魔拳のデイドリーマー

osho

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最終章 エピソード・オブ・デイドリーマーズ

第593話 最後の戦いへ向けて

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「なんともタイムリーだな……いや、向こうから情報持ってきてくれたのは、ラッキーというべきなんだろうけど」

「そうね。どうにかして地道に調べなきゃ、って思ってたところで……本命のネタが転がり込んできてくれたわけだし」

 母さん達『女楼蜘蛛』と交流するようになってしばら経った頃のこと。

 雑談の中で母さんから、思わぬことを聞かされた。

 今度、母さん達が受けることになったクエストについてだ。
 冒険者ギルドからの依頼だから、僕らは一緒には行けないけどね……っていう感じに当然なったんだけど……その行先が『グラドエル』という開拓村だというのだ。

 元の時代で、ちょうど今頃……母さん達が消息を絶った場所の名前がまさに『グラドエル』だった。
 つまり、これから母さん達が向かうその場所で……何かがあった、ということだ。

 まあ……『何か』も何も、十中八九『バイラス』がらみだろうけどね。

 ここ最近行動を共にしてみて思ったんだけど、やっぱり母さん達はめちゃくちゃ強い。
 船の中での戦いで、よく僕この人達相手にああまで戦えたなって思うくらいに強い。

 普通の冒険者なら……いや、普通どころか達人や天才でも、大人数が揃っていても、100%死を覚悟するような状況に追い込まれても、涼しい顔で生還して来るくらいの力を全員が持ってる。
 それこそ、個人の強さがどうこう言われることじゃないような……自然災害じみた事態が襲い掛かってきても、その『個人の強さ』でどうにかしてしまえるくらいの力がある。

 生みの親とその仲間達を、こんな風にバケモン扱いするのはちょっと心苦しいものの……そう思っても仕方ないくらいに、強さのレベルが違う。

 普通に起こるおよそどんな事象でも、この人達がどうにかなるイメージなんてできない。

 畏怖すらしつつのべた褒めはこのくらいにして……そんなわけで、母さん達がそんじょそこらのトラブル程度でどうにかなるなんていう風には思えないのだ。
 それこそ、何か『普通じゃない』どころじゃないイレギュラーでも襲い掛からない限りは……この人達は力づくで食い破ってみせるだろう。

 万が一それができないとしても、その時はその時で、きちんと撤退する判断もできるだろう。

 この6人が揃って行動して……撤退すら許されずに全滅するなんて、一体何が起こったのか……正直、想像もつかない。

「まあでも、それを言ったら敵の大将……『バイラス』だって、そういう人達だとわかっててなお行動に移したんだろうから……それ相応の備えはしてあったんだろうけどね」

 と、ザリーの言う通り……想像はできないにせよ、実際に未来でそうなってしまっている以上、それが起こったんだと考えるしかない。

 今回のその調査依頼は、母さん達『女楼蜘蛛』だけで動くことになったので、僕らは関わらない。
 なので、自由に動くことができる。

「『依頼』の内容はなんだっけ、ナナ?」

「ええと……開拓村『グラドエル』において、開拓従事者その他の関係者が次々に行方不明になる事件が多発しているそうです。調査に行った冒険者も、何も発見できないか、あるいは同じように行方不明になったそうで……。つい先日は、Aランクのチームすら消息を絶ってしまったとか」

「Aランクが行方不明……か。しかも、手掛かりの一つも残してくれずにとなると……普通の事件じゃないね、無関係の人から見ても」

「何かあったのだとしても、普通なら、痕跡なり何なり残るもの。それすらないとなると……抵抗すら許されずに消された、あるいは連れ去られた、ということになります」

「Aランクチームでそれなら……AAや、下手したらAAAでも危ないかもね。まあ、痕跡は残るかもしれないけど……まさかやられる前提で派遣するわけにもいかないか」

 ナナに続けて、ザリー、サクヤ、シェリーがそんな風に分析する。

 おおよそその通りなんだろうな……何かとんでもないことが起こっているんだってことは確かだとギルドも判断して……何が起こっても確実に解決できるように、最大戦力をぶつけることにしたんだろう。
 幸いというか、最近なぜか探索方面に力を入れて、精力的に活動してるようだから……受けてくれるだろう、と期待して。

 まあそっちについては、僕らとの交流も兼ねて頻度を上げてあちこち遊びに行ってたってだけなんだけど……

 そこまで考えたところで、ミュウと義姉さんが、

「で、どうするのですかミナトさん? これまでのやり方を踏襲するなら……少なくとも、表立って『女楼蜘蛛』に協力するわけではないんですよね?」

「でも……お義母さん達を助けるなら、どう頑張ったって、その危ない場面に飛び込まなきゃいけないんじゃない? 関わったら目立ちすぎるから関わらないってんじゃ、この時代に来た意味がないでしょ?」

「……いよいよヤバくなったら、目立つとか何とか言ってらんないし、介入するよ。ただ、ギリギリまでそれは避けたいのと……もう1つ、ちょっと気になってることがあるんだよね」

