魔拳のデイドリーマー

osho

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最終章 エピソード・オブ・デイドリーマーズ

第592話 『女楼蜘蛛』と『邪香猫』の交流

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 なんかいろいろあって(描写するのも疲れる……)結果的に過去の母さん達と一緒に行動することになった。

 チームに加わるとか、四六時中一緒にいるわけじゃないし、基本的にギルドがらみの依頼とかは手伝わないつもりだ。依頼関係の報告をするときとかに、僕らのことを一緒に報告されて、ギルドの資料とかに記録が残っちゃうのは困るし。
 彼女達が自主的に行う探索とか冒険、ダンジョン攻略のみについていって手伝う感じ。

 ただ、それでも正直……

「リリン、ミナト君、そっち行ったニャ」

「オッケー! ナイス、エレノア! ミナトそっちお願い、私はこっち!」

「了解! ザリー、砂嵐で誘導!」

「はいはい……っと!」

 山の中に突如出現した、巨大なイノシシのモンスター。しかも群れ。
 どんな理由でか知らないけど、異常繁殖して村1つ滅ぼしてしまったこの怪物達を退治しないと他の村まで危ない。

 特に依頼は出てなかった案件だけど――出す前に生き残り0で村が滅ぼされたから――行き当たりばったりで僕らが対処することになった。
 いやいや……軽い気持ちで来た山で、えらいのに出くわしたな。

 僕らを見た瞬間に『餌!』と思って突っ込んできた数匹を、エレノアさんとテーガンさんがあっという間にが切り刻んで倒した。
 野生動物らしく危機管理能力も高いらしい。勝てないと悟ってすぐさま逃げの一手を打ってきたけど……逃がしたらまた他が危ないので、きっちり始末する。

 イノシシは、視界がいきなりふさがれると驚いて突進を止めたり、反れて逃げていくことが多い……っていう習性があるので、それを利用する。

 逃げようとしていた方向にザリーが魔法で砂嵐の壁を作り、全く視界が効かなくなったことで。驚いた猪がこっちに向かってくる。

 それを逃がさず僕と母さんが飛び込んで……母さんは光の刃で、僕は普通に殴って仕留めていく。
 一撃一殺、迅速に。

 そこからさらに逃げ出そうとした残りのイノシシは、しかし砂の壁、エレノアさん達、僕達に囲まれて、逃げられる方向が限られていたので……簡単に待ち伏せされる。

 突進してきた一団に、アイリーンさんの重力魔法が襲い掛かる。空間がゆがんで暗く見えるほどの重力に捕まり、地面に縫い付けられたように動けなくなるイノシシ達。

 そこに、遠距離からナナの魔力弾による狙撃や、テレサさんのレーザーが襲い掛かって仕留めていく。
 これが普通の弓矢とか手裏剣とかなら、重力魔法に巻き込まれて墜落しちゃうわけだが……どっちも質量ってものがほぼないから、重力に左右されず、有効だ。

 それすら間一髪逃れて逃げようとした最後の1匹は、そこに回り込んで待ち構えていたセレナ義姉さんに、大盾で真っ向から受け止められて強制停止させられ……つんのめって動きが止まったところを、シェリーが剣を振り下ろして仕留めた。

 終わってみれば1分とかからずに、20匹近い数がいた巨大猪は全滅していた。



「いやー……さすがにびっくりしたね、あんなのが待ち構えてるとは」

「ギルドに報告が来てないのもうなずけるニャ……イノシシの嗅覚にあのパワー、馬力、スタミナ……襲われた村は、誰一人逃げられずに全滅させられたんだろうニャ」

「僕らが来なかったら、この先にあった村も、今日明日にはもう危なかったでしょうね」

 とまあ、母さん達との冒険の日々はこんな感じで……正直、楽しい。

 戦い方も結構うまくかみ合うし、(未来で交流深かったから)連携も取りやすい。
 向こうも、足りない部分を補い合って気持ちよく戦えていると思う。

 もちろん戦闘以外の部分でも、未開の地を探索したり、遺跡とか洞窟とかのダンジョンを調査したり……
 まるで、初心者の頃に戻ったみたいな気分で、母さん達と色々なところを巡った。

