魔拳のデイドリーマー

osho

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第22章 双黒の魔拳

第543話 双黒の魔拳

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 飛び込んできたハイロックに対し、ミナトはこちらも地面を蹴って前に出る。
 そして、ミナトが腕を引いて、正面への正拳突きを放つ……より先に、腕を引いた段階でハイロックはれを見切り、射線から外れていた。

 そしてそのまま側面に回り込み、伸び切った腕、あるいは肘を破壊するように回し蹴りを放とうとして……次の瞬間、

「ミョルニルフィスト!!」

 ミナトのパンチと同時に、周囲にすさまじい電撃が放たれ……その余波に当たってハイロックはたたらを踏んだ。

 フェイント……ではない。ミナトの今の、電撃をのせた拳は……確かに正面から来るハイロックを迎撃するための、正面へ向けての攻撃だった。
 しかし、込められていた魔力が、そしてそれによって発生した電撃があまりに膨大だったために……その余波だけで、カウンターを狙ったハイロックが制される形となった。

 仮に、あの拳が直撃していれば……その破壊力は想像を絶するものだったはずだ。
 下手をすれば、防御していたとしても、それを抜かれて一撃で勝負がついてしまっていたかもしれない。そう、ハイロックが戦慄するほどに。

 だが、それでもハイロックは、動揺こそすれど、動きも、心も乱すことはなかった。

(破格の攻撃力を持っているのはもともとわかっていたことだ。いなせそうなものはいなし、防げそうなものは防ぎ……そうできなければ回避に徹する……それだけでいい。この程度の死線は、今までにも何度も……っ!)

 今度はミナトは、中段の回し蹴りでハイロックを狙う。
 それを腕で防ごうとし……しかし、直感的に『それではだめだ』と判断したハイロックは、後方でも側面でもなく……あえてミナトの方に飛び込む形で、すれ違って後ろに抜けることでそれを回避した……が、

「トルネードギロチンキック!!」

 その直後に放たれた回し蹴りは……目で視認できるほどに圧縮された暴風をまとっており……しかも蹴りと同時に――より正確に言えば、ハイロックの胴体が一瞬前まであった場所を、ミナトの足が通過した瞬間に――その風が炸裂。
 大爆発のような暴風が一瞬にして周囲を席巻し……しかしそのさらに直後、今度はその風が渦を巻き始めた。

 まるで小型の竜巻のように轟々と音を立て、外側から内側に強力な吸引力を発生させる。その中心部は、『台風の目』のように無風状態……ではなく、想像を絶する数と密度の風の刃で、全てが切り刻まれる空間と化していた。

 とっさにハイロックは地面を蹴って大きく離れることでその影響圏から逃れることができたが……ミナトの体越しにその殺人旋風を見て……ミナトの狙い、ないし意図に気づく。

「……なるほどな。技術では勝てないとみて、力押しに切り替えたか」

「『原点回帰』って言ってほしいな。素のフィジカルを強化して、さらに属性魔力を載せて思いっきり殴る蹴る……この『魔法格闘術マジックアーツ』は、僕が冒険者になりたての頃からの基本スタイルなんだから。今やってんのは、ちょっとばかり……スケールは違うけどね!」

 逃げた先の自分を改めて視界にとらえ、今度は両手の拳にそれぞれ膨大な魔力を握りこみ……右手に炎を、左手に雷を迸らせるミナトを見て、ハイロックは声に出さずに続けた。

(ありえないほどの魔力量に物を言わせて、攻撃全てを、一撃でも直撃すればそれで勝負が決まるような威力にして……かわされたり防がれたりしたとしても、その余波だけで痛打になりうるようにして……なるほどな、これは……一見すると当たれば勝ちの博打だが……その実、持久戦か)

 ハイロックの種族である『スローン族』は、身体強度において他のどんな種族とも比較にならないほどの強さを誇り、数百年にわたって鍛錬を重ねてきたハイロックの肉体は、たいがいの物理攻撃や魔法攻撃をはじいてしまうほどの強度に至っている。