「? 気になってること、って?」

 首をかしげてそう聞き返してくるネリドラに、僕は……ちょっと言いづらそうな感じになってしまいつつ、言った。

「……もう今更なことではあるんだけど……僕ら、さ。超目立っちゃったじゃない? 本当なら、姿も何も極力隠して、母さん達にも関わらないように……それこそ、今回のコレみたく、痕跡すら極力残さずに立ち回って、『バイラス』由来のトラブルの種だけ摘出するつもりで」

「うん……まあね」

「で、でもそれはほら……別に誰が悪いってわけでもなかったじゃない! 徹頭徹尾運が悪かった感じで……」

「しいて言うなら……悪いのはクローナさんあたりだよね。強行突入してきたし……うん、少なくとも僕らは悪くないよ、ミナト君」

「ま、それはいいんだよもう……。問題はさ、僕らの存在が……既にバイラスに知られちゃってるんじゃないか、ってことなんだよ」

「「「!」」」

 『女楼蜘蛛』相手に大立ち回りした部分はともかく……彼女達が気になってる存在ってことで、ギルドやそのほかの関係各所にも、噂くらいは知られてしまってるはずだ。
 あの初日の遭遇にしたって、衆目の前で思いっきり母さん達に絡まれちゃって、大勢の冒険者や商人、その他の人達に見られちゃったわけだし。

 Sランクの冒険者チームが何やら気にかけている存在がいる、なんて情報は、商人やら何やらの利に敏い面々からしたら垂涎。詳細はないにせよ、概要くらいはあちこちに伝わっているはず。
 実際、『僕らの存在ってどのくらい知られてます?』ってそれとなくエレノアさんやテレサさんに聞いてみたら……わかる限りではそんな感じだって言ってた。

 この点も、僕らからしたら不本意ではあるんだけど……さっきも言ったように、今更そんなことを気にしてても仕方ない。

 で、だ。

 恐らくはバイラスも、外界の情報を完全にシャットアウトしてその『何か』を進めてるわけじゃないだろう。
 どんな手段か具体的にはパッとは浮かばないけど……ターゲットの動向を監視して把握しておかなきゃ、排除のしようもないわけだし……何かしらの方法で動きくらいは見ているはず。

 でもそうなれば……その周囲であれこれ噂になってる僕らのことについても、普通に気づいてしまうだろう。

「バイラスは、『ザ・デイドリーマー』を使って不死身を無効化して殺せる僕や母さんを危惧して、この時代にやってきた。まだ『ザ・デイドリーマー』に目覚めていない母さんを殺して、そのまま僕を生まれなくして……歴史を変えて、自分の敵を存在から消してしまうために」

「けど、どういうわけか知らないけど……お義母さんがいなくなってもあんたは消滅せず、私達の記憶もあんたによって……これもおそらくは『ザ・デイドリーマー』によってでしょうけど、戻ることになった。そして、こうしてあんたは過去にやってきた」

「過去改変によるリリンさん達の消滅を止めるために、ね。でも確かに……1万2千年も生きてるっていう話の、敵のボスのことだし……それすら予見していてもおかしくはないわね」

「予見していなくても、ミナト君達の噂を聞いた時点で気づくだろうね。ミナト君が消滅せず、それどころか母親を助けるために、自分を追いかけて過去にやってきた、って」

「そうなると……まずいですね。未来で見た歴史通りには、ここから先は動いてくれないかもしれません」

「ミナトを避けるために、バイラスが潜伏期間を伸ばしたり、手を変えてくるかもしれないってことか……今まだリリンさんは『ザ・デイドリーマー』を持ってないけど、ミナトは未来から来てるわけだから、持ってることはわかってるだろうしね」

「つまり、自分を殺せる存在だってこともわかってる。自分を始末して、母親を守りに来たんだろうってことも」

『その状況で馬鹿正直に動いてくれるわけもないか……こっちを警戒して、手を変え品を変え来られたらさすがにまずいわよね』

「それだけじゃなく、ただ単にもっと潜伏期間を伸ばすとか、持久戦に持ち込まれてもまずいと思います。我々もいつまでもこの時代にいることができるわけでもないですし……しかし、相手は1万年以上の時を生きてきた存在。数年、あるい数十年すら『必要な時間』として準備期間に費やす決断をしてもおかしくないですよ」

「……とても付き合ってらんないな」

 はぁ、とため息が口を突いて出る。

「……母さん達が『グラドエル』の調査に出るのっていつだっけ、ナナ?」

「明後日出発、移動に1~2日を費やし、到着後から調査を始めるという予定だそうです」

「ということは……母さん達が『グラドエル』に到着するのは4~5日後か……間に合うな」

「ミナト、もしかして……」

「ああ……その前にやろう、僕らで」

 もうすでに『グラドエルで人が消える』っていう事態が起こってるんだと、母さん達からの話で明らかになった。

 つまり、そこには既に何かある。具体的にそれが何なのかはわからないけど、『何か』はある。
 ……もしかしたら、バイラス達がそこにいて、何かの目的のために冒険者を拉致しているとか……あるいは、それすら母さん達をおびき寄せるための罠としてやってるのかもしれない。