 母さん達も、今まで自分達だけじゃちょっと不安で探索できなさそうなところに行けて、助かったし楽しめてる、って言ってた。

「か……リリン達が行くのを躊躇するくらいに過酷な場所でもなかった気がしたけど?」

「そりゃまあ、戦力的な意味じゃそうそう不安はないけどさ……洞窟だの遺跡だのって、何があるかわからないじゃない。経年劣化でもろくなってて足場が崩れちゃったり、侵入者撃退用のトラップがあったりさ。そういうのに対応するって意味での不安よ」

「もちろん大体は私が調べて発見して見つけちゃえるけど、それでも100%じゃないしニャ。一回それで超大ピンチになったことあったよニャ……奥の奥まで入っちゃったところで、洞窟が崩れて……出られなくなって」

「あー、あったねーそんなこと。あんまし思い出したくないけど……。しかも洞窟内に魔力の通りを悪くする鉱物が含まれてたせいで、転移魔法が使えなくて……さすがにあの時はちょっと絶望的な気分になったっけ」

「下手にバカ力で壁ぶち抜いたり、大威力の魔法とか使ったりすると、洞窟が崩落して生き埋め待ったなしだから、地道に探索してどうにか脱出してさ……あの時エレノアが空気の匂いをかぎ取ってくれなかったらと思うと、今でもちょっと背筋が寒いわね」

「そんなことがあったんですね……リリンさん達でもピンチになるなんて……」

 意外そうな感じで言うエルクを見て、母さんは『やだなあ』とでもいうように手を振りながら、

「ただパワーがあるだけの個人なんてそんなもんよ。結局1人にできることなんて限られる……だから仲間ってもんが必要になるのよね。ほんと、私ってば皆に助けられっぱなしよ?」

「今回行った山も、過去にあちこちに鉱道が彫られてたらしくて、落盤しそうなそこかしこにあるって聞いてたから……割とトラウマ直結で怖かったのよね。ミナト君が、地中の探査までできるマジックアイテムを持ってて助かったわ。落盤の危険がある個所を避けて進めたから」

「しかしお主、本当に色々なアイテムを持っとるのう……どこから調達して来るんじゃ?」

「あーっと、それは……」

「てめえで作ってんだろ。言いづらそうにしなくてもわかるっての」

 と、割り込む感じでぶっきらぼうに言ってくる師匠だが……その目は、さっき僕が貸したマジックアイテムに釘付けになっている。
 今まさに話していた、地下探査に使ったアイテムだ。

 『ペンデュラム』というか……振り子型のアイテムで、重石の部分から超音波や赤外線、磁力線、魔力波などを放って周囲の構造をサーチし、立体的なマップを作ることができる。
 出来上がったマップは、使用者である僕の脳内に流れ込んでくるので、それをうちの伝家の宝刀『マジックサテライト』で全員に共有してやればマッピング完了、ってわけ。

「アイテムもそうだけど、そういう聞いたこともない魔法まで……君達ホントにそういうのどうやって仕入れたり、あるいは作ってるんだい?」

「そうよね……戦闘の腕も皆、一流と言っていいくらいのレベルだし……冒険者じゃなくても、傭兵とか……あるいは、研究者や技術者として、名が知れていてもよさそう……ううん、むしろ知れているべきレベルよね、本当に一体……」

「あーこらこらお嬢さん方、詮索はなしでお願いしますね?」

 と、軽い感じでザリーが静止してくれる。
 それを受けて、付き合い始める当初に決めた約束事……『過度な詮索はしない』というそれを思い出して、しぶしぶ引っ込む2人。……面白くはなさそうだけど。

「それはわかってるけどさ……別にボクらだって、何も悪意があってこういう質問してるわけでもないんだし……ちょっとは信頼して、少しくらい話してほしいと思うんだがね」

「仕方なかろう、アイリーン。こちとら感情を暴走させたり、仲間の救出を優先してとはいえ、相手の都合も何も考えずに喧嘩売った身じゃ。こうして少しでも心を開いてくれているだけ、十分に寛大というもんじゃろ。損害賠償やら何やらの話すらなかったんじゃからの」

