魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第548話 宇宙へ

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 仮に、だ。
 『渡り星』に財団の拠点、あるいは本拠地があったりするのだとすれば……おそらく防衛のための戦力もそろってるだろうし、そもそもあそこ、『神域の龍』のホームでもある。

 無数のドラゴンに、生き残りの幹部や『最高幹部』達。あるいは、それに比肩するような、こちらの情報にない戦力……そして何より、財団総裁である『バイラス』。
 恐らく、未だかつてないレベルの……決戦と言っていい戦いが待ち受けているだろう。



 ……だってのに、なんかもうどうしようもないくらいに楽勝ムードなんだよなあ……。
 いやまあ、一緒になってのんきに準備進めてる僕が言えたことじゃないのかもしれんけど。



「ミナトさん、メルディアナ殿下から、今計画してる『渡り星』の探索計画について、国の方でも調査を進めたいから一枚かませてくれないか、という打診の手紙が来てるんですが……」

「あーごめん、そういうのパスで。いろんな利権とかしがらみとか出てくるとめんどくさいから。依頼だとしても無理だって伝えて」

「あ、はい、もしそう答えられた場合には『せめてどういう計画してるかだけでも教えてほしい』『有力な情報や技術が見つかったら買い取るので交渉の場を設けてほしい』っていう手紙が同封されてまして……」

「周到だなおい」

 なんか一昔前のゲームブックみたいな手紙が送られてきてるみたいだ。どうやら僕の、ないし僕らの反応は、第一王女様も予想済みだったようである。
 最初の手紙の内容は、聞き入れられたらそれはそれでラッキー、くらいのものだったのかも。

 まあ今言った通り、国とか権力が絡んでくると面倒くさくなるから、却下させてもらうけども。

 今回の『渡り星』探索は、純粋に僕らとしては、冒険者として未開の地を探索することを楽しむために行うつもりだしね。

 まあ他にも、多分そこにいるであろう『ダモクレス財団』ぶっ飛ばしたり、あとついでにテオの里帰りみたいな、副次的な意味合いもあるっちゃあるけど。

「『財団』の方はおまけなのね……」

「大陸中にあんだけの騒動を引き起こした連中に関する事案なんですけどね……」

 エルクとナナがそんな風に言う。呆れ交じりの視線をこちらにやりながら。
 ちなみにさっき手紙のことを読んで聞かせてくれたのはナナの方である。

「いいんだよそのくらいで。まあ、ヤバい奴らだってのはわかってるけど……だからって僕らがその対処役に名乗り出なきゃならん義理もないんだし。連中のバカに付き合うような形でこっちの時間や労力を使うとか勘弁だし」

 『ヤマト皇国』でカムロを相手にした時は、これ以上続けるなら僕が相手になってやる!的な啖呵を切ったりしたけど……今思い返せば、あれもだいぶ勢いだったな。
 らしくない、カッコつけたことを言ったもんだと、今になって思う。

 別に僕の中には、正義感とか義侠心みたいなものは全然なくて、迷惑だし邪魔だと思ったから敵は倒す、くらいの認識なんだよね、いつでも、どこでも。

 まあ確かに『ダモクレス財団』は、その目的からして、ほぼ確実に僕らも巻き込んで迷惑かけてくる連中だから、だったらやられる前にやってやろうか、的な感じには思ってるけど。
 それでも、熱血主人公みたいなヒロイックな思想は、僕の中にはないのだ。僕が動く同期は、僕がそうしたいと思ったからという、欲望純度限りなく100%である。

 今回の『渡り星』探索だって、母さん達がそうであるように……僕にとっても、道のダンジョン……どころか惑星?なわけだし、面白そうだから行くだけだ。
 そこにたまたま、敵がいるかもしれない。けど、そんなのは僕らが予定を変更する理由にはならない。襲ってくるなら、返り討ちにして消し飛ばすまで。

 そのためにも……っと、今更だけど僕は今、その『渡り星』へ行くために必要な作業の真っ最中である。

 具体的には、こないだちらっと考えた通り、『オルトヘイム号』に宇宙空間の航行機能を持たせるべく改造を施している。マジックアイテム改造用の超大型作業スペースで。

 多重構造の機密フィールドを発生させて、船内、および甲板に、問題なく人間が生存可能な空間を安定して保持させる……まあ、詳しく話すと長くなるので省くが、要するに『オルトヘイム号』は、陸海空『宙』対応の機体として生まれ変わるのだ。
 そのために今、必要な機能を片っ端から埋め込んでいる最中なのです。

