魔拳のデイドリーマー

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最終章 エピソード・オブ・デイドリーマーズ

第587話 ミナトVSクローナ&エレノア

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 クローナが振り下ろしてくるのは、ミナトにとっては見慣れた武器。
 鎌・斧・槍・メイス・狼牙棒が一つに合体して作られた『殺傷力の権化』と彼が称した武器であり……それを何の遠慮もなく、ミナトの脳天めがけて振り下ろしてくる。

 普通の人間であれば、その一撃で真っ二つ……どころか、粉々に爆散してもおかしくないほどの威力で打ち付けられたそれを、ミナトはあっさりと片腕でガードしつつ、攻撃後の隙を突くような動きでその懐に潜り込む。
 自分のみぞおちめがけて肘が突き出されてくるのを見て、クローナはそれを手で受け止めようとするが、その肘が帯電しているのを見て『ちっ』と舌打ちし、回避に移る。
 電圧にもよるが、馬鹿正直に受け止めるのは危険だと判断したらしい。

 今まさに降りぬいたばかりの武器を起点に、ミナトの方に飛び込むように宙返りして、そのまま彼を飛び越していく。

 が、今まで突き進んでいた方向から、慣性も何も無視した動きで急激に方向転換し、ミナトの肘は自分を追いかけて来て……逆に空中で無防備になってしまっていた背中に命中した。

「んがっ!? っ……痛ェなこん畜生!」

 一瞬顔を歪めたものの、次の瞬間にはその顔がまた歓喜にゆがむ。

「何だァ今の!? 無理やり力業で方向転換したわけじゃねえよな……一瞬だけだが、妙な魔力を感じたぜ!?」

「鋭すぎて怖いやっぱり……説明してる暇ないんでノーコメントで!」

 クローナの言うとおりであり、今のミナトの攻撃は、帯電した腕、ないし肘が行く先に……目には見えないが電気の通り道をレールのように伸ばし、そこに沿うように走らせるもの。
 落雷などの『帰還電撃』のメカニズムを応用したもので、これを使うことで、減速することなく急な方向転換を可能にする技だった。

 それゆえに威力も全くと言っていいほど落ちないのだが、それを食らってなお、悶絶どころか怯むことすらろくにせずしゃべり続けたクローナの頑丈さに、ミナトは地味に戦慄する。

(とっさに前に出てちょっと威力流されたな……にしても、『吸血鬼族』だから不死身じみた肉体性能持ってんのは知ってたけど、ホントこれ……って今度はこっちか!)

 弾かれるようにクローナといったん距離を取った直後、背後から猛スピードで、しかもフェイントまで織り交ぜた動きで襲い掛かってくるエレノア。
 その加速も威力に乗せて、自分の首筋に手刀を振りぬいてくる。

 これも普通の人間であれば、首と胴体が泣き別れになる威力だが……エレノアの狙いとしては、あくまでミナトの気絶。
 ただ、わずかではあるが戦ってみた感触からして、ミナトの肉体強度であれば、このくらいしないと効果はない……どころか、怯ませることもできないと判断してだった。

 実際それは正しいわけだが、しいて言うなら、それでもまだ見通しが甘いとすら言えた。

 ミナトはその手刀を、わずかに体をかがめて……低くした体勢から頭突きを繰り出して迎撃して見せた。

 その対応に『うわぁ』とエレノアが呆れ半分の関心を見せると同時に、手を引っ込めて飛びのこうとするが……その瞬間、ミナトの髪がまるで職種のように伸びて手に絡みついているのを見てぎょっとする。

 そのままミナトは、首と背骨をしならせるように使って……髪でエレノアを投げ飛ばす。
 そして、反対側からとびかかってきたクローナに激突させ、防御と攻撃を同時にやってのけた。

「痛ったたた……ごめんクローナ」

「……おい、本格的にあのガキは一体何なんだ? あんな真似、魔物だってできるような奴いねえぞ……実はあの髪の毛もマジックアイテムで、ヅラかぶってるとかそういうアレか!?」

「誰がヅラですか!? 僕は若ハゲなんかじゃありませんよ失礼な!」

「そう言いながら今度はお前それなにスタンバイしてんだよ」

「髪が!? 髪がウニみたいに!?」

 文字通り髪を『逆立て』たミナトは、その1本1本の先端に魔力を込めて……次の瞬間、無数の魔力の針を飛ばして攻撃する。
 数えるのも不可能な数の針が、まっすぐに、あるいは大きく曲線を描いて――まるで誘導弾――向かってくる光景にさすがに驚いた2人。

