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第23章 幻の英雄
第563話 母は強し、ええそりゃもう理不尽なほどに
しおりを挟むSide.リリン
ミナトや他の皆と分断されたんだろうな、というのはすぐに分かった。
見えたのは一瞬だったけど、あの、空間を砕いた先の異空間にいた、馬みたいな龍みたいな魔物……アレが『麒麟』なんでしょうね。ミナトから口を酸っぱくしてその危険度を説明された……通常とは違う空間に住む(らしい)魔物。
直接的な戦闘能力はそれほどでもないらしい――ミナト自身は戦ったことがないからわからないらしいけど、アイリーンがこないだ遭遇して、けどちょっとにらんでやったら逃げ出したって言ってた――この魔物の本当に危険なところは、その驚異的な空間転移能力。
この世界の裏側を通って、一気に何十キロ、何百キロも離れた場所に跳躍することができ……しかもその際、通常空間の近似座標にいる他者を巻き込む……だったかしら。ミナトの説明、ちょいちょい専門用語みたいなのが混じってくるから、理解するのに若干苦労するのよね。
まあ、今まさにその能力に巻き込まれた結果、遠くに飛ばされちゃったんだと思う。
……多分だけど、ミナトも私と同じように飛ばされてるわね。あの時見えた麒麟は2匹だったし……あれって恐らく、『ザ・デイドリーマー』を看破して破壊できる、私とミナトをあそこから引き離すためのものだろうから。
そうして、引き離したミナトと私を、それぞれ各個撃破……するつもりなのかは知らないけど、まあ喧嘩売ってくるなら買うまでよね。うん、難しいこと考える必要ないわ。
……けど、それにしてもよ?
ちょっとこの、今目の前にある……脳が理解を拒むような光景は……一体どういうことなのかしらね?
さっきからちょっと、難しく考えても簡単に考えてみてもわからないんだけど。うう、こういう時、ミナトかクローナあたりがいればな……。
まあ、ないものねだりししてても仕方ないので、改めて目の前の状況を見てみる。
今私は、様々な装備をもった大勢の敵に取り囲まれている。剣や槍、斧やメイス、杖や弓矢……色々な種類の武器を持っていて、多彩な攻撃手段を持っていそうな感じ。
しかもそのどれもが一級品以上のマジックアイテムと見た。見掛け倒しでもなければ、数に頼んだだけ、ってわけでもなさそうね。
まあもちろん、数だって武器の一つとしてるんでしょうけど……問題はそこじゃないのよ。
もっと気になる部分があるのよ、思いっきり。
私を取り囲む敵の数、実に30人以上。
その全員……顔が同じっていう、強烈な特徴が。
……いくら見た目がかわいい女の子でも、こんだけ同じ顔が並んでると、さすがに怖いっていうか、気持ち悪いわ……本当にどういうことなの?
すんごい大家族……なわけないわよね。何人兄弟よ。あ、女だから姉妹か。
仮に姉妹だったとしても、見た目の年齢にまったく差がないなんてのはありえない。亜人種族の長命種でも、ある程度の差はでてくるものだし。
最早これ、量産とかされたみたいな感じよね。
これまた専門用語が絡んでくる説明だったから、うろ覚えというか生半可な知識だけど……これってもしかしてあれじゃない。『くろーん』だっけ?
母親から生まれたんじゃなくて、試験管とか実験器具の中で生まれた、作られた命。
こうして運用しているところを見るに、こういう風に戦わせることを目的として作り出した、ってことなんでしょうね。
……でも、それとはさらに別に気になってることが1つあるんだけど……
(……この子の顔、見覚えあるのよね。たしか……)
「あなた……いえ、あなた『達』かしら? 元ジャスニア官僚の、ドロシー・グレーテル……で、合ってる?」
前にミナトにその存在を聞いた、敵の要注意人物の1人。
『ダモクレス財団』の最高幹部の1人にして、ジャスニアに潜り込んでいたスパイ。その子と同じ顔をしていた。全員。
「ええ、その通りです。かの『夜王』殿にご存じいただけているとは、恐縮です」
50人以上いる、同じ顔のドロシーちゃん軍団のうちの1人が、そんな風に返してくる。
言葉遣いは丁寧だけど、声にはそれほど感情みたいなものはこもってない。いかにもというか……形だけ言いました、って感じね。
まあ、敵に礼儀作法なんて期待しても仕方ないから、それは別にいいけど。
けどこの子、ミナトから聞いた話では……戦闘能力はないはずじゃなかった?