 こればっかりは、いざやってみて『ダメでした』じゃシャレにならないので、テストとか繰り返して慎重にやっていくつもりだ。それなりに時間もかかると思う。

 なので必然、実行はそこそこ後の方になると思うので……それまでなら、今回手紙が来た第一王女様達と面会して、色々話し合ったりとかもできるだろう。
 まあもちろん、こっちの時間が空いた時にうまく予定入れられれば、になっちゃうけど。

「当然のように一国の王族より自分達の予定の方を優先する当たり、私達もなんというか……来るとこまで来た感じあるわね……」

「確かに……軍人時代だったらそんなの考えられませんでしたけどね……」

 これまた呆れ交じりに、エルクとナナがそんな風に言ってるのが聞こえてきた。

「ごめん2人とも、用事がそれだけなら出ててもらえると嬉しいんだけど……」

「あ、作業の邪魔でした?」

「いや、別に邪魔じゃないけど……結構危険な作業とかもあるからさ。ちょっとミスると普通に致死量の汚染魔力とか熱波とか発生したりするから。生身の人間がいるには危ないの。ここ」

「……あんた達は生身で作業してるように見えるんだけど?」

「そこはほら、僕と師匠だから」

「あん? 何か言ったか弟子?」

 と、今まで話に加わりこそしなかったけど、同じように作業してくれてた師匠が、甲板の上から顔を出して聞いてきた。何でもないです、続きどうぞ。

「まあ……そういわれて納得できちゃうんだけどね」

「ミナトさんなら大丈夫だろう、って謎の信頼というか、安心感ありますもんね……じゃあミナトさん。私達、先に戻ってますから。クローナさんも、お昼ごはんまでには戻ってくださいね?」

「おーけー。あ、手紙の返事適当に書いといてね」

 そんな感じでナナ達が出ていくのを見送り……さて、作業再開。

 
 ☆☆☆

 
 そんな感じで午前中いっぱい作業を進め……きりのいいところで、昼ご飯を食べにホームまで戻った僕と師匠。
 午後からも作業なので、汗はさっとタオルで拭くくらいにしておいて、ターニャちゃんとシェーンが作ってくれたサンドイッチ(具材、色々)を食べる。

 食べながら、ナナの報告の続きを聞いたりする。

「今現在、面会の申し込みが来ているのは、ネスティアからメルディアナ殿下と、ジャスニアからエルビス殿下、シャラムスカの聖女アエルイルシャリウス……もとい、ネフィアットさん、フロギュリアからはメラディールさんですね」

「ジャスニアは……エルビス王子だけじゃなくて、ルビスも一緒に来そうだね、多分。ニアキュドラからは来てないの?」

「今のところは。来るとしたら……多分、ミナトさん専門の外交窓口になってるレジーナさんでしょうけど……ああそれと、メルディアナ殿下からは別件でも協力要請が来てました。セイランさんの件です」

「あー……なるほど、そっちね」

 ナナの口からその名前を聞いて、僕は、この一連の騒動が始まる前に会ったっきりの……一応、知人というか顔見知りと言っていい人のことを思い出した。

 シン・セイランさん。元・AAAランクの冒険者であり……これも元だが、『ダモクレス財団』やその他の裏組織に所属していた多重スパイ。
 その正体は、数十年前に『チラノース帝国』によって滅ぼされた亡国『リャン王国』の王族最後の生き残り。

 復讐のために暗躍し、少し前の『シャラムスカ皇国』での騒乱の際に、キーアイテムになる『血晶』を奪おうとしたものの、失敗。
 両腕を失うという大怪我をした上で拘束され、今はネスティアの捕虜になっている。

 そのセイランさんだが……今回、『チラノース』の立て直しのために、司法取引みたいなのを持ちかけられているらしい。

 今言った通り、彼女は亡国の王族なわけで……その血筋を、チラノースの統治に利用するつもりなんだとか。

 今現在、あの国は絶賛無政府状態である。今回の騒乱のド頭にバカやったことで、国の首脳陣の大半が一気に死んだ。
 生き残ったわずかな連中も、責任逃れのために逃亡し雲隠れ……しようとしたものの、落ち武者狩りよろしく、食うに困った平民に狩られたり、某革命家の青い炎で焼かれたりしたそうな。

