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【原作】始動
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「ぁ、…あぁあ゛っ。うぁ゛あぁあ゛…ッ」
声にならない声が喉を通って音となる。認めたくない。こんな現実を、認めてしまえば全て無意味になってしまう。どうか、こんな地獄に私を一人ぼっちにしないで…。
「シルちゃん、ちゃんと『ハンセイ』してる?」
私の嘆きなんてお構いなしにラクロスが投げかけた問いは、あまりにも無慈悲なものだった。たった今、彼らを虐殺した悪魔が何を言っているのだろう。反省とは、自分の行動を悔い改め改善することだ。それじゃぁ私の反省は、彼らと言葉を交わしたことか、救われたいと願ったことか…。それとも私が、生まれてきたことなのだろうか。
「ど、ぉして…? どぅして、彼らを殺したのっ…!」
「そんなのシルちゃんと結託して『悪いこと』しようとしたからに決まってるじゃん。俺らが忙しくて寂しがってるときにさぁ、ホンっトむかつく」
底冷えする声は、いつものラクロスとは思えない程怒りを秘めていた。まるで私がそれを悪いことだと理解しようとしない駄々っ子みたいに、それが当たり前のように。
「もぅ、ころさないって…。『殺さない』って言ったじゃない…っ」
唇を噛み締めて、二人を見上げる。その声に含まれるのは、怒り、悲しみ、失意、崩れんばかりの、…馬鹿みたいな期待だ。
「シルティナが先に約束を破ったんだよ? 俺はむやみに蝿(はえ)は殺さないけど、宝物に群がる害虫の駆除は当然だよね」
「…まだ、小さな子もいたわ」
「あぁ、蝿は繁殖が早いから。早めに殺しておいて正解だ」
「これ以上、何も言わないで…。貴方は何も変わってない。ずっと、変わらないままなのね」
人を【価値】とも認識していない。それが子供でも、大人でも、男でも、女でも、オルカの目に映るときには全て一色くたにされてしまう。出会ったときから、それは何も変わっていない。だから、これ以上その口であの子達を汚さないでほしい。
そうやって私が自嘲じみた乾いた笑いを見せると、被っていたフードとともに身につけていた仮面を剥ぎ取られる。強引な手付きに身体は強張り、その隙にオルカに抱えられていた。私の服にべったりとついた血がオルカの祭服にも移る。それを気にする素振りもなく、オルカはそれから一切の表情を変えずに転移陣を起動した。
次に私が目を開いたとき、目の前には暗い地下のような場所が広がっていた。あの『お仕置き部屋』とはまた違う、全く新しい部屋。続いてすぐにラクロスが現れる。自分の魔術陣でもないようで、小国が丸々一つ買えると噂の転移魔導具でも持っているのだろう。
オルカが私を抱く手つきはとても優しく、それでいてとても悍(おぞ)ましかった。だから、唐突にその手つきとは打って変わって私を床に叩きつけたとき、痛みより安堵感の方が勝ってしまった。やっと獣の捕食地帯から抜け出せたような、本能的な安堵感だった。
叩きつけられた衝撃で地面に横たわる私を、大の男二人で見下ろす。のろのろと少しでも上半身を起こそうとしたとき、私の身体が複数に渡って貫かれた。比喩じゃない。本当に、貫かれたのだ。
「い゛ッ、ア゛ァあぁ゛ぁあぁ…ッ!!! ィ゛ッっ、ぐあぁツ!」
叫んで痛みを逃そうにも、痛みの程度が今までの比じゃない。脳はショート寸前に、視界に入ったのは皮膚を破り身体を貫通する鉄くず。こんなものを、近くできる限り五本以上貫かれた。
「ィや…ッ゛。はーっ、は、ぐッ…。イ゛、ギッぁっ⁉!」
痛い。痛い痛い痛い痛いッ。貫かれた鉄くずは、私の自動回復を妨げる。それどころかその鉄くずごと組織の一部として無理やり回復させようとするものだから、私の中に異物が取り込まれる感覚に脳がバグった。
唐突に突き刺さった鉄くずは、きっと魔法の産物だ。鉄くず自体に神力を感じないから、おそらくはラクロスの仕業だろう。私が朧(おぼろ)げながら顔を上に向けると、私から一瞬たりとて視線を外さない悪魔が二人いる。
助けを叫ぼうなどという思考は奪われた。そもそもこの部屋は実質的に存在するものではない。あらゆる箇所からオルカの濃密な神力が溢れている。きっとこの部屋は神術で切り取った空間の一部だ。
つまり、この部屋に入る扉も出口もありはしない。私は彼らが満足するまで、もしかすると一生、この部屋を出られない。痛みに悲鳴よりも酷い嗚咽(おえつ)を漏らす私を見ても指一つ動かさない彼らと、私が死ぬまで…。
数十分もすると、流石に彼らも動きを見せた。叫び続けた疲労で失神した私を、さらに嬲(なぶ)る為に。身体を鉄くずで地面に縫い留められ、抵抗できない私に対し好き放題甚振る二人。
「ぅぅ゛う…っ、や゛ぁあ! も゛ぅ、やめっぃ゛あぁあ゛あぁッ゛!!!」
ラクロスは豪快に手足を魔法で火傷を負わし、オルカは静かにポキポキと指を一本ずつ折っていく。意識を覚醒させることが怖い。とても恐ろしい。失神することだけが唯一の逃げ道だった。それも、たった数秒の間だけ。
私の自動回復と、オルカの治癒で全てがやり直される。地獄とはまさに此処だ。これ以上のものはない。終わりはなく、時間の経過すら分からない。私を、完璧に壊す作業だけが行われていく…。