 しかしすぐに冷静さを取り戻し、クローナが障壁でそれを防ぐ。
 サイズが小さいからか、1本1本の威力は全く大したものではなく、受け止めた感触から『これなら食らっても大丈夫だったか』とクローナは思った。

 が、障壁で受け止めた個所から『シュウゥゥ……』と音を立てて煙が上がっているのを見て、やはり受けなくて正解だったかと思い直した。

「どうして毒あんだよ、お前……絶対人間じゃねえだろ」

 横でそのつぶやきを聞いていたエレノアも『えぇ……』とさすがに引いていたが、障壁が解除された直後に前に出る。

 そして今度は、両手を獣人の能力で、肉球のついた猫の手に変化させ……それを勢い良く振りぬいて風の刃を放つ。

 直撃すれば、巨岩をも輪切りにできてしまう威力だが、ミナトはそれをなんと……全てキャッチした。
 不可視の……というか、そもそも実体がないのだから触れることなどできないし、物理的に扱うことなどできるはずもないそれを、普通に指でつまむようにして全て受け止める。

 そして、さすがに唖然とする2人めがけて、投げナイフよろしく投げ返してきた。

 色々な意味でありえない、とても考えられない光景に驚きつつも、どうにかそれを回避しながら……

「ホントに何なのニャ君!? カマイタチを投げ返すなんて聞いたことない! うちのリーダーより非常識だニャ!」

「それはさすがに看過できないです! 取り消せ!」

「おぅ、何でお前までそんな必死だ? お前の中でうちのリーダーに対する認識……っつーかだからお前リリンについて何を知ってんだよ、吐けや!」

 カマイタチをかわしながらまたも接近してきたクローナは、手に持っていた武器を『収納』して消し、代わりにさっきまでも持っていた2本の短剣を取り出すと、刃に魔力をまとわせて斬りつけてきた。

 先程までと同じように手甲で受け止め、あるいはさばこうとするミナトだが、その刃から漂ってくる気配に危険なものを感じ、回避する。
 それが降りぬかれた瞬間、まるで渦潮のように魔力の刃が発生して、攻撃したよりもはるかに広い範囲を薙ぎ払ったのを見て、その判断が正しかったことを知った。

(短剣なのに範囲攻撃になるのかあの武器……僕も見たことない。師匠あんなのも持ってたのか。そしてもう片方は……見た目も違うし、全然別な能力だと見るべきだな)

「考え事か? 随分と余裕だなおい」

「余裕じゃないから色々必死で考えてるんですよっ!」

 その、もう片方の手に持った短剣の切っ先をミナトに向けるクローナ。
 すると次の瞬間、ピュン! と、切っ先からレーザーが発射されてミナトの足に命中した。

「熱っっっづァ!? あっぶな!? なにそれ光線銃!?」

「おいおい……今の、そこらの城壁ならぶち抜くくらいの威力あんだぞ? なんで貫通しねえで……ってか火傷すら負ってなくねえか? どんだけ堅ぇんだよお前」

 不意を突かれたに等しいとはいえ、ミナトでもギリギリで回避できなかったほどの速さに加え、そんな威力まで告げられては戦慄せざるを得ない。

 しかし、何か制約ないし条件があるのか、それを連射はしてこなかった。

 それでも油断はせずに、ミナトは今のレーザーを警戒しつつクローナに接近し、横から飛んできたエレノアの蹴りをいなしながらその懐に飛び込んでいく。

 クローナは、右手の渦潮の刃のダガーはそのままに、左手に持っていたレーザーのダガーを消した。
 代わりに盾を取り出し、ミナトに向かって叩きつけるように突き出してくる。

 が、ふと嫌な予感がしたミナトは、その盾を横に弾いて飛ばしつつ、自分も横に飛びのいて避けると……一瞬前まで自分がいたところを、さっきのレーザーが通り過ぎていった。

「性格悪っ!」

「馬鹿野郎、これが戦術ってもんだ!」

 一度ダガーを消すことで『もう使えない』と見せかけ、防御するためと見せかけて盾を出し……それを障害物にして手元を隠す。
 そしてその手に再度、先程のレーザーのダガーを出して、盾を隠れ蓑に発射。盾ごと貫通させて攻撃し、命中させる……という作戦だったようだ。

