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第23章 幻の英雄
第574話 VSバイラス
しおりを挟む真剣勝負であるからして、よーいドン的なスタートの合図なんてものはない。
膠着状態になったりすることすらなく、僕らの陣営からいきなり2つの影が超高速で飛び出した。
先陣を切って突っ込んだテーガンさんが、バイラスを両断……どころじゃなく、16分割くらいにできそうな勢いで大矛を振るう。身の丈を大きく超える長物を振るっているとは思えない速さで。
実際にそれでバラバラにされる……かと思われたバイラスだったが、まるで幻を斬っているかのように、テーガンさんの攻撃はあっさりと無効化されてしまった。
そしてそれは、追い打ち的に爪を振るったエレノアさんの攻撃も同様。こちらはテーガンさん以上の手数で……十重二十重の風の斬撃を放って……しかし、それもバイラスを仕留めるには至らない。
「馬鹿力だけでは私を殺すことはできませんよ」
「言うてくれるのう。しかし、相変わらずよくわからん手ごたえじゃな」
斬っているのに、斬れていない。当たっているのに、当たっていない。
バイラス自身が幻に等しい存在であるため、攻撃が攻撃になっていない。
魔力を込めて斬ってみても同じで、すり抜けているみたいに、何も痛打になっていない。
一応、ほんの一瞬とも言えそうなわずかな時間、行動を阻害することはできているが……それだけだ。
その不死性を利用して、武器を手放すことすらせずに2人の猛攻を切り抜け、両手に持った剣を2本振りかぶり……同時にその刀身に、炎と雷をそれぞれ纏わせた。
そして、それらを振りぬくと同時に……広範囲に極大の雷撃と爆炎が、猛烈な勢いで広がっていく。やっぱりマジックアイテム……それも魔法攻撃系の奴だったか。
無差別にばらまかれた感じで広がっていくそれを放っておくと、僕らはよくても、後方にいるエルク達も普通に巻き込まれる。
なので、こっちに向かってくる爆炎と雷撃を……思いっきりぶん殴って消し飛ばす。
非実体だろうが関係なく、僕の拳は炎と雷を捕らえた。そしてその大半が霧散するが、残骸みたいなものがあちこちに飛び散ってしまう。ちっ、さすがに全部は無理だったか。
しかし、後ろに控えていたアイリーンさんやテレサさんがバリアを張ってくれて、そこより後ろには全く何も届くことはなかった。
……実際、僕が殴らなくてもあのバリアなら突破されることはなかったと思うし。
なお、エレノアさんやテーガンさん、その他、母さんなど、バリアより前にいた面々は全員自力で対処していたので問題なし。
「エルクちゃん達はボクらより前に出ないように。アレは君らが戦える相手じゃないよ」
「よーくわかってます」
アイリーンさんの忠告に、素直に返事をするエルク。
ザリーやナナといった面々も同様の用で、こくりとうなずいていた。
戦闘狂のシェリーすら、『さすがにきついかな……』って、戦いたそうではあったけど我慢することに決めたようだったし。大人しく防衛とか余波への対処だけに回るようだ。
振り向かずに気配だけでそんな空気を察したらしいアイリーンさんは、小さく『よし』と呟く。
そして同時に、戦場全体に広がるくらいの広さの魔法陣を発生させて……そのあちこちで魔力が渦を巻き始める。
これ多分、今魔法陣が広がってる場所全体がアイリーンさんにとっての制空圏になってるな。どこにでも即座に色々な魔法を発動させて、攻撃に防御に千変万化の手札を切れるっていう。
ノータイムですさまじい規模と精度の魔法を行使してのける。普段の態度が軽くても、やっぱりこの人、伝説と言われるだけのことはあるな、って実感させられる。
それに感心したのはバイラスも同様のようだったけど、かといって戦意になにか陰りみたいなものが生まれた様子は、残念ながらなし。