 しかしそれでも、完全な耐性を獲得しているわけではない以上、一定以上の出力で放たれるそれを受ければ、少しずつでもダメージは通る。
 そして、『塵も積もれば山となる』の言葉通り、それを繰り返せば、いずれはその命に届きうるダメージもなるのは間違いない。

 ハイロックの察した通り、ミナトの今の攻撃はどちらも、直撃すれば即死、掠っただけでも重症、余波に当たっただけでも無視できないダメージになりうるものだった。
 そんな攻撃を、1発2発ならともかく……仮にここから100発200発と叩き込まれれば、さばききれずにいずれはその牙にかかるか、そうでなくとも蓄積したダメージにむしばまれ、食い破られる危険がある。

 そして、それに輪をかけて厄介なのは……ミナトがそれらの攻撃を、どう打ち込んでくるか、という点だった。

 今度はミナトの方から動く。
 地面を砕く勢いで強く蹴り……それに加えて、『雷』の魔力を用いて一瞬で超加速。

「レールガンストライク!!」

 膨大な電撃を握りこんだ左拳を、言葉通り『超電磁砲レールガン』の速さで放つ。

 その速さから、『直線以外の攻撃はない』と看破したハイロックだが……普段の彼なら、わずかに半歩動くだけでかわせるそれを、明らかに1歩以上の距離、大きくずれてかわす。

 そして、それでもその際に発生した、放電された高電圧と、音速突破による衝撃波ソニックブームからは逃れられなかった。

 ダメージによってできる一瞬の隙を見逃さず、今度はミナトはもう片方の右手の拳を振りかぶる。

 体がしびれながらも、ハイロックはまたしても転がるようにして大きく回避し……直後、一瞬前まで彼が立っていた場所に、ミナトの拳が突き刺さり……

 火山の噴火のような爆発と、爆炎の奔流が吹き上がって……熱風がハイロックの肌をじりじりと焼いた。

「……っ……無茶苦茶な……!」

「あっはっは、今更今更ァ!」

 今までのハイロックの長い人生の中で……威力だけを見れば、ミナトのそれに比肩するそれを操って襲ってきた者は、実は何人も、あるいは何もいた。
 その時代の頂点に立つような冒険者や、裏社会の実力者。ドラゴンのような強大な魔物……色々と上げることができる。

 しかし、それらとの戦いにもハイロックは勝ってきた。

 時に正面から力で食い破り、時にその戦術眼で相手の手を読んで裏をかき、時に『柔よく剛を制す』形で相手の攻撃を受け流すなりなんなりして無効化してみせた。

 だが、それら一切の、行ってしまえば『小細工』も……ある程度は力が近い範囲にあるからこそ通用するものだ。

 あまりにエネルギーの規模が違いすぎる場合、『柔』だの『剛』だのの問題では最早なくなる。
 小手先の技術で……それがいかに練磨されたものであったとしても、『技術』で対応できる範疇を明らかに超える。

(まるで、局所的な災害だ……それが指向性を、ないし意思をもって私という個人を殺そうとしてくる……『災王』とはよく言ったものだな)
 
 ものものしい言い方だが、やっていることはいたって単純。ただ、相手が対応できる限界以上の力を込めて攻撃を放つ。それだけだ。
 ただ、その規模が、やり方が、明らかに……ハイロックの言う通り、『生物として間違っている』領域に踏み込んでいるというだけで。

 次は何が来るかと身構えれば、今度はミナトはまた、手に何かアイテムのようなものを取り出して構える。

 小ぶりな、しかし武器としては最上位といっていい性能を持つそれは、硬質な水晶の刃を持ち、持ち主の魔力を増幅させる力を持つ短剣『プリズムブレイザー』。

 クロスレンジに飛び込んで切り付けるミナト。
 受け流すか、手に取って奪い取るかしようとハイロックが身構えた瞬間、その水晶の刃が淡い緑色に発光し……魔力で形作られた光の刃が伸びる。短剣はたちまち、長剣、いや大剣になった。

 しかもそれを豪快にふるったと同時に、十重二十重に風の刃が発生して、光の刃と同時にハイロックを襲う。
 それらにも素早く反応し、どうにかいなし、あるいは防御してしのいだハイロックだったが、ミナトの攻撃はさらに続く。