「それはそうだけどさ……というか、その時に一番迷惑かけた奴が、今もこうして一番遠慮なく、いろいろ借りたり調べたりしてんのはどうなんだろうね?」

 そう言ってジト目になり、ペンデュラムをいじっている師匠を見る。
 が、師匠、まったく気にした様子なし。

 そんな中、ふと母さんが急に……

「でもさ……ミナトってさ、クローナに対してちょっと甘くない?」

「? 何で?」

「だってさ、あんだけ迷惑かけられたのにさくっと許しちゃうし……そのクローナの好奇心のせいでたびたび突っかかられてるのに、怒る気配もないじゃない? もちろん、私達に対してもおおらかで優しい部分はあるけど……クローナには特に懐が深いというか、甘い気がするのよ」

「あー、それは……まあ、同じ技術者だからかなあ? 見たこともないものに心惹かれる気持ちはよくわかるし、僕もそれで結構暴走したりするから、あんまり強く言えないのかも……」

 加えて、師匠は未来の世界じゃ……母さんに次いで一緒にいる時間が長くて、かなり距離も近かった人だから……無意識に心の距離というか、意識が近くなっちゃってるのかも。
 今もこうして、僕のアイテムとにらめっこしてる熱心な師匠を見てると……なんだか微笑ましくて好ましく思えなくもない。

 ……この時代の師匠は、今の僕よりも、知識とか技術水準がまだまだみたいで……刻み込まれてる術式を見て、解読しきれなくてぐぬぬ、とか言ってる。ちょっと悔しそう。
 ……ちょっと失礼な物言いなのは承知で……見た目だけなら全然若いし、なんだかかわいらしく思えてくるかも。

 とか思ってたら……

「ほら、また何か意味深な目でクローナのこと見てるし……ひょっとしてミナト、クローナのこと好きになっちゃったの?」

「はい? いや、さすがにそれは……何一点の母さん…………あ」

「? 『母さん』?」

 やっべ、気ィ抜いててつい母さんって呼んじゃった!

 しかし見ると、母さんはそう呼ばれた意味が分からないかのようにきょとんとしてた。
 他の仲間達……アイリーンさんとかも同じ。

 師匠は……興味を示してない。アイテムに夢中だ。

 そしたら少しして、母さんはけらけらとおかしそうに笑いだし、

「こらーちょっとミナト君、『母さん』はないでしょ『母さん』は……私君みたいにおっきな子供盛った覚えはないぞー?」

 茶化すようにそう返してきた。あ、よかった、別に何か深刻な受け止められ方はしなかったみたいだ。

 ……まあ、そりゃ普通に考えて、『未来から来た自分の息子かもしれない』なんて発想に思い至るはずもないしな……頭に思い浮かびもしないだろう。
 せいぜい、

「そういう呼び方していいのは、勉強教えてくれる学院の先生とか、面倒見てくれる家政婦さんとか、教会のシスターさんとかまででしょ。女友達をそんな風に間違えて呼んだら怒られるわよ? 私そんなに老けて見えるのかー、って」

 そんな風に勘違いして呼んじゃったんだな、と思う程度だろう。
 現代日本で言えば、学校の先生をお母さんって呼んじゃうアレ。

「けどそんな風に間違えるってことは……ミナト君のお母さんって、リリンに似てるのかニャ?」

「え、コレに? ……だとしたらミナト君、大変な幼少期過ごしたねえ……」

「ちょっとアイリーン、それどういう意味よ!?」

「そういう意味だよ」

 うん、大変でした。色々。

「何よもう……ミナトと違ってアイリーンってば、確信犯で失礼なんだから……私はまだ、そんな子供なんていないし、お母さんなんて年齢でもないってのにさー!」

「……いや、いるいないの事実はともかく、年齢はそうでもないだろ……君今年いくつだっけ?」

「? んー……200歳ちょっと超えたくらいだったと思うけど、ごめんちょっとパッと出てこない」

「十分歳いってるだろ……まあ、ボクが言えた義理じゃないし、そもそもボクら全員、既に結婚適齢期を迎えて、あるいは逃してる面々なわけだけどさ。趣味に青春全部ぶち込んじゃったせいで」

「ぐふっ」

 あ、テレサさん(最年長)がちょっとダメージ受けてる。
 でも、アイリーンさんに精彩を降す気配はない。……この頃は、以前と比べてそこまで過敏でも精彩が過激でもなかったとか? あるいは……アイリーンさんに悪意も何もないから?