「味方の被弾が心配なのなら、帰ってくれるというのであれば止めないのですがね」
「安心しろ、てめえを屍に変えたらすぐそうさせてもらうからよ」
そんな物騒なセリフと共に、ガチン、という硬質な音が横から聞こえた。
見ると、両手に手甲を装備した師匠が、その握った拳を打ち付けているところだった。
……それ、僕の手甲とおそろいみたいに見えるんですが。しかもよく見ると、脚にも脚甲がついてるし……何だろう、ちょっと嬉しい。
しかし、さすがに今言及する空気ではないので何も言わずにいると、直後に師匠が地を蹴って跳びあがる。
その師匠めがけて炎の刃を飛ばしてくるバイラスだけど、師匠は虫でも払うかのように、ぺしっと手を一振りしてその刃を消し飛ばし、そのまま突っ込んでバイラスを殴りつける。
それをバイラスは剣2本をクロスさせて防ぐものの、即座に師匠は体をひねって横合いからバイラスを蹴り飛ばす。
それもどうにか剣で防いだバイラスだったが、その一撃で剣の片方にひびが入った。
そして、そのままの勢いで回転しながら放った2発目、3発目を防げずに、炎の方の剣が砕け散る。
それでも、折れて半分になった刀身と、もう1本の剣でどうにか師匠の猛攻をさばこうとしているバイラス……の背後に、『虚数空間』を通って一瞬で接敵した僕が出現しました。
あの、『ガチン』の時の一瞬で師匠とアイコンタクトは済ませてあった。
師匠はあくまで囮というか、陽動。注意をそっちに向けて防御に隙ができた瞬間、本命の……バイラスを殺せる攻撃を放てる僕が襲い掛かる、というわけ。
かわす暇を与えないために、電磁力で一瞬で超音速に加速させた拳『レールガンストライク』を放つ。スプラッタになって悪いけど、頭部粉砕コースで突き出した。
が、やはりバイラスも、自分に致命傷を与えうる僕と母さんについては注意していたんだろう。
背後から、虚数空間まで使って突然現れた僕の不意打ちにも動じず、バイラスは動いた。
手に持っていた折れた方の剣を手放して捨て、そのまま腕を肘鉄の要領で突き出し、僕の拳と自分の頭との間に割り込ませる。
当然そのくらいじゃ僕の拳は止められないので、一瞬の拮抗の後、粉砕骨折張りの変形と共に腕が弾き飛ばされ……しかし、そのおかげでどうにか顔は守れていた。
というか、よく粉砕骨折で済んだな……腕で受けたとはいえ、その腕が消し飛ぶくらいはすると思ったんだけど、見込みが甘かったか?
そもそもが割と頑丈なんだな、こいつの体。多少殴ったくらいじゃ、すぐには致命傷にならないかもしれない。
そのバイラスは、目の前で……前衛芸術みたいになった腕を、即座に再生させていた。
僕の攻撃でも、致命傷じゃなければすぐに再生は可能なのか。いかに『殺せる』攻撃でも、治癒不可能とかそこまで便利に戦えはしないと見た。
反応速度、頑丈さともに想定以上だ。
(まあでも、それなら『多少』じゃない威力で殴るなり蹴るなり、再生する暇がないくらいに攻め続けるなりすればいいだけだな。それに……)
片腕を犠牲にして僕の攻撃をしのいでみせたバイラスだったけど……その背後にさらに、もう1つ死が迫っていることに、直後に気づく。
僕に一拍遅れて飛び上がり、超高速で背後に迫っていた母さんが、手に持ったクリスタルの短剣『プリズムブレイザー』に魔力をまとわせていた。
刀身から光の刃が伸びて、短剣なのにロングソード並みの長さになっていて……しかもその光の刃、シャレにならないくらいの量の魔力が凝縮されている。超硬合金だろうが触れた瞬間に両断、いや蒸発させる勢いの威力だろう。確実に一撃で殺りに来ている。あれじゃ、腕一本犠牲にしても……いや、剣とか武器を使っても防ぐことはできないだろう。
しかし、その刃がバイラスを両断すべく振るわれようとしたその瞬間、バイラスの全身が目もくらむような光を放った。
けどそれは、目くらましとかじゃなく……
―――ドゴォォォオオォン!!