 手にしていた短剣がふっと消え、今度はその手に、深紅の刀身を持つ炎の魔剣が現れる。

 横一線に振りぬいたその軌跡に沿うように、熱風と灼熱の炎が怒涛のように吹き上がってハイロックを襲う。直接的な斬撃をかわしても、決して小さくないダメージが降りかかる。

 さらにその、目を開けているのもつらい爆炎の壁を貫いて……今度は超圧縮された水の弾丸が殺到した。

 その向こうに見えたミナトは、いつの間にか次なる武器……拳銃のようなそれを構えていた。
 ミナト自身の膨大な魔力を吸って、分厚い金属板も紙同然に貫く威力の水弾が連射され、これもハイロックの肉体強度をもってしてなお、軽視できないダメージを刻んでいく。

(っ……これ以上は、さすがに……!)

 受け、守るばかりではいずれ限界が来るのは明白。そう考えたハイロックは、水弾の連射をどうにかかわし、受け流しながら前に出る。
 しかし、素早く懐に潜り込んで反撃の拳をふるった瞬間、その拳がミナトに届く前に……確かにその場にいたはずのミナトが……陽炎のように揺らいで、消えた。

「何……!?」

 さすがに驚いて一瞬硬直するハイロック。

 その瞬間、その足元に絡みつくように、大量の『砂』がまとわりついた。

 一見ただ邪魔なだけに見えるその砂はしかし、足場を不安定にするために動きづらく、無理やり振り払おうとしてもどこまでもついてきて機動力を奪う。『硬さ』で拘束するのではなく、『動きづらさ』で妨害してくる。前者であったなら、破壊は簡単だっただろうが。

 ハイロックはそれにいらだつよりも、この状態でミナトの次なる攻撃が飛んでくることを危惧した。体の自由を奪って回避をさせなくしたとすれば、ここぞとばかりに攻めに転じるだろうというのは想像に難くない。

 そして、それは現実のものとなり……その真上に出現したミナトが、上空から弓矢を構え……氷の魔力でできた矢を連射して降り注がせる。

「ぬ……おおぉぉぉおおっ!?」

 豪雨のごとき勢いで降り注ぐ氷の矢は、単純なダメージこそそこまでではないものの、ハイロックの体表で氷結し、体温を奪い、さらに動きを阻害していく。
 腕を、脚を振り回して粉砕しようとも、それで飛び散った氷の粒があたりに舞い散って極寒の冷気となり、同じように体温と体の自由を奪う。

 ハイロックの体表面のほとんどに霜が降りるほどになって、ようやくそれが降りやんだかと思えば……今度は真正面から巨大な剣と盾を構えたミナトが突貫して来る。

 動きの悪くなった手足に鞭打ってハイロックはそれを迎撃せんとし、斜め上から袈裟懸けに振り下ろされた剣を、肉体強度にものを言わせて腕で受け止める。

 が、その直後、反対側からまるで鈍器をふるうようにたたきつけられた盾の一撃を防ぎきれずに吹き飛ばされ――ご丁寧にその瞬間に砂による足の拘束も解除された――大きく後ずさりしてたたらを踏む。

 そこに再び振るわれる大剣……かと思えばそれは当たる直前で、それを手に持っていたミナトごと消失し、その向こうから突如現れた、大きなバイク型のマジックアイテムに乗ったミナトが突っ込んできてそのままハイロックをはねた。

 吹き飛ばしたハイロックにさらに追いつき、急ブレーキからの後輪を浮かせた、いわゆるジャックナイフターンを決めてハイロックに叩きつけ、さらに追撃とばかりに、車体に搭載してあった機銃から魔力弾を連射して撃ち込む。

