魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第569話 ドロシーの秘策?

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 ある程度進んでたどり着いた広間。
 そこを境に、僕らはようやく――ようやく、とか言うのも変な気がするんだけども――敵からの妨害ないし、魔物からの襲撃なんかを受けるようになった。

 ただ、襲ってくる魔物はどれもさほど強くない。

 成層圏やこの城の周辺で襲ってきたような、明らかに生物兵器として作られたくさいクローンドラゴン達に比べると、全然だったな。

 一応強化手術とかされてたっぽいし、ものによっては再生能力みたいなのも持たされた感じだったけど……その程度で僕らの行く手を阻むことはできない。

 母さん達はもちろんのこと、戦闘能力で劣るエルク達でも、余裕をもって相手できるくらいの強さしかなかったんだから。
 ……こう言うとなんかエルク達が弱いみたいな感じになっちゃうけど……例えばエルクだって、もうすでにAAランクにまで(しかも割とAAAランクより)になってるわけだし、全然強いんだけどね。

 ……もう何度も言ったことだけど、こと僕らのチーム内においては、ちょっと比較対象の方がアレなんだよ。うん。

 それと、強さ以上に気になったことがもう1つ。

 襲ってきた魔物達についてなんだが……なんか、見たことも聞いたこともない魔物が多かった。

 もちろん、それ自体は何も不思議なことじゃない。
 世界は広い。アルマンド大陸の魔物だって、僕ら冒険者がその存在を把握しきれてなんかいないはずだ。いまだに未開の秘境やその近辺で、年間何種類、何十種類もの新種の魔物――というか、ただ今まで見つけられていなかった魔物――が見つかっている。
 ただ単に、僕らが今まで出会ったこともなかった魔物って言う可能性も大きいだろう……そんな風に、最初は僕も考えていた。

 ただ問題は、そいつらの中に……既に絶滅したはずの魔物が混じっていたことだ。

 僕ら『邪香猫』は見たことも聞いたこともない……しかし、母さん達『女楼蜘蛛』はそれを知っていた存在が何匹もいた。

 ここ数十年の間に、環境の変化や乱獲で数を急激に減らし、ついには生息地のどこを探しても見つからなくなり、絶滅した、と思われていた魔物。

 それよりもはるか昔……太古の時代に生きていて、今は文献とか古文書なんかにその存在の情報を残すのみ。師匠やアイリーンさんといった有識者でさえ、それらによる知識しか持っていなかった魔物。

 そんな魔物が何匹も、生きて僕らの目の前に現れたのである。

 もちろんそれらも、今まで隠れて人に知られずに生きていただけで、実際は生き残っていたんだ……という解釈もできなくもない。
 できなくもない、けど……この施設で行われていることを鑑みるに……

(絶滅した魔物を復活させてた……とかのパターンだよね、多分……)

 クローニングや改造手術を平然と行うくらいに、『命をいじる』ことに長けているこいつら『ダモクレス』であれば……そんなことも可能なんだろう。

 どうしてそんなことをしているのかはわからないけど。
 クローンドラゴンと同じように、地球に『試練』を与えるための生物兵器として利用しようとでも考えてたのかね?

 ……けどそれにしては、なんかこう……必ずしも戦闘向きじゃないような魔物もその中には含まれていた気がしたんだが……ちょっと気になるな。

 色々疑問はあるが、とにかく考えても仕方ないので後回しにして、僕らは進んでいった。
 襲撃は何度かあったけど、いずれも問題なく退けることができたので、そのまま城の中の探索を進めていく。
 罠とかを警戒しながらだから、ちょっと遅めのスピードでだけど。

 そして、数十分後。

 僕らが到着したのは、大広間みたいな感じのフロアだった。
 貴族の屋敷とかに設けられてる、ダンスパーティーの会場になるような感じの場所。料理とかが並べられて、立食形式だったり、ステージが用意されて参加者が踊ったりするようなアレ。

 当然、料理もステージもなかったけど……代わりに配置されていたのは、

「うわぁ……母さんから聞いてはいたけど¥」

「こうして実際に見てみると……なんというか、その……怖いわね、ある意味で」

「でしょー?」

「……悪かったですね、気持ち悪い光景で」

 いら立ち交じりにそんなことを言う、ドロシーさん。
 その彼女と同じ顔が、30人分くらい並んでいるという光景だった。

 母さんが飛ばされた先で戦って――戦いになっていたか、という点については触れないものとする――全く問題にもせずに圧倒して撤退させたそうだ。
 やっかいなカラクリで不死身状態になってたらしから、時間と手間だけは不相応にかかったらしいけど。

 そのドロシーさんは、ここでもそれぞれ違った装備やら何やらを手にして、いかにも僕らを迎え撃つために待っていた……というような雰囲気である。
 同じように、ここでも僕らを迎え撃って倒すために待っていたんだろうか?