「「なぁ!?」」
突如、目の前でバイラスが自爆し、木っ端みじんに吹き飛んだ。肉片すら残らないレベルで。
しかし、その直後に何事もなかったかのように、離れた位置に現れる。
……なるほど、上手い手だな。
僕や母さんに殺されてしまうと、復活できない。けどそれ以外の状況なら、誰にどんな殺され方をしたとしても復活できる。
それが例え、自殺そのものと言えるような自爆であっても。
母さんに殺される前に自分で死んで、それをなかったことにすることで回避するとは……死ぬのに慣れてるからだろうとはいえ、また思い切った方法をとる。
幸い、自爆自体の僕らへのダメージはそんなでもなかったので問題ないけど……思ってたより手こずるかもしれないな、これは。
戦力なら間違いなくこっちが上だと思うけど、思いもよらない方法で対抗してくる。破れかぶれで戦いを挑んできたわけじゃない、ってことだな。
僕らの目の前で復活したバイラスの両手には、さっきまでとは違う武器がすでに握られていた。
右手には黄金に輝く大きな斧。左手には蒼銀の輝きを放つ、サーベルとか青龍刀みたいな反った刀身の刀。
さっきの2本の剣と同じく、これらも特級品のマジックアイテムだろう。それなりどころじゃなく凶悪な性能や特殊効果が秘められていると思った方がいい。
―――バキャァッ!!
まあ別にそういうの関係なくぶっ壊すんだけど。
壊すとまずい呪い系の効果があるとかいうわけでもなさそうだし――そうだったとしてもどうとでもするけど――その程度の武器じゃ僕らの攻撃を止めるのは難しい。普通に壊せる。
しかし、壊れた端からまた新しい武器を取り出して構えてくるので、きりがない。
こっちも1万2千年分……在庫も相当数あるだろうな。めんどい……とか思っていたら、何個目かの武器を壊した瞬間、その刀身からどす黒いエネルギーが吹き上がった。
あ、ここで来たか呪い系。
すばやく飛び退ってその黒い何かから逃れる僕ら。
なおも追ってこようとするけど、その瞬間、僕らの背後から無数の光の矢が殺到し、闇を切り裂き、浄化し、消し飛ばしていった。
横目でちらっと見ると、テレサさんが構えた手から、光が収束して放たれているのが見えた。超威力のレーザー光線が、ガトリング砲も真っ青の速さと勢いで乱射されている。
かと思えば、今度はテレサさんは、開いていた手を『ピストル』の形に変えたかと思うと、次の瞬間そこから、さっきまでとは比べ物にならないくらいの威力・貫通力・そして速さのレーザーが放たれた。
それは一直線にバイラスの顔面へと向かって飛び……しかし、それが眉間に風穴を開ける前に、バイラスが手に持っていた鏡のようにきらめく剣でそれを切り払った。
さっき僕の『レールガンストライク』を防いだ時もそうだったけど、反応が早いな。今のテレサさんのレーザー、軽く音速の数倍の速さだったと思うんだが。
これを放ったテレサさん自身も、『あら』と驚いたようで、
「よく防御が間に合ったわね。今の速さでの攻撃に対応できたのなんて、仲間達以外じゃ初めてかもしれないわ」
「それは光栄ですね。ですが私も、1万2千年の間、無駄に年を積み重ねてきたわけではないのですよ……たかだか数百年しか生きていない小娘には、まだまだ負けられませんとも」
「………………」
「おいテレサ、君何ちょっと嬉しくなってるんだい」
常日頃、年齢でいじられることを極端に嫌っているテレサさん(『女楼蜘蛛』最年長)、まさかの『小娘』扱いに、思いのほか悪い気分ではなかった様子。
うん、何か確かに嬉しそうにしてるっぽく見えるような……まあいいや今は。
さっきから当然のように超音速の攻撃があっちこっちで飛び交う戦場。
普通ならそんな場所、フレンドリーファイアを恐れて連携なんてそう簡単に取れるもんじゃない。一度に襲い掛かるにも限度があるだろう。そういう意味では、逆にバイラスにやや有利に傾くんじゃないか……と思わなくもない。
ただそれは、僕がこの場にいなければの話だ。
謎にちょっと照れてるテレサさんに呆れつつ、アイリーンさんが足元の魔法陣(特大)を発行させ……次の瞬間、バイラスを囲むように特大の火球がいくつも出現。
