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 お姉さま、と可愛い妹が囀る。

「レイチェル、ひとりなの? 顔色が悪いわ」

 いつも一緒にいる友人の姿は見えない。
 太陽のように明るい妹は人気者だ。

 美しい金糸の髪は緩く波打ち、深い海の青い瞳。花のように愛らしく、囀る小鳥を思わせる妹は庇護欲をそそる美少女だ。
 姉のシルヴィアは、凜と咲く白花のかんばせに、空を閉じ込めた蒼い瞳をした、怜悧な印象の美少女である。

 白い顔をさらに白くした妹に目を瞬かせた。

「お、お姉さま」

 青い瞳に涙を浮かべて、胸に飛び込んでくる。

「どうしたの? 何か嫌なことがあった?」

 出来る限り声を柔らかくして、小さな頭を撫でてやる。

「違うの、私、私……ッ!」

 感極まってしまったのか、声を上げずに涙を零す妹に困り果てた。
 いつも笑顔で、元気いっぱいなこの子が泣くだなんて、一体全体どういうことか。

「私、いじめられてるのっ」

 思わぬ告白に、目を見開いた。
 胸に顔をうずめ、ぽつりぽつりと小さな声で紡がれる。

 授業で使う箒を折られた。
 教科書を破かれた。
 ローブが切り裂かれていた。

 上げればキリがない。
 よく見れば、妹のローブは焦げ痕や継ぎ目がたくさんあった。

 あの、優しい陽だまりのような妹が、いじめられている?

「誰に……誰にいじめられているの? お姉ちゃんに言ってごらんなさい」

 涙の伝う頬に手を添えて、顔を上げさせる。
 赤く滲んだ目元が痛々しい。
 ずっとひとりで我慢をしていたのだろう。姉として、気づいてあげられなかったのがとても悔しい。

「それが、わからないの。誰がやってるのか、いつやられてるのか……だから、誰も信じられなくって、皆が怖くて仕方ないの……!」

 お姉さま、と泣きつく妹がいじらしい。

 レティシウス家――王から頂く冠位第一位に位置する大貴族の子女にこのような仕打ちをするだなんて、怖いもの知らずもいたものだ。
 奥歯を強く噛み締めて、妹を抱く腕に力がこもる。

 つぎはぎだらけのローブは、あとでわたしの代えをあげよう。やぶられたという教科書も、確か使っていたものを取っておいたはずだ。
 今は傷つき疲れた妹のケアに努めるとしよう。イジメの犯人探しは二の次だ。

 良くも悪くも、シルヴィアは身内にはとても優しく、心を砕いていた。

 だから、抱きついた妹の口元が笑みに歪んでいたのなんて気づかなかった。

 
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