 ……ぶっちゃけ、無理だと思うんだけど。

 母さん一人に対してても足も出なかった上に、かろうじて時間を稼いでいたトリックも見破られちゃったんでしょ? 同じ手は二度通用しないし、戦力的にはこっち、その時とは比べ物にならないことになってるんだが……

 上から目線というか、見下した発言になるのを承知で言うんだけど……弱い者いじめとか別に好きじゃないので、さっさと降参してほしいというのが本音のところだ。

 そう伝えたら、ドロシーさんは……これまで見たこともないような。怒りと悔しさと絶望と……その他もろもろの感情がまじりあった、複雑でありながら凄絶な表情になった。
 これまでこの人、いつも冷静でミステリアスにほほ笑むような表情しか見せたことなくて、僕らそういうドロシーさんしか知らないから……なんか新鮮というか、違和感あるというか……。

 あと、その違和感に一役買ってるのが、剣とか鎧とか……ドロシーさんに似合ってない装備の数々だな。
 もちろん、ファッション的な意味じゃなく、戦力的な意味で。実力的に大したことないドロシーさんがそんな、一応品質は一級品っぽい装備も身に着けてても、宝の持ち腐れここに極まれり、な印象しかない。
 当然、そんな装備くらいで僕らの間にある戦力差がわずかでも縮まるはずもないし。

「言ってくれるじゃない……私程度は、もう何も問題になりゃしないと、そういうわけね……」

「そりゃまあ、実際にそうだしな」

「おぬしも馬鹿ではあるまい。わしらを相手取って勝ち目があるなどと……というかおぬしでは、たとえわしらが加わらんでも、『邪香猫』の連中だけが相手だとしても勝ち目などあるまい。必死になったところで虚しいだけじゃぞ」

「そんなこと、百も承知よ。それでも……」

 師匠とテーガンさんに厳しい、しかし事実でしかない言葉を投げかけられるも、ひるまずにらみ返してくるばかりか、戦闘態勢に入るドロシーさん(×30)。

 それを前にしても、こちらは呆れや憐れみを含んだ溜息をつきながら、面倒くさそうに構える……ことすらしない。必要ないから。

「いくら相手が自分達より弱いからって、そういう風に油断してると痛い目見るかも知れないわよ? 『女楼蜘蛛』に『邪香猫』の皆さ―――」


 ――ドスッ!!


「ん、ぇ?」

「付き合ってられん」

 言い終わる前に、一瞬で距離を詰めた師匠の拳が、ドロシーさんの胸に突き刺さっていた。

 どう見ても心臓がある位置に、手首と肘の間くらいにまで、拳が『刺さって』いる。
 普通に考えれば、言うまでもなく致命傷だ。

 もっとも、ドロシーさんはそれも、母さんが言ってた方法で無効化するんだろうけど……次の瞬間、刺さっている傷口から、膨大な『邪気』があふれ出し、ドロシーさんの体を急激に侵食していく。
 師匠、ただ殴っただけじゃなくて、その拳に『邪気』を握りこんでたんだな。分身とかそういうの関係なく、魂ごと蝕む猛毒を。

「何かの理由があって決死の覚悟で俺らの前に出てきた感じのとこ悪いが、それに付き合ってやるほど俺らは暇でもお人よしでもないんだよ。オラ、これでこれ以上抵抗できるならしてみろ、できないならさっさと逃げるか、そのまま死ね」

 あんまりと言えばあんまりな言い方かもしれないが、まあぶっちゃけその通りなんだよね……。
 そっちの都合でこっちの邪魔をしてる以上は、かなわなければ排除されるのは当然だし、ドロシーさん側の事情や都合を慮ってやる義理もない。

 というか、ちまちまと変に面倒くさい妨害してこられるのって、脅威ではなくてもストレスたまるし。ぶっちゃけ相手するのもめんどくさいのだ。

 そしてドロシーさんはというと、『邪気』によって急激にむしばまれていき……周囲にいる分身体と思しき他のドロシーさん達が、崩れて消えていく。
 あっという間に、残っているのは喋っていたドロシーさん1人になった。
 
 しかし、彼女は全身に『邪気』がまとわりつく段階になっても消えず……

「舐めるんじゃ、ないわよ……こっちだって、理由も、事情も……覚悟もあって、ここにいるん、だから……っ!」

 言いながら、手に持っていた剣を取り落とす……いや、自分から捨てた?