間を置かずに殺到するかと思いきや……その場で全て破裂し、周囲に超高熱の熱風をばらまく。
そして、その中を突っ切って僕は飛び、爆風と高熱で身動きが取れなくなっているバイラスを狙う。
僕の『ナイトメアジョーカー』の能力――正確には『エクリプスジョーカー』の能力だけど、『ナイトメア』はそれ以前の『ジョーカー』シリーズの能力も全部使える――により、この戦場では、僕の味方サイドに限り、フレンドリーファイアは無効化される。
仮にアイリーンさんの全力の攻撃魔法に、フィジカルではこの中で最弱のミュウが巻き込まれたとしても、無傷でいられる。服に焦げ跡1つつくことはない。
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「……聞いてはいたが、全く理不尽な能力だ」
そして、龍すら炭化しそうな熱地獄の中でもバイラスは健在だった。こいつの、不死性以外の面の頑丈さもたいがいだな。
今度はその両手に、薙刀みたいな武器を持って、それを大きくふるうと、爆炎は一瞬で霧を払うように消し飛んだ。
そしてそのまま、その刃を僕めがけて突き出してくる……かと思いきや、突如その姿が掻き消えた。
そして、背後に現れる気配。
(短距離の転移魔法……兆候も何もなく、一瞬でか。まあ、このくらいはウェスカーも使ってきたから驚くことじゃないか)
今度は弓を持っていた。矢じりに尋常じゃないくらいの魔力が込められていて、狙いはもちろん僕。すでに引き絞られているそれが今まさに放たれようとして……しかしその瞬間、上空から猛襲する母さんの刃が、弓矢をどっちも両断する。
込められていた魔力が暴走・爆散し、その勢いで一瞬隙ができたためか、バイラスは辛くも母さんの刃を逃れ……その手にまた違う武器を出す。
今度は……日本刀?
それを両手でもって構え、刃を返して切り付ける母さんの一撃を……受け止めた。
そのまま続く2撃目、3撃目……それ以上の切り結びを見せる。
あの魔力を受けても壊れないし、母さんの超高速の剣戟についていってる。
馬力はともかく、技量は互角レベルか……何度目かになるが、やっぱり1万2千年分の経験値は伊達じゃないらしい。
しかもあの状態で、僕や他の面々の横槍もきちんと警戒してる。
それに、あの量の魔力が凝縮された光刃をぶつけられても壊れないあたり……魔力で強化されてるとはいえ、あの刀も相当な業物だな。僕でも斬られたら多分危ないかも。
ひと際強く刃と刃がぶつかって、その反動をそのまま勢いに変えて2人が離れ……しかしバイラスの背後に回り込む影があった。
見るとそれは……ザリーとサクヤだった。しかも、それぞれ3人ずつ。
振り向きざまに刀の一閃で、ザリー3人とサクヤ2人は両断されてしまう。すると次の瞬間、斬られた計5人は、それぞれ砂の塊と、紙でできた人形に変わった。
なるほど……ザリーのは『砂分身』、サクヤのは『式神』か。
もう1人残ったサクヤも、6本の腕に持った刀を振るおうとするも、その刀ごと破壊する威力の逆袈裟の一撃で切り倒される。
しかしそこにさらに、ザリーの砂分身とサクヤの式神分身、それぞれ5人ずつが現れる。そしてそれを援護する形で、遠距離から高速で飛んでくる水の弾丸。
見ると、後方でナナがスナイパーライフルを構えているのが見えた。
それらと合わせて、テーガンさん、エレノアさん、そして母さんも、バイラスを囲んで一気に攻め……ようとした瞬間だった。
その場でバイラスが魔力を練り上げ……なんと、バイラスも増えた。
同じような『分身』系統の魔法。一気に9人増えて、合計10人になって四方八方に散らばり、向かった先にいた敵の相手をしていく。
そして、増えた10人はそれぞれ違う武器を手に持っていた。偽物ないし分身も、武器は本物使ってるっぽいな。
もちろん僕の方にも来て、手に持っているのは剣の二刀流。それなりに本気で殴ってもびくともしない強度……さっきまでは様子見で、レアリティ上げてきたか?