 盾の方は、見た目の割にそこまでの品物でもなかったらしい。ミナトがはじいた拳の一撃だけで砕け、残骸になってそのあたりに散らばった。

 付け加えて言うならば、そうして避けられるところまでクローナの……いや、クローナ『達』の想定の範囲内であったらしく、飛びのいた先に一瞬でエレノアが回り込んできて、ミナトの足を払ってぐらつかせる。
 そして倒れこむ、あるいは受け身を取って体勢を立て直すなりする前に、その腕の片方をからめとって一瞬で関節を極め、床にたたきつけた。

「はい、動くニャ!」

「え、動けって?」

「え、あ、いや違……今の『ニャ』はそういうアレじゃなくて……ええい、動かないで! 関節完全に取ったから、動いたら腕折るよ!」

「……わかりました、動かなければいいんですね?」

「……待って、今の君、何かトンチ思いついたうちのリーダーと同じ匂いがにゃああぁああ!?」

 放電。
 先程クローナに放とうとした肘鉄よりもさらに強力な電撃が、腕を通してエレノアに流れ込む。

 しかし、それでも気絶はせずに……やむを得ず、腕を本当に折ってでも無力化しようとしたエレノアだったが……信じがたいことに、言った通りがっちりと関節を極めているにも関わらず、腕力ないし筋力だけでそれに抵抗され、それができない。
 フィジカルでは『女楼蜘蛛』の中でも、テーガンに次いで高いエレノアの力をもってしても、体勢的には圧倒的になはずのこの状態から、折れない。

 そうして手間取っている間に電撃でダメージが蓄積してしまった上……もう1つ、エレノアは気づいていないが、のっぴきならないことになってしまっていた。

 折るのはあきらめて腕を放し、距離を取ったエレノア。

 しかし、起き上がったミナトを、クローナと並んで睨みつけるようにして様子を見ていた彼女は……ふいに、がくりと膝から崩れ落ちた。

 突然言うことを聞かなくなった体に、『え?』と困惑の表情を浮かべる。

「? おい、どうしたエレノア? そんなに電撃きつかったか?」

「わ、わかんニャい……ダメージは魔力で防御ひて、大半どうにか防いら、はずニャのに……」

 そうつぶやくように言うエレノアの手(肉球モード)は小刻みに震え、微妙に呂律も回っていない。心なしか目の焦点もぶれているように見えた。
 さらには、関係あるのかどうかわからないが、冷や汗のようなものもたらたらとかいている様子である。

 それらを観察して素早くクローナは結論を出した。

(……毒か。そういや使うっけな)

 都合よく密着しているエレノアに対し、電撃を通して『毒魔力』を流し込んであった。
 非致死性のもので、体を一時的にマヒさせる効能しかないが……流し込んだ量は巨大な龍も数秒で動けなくなって墜落するレベル。

 しかも都合がいいことに『毒魔力』は魔力であるがゆえに狙った効能のみを引き起こすことが容易なので……例えば通常の睡眠薬などのように、オーバードーズ……つまりは過剰投与の結果死に至る、などということも起こしにくい。
 そのため、ミナトは遠慮なく大量の毒をエレノアに流し込んでいた。

 さすがにその量を流し込めば、いくら『女楼蜘蛛』の怪物達といえどどうにかなるか、と思ったミナトだったが、どうやら賭けには勝った様子だった。

 ほどなくして、膝立ちでいることすら困難になったのか、うつぶせに倒れ伏してしまうエレノア。

 それを横目で見て……クローナは一気に警レベルを最大まで引き上げる。

「ごめん、クローナ……私、しばらく動けニャい……」

「……寝てろ。後は俺がやる」

 両手に持った武器を消すクローナ。
 そして代わりに取り出したのは……血のように真っ赤な刃を持つ、刀だった。

 ミナトにとっても見たことのない武器だった。
 しかし……間違いなく、今まで見た中で……それこそ、未来のミナトが『師匠』としてのクローナと接していた中ですら、一度も見たことがないし、聞いたこともない。