 そして次の瞬間……おそらく、『収納』していたものを取り出したんだろう。彼女の手に、何か別な武器が現れ……武器……?

 何だ、あれ? 武器って感じじゃないな?
 なんか、宗教的な儀式とかで使う……祭具? とかに見える。しかも、なんか相当年期入ってそうな……

 そして、彼女がそれを取り出した直後、

「「…………!!」」

 またしても、僕と母さんだけがその異変に気付く。

 しかし二度目ともなると、他のメンバーも、僕と母さんの反応を見て何かが起こっていることに気づき、周囲を警戒し始める。
 ドロシーさんを素手で串刺しにしてた師匠も、飛び退って僕らのところに戻ってきた。

 その直後、周囲の空間がぐにゃりと歪み始め……

「おい弟子? 何だこりゃ、また転移か?」

「いえ、何か違う感じがします。これは、転移というより……封印?」

「ちょっ、封印って……私達を!?」

 驚いたように言うエルクの目の前で、空間の変化はさらに進んでいく。
 しかし、それがこっちに近寄ってくるとかそういうことはなく、あくまで周囲の空間だけが……いや違うな、これ、僕らだけじゃなく、空間ごと何かしようとしてるんだ。

 今感じたことそのままが正解なら、僕らを『封印』するためなんだろうけど……何だろう? それとも何か違う気がするんだよな……自分で言っといてなんだけど。

「総裁の邪魔はさせない……私と一緒に死んでもらうわ」

 ぐにゃりと歪んだ空間の中に、僕らと同じく閉じ込められつつあるドロシーさんが、覚悟の決まったような目でそう言い放ってきた。

 それに触発されてじゃないだろうが、師匠やテレサさん、アイリーンさんが周囲の空間に攻撃魔法を放ち……しかしそれらは、まるで空間ごとねじ切られたかのように、ゆがんで、消えてしまう。『歪み』の向こう側にあるはずの、建物の壁や天井を壊せた様子はない。

 けれど、特にそれで焦る必要もなさそうだ。
 この空間のゆがみ、どうやら……

(ここでもまた『ザ・デイドリーマー』か……ひょっとして、外の結界といい……もしかしてドロシーさんが作ってたのか? いやでも、彼女にそこまでの力があるとは思えない、そもそも彼女、夢魔族じゃなくて人間だしな……ま、いいか)

 『ザ・デイドリーマー』に対抗するには、こちらも『ザ・デイドリーマー』しかない。
 結界を壊した時と同じように、壊す、破る、という意思を込めて空間を殴りつける。

 しかし、あの時と同じように『バキン!』と音がして、空間そのものを殴って壊すような感触があったものの……

(……? 壊しきれない?)

 外の結界くらいなら問題なく壊せるであろう威力で殴ったのに、壊せなかった。
 途中まで壊したというか、ゆがんだ空間にひびが入った的な感覚はあったんだが……そこから先に届かなかったばかりか、衝撃が多少なり押し戻されて防がれたみたいな感覚があった。 

 しかも、壊し損ねた空間が……なんというか、再生しようとしてるっぽい?

 ……彼女の決死の覚悟故か、それとも他に何か原因があるのかはわかんないけど……コレちょっと本気でやらないとダメかも?

「母さん、ちょっと手伝って!」

「! 了解」

 以上を察したらしい母さんも、僕と同様に飛び上がって空間を殴りつける。
 僕もそれに合わせて、さっきまでよりもさらに大きな力を込めて、しかも何度も殴りつける。

 しかし、それでも壊しきれない。
 というか、壊した端から再生されてるような感じが……

 エルク達も、この空間が『ザ・デイドリーマー』由来だとわかって僕らに任せる姿勢で見ていたけど、どうも僕らがてこずってるようだとわかって、少なからず動揺しているようだ。
 ……ドロシーさんが結局何をやろうとしているのかもわからないし、これは本気でやらなきゃだめっぽいな。

