魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第567話 突入

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 バスクとの戦闘が……まあ、多少予想外な形で終わったところで、僕はふと、ここら周辺に張り巡らされていた、通信とかを妨害する結界みたいなものがなくなっていることに気づいた。
 バスクを倒したから解除されたのかな? あいつの能力で――あるいは、コピーした誰かの能力で――張ってたものだったのかな。

 まあ、解除されたならそれはそれでいい。

 左手薬指にはめている指輪。
 それに魔力を込めて、込めてある昨日の1つ『赤い糸』を発動。

 お、きちんと動いてくれた。

 指輪からレーザーポインターの光みたいな、赤くて細い光が出て、一直線に伸びていく。

 この赤い光……もとい『赤い糸』の先には、僕の指輪と対の指輪をつけている、エルクがいる。
 お互いがどこにいても、これさえあれば互いの居場所を知れるようにって作ったものだ。名付けとかも含めて、ちょっとロマンチックすぎたかな、って多少思わなくもないけど。

 ……後は今回みたいに、どっちに帰ったらいいかわからない時に、迷子防止機能として役立ってくたりもする。



 で、その『糸』が伸びた方向に全速力で走ること数分。

 なお、さすがにどのくらいの距離があるかわからなかったので、収納空間から『ライオンハート』を出して、それに乗っていった。
 最高速度が軽く音速を超えるマジックアイテムのバイクである。……さすがにそんなもんを地上でぶっ飛ばしたら、ソニックブームとかで大変なことになるし、道中で何をはねてしまうかわかったもんじゃない。

 なので、空を飛んで空中を走る形にし、さらに基本的に『虚数空間』を走るようにした。

 で、そんなに長いことかからずに、エルク達のところに到着。

 が、スピード出しすぎてうまく止まれず、一回通り越してしまった。

「あ、お か  え  り ……」

 と、エルクの声がドップラー効果。
 Uターンして帰ってきたときには、無事に呆れたようなジト目でお出迎えしてくれました。うん、元気が出る。

「アホ。まったくもう……お義母さんはもう帰ってきてたから、あんたが最後だったのよ」

「え、そうなの? ごめんごめん……じゃ、今から突入する感じ?」

 言いながら、僕は案の定また構築しなおされてる隠蔽用の結界を、雑に蹴っ飛ばして『ガシャン!』破壊する。再び現れる、独特なデザインの宮殿……のような城。

 今度はさっきと違い、出会いがしらからトラップの嵐による歓迎とかはなかった。

 さっきので打ち止めになっちゃったのか、それとも諦めたのか……まあ、すぐにわかるだろう。

 さあて、いよいよダンジョンアタックだ。
 さっきまで同様、どこからどんな敵が襲ってくるかわからない。気を引き締めて行こう。










 何もないんですが。

「いや、何で? ……罠の一つもないんだけど」

 ダンジョンアタックのつもりで挑んだんだけど、とんだ肩透かしだ。
 ……いや、『ダンジョン』扱いしてるのがこっちのメチャクチャな都合とかノリだってことはわかってるよ? 半ば冗談で言ってることだし。うん。

 けどそれにしたって、ここは敵の……『ダモクレス財団』の本拠地なわけで。
 であるからには、多少の妨害とかそういうのがあってもおかしくない……いや、なきゃ逆におかしいと思うんだが……

「そういう使い方を想定してないんだろうねえ、多分」

 溜息をつきながら、アイリーンさんが言う。

「この城、明らかに戦闘用の城塞とかそういう感じで作られたもんじゃないよ。普通にお貴族様がくつろいで快適に過ごすために作られた空間、って感じだ。防衛や籠城も含めて、戦闘に使うことをほとんど想定されてない」

「みたいね。置かれている家具も敷いてある絨毯も、かなり高価なものだわ。魔法的なそれならともかく、罠とかそういうものを設置するような余地もないみたい」

 それに続けて、テレサさんも。
 さらに、ザリーとエレノアさんの斥候2人も同意見のようだ。周囲を一応警戒しながらも、

「予想してたように、そもそも戦闘に使うことを想定してない建物なんだろうね。あの結界で隠し通せると思って作ってあったし、そもそも外敵がこの星に来れるとも思ってなかったんだ」

「建物内部で戦闘になる可能性を全く考えず、単に快適に暮らせればいいと思って作ってたわけだニャ……けど……そう解釈すると、それはそれでちょっと違和感あるんニャけど」

「? 違和感って何だい、エレノア?」

「皆が言ってる通り、この建物は多分、戦うことを全く考えずに作られて。家具とかも置かれてるのは確かニャ。けど……建物の構造とか、その作り自体は……多少ではあるけど、敵と戦うための城としての性質を持たされてる……ような気がするんニャ」

「……多少?」

「うん、多少。城そのものは……さっきテレサが言ってたけど、古い時代の遺跡とか宮殿みたいな形、ないしはそれを模したものに見えるんだニャ。城ってのは基本的に、王族や貴族の居城として作られるのはもちろん、有事の際にはそこに閉じこもって敵の攻撃から身を守るための戦闘用設備としても使われる。それを想定して設計される。例えば、堀とはね橋を利用して、跳ね橋を挙げることで門から敵を侵入できなくしたり、あるいは、場内の構造を迷路みたいにして、敵が入ってきても簡単には目的の場所にたどり着けなくなるようにしたりね」