『最高幹部』の中でただ1人、戦闘能力ではない理由で選ばれた存在だっていう話だったはず……なのに、今こうして思いっきり、武器をもって私の前に立ちはだかっている。
実際、こうして相対してみても……全然脅威というか、『強そう』みたいに感じない。
さっきは気持ち悪いって言ったけど、正直、多少強い素人程度が30人集まったところで、全然脅威でも何でもないんだけど……
……そして、実際脅威じゃなかったわけだけど。
えー、遡ること5秒前。
一通り、戦闘前会話っていうの? 雑談みたいなのも終わったタイミングで、目の前にいる30人……とは別にもう10人くらい、いきなり上空から降ってきて私に攻撃を加えてきた。
私の意識がそっち……上の方に向いた瞬間、元からいた30人の方も動いた。
剣や盾を持っている近接型のドロシーちゃんが前に出て構えて、その背後に弓や杖を持ってるドロシーちゃんが下がって呪文を唱え、魔力を練り上げ始める。
さらに、まだ姿を見せてないけど、透明化っぽい能力で隠れてる、2段構えの奇襲要員のドロシーちゃんがいるみたいだった。こっちはまだ見えていないから、ドロシーちゃんかどうかはわかんないけど。
で、そんな、全方位から推定総勢50名のドロシーちゃんズによる一斉攻撃がなされたわけですが……適当に全方位に衝撃波と電撃と爆炎をまき散らしてみたら、それだけで瞬殺できた。できてしまった。
で、今私の目の前にあるのは……さっきまでドロシーちゃんだった、今となっては消し炭っぽい何かになってしまったもの。
……こういう言い方は好きじゃないんだけどさあ。この程度の実力で私を倒そうなんて、いくらなんでも身の程ってものが……
まあ、『非戦闘員の最高幹部』なんて言われつつ、まったく戦えないわけじゃなかったみたいではあるけどね? せいぜいが……冒険者ランクでBとかCくらいかな?
言うまでもないけど、SS相手にBとかCを50人程度集めたくらいじゃ話にならない。ていうか、この程度なら頑張れば今のエルクちゃんでも倒せると思う。
あの子もたいがいミナトに『魔改造』されて強くなってるし、『否常識』な魔法や装備もあるし……さすがに時間はかかるでしょうし、無傷とはいかないかもしれないけど。
そんな風に思ってたわけだけど……そんな中、目の前の消し炭や燃えカスに変化が起こった。
「……おぉ?」
割と原型をとどめているものから、およそ人の形をしてないものまで……それらにぽわっ、と光みたいなものが灯った。
そして次の瞬間、50体全員が元通りに再生してしまったのである。
50人のドロシーちゃんは(隠れてた奴の透明化も解除されてた。やっぱりドロシーちゃんだった)は、何事もなかったかのように起き上がり、また私に向けて武器を構える。
「ふふふ……まさか一瞬で、攻撃する暇すらなく全滅するとはね……。ですがまあ、そのくらいなら想定内です。でも……まだ、まだまだ終わりではありませんよ」
なるほどね。こういう感じか。
数だけじゃなくて不死性に任せて襲い掛かってくるゾンビアタック。私にひたすら攻撃・対応させて疲弊を誘って押しつぶそうって魂胆か。
そういうことができれば、まあ確かに、たいていの相手には有効でしょうね。
ま、私には効かないけど。
つい最近も、同じように不死身ボディ持ってる奴を張っ倒したばかり……ん?