 と、そのドロシーさんめがけて、テレサさんが指先からレーザーを放つ。
 恐らくは彼女に攻撃することで、この『何か』の妨害ないし阻止を図ったんだろう。彼女の右肩から先を、儀式の祭具(多分)ごと消し飛ばした。

 が、次の瞬間には彼女の右腕は、手に持っていた祭具ごと復活していた。
 その祭具は、相変わらず古びていてボロボロだったけど……確かにアレから、この空間に干渉するような、得体の知れないエネルギーみたいなものが出ているのがわかる。

 次の瞬間にはアイリーンさんが、特大の火球でドロシーさんの体ごと吹き飛ばして消滅させていたけど……結果は同じ。妨害は無意味みたいだ。

 なら……さっきまでと同じく、この空間そのものをぶっ壊すしかないな。

「母さん、もういい。僕がやるから……バリア張って。エルク達が巻き込まれないように」

「! 構わないけど……いいの? 1人でちゃんとできる?」

 その言い方だと、まるでこれから僕がはじめてのおつかいか何か行くような感じに聞こえちゃうんだけども……まあいいや。

「大丈夫だから、将来の義理の娘のことちゃんとお願い。ちょっと本気で、この城ごと消し飛ばすくらいのつもりでやるから」

「そっか……わかった。なら、お母さんに任せなさい。アイリーン、クローナ、テレサ、念のためあなた達も手伝ってくんない?」

 そう言って母さん達が協力してバリアを張るのを横目で確認しつつ……僕は、全身に『闇』の力を漲らせ……最強フォーム『ナイトメアジョーカー』を発動。
 同時に、両手に大型のガントレット『ディアボロストライカー』を装着し、全力でエネルギーを練り上げていく。

 このまま爆発させれば、誇張抜きで山一つ消し飛ばせるくらいの力を籠め……それでもまだ力を高めていく。

 それを感じてか、ドロシーさんの顔が目に見えて青くなり……しかしそれでも、祭具を手にしたまま『何か』をするのをやめようとはしない。
 それどころか、左手に持っていた盾も捨てて、祭具を両手で持って額に押し当てるようにし……まるで、祈るような姿勢に。

「私は……私達は、負けるわけには……ここで終わるわけにはいかない……! お願い、ご先祖様……聖女様……リリス様! 今だけ……今だけ、私に力を貸して……!」

 ようなというか実際に祈って……うん、何て?
 今何か、色々気になるワードが聞こえてきたような気が……いや、今は後回しだ。

 とかなんとか考えている間に、こっちの準備も整った。

 力いっぱい握りしめられている僕の両拳は、見た目一発やばそうな黒と金の光を放っている。
 眩しいと言えば眩しいけど。不思議と見ていても目が痛くなるような光じゃない。けど、確実にやばい、危険なものだとわかる光ではある。

 実際にコレ、拳1つにつき、余裕で核弾頭以上の破壊エネルギーが込められているので、これをこのまま暴発させるだけでも恐ろしいことになるのだが……そこにさらに、『ザ・デイドリーマー』で破壊そのものに指向性を持たせることで、周囲を完全に木っ端微塵以上に破壊できるように意思を込めていく。
 それにこたえてさらに輝きを増す両拳。2色の明滅する光で不規則に照らされる室内。

 そして僕は拳を、両方とも上に振り上げ……

「『魔法格闘術マジックアーツ』……奥義『双黒魔拳』」

 思いっきり……地面に叩きつける。



「ツインダークネス……アルマゲドンクラッシャー!!」



 叩きつけられた拳を中心に、周囲の空間ごと全てを消し飛ばす破壊の奔流が吹き荒れ……一瞬とも言わないくらいのわずかな間に、『歪んだ』空間にそれがぶつかり……

 その瞬間、ドロシーさんの体が粉々に砕け散って消えたのが視界の端に見えて……しかし、その手に持っていた祭具は砕けなかった。

 代わりになぜか、僕の拳と同じ、黒と金の光をピカッと放ったように見えて……しかしそのさらに次の瞬間には、それも含めて視界全部が、吹き荒れる黒と金の魔力光の奔流や、巻き上がる土埃に遮られ、何も見えなくなって……





 ……気が付くと僕は……















「……今度は何だよ……?」





 さっきまでと全然違う、見覚えのない場所に……

 というか……なんか、砂漠のど真ん中っぽい場所に立っていた。



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