「……今更だけどよ。勝手にこの船に入ってきたことは謝る。あれこれ詮索したり、あわよくばみたいな形で色々持ち逃げとか企んでたことも謝るし白状する」

 けどな、と続ける。

「こんな適当で横暴で傲慢で……その他諸々欠点だらけのバカだって自認してる俺でもよ、大切にしたい仲間って奴はいんだ。そいつらを守るためなら、誰にだって、何にだって喧嘩売るし、ぶっ壊す。うちのリーダーのモットーで、うちのチームの基本方針なんだわ」

(……よく知ってます、師匠)

「だからよ、諸々棚上げしてすまねえけど……本気で行く。死んだらごめんな」

「……わかりました。僕も……これで決めます」

 クローナが膨大な魔力を刃に込めて構える。
 深紅の刃が、さらにおどろおどろしい、しかしどこか神々しさも感じられるような、真っ赤な光を放ち……周囲を赤く染めていく。

 それに対するように、ミナトの周囲に黒紫色の光が渦巻き始め、その手に収束していく。
 さらに手には、黒と金の大型のガントレットが装着され……周囲の空間を塗り潰すように広がっていく。

 2つの光源から広がる光は、決して狭くない部屋全体にまでそれぞれ広がり……そのちょうど中間では、迸る魔力がぶつかり合ってバチバチと弾けるような音を、小さくだが立てていた。

 そして次の瞬間、両者がぶつかり合い……何の小細工も何もなしに、刀と拳を振りぬいて激突させる。
 まるで、赤と黒の2つの流星が正面衝突したようなすさまじい輝きが部屋の中を見たし……

 ……一瞬後、


「……ちくしょう……っ!」


 半ばから折れた深紅の刃が、音を立てて床に落ちた。

 深々と腹に漆黒の拳が突き刺さり、その体を貫く衝撃で、全ての力と意識を刈り取られた……持ち主と共に。


 ☆☆☆


(か……勝っ、た……)

 足元で、師匠が(この時代の、ね)気絶している。
 狸寝入り……でもなさそうだ。ちゃんと気を失ってる。

 それなりに本気で殴ったから、いくらなんでもしばらくは目覚めないと思うけど……早めに拘束しちゃわないと。ありったけの拘束具使って動きも魔力も封じないと、安心も何もできないな。

 ああもちろん、師匠だけじゃなくてエレノアさんも……

「……すごいニャ、君。私とクローナを同時に相手にして勝っちゃうなんて」

 どこか力の抜けたような声で……いや実際に体の力は抜けてるんだけど……エレノアさんが、倒れたままそう話しかけてくる。
 どうにか頭の向きだけ変えたのか、倒れた時のままの姿勢で、顔だけこっちに向けられていた。……ちょっと姿勢に無理があって、首痛そうだけど。

「負けたよ、負け。降参だニャ。こんな強い人いるんだねえ……。確か、どっかの国の格言で……井の中の蛙、だったかニャ。私達もまだまだかぁ……」

 はぁ、とため息をついて、

「クローナの言った通り、理由はどうあれ、主に非があるのはこっちだしね……煮るなり焼くなり好きにして。……けどできれば、私達だけにしてほしいニャ。……リリン達には、お礼参りとかで手を出すのはやめてもらえれば……その分、私達には何してもいいからさ」

「そんな悲痛なお願いしないでください……こっちの心が痛い。言われなくても、あっちから何もしてこないんなら、僕の方からも何も物騒なことはしませんよ。あと、別にエレノアさんにも何かこう……ひどいことしようとかいうのはないですから。まあ、拘束はさせてもらいますけど」

「……ホントに?」

「ホントに」

「よ、よかったぁ……それ聞いて安心したニャ。いや、ぶっちゃけその……こんなことしといて今更図々しいとかアレな感じなんだけど、正直これからどうなるんだろうって怖くてさ……ニャハハハ……ああでも、拘束はされちゃうんだっけ?」

「ええ、さすがにこのまま返すのはちょっと……いやでもホントどうしよう。できれば僕らのこととか黙っててほしいけど……それさえ約束してもらえればむしろこのまま逃がしちゃってもいいんですけどね。でも、口で言ってもらったところで信用できるはずもないし……かといっていつまでも幽閉しとくわけにもいかないし……やっぱ薬とか魔法で記憶操作必要かなあ……必要だよなあ……効くかなあ、この人達に……?」

「おーい、独り言が怖いよー。っていうか、そんな薬だのなんだの、さらっと怖いこと言うね君……まるでクローナみたいだニャ。結構似てる気がする」

「………………」

「……え、何でちょっと嬉しそうなの?」

 べ、別に尊敬する師匠と似てるとか言われて嬉しくなってちょっとニヤニヤしたりとかしてないんだからねっ!