(あの変な白服無精ひげの人斬り……あー、リューベーとか言ったっけ? アレを私が倒したことは、連中も知ってるはず。にも関わらず、同じような手で来るかしら? 数で押せばどうにかなるかと思ったとしても、それ以前に……)
考えてる最中にまた襲ってきたので、今度は風の刃……を1万枚くらい出して全方位に射出。さっきと違って消し炭になっていない分、だいぶ刺激的な感じの見た目になってしまった。
しかし、やはり一拍遅れて蘇る。
……しかも、何かしらこれ? 蘇り方に若干違和感が……治癒というか、再生してるって感じじゃないわね?
バラバラになった肉片から、徐々に体のパーツが、装備ごと復活していっている。そして、それに使われなかったパーツはその場で、血の跡すら残さず消滅した。
……この消え方、見たことある。
『召喚獣』とか、ミナトの作った『人工モンスター』が消える時のそれに似てるんだ。
さらに言えば、復活するときの様子も……ミナトの『人工モンスター』が構築される時のそれに近い気がする。
(いやそもそも、もしかしたらコレ……『復活』じゃないのかも?)
その後しばらく、消し飛ばして、復活して、消し飛ばして、復活して……を繰り返した。
そのうち何回かは、リューベーとかいうのを倒した時と同じように、殺意マシマシで消し飛ばすつもり、再生させないつもりで殴ったり斬ったり燃やしたりしたんだけど……それでも平然と復活(暫定)してくる。
それこそ、一回『ブラックホール』――ミナトが作ったとあるマジックウェポンを魔法で再現したもの――で跡形もなく消滅させすらした。けど復活した。
けどその甲斐あって、大体の仕組みはわかった。
「なるほどね。復活じゃなくてリトライ、召喚じゃなくて投影、か」
「!」
仕組みに気づかれたと悟ってか、50人ドロシーちゃんのうちの1人が、表情をぴくりと反応させた。
……そういえば、さっき喋ってたのも多分、位置取りからして……この子ね。毎度、反応するのは同じ子だけ……なるほど、その理由も合わせて分かった。
要するに、この50人のドロシーちゃんは……実体のある幻、みたいなものなのね。
攻撃できるしこちらの攻撃も当たるけど、その存在は偽物。ミナトの人工モンスターみたいに、死ねば消滅してしまう。
しかしその後、ほぼノータイムで復活させられる。
けどそれは、ここにいるドロシーちゃん達自身にそういう機能があるんじゃない。どこか別な場所から、ドロシーちゃん達を再召喚、ないし再投影してるんだ。
だから私の攻撃でも、完全消滅させられない。50人のドロシーちゃんそのものは倒せても、そのあとまた別個に召喚されているわけだから。
……けど、そんなことができるなら、もっと戦闘能力の高いのを使えばいいと思うんだけど。
何かあるのかしら? ドロシーちゃん達を使わなければならない理由……この方法を使えるのが、ドロシーちゃん達だけだから、とか?