 ゆえにあの国、国家中枢レベルでの政治ができる人が残っていない。誇張でもなんでもなく、ただの1人もそういうのができる人がいない。
 
 そんなんじゃ国として立ちいかなくなり、大量の難民やら野盗やらが生まれてしまう。
 そんなことになれば、国内が大荒れになるのはもちろん……国境を接している国にとっても、完全に貰い事故みたいな迷惑をこうむることになるわけで。

 ……まあ、あの国、周りを結構な範囲『危険区域』に囲まれてるから、難民が国外に脱出するのもそもそも難しいかもしれんけど……それはそれとして。

 この機会にあの国、外部から手を入れて正常な形に作り直そうってことで、『隣国』であるネスティアとフロギュリアを主体にした統治府が形作られるらしいんだが、それはそれとして、一応名目上だけでも、正当な『統治者』を擁立できれば、色々と楽なのである。

 そんで白羽の矢が立ったのが、セイランさんだったわけだ。
 彼女は、チラノース帝国によって滅ぼされた……しかし、名目上は『統合された』と取り繕われている、『リャン王国』の生き残りなので、かなり強引ではあるものの、『チラノース』の旗印として使えないこともないようなそうでもないような……って感じなのである。

 まあ、他に候補もいない、そもそも文句言う人もいないし言っても仕方ない状態だから、ホントに名前だけの神輿になる予定だけども。

 それでも仮にも、公然の秘密として『傀儡』になってもらうとしても、一応は見た目その他は整えておこうってことで……彼女の治療を僕がすることになったのである。

 さっきも言った通り、彼女、腕が両方、肘のあたりから吹っ飛んでるので。

 欠損を直す医療技術なんてのは、この世界には存在しない。
 いやまあ、例外もあることはある。時々古代遺跡から出てくる、わけのわからないとんでもない秘薬の類とか。

 そういうのを除けば……現状、人の手で欠損を再生させられる確かな技術が確立しているのは、僕んとこだけなので、僕がやることになったわけだ。

 今回の場合は、サクヤの腕を再生させた時よりも楽だと思う。まだ傷がふさがり切ってない、あるいは間もない段階だから。
 それでも負担が大きいから、治癒自体はゆっくり進めていくことにはなるけどね。

 近いうち、ここに護送されてくるはずなので、彼女が来たら治療開始だな。準備はしておこう。

 そんなことを考えたり、話したりしている間に、食べ終わった。

「ごちそうさま、と。じゃ、また僕ドックに行くから。何かあったら呼んでね」

「はいはい、ご苦労様。作業は順調なの?」

「もうそろそろいい感じのとこまで行けてる。こないだゼットがほぼほぼ宇宙空間まで行ってジャバウォック消し飛ばしたじゃん? その時のデータをフィードバックして、理論上は、今やってる部分の改修が済めば、宇宙空間でも動けるようになるはず。明日か明後日当たり実地試験するよ」

「……それ、あんたも行くのよね? 大丈夫なの? その……安全面とか」

「大丈夫だとは思うよ? 万が一何かあっても……多分僕、『ナイトメアジョーカー』の状態でなら、宇宙空間でも短時間なら平気だと思うし」

 実際こないだ、僕も宇宙空間すれすれのところまで飛んで(あるいはもうほとんど行ってたかもしれないけど)、ハイロックにとどめさしたりしてたし。

 いやー……さすがに僕も、生身で宇宙空間に出られるようになるとは思わなかったな。
 この世界に転生してからこっち、変身アイテム作ったり荷電粒子砲作ったり縮退炉作ったり対消滅炉作ったり、色々あったけど……よくここまで来たもんだ。

 もうさすがに色々、来るところまで来た感あるけど……次は、そうだな……

(……宇宙の次は……時間でも超えてみる、とか?)

「ろくでもないこと考えてる顔してるわね、やめなさい」

 ぴしゃりと言ってくるエルク。うちの嫁のツッコミは今日も絶好調だ。



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