「あとは、特定の者しか把握していない隠し通路を作っておいたりとかもありますよね」

「……さっきから似たような見た目の通路や部屋や柱があって、どこ歩いたかわからなくなりそうなのはそのせいですか」

 ちょっとうんざりしながら僕がそう言う。
 同じような景色ばっかりでこう……あれ、ココ通ったっけ? それとも似てるだけ? ってさっきから何度も思ってるんだよね。先導役のエレノアさん達にひたすらついて言ってる状態、今。

 ……無言でエルクが手をつないでくれた。
 嬉しいけど、多分迷子防止なんであろう意図を察すると何とも言えない……。

「あんた単体に対しては案外こういう構造だけで充分防犯になるのかもね」

「そしたらミナト君の場合、壁ぶっ壊してショートカットするなり何なりするわよ、きっと」

「そうそう、方向音痴には方向音痴のやり方がある」

「調査対象の遺跡を破壊する冒険者がいてたまるか」

「とりあえず僕がやれることは全部やってサポートさせてもらうから馬鹿なことはやめてね」

 苦笑しながら振り返ってそんなことを言うザリーに、とりあえずそのままついていく。

 そのザリーとエレノアさんが、斥候として先導してくれているわけだけど、やはり罠の類は仕掛けられていないようで、簡単な確認だけでさっさと、結構なハイペースで進めている。
 もちろんこれは、雑に、適当にやっているというわけじゃない。そのくらいの素早く簡単な確認で、安全がきちんと確認できているのだ。

 2人ともホントに頼りになる。僕にはとてもまねできないよ。
 まあ、マジックアイテムでごり押しすればできないこともないかもしれないけど、アナログな罠から魔法的な罠まで、隠匿性に優れたものは、どんな手段であれ見破るのが一苦労なんだよなあ。

 それを、音の反響とかわずかな床や壁の形状の違いとか、さらには構造から推測できる罠の種類まで常に頭において進むなんてとても……


 ―――ジリリリリ! ジリリリリ!


 懐から黒電話の音。
 スマホを取り出してみると、着信元は……クロエか。どうかしたかな。

 ちょっと電話に出ることを皆に断って、通話ボタンを押す。

「もしもし? クロエ、どうかした?」

『一応報告しておいた方がいいかと思って。予想通り、ミナト達が突入してしばらくしてからだけど……船を狙って襲撃があったわ。サメみたいなやつ。で、戦った』

「そっか、やっぱりね…………で、過去形?」

『過去形』

「そっか。お疲れ様」

『いやいや、全然疲れてないよ。準備万端で待ち構えてたからね、こっちも。……いっそ申し訳ないくらいに』

「まあ、クロエたちが無事なら何でもいいよ。ネリドラ達ももちろん無事だよね?」

『うん。まあ、リュドネラは戦闘用の義体がちょっと破損しちゃったから整備に向かってるけど、すぐに戻ってくると思う。後はまあ……多少甲板が汚れたり傷ついたかな、って程度。まあ、機能には全く問題ないよ』

「さすがに無傷とまではいかなかったか。OK、それは戻ったらすぐ僕が直すから心配いらないよ。引き続き周囲の観測と、船の番をお願い。こっちも順調だから」

『はいはい、じゃ、頑張ってね』

 ―――ピッ(通話終了)

「ミナト? 今の、クロエから?」

「うん。予想通り、僕らの留守を狙って、船を襲おうとしたみたい。返り討ちにしたみたいだけど」

「まあ、それは大丈夫でしょうね。あの船には、あんたが過剰なくらいに積み込んだ防衛系のマジックウェポンやら何やらが搭載されてるし……それに、今は……」

 そう言って、ちらりと視線を逸らすエルク。
 その向けられた先には、ニコニコと笑う母さんが。

「そうそう、今は私のペット達も一緒に船の番してくれてるもんね。そりゃ安心ってもんよ」

 そういうこと。

 さて、じゃあ僕らも先に進もうか。

「……進む前に、皆、ちょっと待つニャ」

 と思ったら、行く先の通路……その突き当りにある扉をにらみながら、何やらエレノアさんが険しい顔をしていた。
 頭の上では、猫耳がぴこぴこ動いている。

「エレノア、どうしたの?」

「どうやら、退屈な時間はここまで見たい。扉の向こう……何か待ち構えてるニャ」

「ほぉ、ようやくお出迎えの準備ができたということかの?」

「何もなくて正直退屈だったんですよねー……どんなのが待ってるかなあ?」

「まったく、この戦闘狂どもが……」

 エレノアさんの言葉を聞いて生き生きしだす、テーガンさんとシェリー。
 それにあきれた様子で、横でため息をつくエルク。ぼくも同感である。

 じゃ、きちんと緊張感持っていくとしようか。
 相手ももうここまでくると、後がない状況にまで追い込まれてるわけだし、本気で抵抗して来るだろう。ここまでの時間を全部準備に費やしてたんだとしたら、それこそかなりの勢いで来るはずだ。
 油断せず、何が起きても対応できるように行こう。



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