そういえば、こないだの戦いでテレサが生け捕りにした、敵の『最高幹部』の1人……名前もわからないままだったけど、あの女の子もドロシーちゃんそっくりだったのよね。
あっちはテレサ曰く、Sランクくらいの戦闘能力はあったと思う、とのことだったけど。
……これはひょっとして、ドロシーちゃん自身に何か特殊な能力、ないし身の上があるのかしら? 戦闘能力が高いわけでもないけど、こういうトリッキーなやり方が可能な、何かしらの特性が。
あんまり聞いたことない感じの能力ね……ミナトやクローナが喜びそう。
「さすがの慧眼ですね、リリン殿。けれど、それなら余計に分かったはずでしょう? 私は今、ここにはいません。ここでこの分身体を何千回、何万回殺し尽くしても、私は痛くもかゆくもないんですよ……さすがにあなたとて、いない相手を倒すのは無理でしょう?」
「そう思う? なら、そっちこそ想定が甘かったんじゃない?」
まあ何はともあれ、そういう仕組みだってわかったのなら話は早い。
「……?」
私の強気な発言を聞いて、不思議そうな表情になるドロシーちゃん。……さっきからこの子しか反応したり発言したりしないところを見ると、どうやらそのほかのドロシーちゃん達は、自動操縦かあるいは、おおざっぱに動かすことしかできないみたいね、やっぱり。
「どんな仕組みの能力なのかはわかんないけど、そこにいない、ってくらいで私から逃げられると思ったら大間違いよ。私がいったい誰の母親で、誰を今まで生んで育ててきたのか教えてあげる」
言いながら私は、指先から衝撃波を出してドロシーちゃんの1人を貫く。
それももちろん再生(再投影)されてしまうわけだけど……その瞬間、
「……なるほどね。空間そのものがあなたがこの力を使うための導線替わりなんだ。そしてあなた本人は、さっき私達が入ろうとしていたあの城の中にいる」
「……っ……!? なぜそれが……魔力の逆探知はできないはずなのに!?」
「この程度の探知妨害じゃ私は振り切れないわよ。まあ、100歩譲って単なる夢魔ならそうでもなかったかもしれないけど……『邪眼族』の目はね」
「何……!? そういえば、その目……」
普段の私の目は、エメラルドみたいな澄んだ緑色である。前に……そう、ゴートが……私の子供の1人で、セレナの旦那だった子が、そう言って誉めてくれた。
けど今……私の目は、金色に色を変えて光っているはず。
そしてこの目には、ドロシーちゃんがどんな風にして肉体を再生させているのか、そのためのエネルギーはどこからどのようにして送られてきているのか、はっきりと見えるし感じ取れる。
この目は、私の目であって私の目じゃない。
私の子供の1人……『邪眼族』である、フレデリカの目だ。あの子が本気になると、額に開眼する第3の目。尋常じゃない感知能力を持ち、ビーム出したりもできる。あとめっちゃ目いい。
「『邪眼族』……あなたの末娘、フレデリカ・メリンセッサですか!? なぜそんな、異なる種族の能力を……まさか、それもあなたの『ザ・デイドリーマー』で!?」
「いいえ、違うわ。それとはまったく別。これは……」
「これは……?」
「母の愛よ!」
……あら、何よその『ええ……』みたいな目は?
「……本気で言ってます?」
「超本気ですけど何か?」
「いや……いや、いや! ありえないでしょう!? そんな……愛なんて不確かなもので、種族が違う存在の能力を再現して使うなんてことできるわけが……『ザ・デイドリーマー』の恩恵だとか、あるいは……あなたに固有の能力として、生んだ種族の能力を使えるとかいうのがあったとか、そういうあたりの方が納得できましたよ!?」
「ふん。わかってないわね小娘! そんなんじゃ立派な母親にはなれないわよ!」
