アイちゃん』、『神の落とし子』、『世界平和の使者』その他etc。
アンサイ〇〇ペディア版のA-10の説明文を見て不覚にも笑ってしまった。
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