さっき母さんと切り結んでた時から思ってたが、戦闘の技量は相当なもんだな。
アイリーンさんが範囲攻撃で一掃しようとするが、そのアイリーンさんにも1人向かっていく。
手に持った槍の一撃を、アイリーンさんは手刀から延ばした光の刃で受け止めるが……それ自体は防げたものの、構築途中だった広範囲の魔法が霧散してしまった。そういう効果を持つマジックアイテムだろうか、あの槍。
すると今度は、その後方にいるミュウと、またしてもサクヤが魔力を練り上げ……さらに、妨害されながらも即座に展開した魔法陣でアイリーンさんも。
ミュウとアイリーンさんは『召喚獣』を呼び出し、サクヤは『式神』を……分身じゃなくて魔物型のを呼び出して突貫させる。
……あきらかにアイリーンさんの呼び出した『召喚獣』が頭一つ抜けてやばい威圧感を放ってるな……見たことない奴だから名前とかわからないけど。ドラゴン系ってとこくらいしかわからん。
が、それに対抗するように、今度はバイラス(の、1人)も召喚獣を呼び出した。
魔法陣から出てきたのは、黒い半透明の体を持つ……こちらもドラゴン系。
その口から、黒い炎のブレスを吐いて、ミュウとサクヤの召喚獣と式神を一瞬で消し飛ばし……アイリーンさんの召喚獣も無傷では済まなかった様子。
その余波の黒炎がアイリーンさん達にも降りかかりそうになってたけど、アイリーンさんが結界と攻撃魔法による迎撃で防いでいた。
「『ア・バオア・クー』か……珍しいもん従えてるね」
「昔、戦う機会がありましてね、その時に」
黒い半透明のドラゴン……『ア・バオア・クー』という名前らしいそいつは、炎では殺しきれないとみると、直接爪を構えて襲い掛かる。
それを、アイリーンさんのドラゴンの方も飛び上がって牙をむき、真っ向勝負に突入していた。
「全員、あの黒い半透明のドラゴンが吐く黒い炎には当たらないように。アレ、温度だけでも普通にやばいのに加えて、猛毒やら呪いやらいろいろ乗ってるから、掠っただけでもやばいよ。あ、エルクちゃん達、重ねて言うけど絶対結界の外には出ないようにね」
アイリーンさんがそう言っている間に、アイリーンさんが呼び出した召喚獣が負けてしまい、霧散して空間に溶けるように消えていく。
勝利の雄叫びを上げる『ア・バオア・クー』は、そのままアイリーンさん達に再度襲い掛かろうとするけど、それより早く、横から飛び出してきた小さな青と白の影が、その黒い半透明な体を弾き飛ばして大きくたたらを踏ませた。
割り込んできたのは、ペルだ。
ア・バオア・クーに比べたらはるかに小さい体だけど、纏っている威圧感は明らかに上回っていて……僕も見たことがないくらいに『本気』になっているのがわかった。
一瞬後には、その背中に生えた翼を羽ばたかせ、蒼い炎と光を身にまとって、目にもとまらない速さでア・バオア・クーに襲い掛かり、圧倒していく。
それを見たバイラスは、追加で何体か召喚獣を呼び出したようだったけど、それに呼応するように、今度はストークも戦列に加わった。
襲ってくる召喚獣を、無数に降り注ぐ光弾の弾幕で片っ端から粉砕していっていた。
たまに撃ち漏らしが出るけど、それも無傷ではないし、アイリーンさんと……その後ろにいて、エルク達を守ってくれているアルバが魔法で簡単に撃墜していく。
……あれなら、うん。後衛の皆も任せておけば大丈夫かな。
というか、今思い出したんだけど、『ア・バオア・クー』って……ずっと前にアイリーンさんにもらった『リスト』の最後にあった名前の奴だな。
……毒と呪いの炎のブレスに加えて、フィジカルも化け物どころじゃないドラゴンって……そんなもんを倒させようとしてたのかアイリーンさんは。
しかしまあ、それを召喚したことといい、コロコロ変わる武器といい、次から次に飛び出す魔法や戦術といい……やっぱり引き出しの数は相当なもんだな。
ウェスカー以上に、次に何が来るか、何をしてくるかわからない。1万2千年の人生(人じゃないけど)の中で培ってきた技術だ、まだまだ色々あるんだろうし……油断できない戦いが続くな。
…………ただ、困ったことに。
僕はどうにも、それが……
(……いかんいかん、集中集中)
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