「当分その予定はありませんけど……いったい私が何をわかっていないと? 少なくとも常識に関してはあなたとあなたの仲間と息子よりわきまえている自信があるのですが」
「エルクちゃんみたいな棘のあるツッコミはやめてちょうだい。……考えてもみなさいな。夢魔族はあらゆる種族との間に子供をつくることができる……それは知ってるわよね?」
「ええ、まあ……それが何か?」
「私の持論だけど、子育てをするにあたって大事なのは、時に背中を押し、時に叩いてでも間違いを正すこと。けど、それはただ単に自分の中の常識や価値観だけに沿って行うべきものじゃない……必要なのは、子供に対する理解よ。こと、異種族の子供を育てる上ではね」
異種族というのは……文字通り、見えている世界が違うもの。
例えば、獣人や体が頑丈な一部の亜人であれば、屋外で寝起きすることにさほど辛さはない。
しかしこれが人間であれば、少しの温度変化でも体に負担になり、体が冷えたり、逆に暑さで、簡単に体調を崩してしまう。
たとえば、雲一つない晴れの天気、人間であれば『いい天気だなー』くらいのもの。
けれど、夜行性の亜人にとっては苦手な、忌々しいもの。『邪眼族』にとっては眩しすぎて、最悪目を傷めてしまう。成長すればそのあたりの制御方法も体得するんだけどね。
吸血鬼に至っては、その強さや体制にもよるけど、最悪死ぬ。クローナみたいにぶっとんだ強さを持ってれば気にしなくてよくなるけど。
そんな風に、種族によって見えている世界、感じ取れる環境は違う。だから、1つの種族の常識に沿って異種族の子育てをしようとしても、うまくいかない場合が多い。
だから私は、子供ができたら……いや、生まれるよりも、なんなら子作りするよりも前から、相手の種族のことを徹底的に勉強して理解する。
相手の見えている世界を知り、感じているもの・ことを知ることができるようになる。その上で……相手の目線に立って、その気持ちを考えながら、必要なことを必要なやり方で教える。
そうやって私は、26人もの子供を育てることができたし……皆、どこに出しても恥ずかしくない、りっぱな大人に育ってくれたのだ。
「いや、一部立派と言っていいのか疑問が残るお方も中にはいますが……」
「いいの。うちの基準ではセーフだから」
「色々台無しです……というかおかしいでしょう!? 相手を理解するという部分には、なんというか、戦闘中に何ですが『なるほど』とか思ってしまいましたけど……どうやってそれで異種族の能力なんてものが使えるようになるんですか!? 話が結局振出しに戻ってしまいましたが。やっぱりありえないですよね!?」
「そんなものアレよ、少しでも深く相手のことを理解しようとする私の母の愛が不可能を可能にしたに決まってるでしょうが! ……まあ言われてみるとちょっと無理がある気がしなくもないし、もしかしたら『ザ・デイドリーマー』が勝手に何かしてくれた可能性もあるけど……少なくとも私は、こういう風にできるようになったのは、私が夫や子供たちを愛するため、まっとうに育てるためだとはっきり言いきれます!」
実際、フレデリカの目だけじゃない。ほかの兄弟姉妹達の技も……まあ、種族的にどうしても無理なものはともかく、大体のものは私も使えるようになってる。
それに種族特有のものだけじゃなく、それぞれが得意な魔法とか技術についても学んだ。
ドレークの空間掌握。
アクィラやブルースの、熱と冷気による超広範囲魔法。
ノエルの剣術や炎熱操作。
ミシェルの『死霊術』。
フレデリカの邪眼。
そして……ミナトの『エレメンタルブラッド』と『魔法格闘術』。後者はそもそも私が教えたものだけどね。
その他いろいろ、時に子供に教え、時に子供から教わってきた。今の私は、自分の人生だけじゃなく、26人の子供達の人生や、さらにその娘や息子―――孫やひ孫達によってまで形作られている。母親とは、そういうものだ!
