上 下
13 / 46
原作・悪役令嬢、現在・傍観主希望

11

しおりを挟む
 
 夜遅く、寮の談話室で図鑑を読み耽るヴィオラ。
 就寝時間はとっくに過ぎており、談話室にはヴィオラひとりだけだ。少しでも眠気が来るように、とココアの入っていたまぐはとっくに空。

 いつもだったら、隣にいるユリアは早いうちに部屋へと引っ込んでしまった。

 すぴー、すぴー、と寝息を立てるアダムの頭を撫でながらページをめくる。
 図鑑は面白い。知らないことがたくさん書かれている。
アダム――宝石竜の好物は幼体のときは林檎で、成体になると鉱物になる。パートナーの愛情によって大きさは変化して、身体輝きは増していくのだという。
大切にすればするほど、宝石竜は大きく、より輝きを増して美しく成長するのだ。

「――……ヴィオラ」
「……ユリア、寝たんじゃなかったの?」

 カンテラと、暖炉の火で明るい談話室。影がひとつ増えた。
 寝巻き姿のユリアが、入り口に佇んでいる。

「どうしたの? 眠れないの?」
「それは、君に言いたいよ。もう三時間もしたら起きる時間じゃないか」

 溜め息を吐いて、呆れた声色に図鑑をぱたんと閉じた。
 今、彼と話していると怒鳴ってしまいそうな自分がいる。図書室での一件以来、感情を上手くコントロールができなかった。

「もう、寝るわ」
「待って」

 横を通り過ぎようとしたヴィオラの細い手首を掴む。
 こんなに、彼女の手首は細かったか。

「僕が悪かったから、やめてくれ」
「何をやめるっていうの?」
「その、表情だよ。赤の他人だ、みたいな」

 苦しげに、歪められた表情に眉を顰める。
 隣からいなくなったのは、ユリアなのに、どうして私が悪いみたいにならないといけない。

 眉を下げて、唇を噛むユリアは確かに整った顔立ちをしているが、それに騙されるヴィオラじゃない。
 自分の顔の良さをわかっていて利用するユリアだ。わかっていて、哀情を誘う表情をしているに違いない。

「ヴィオレティーナ!」

 どこか焦った、切羽詰った表情で肩を強く抱かれる。
 いくら胸を押しても、叩いてもびくともしない。

「はなしてっ、ちょっと、ユリアッ!」
「離したら、君は行ってしまうじゃないか……!」
「なんのことよっ、私、もう寝るわっ、だから、んぅ――っ!?」

 甘く、柔らかな唇を塞がれる。
 繋がった唇から、冷たい吐息が滑り込んでくる。

 目を見開き、抵抗の手を緩めたヴィオラをさらに強く掻き抱いて、捕食するように、食べられてしまう。

「んぅっ、ふっ」

 薄く開いた唇から、熱くぬめった舌先が滑り込んできて――がりっ、と。鋭い音がして、ユリアは離れた。

「っ、は、は、ぁ、」

 口元からボタボタと赤い液体が垂れる。
 舌を噛んだ張本人のヴィオラは、呆然とユリアを見た。

「私はっ、こんなの望んでいないわ……!」

 ぱしん、と頬を打った手のひらがじんじんと痛い。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...