 何かが刺さったように痛むらしい胸を抑えるテレサさんを無視して、アイリーンさんと母さんの言い争い?は続く。

「何よもう! 自分だって人のこと言えないくせに!」

「ボクは別に気にしてないし、一生独身でもいいかなって割り切ってるもんよ。これっていう相手が見つからなけりゃ、妥協する気もないし別にいいかってね。君もそうじゃないのかい?」

「私は……別に諦めてるとかそういうのは別にまだ別にないわよ。まだ別にほら、いい人が見つかってないからで……いいのよ別に、まだ200歳ちょっとだもん」

「『別に』って何回言うんだよテンパりすぎだろ。それに200歳は『まだ』とかつく年齢じゃないって……いくら長命種だとしてもさ」

「い・い・の! 私まだ心は18歳で永遠の乙女だから!」

「……君それ言ってて恥ずかしくないのかい……聞いてるボクはぼちぼち恥ずかしいんだけど。君18歳でもなければ乙女でもないだろう、やることやってるんだから」

「それは仕方ないでしょうが!? 私『夢魔族』なんだから……アレは食事みたいなもんよ! クローナの吸血と同じ! 相手合意の上!」

「こらこら、そのへんにしなさい。ミナト君、聞いてらんなくて気まずそうにしてるわよ」

「はっはっは、小童にはちと刺激が強かったかの?」

「……ノーコメントで」

 いや……ただ単に肉親のそういう話がちょっと聞いててアレだっただけです。


 ☆☆☆


 そのまましばらく話した後、リリン達とミナト達は『じゃあきょうはこのへんで』ということで別れ……そのままそれぞれの拠点へ戻っていった。

「いやー……今日も楽しかったー!」

「毎回言ってるニャ、それ」

「毎回楽しいんだもん、仕方ないじゃない。実際さあ、あんな風に、私達にちゃんとついて来れるどころか、一緒に戦える……ちゃんと『共闘』になるチームってそうそういないもんね」

「確かに……大体はわしらが相当手加減して進んでも『ついていけません』とか言ってリタイアしおるからの。邪な目的で近づいてきたやつらなんぞも、半日持たずに心折れておったな」

「そこ行くと、どれだけあのチームが稀有な存在なのかがわかるってもんだね……いっそ本当に組みたいとすら思っちゃうよ、冒険者としてさ。そしたら、もっと活動の幅が広がるだろうに」

「それについては一番最初に『無理』って言われてしまったし、仕方ないわね。理由はわからないけど……向こうも、私達のことは好意的に受け止めてくれてる風に思えるんだけどね……」

「むしろ、好意的過ぎて不自然なところすらあるがな……交流もまともにないうちから、心の距離が近かったしよ」

 数度、一緒に『冒険』してみて……ミナト達『邪香猫』に対しての、リリン達の偽らざる率直な評価がそれだった。
 メンバーたちの平均ではともかく、リーダーであるミナトの戦闘能力は明らかに自分達よりも上で……しかも、そのミナトが開発したと思しき数多のマジックアイテムにより、どんな状況にも対応可能な万能性を持つ。

 それらのアイテムや武器を使ってそれなりに長く、場数を踏んで戦ってきたからだろう。仲間達の動きも迷いなく手慣れたもので、連携も取れていて……戦いに際しては、単体での実力以上の成果を出せていた。
 冒険者チームとしては、理想的な仕上がりだというのが、全員の見解だった。

 ……冒険者ではない、と聞かされているのが信じられないくらいに。

(あんだけ気になる部分を見せられそいて『詮索はするな』ってのも無茶な話だよなあ……交流するようになってより一層思うようになったよ。あれだけの腕ならどんな形であれ、方々から引く手数多だろうに、何だってあんな風に隠れるように、関わらないように活動してんだろ……?)

 アイリーンが頭の中だけでうんうん言っていると、ため息交じりに隣でリリンが、

「ホント……一緒に冒険者やりたいなあ。その方が絶対楽しいのに……あと、そうしたらちゃんと交流する機会ももっと増えて、お互い分かり合って……そしたら、今日みたいに『お母さん』なんて失礼な呼び方されなくなると思うしさ!」

「リリン、それまだ気にしてたのニャ?」

「だってさー……なんか嫌じゃん、そんな風に思われて……いや、思ってないんだろうけど、咄嗟に間違えるくらいには多少そう言う認識あるってことでしょ? ミナトのお母さんって人がどんな人なのかは知らないし、その人を悪く言うつもりはないけどさ」