 本当なら時間かけて慎重に調べたかったけど……そうも言ってられない。
 4~5日……時間があるようでない期間だ。
 母さん達がそこに到着してしまったら、それを察知したバイラスが何かアクションを起こしてしまうだろう……その前に何とかしないと。

「でもミナト、それならいっそ……お義母さん達と共闘しちゃえば? もう私達のことは、あんたの実力含めてばれてるんだし……その方が勝率も高いわよ」

「いや、それは難しいと思う。……母さんと僕までそろってその『グラドエル』に乗り込んだら……多分、バイラスの奴出てこない。どころか、逃げるよ」

「……そりゃそうよね……ミナト君と、『ザ・デイドリーマー』は使えないとはいえ、リリンさん達『女楼蜘蛛』全員なんて、ドリームチームだもの。普通に勝ち目無いわ」

「ここから逃げられてさらに別の場所に潜伏されたりしたら、それこそ探しようがない……つまりは、逃げられる前に仕留めないといけないわけだ」

「うん。だから……」

 そこで僕は、考えをまとめて皆に伝える。

「……母さん達が『グラドエル』に到着するより前に、強行突入で僕らがそこに乗り込んで中を調べる。そこにバイラスがいるにせよいないにせよ……何かしらあるはずだ。それらの痕跡を全部回収して調べて……いるならバイラスも仕留める。今度こそ」

「その後は?」

「後から来た母さんに……話せる分の事情を全部話して謝って、こっちで手に入れた成果を母さん達の成果としてギルドに報告してもらえばいい。それでクエスト達成だ。そんで……速やかに僕らはこの時代を後にする」

 やれやれ、結局というか何というか……強硬策になっちゃったな。
 思い通りにいかないもんだ、人生。

 ……まあ、動きの予想が難しいというか……常識通りに動いてくれない人ばかりが相手だったから、無理もないのかもしれないけども……
 
「なるほどね……わかった。で、出発はいつ?」

「一応、いつでも動けるように最低限の準備は常にしてあります」

「……相手が相手だ、最低限じゃなくて、できる限り万全にそろえた上で行こう。出発は明日の朝……早朝まだ暗いうちに一気に行く。けどその前に……ザリー、サクヤ、悪いけど今から先行して大至急その『グラドエル』に行ってくれない? 到着しても突入はせず、見張るだけでいい。……バイラス達が逃げ出してどっかに雲隠れしちゃわないように」

 母さん達が来ることを知って(いや知っているかどうかわからんけども)待ち構えて殺そうとするか……それとも僕らが来ることを警戒して逃げ出そうとするか、予想がつかない。

 ……グラドエルにどれだけの設備があるかによるな。

 単なる餌として場所を設定しているだけなら、いとも簡単に捨ててしまいかねない。しかし、
 逆に、何か相応の規模の、アジトないし研究所みたいなものが作られているなら……そう簡単に捨てることはできないはず。そこでの戦いになる可能性が高い。

(どっちでもいいけど、逃げられることだけは避けないと……)

 ギルドの方で異変を察知していたのなら、あそこにまだバイラス、あるいはその手掛かりはあると見ていい。
 その後に僕らの存在に気付いたとしても……一番直近での冒険者の失踪が起こった数日前には、まだそこにいたはず。……今もいてくれてるかどうかは、正直わからないんだけど……それはもうどうしようもない。

 可能な限り早く動いて、逃げられる前に仕留めないと。

「こんなことなら、さっさと強行突入でも何でもしておけばよかったか……いや、そのへんは今更考えても仕方ないよな。少なくとも前まではそれが最善だと思って動いてたんだし」

「そうね。……今できることをやりましょう。というわけでザリー、サクヤ、お願いできる?」

 このチームの隠密・偵察能力2トップにそう頼むと、2人とも力強くうなずいてくれた。

『待ってミナト、それなら私も一緒に行くよ。私なら色々なアイテムや『CPUM(人造モンスター)』も使えるから、潜伏にせよ調査にせよ役立つと思う』

「それなら私も、そういう任務の心得はあるよ」

 と、リュドネラとクロエが申し出てくれる。なるほど、リュドネラは『義体』を交換することで色々な役目を担えるし、クロエは元特殊部隊の所属だし……そのへんも得意か。
 ……そうだな、お願いしようか。

「わかった、頼むよ。でもいくのはリュドネラだけで。クロエは後から僕らも行くことを考えて……やっぱりこの船のオペレーターを任せたいし」

「わかった。じゃあリュドネラ……私の分もお願いね」

『了解! ネリドラ、すぐ準備するから、隠密行動用の義体の調整手伝って』

「わかった」

 そう言って部屋を後にするリュドネラとネリドラ。
 同じように、ザリーとサクヤも準備に向かう。彼らには、挨拶とかはいいから準備ができたら直ちに出立してくれって伝えた。

 ……さて、なんか唐突に事態が動き出しちゃった感じもあるけど……もともとそうするつもりでこの過去に来たんだ。その時が来たってだけのこと。

 その為に……僕も準備しよう。
 いくつかある、対バイラス用の『秘密兵器』も含めて……。

(今度こそ、逃がさん……! 絶対にここで息の根止めてやる……!)



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