声にならない声が喉を通って音となる。認めたくない。こんな現実を、認めてしまえば全て無意味になってしまう。どうか、こんな地獄に私を一人ぼっちにしないで…。
「シルちゃん、ちゃんと『ハンセイ』してる?」
私の嘆きなんてお構いなしにラクロスが投げかけた問いは、あまりにも無慈悲なものだった。たった今、彼らを虐殺した悪魔が何を言っているのだろう。反省とは、自分の行動を悔い改め改善することだ。それじゃぁ私の反省は、彼らと言葉を交わしたことか、救われたいと願ったことか…。それとも私が、生まれてきたことなのだろうか。
「ど、ぉして…? どぅして、彼らを殺したのっ…!」
「そんなのシルちゃんと結託して『悪いこと』しようとしたからに決まってるじゃん。俺らが忙しくて寂しがってるときにさぁ、ホンっトむかつく」
底冷えする声は、いつものラクロスとは思えない程怒りを秘めていた。まるで私がそれを悪いことだと理解しようとしない駄々っ子みたいに、それが当たり前のように。
「もぅ、ころさないって…。『殺さない』って言ったじゃない…っ」
唇を噛み締めて、二人を見上げる。その声に含まれるのは、怒り、悲しみ、失意、崩れんばかりの、…馬鹿みたいな期待だ。
「シルティナが先に約束を破ったんだよ? 俺はむやみに蝿(はえ)は殺さないけど、宝物に群がる害虫の駆除は当然だよね」
「…まだ、小さな子もいたわ」
「あぁ、蝿は繁殖が早いから。早めに殺しておいて正解だ」
「これ以上、何も言わないで…。貴方は何も変わってない。ずっと、変わらないままなのね」
人を【価値】とも認識していない。それが子供でも、大人でも、男でも、女でも、オルカの目に映るときには全て一色くたにされてしまう。出会ったときから、それは何も変わっていない。だから、これ以上その口であの子達を汚さないでほしい。
そうやって私が自嘲じみた乾いた笑いを見せると、被っていたフードとともに身につけていた仮面を剥ぎ取られる。強引な手付きに身体は強張り、その隙にオルカに抱えられていた。私の服にべったりとついた血がオルカの祭服にも移る。それを気にする素振りもなく、オルカはそれから一切の表情を変えずに転移陣を起動した。
次に私が目を開いたとき、目の前には暗い地下のような場所が広がっていた。あの『お仕置き部屋』とはまた違う、全く新しい部屋。続いてすぐにラクロスが現れる。自分の魔術陣でもないようで、小国が丸々一つ買えると噂の転移魔導具でも持っているのだろう。
オルカが私を抱く手つきはとても優しく、それでいてとても悍(おぞ)ましかった。だから、唐突にその手つきとは打って変わって私を床に叩きつけたとき、痛みより安堵感の方が勝ってしまった。やっと獣の捕食地帯から抜け出せたような、本能的な安堵感だった。
叩きつけられた衝撃で地面に横たわる私を、大の男二人で見下ろす。のろのろと少しでも上半身を起こそうとしたとき、私の身体が複数に渡って貫かれた。比喩じゃない。本当に、貫かれたのだ。
「い゛ッ、ア゛ァあぁ゛ぁあぁ…ッ!!! ィ゛ッっ、ぐあぁツ!」
叫んで痛みを逃そうにも、痛みの程度が今までの比じゃない。脳はショート寸前に、視界に入ったのは皮膚を破り身体を貫通する鉄くず。こんなものを、近くできる限り五本以上貫かれた。
「ィや…ッ゛。はーっ、は、ぐッ…。イ゛、ギッぁっ⁉!」
痛い。痛い痛い痛い痛いッ。貫かれた鉄くずは、私の自動回復を妨げる。それどころかその鉄くずごと組織の一部として無理やり回復させようとするものだから、私の中に異物が取り込まれる感覚に脳がバグった。
唐突に突き刺さった鉄くずは、きっと魔法の産物だ。鉄くず自体に神力を感じないから、おそらくはラクロスの仕業だろう。私が朧(おぼろ)げながら顔を上に向けると、私から一瞬たりとて視線を外さない悪魔が二人いる。
助けを叫ぼうなどという思考は奪われた。そもそもこの部屋は実質的に存在するものではない。あらゆる箇所からオルカの濃密な神力が溢れている。きっとこの部屋は神術で切り取った空間の一部だ。
つまり、この部屋に入る扉も出口もありはしない。私は彼らが満足するまで、もしかすると一生、この部屋を出られない。痛みに悲鳴よりも酷い嗚咽(おえつ)を漏らす私を見ても指一つ動かさない彼らと、私が死ぬまで…。
数十分もすると、流石に彼らも動きを見せた。叫び続けた疲労で失神した私を、さらに嬲(なぶ)る為に。身体を鉄くずで地面に縫い留められ、抵抗できない私に対し好き放題甚振る二人。
「ぅぅ゛う…っ、や゛ぁあ! も゛ぅ、やめっぃ゛あぁあ゛あぁッ゛!!!」
ラクロスは豪快に手足を魔法で火傷を負わし、オルカは静かにポキポキと指を一本ずつ折っていく。意識を覚醒させることが怖い。とても恐ろしい。失神することだけが唯一の逃げ道だった。それも、たった数秒の間だけ。
私の自動回復と、オルカの治癒で全てがやり直される。地獄とはまさに此処だ。これ以上のものはない。終わりはなく、時間の経過すら分からない。私を、完璧に壊す作業だけが行われていく…。
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