「ふーん……ひょっとして、もっと違う風な呼び方されたいのかい?」

「? どういう意味よ、アイリーン」

「別に~♪」

「あらあら……ふふっ」

「……? テレサまで……2人とも、変なの」

 ニヤニヤ笑う2人の心のうちを、きょとんとしてわかっていない様子のリリン。

 一方、その反対側では、残り3人が、

「それよかクローナ……まーた君ミナト君にあれこれ詰め寄って……ミナト君困ってたニャ? 色々気になる技術があって我慢できないのはわかるけど、ちょっとは自重するニャよ……もとはと言えば、クローナが……」

「わーってる、わーってる。その辺はわきまえてるから安心しろって……限度超えて嫌がられねえ範囲で無茶言ってるだけだから心配すんな」

「無茶言ってるの否定しないのニャ……」

「自重の範囲が狭いのう……しかし、こっちはこっちでご執心じゃな。まあ、『技術者』の同類ということでなんじゃろうが……ああも足しげく通って……まるで恋する乙女じゃな、はっはっは」

 それを聞いて……よほどおかしかったのか、笑い声と共にアイリーンからのツッコミが届いた。

「あっはっはっは……恋する乙女って……おいおいテーガンそれはないだろ。クローナだぜ? むしろそういうのからもっとも縁遠い生き物だよこいつみたいなのは」

「こらこらアイリーン、そんな風に言うのはかわいそうよ……いくらクローナが、恋愛感情を全部捨てて知的好奇心に変換してるような脳内構造をしてるからって、一応クローナだって生き物としての区分は女性なんだから。失礼よ」

「いや、今のお主の方が10倍失礼なこと言っとると思うぞ……」

「そして、こんだけ言われて全く反応しないし気にもかけてないクローナも大概よね……ホントにテレサが言った通りの精神構造してるんじゃないかしらって思うわ」

「うっせーな全部聞こえてんだよ一応。集中して分析できねーから用がねーなら話しかけんな」

「あ、聞いてた」

「けど返事がコレだもんニャ……全く、こんなのにご執心されて、ミナト君もご愁傷様というか……まあでも、やはりというか色恋の欠片もなさそうだニャ、こっちも」

「……そうかしら?」

 やれやれ、といった様子で首を横に振るエレノアの言い分に……テレサは何かが気になったのか、首をかしげてクローナの、真剣にものを考えている顔を見続けていた。

 当のクローナは、やはりそんな視線も、言われていることにも意識は向けておらず……ひたすらさっきまで見ていて覚えたマジックアイテムの構造を脳内で思い返して分析し、それでもわからなかった部分を、次回会った時にミナトに聞くのだと心に決めて……

「悪り! ちょっと今のうちにあいつに聞きたいことできたからちょっと行って来―――」

「ほら来た!」

「確保!」

「だからいきなり凸しようとすんのやめるニャ!」

「放せ! 今いい感じのこと思いつけたんだよ! 相談して検証させろ、忘れちまうだろ!」

「メモしておいて後で聞けそんなもん! これ以上あ奴らに迷惑かけるでないわ!」

 我慢できずにミナトを追いかけようとして止められていた。

 それを見て、『これじゃどっちにしろ迷惑かけるだけね』とテレサはため息をつきつつ、自分もクローナを止めるのに加わるのだった。





 そして、クローナを(2、3発殴って)どうにか大人しくさせたところで、
 ふと、エレノアが思い出したように言った。

「そういえばアイリーン。今日の朝、ギルドに昨日までのクエストの報告した時に……何か効かされたって言ってたニャ? あれまだ聞いてないけど?」

「ああ、ごめん。朝時間なくて後回しにしてて、そのまま忘れちゃってたわ……ちょっと気になる話を聞いてね。もしかしたら、近々指名で依頼を出すかも、って匂わされたんだ」

「へー……指名で? 私らに?」

「自画自賛じゃが、わしらに依頼するレベルの案件、ということかの? どんな話じゃ?」

「なんか、冒険者とか傭兵が次々行方不明になったり、よくわからない魔物に襲われる事件が頻発してるんだってさ。今開発に力を注いでる開拓村での出来事らしいんだけど、派遣した冒険者達も次々に失敗してるから、どうにか解決してほしいって……ええと、名前は確か―――」





「―――グラドエル」



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