「……失礼を承知で言うけど、やっぱ君ちょっと変だよね」

「好きに言ってください。ハァ……それよりも、記憶操作するにしろ他の方法取るにしろ、さっさとやっちゃわないとなあ……多分あんまり時間ないし」

「……? 何か用事でもあるの? それなら、忙しい時に襲撃してきちゃってごめんニャ」

「いや、用事って言うか、心配事が……」

 ここにいる2人じゃなくて、残り4人の方にね……。


 ―――みしっ

 

 師匠とエレノアさんはどうにか無力化できたけど……残り4人、特に母さんがどう動くか不安なんだよ。
 恐らくこの2人、口ぶりからして僕らに関する調査とかに出てたんだと思うけど……その最中に2人が行方不明になったなんてことになったら、母さん達の疑いの目は100%僕らに向くはず。

 ついでに言うなら、この2人に何かあったとなれば、当然ブチ切れるはず。


 ―――みしみしっ


 母さんは家族思いの仲間思いだから、親しい誰かに何かあった、あるいは手を出されそうになったって時点で激怒する。
 僕もそうだし、そう教えられて育ったからよく知ってる。

 ひどい目にあったっていうことに対してもそうだし……こっちでこれからやろうとしてる、何らかの記憶封印系のあれこれに関してもそうだろう。
 体に傷が残ってないとしても、十分に逆鱗モノだ。

 だから本音を言えば、そういうのについてもやりたくはないんだよね。
 もちろん、僕自身の感情として、師匠やエレノアさんに手出しなんてしたくないもん。


 ―――みしみしみしっ


 というか、こんな感じで2人が多少なりとも傷ついて倒れてるって時点で多分アウトだしね……それこそ、こんな場面見られてもしようもんなら、一瞬でメーターぶっちぎるレベルで怒ること間違いなし。

 だからなるべく早く記憶処理なり何なり済ませて、迅速にこの2人に全てを忘れてもらって、母さん達の元に帰し『たかった』んだよなあ……!



 ―――ぱ り ん



「こうなる前にっ!!」


 ―――ドゴォン!!


 一瞬の差だった。

 僕がとっさに飛びのいた瞬間、今まで僕がいた場所に……金色の魔力光でできた光の剣が突き刺さっていた。
 その主は、ゆっくりと立ち上がりつつその剣を床から抜いて……じろりとした目つきで僕をにらんでくる。

「クローナが返ってくるのを待ってたら、本人の代わりに救難信号なんてもんが届いたもんだから……何かと思ってきてみたら、こんなことになってるなんてね」

 ……察するに、その『救難信号』を追っかけて……この人は恐らく、師匠とエレノアさんがこの船に転移した場所までたどり着いたんだろう。
 そして、そこに残っていた痕跡から術式を解析し、ルートをこじ開けて無理やり転移してきた。

 そういえば、『アトランティス』の時に、同じようなことやってのけてたな。

 いやでも、ここ、プロテクトかけてある上にさらに『隔離結界』張ってる空間なんだけど……それすらこじ開けて入ってくるって、ホントどこまで『否常識』なんだよこの人は……。
 今更だって? わかってるよ!

 しかも、事態はさらに悪化していく。
 今、彼女がぶち明けた空間の穴をさらにこじ開けて……もう2人、ここにやってきた。

「……おいおい、まさかクローナとエレノアがそろってこんな……マジかよ、さすがに驚愕の光景だぜこりゃ」

「確かにな……ただ者ではないとは見ておったが、わしらの想定はまだまだ甘かったということか」

 法衣のような服を着た魔術師風の女性に、大矛を携えた褐色肌の牛獣人の女性。
 そしてその2人を率いて立つ、金髪に翠目の女性が、

「今来たところだから、この状況が何なのか、どうしてこうなってるのか、いまいち飲み込めてないんだけどね……とりあえず……」

 その手に持った光剣の切っ先を、僕の方に突き付けるようにして、


「私の仲間をこんな目に遭わせたのは、あなたで……私はあなたをぶちのめせばいいのよね?」


 ……どうやら、ボスラッシュの延長戦が決定したらしい。
 泣きたい。



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