「だからまっとうに育てるのには失敗して……いえもういいです。いろいろ言いたいことはありますが、ひとまず理解しました。息子さん同様、あなたに常識を求めるのは無駄なようですね……さすがは元祖『否常識』」
はあ~、と大きくため息をついて……気を取り直して、とでも言わんばかりに表情を引き締めるドロシーちゃん。
「あなたが『夢魔』の枠にすら収まらない力を使える……規格外に輪をかけた規格外だというのはわかりました。しかしだとしても……あなたにこの私の、50体の分身を消滅させる術はありませんよ。いや、実際にはもう何度も死んで、消滅しているのですが、そのたびに私は新しいものを作り出せるのですから。……魔力を逆探知されたことには驚きましたが、それで何か状況が変わるわけでも……」
「さあて、それはどうかしらねえ?」
言いながら私は、目の色を緑に戻し……今度は、魔法による収納空間から、あるものを取り出した。
それは、何の変哲もない1枚のカード……のように見える何か。
けど、その実態は……ふふふ。
いぶかし気な視線を向けてくるドロシーちゃんには何も言わず、私は炎を発生させ、そのカードを燃やす。すると、その中から……毒々しくておどろおどろしい、黒紫色のオーラみたいなものがあふれ出してきた。
それを魔法に混ぜ込んで、さっきまでと同じように、全方位に放つ。消し飛ぶ分身達。
しかし数秒後には、何事もなかったかのように、元通りの姿でその場に再生された。
……ただし、その身に黒紫色のオーラを……『邪気』をまとった状態で、だけど。
一度リセットしてから再生したはずなのに、状態異常(?)が治っていないことに、ドロシーちゃんは驚いていた。
しかも、徐々にそれが毒となって自分の身をむしばんでくるんだからね……。
「さっき言ったわよね? 私は時に、子供達から色々と教わることもあるって。ぶっちゃけ、子育てと呼べる期間が終わった後でも、面白そうなものに関しては積極的に聞いてるのよね」
混乱しつつも、今度はドロシーちゃん、分身体を自爆させて(そんなこともできるんだ)今一度再生させた。
しかし、やっぱり『邪気』は消えていない。それどころか、さっきまでむしばまれた部分もそのままになっている。
「その『邪気』って奴さ、ミナトが『ヤマト皇国』とかいう場所に行った時に色々苦労させられた奴なんですって。それを再現して……あーもちろん、『コドク』とかいうのは無しでね? もっと使いやすくしてみたんだってさ。面白そうだったから私も教えてもらったのよ。肉体に直接作用するようなものじゃなく、魂やその存在そのものに結び付いてしまう厄介な……呪いにも等しい毒気。だから、それこそ肉体を全とっかえしようと、その毒から逃れることはできない。物騒だけど面白いとも思ったから、ミナトに教えてもらったの。『式神』の作り方と一緒にね」
『再投影』のカラクリは、おそらくドロシーちゃんという存在そのものが何かしらのマーキングになっているから。
それを目印にして、本体のドロシーちゃんは、分身体を……それこそ、分身の肉体が完全に消滅していても送り出して再構築できる。『完全に消滅』しているように見えても……『何か』は残っているわけね。
それが本当に『存在』そのものなのか、それとも『魂』みたいなものなのかはわかんないけど……いずれにせよ、その戦法も完全じゃなかったみたいね。
さらに、戸惑っている間にもその身を蝕んでいく猛毒……分身体は肉体としては強力にできていても、それをはねのけることはできなかったみたい。
そう遠くない未来、肉体そのものを保てなくなって、自壊するか……あるいは、暴走するか。
それに、さっさと接続を切らないと……あなた達が持っている何かしらの繋がりを介して、『邪気』が逆流して、本体のドロシーちゃんも危険かもね?
そんなことを考えている私の目の前で、50人のドロシーちゃん達が一斉に、塵になって消えた。
ふむ、これは……毒で消滅したのか、あるいはラインを切られて消滅したのか……多分後者ね。なんか、さっきまでとは空間そのものが雰囲気が違う感じだし。
とりあえず、空間に残った『邪気』は消しておく。
同時に私は、収納空間から、光り輝く1枚の羽根を取り出し、それに魔力を流す。
すると……
―――ピカッ、と目の前で何かが光った……と思ったその瞬間には、私の目の前に、私のペットの1匹……『ストーク』が飛んでやってきたところだった。
この子お得意の『光速移動』。そして、この子は抜いた羽のありかを感知できる。魔力を流せばそれが目印になって、こうして駆けつけてくれるってわけ。
さっきまではあの妙な空間が邪魔してて気づけなかったみたいだけどね。
まあ、空間そのものをさっさとぶち壊してれば、そっちの方が早かったのかもしれないけど……敵の手札も知れたことだし、まあいいでしょ。結果オーライ。
さて、ストークに案内してもらえれば、アイリーン達がいる、元居た場所には戻れるからいいとして……ミナトはもう、終わったかしらね? あの子の方に行ってるであろう刺客の相手は。
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