 予測不能の連続。痛打に次ぐ痛打。
 数百年の研鑽で作り上げた鋼の肉体をもってしても耐え切れない猛攻に、ハイロックもさすがに本格的に余裕をなくし始めた頃になって、

「こういう言い方ってなんだけどさ……相手が頑丈だと、戦いが長引いてくれていいな」

「……貴様は戦闘狂の類ではなかったと記憶していたが……それとも、相手をいたぶって楽しむ趣味でもあったのか?」

「うんにゃ、違う違う。単に……前フリは長くて丁寧に、いろいろやっておいた方が盛り上がるっていう……ただの特撮脳だよ。んでまあ、そろそろ場もあったまったと思うし……」

 言いながら、またがって乗っていたバイクを消し、地面に2本の足で立つミナト。

 8種の魔力を載せた『魔法格闘技』に、自ら作ったいくつものマジックアイテム。
 千変万化の攻め手を見せたミナトが次に取り出したのは……今までに見た、どれとも違う武器。

 それは、手甲だった。

 黒をメインカラーに、金色の装飾や縁取りがあしらわれた、ミナトがいつも身に着けているものと似たカラーリングのそれはしかし、普段使いのものとはデザインが大きく違っていた。サイズはやや大きめで、ところどころ棘や刃のような鋭角な装飾のついた、攻撃的な形状をしている。

 今つけている両の手甲を取り外すことなく、ミナトはその上から新しい手甲を装着する。

 その瞬間、手甲に魔力が通り、金色の装飾がそれに反応して輝きを放ち始める。

 その一部は、先ほどまでとは少し違う『金色』……いや、『琥珀色』の輝きを放っていた。

「ちょうどまあ、こういう場面にふさわしい武器も、こないだ完成したんだよ。ウェスカーとの戦いでは出番来なかったけど……あんたが相手なら、お披露目には申し分ない」

 固く握りしめられた拳。それを覆う、黒と金、そして琥珀色の手甲。
 魔力がほとばしり、その黒いボディが凶暴な輝きを放ち始める。

 その不思議な黒い輝きは、ミナト自身の力と……その好敵手として、ともに高めあっていた黒い龍……『ディアボロス亜種』の、ゼットの力。
 2つの力、2つの『黒』が込められた輝きだった。

「『ディアボロストライカー』……こいつで、決める……!」

 2つの『黒』の輝きは、拳のみならずミナトの全身を覆うに至り……その背中に、琥珀色と黒紫の2つの魔力でできた光の翼が現れる。
 それを羽ばたかせ、ミナトは猛烈な勢いでハイロックめがけて突撃する。

 ハイロックはこの、ミナトが手甲を取り出してから装着・起動するまでの、戦いの中において決して短くはない時間の中で……魔力を体中巡らせて、わずかではあるが強化と回復を進めていた。

 その甲斐あって、先ほどまでよりも痛みは格段に引いており、体も動く。

 直感的に『あの手甲はまずい』『これ以上は長引かせられない』と悟ったハイロックは、その場で体を限界まで強化し、けりをつけるべく、クロスカウンターにする形で拳を突き出し……

 直後、爆風が全身に叩きつけられたかのような、とてつもない衝撃が正面から襲い掛かり……踏ん張ることも受け流すこともできずに吹き飛ばされた。
 ミナトの拳が突き出された、その瞬間に発生した衝撃波が、クロスカウンターが成立するよりもはるかに早く……ハイロックとミナトの拳同士が触れる暇もなく炸裂していた。

 『ディアボロストライカー』の純粋な性能。
 『ナイトメアジョーカー』に至ったミナトの極限の身体能力。
 『魔法式縮退炉』と『対消滅魔力炉』の術式から生み出される無尽蔵の魔力。
 そして、それら全てを底上げする『ザ・デイドリーマー』の理不尽極まる力。

 それらが合わさって極まったその拳は……当たってもいない、というより、当たる前から全てを粉砕して吹き飛ばすだけのとてつもない力を発揮し……その一撃の余波は、『隔離空間』全体を揺るがし、亀裂を入れた。

 今の一撃――当たっていないのにそう言っていいものか――で意識が飛びかけたハイロックだが、体勢を立て直すも何もないままに、吹き飛んだ彼に一瞬でミナトが追いつく。

「んもういっぱぁつ!!」

 小細工など不要とばかりに、その左の拳が振るわれ、ボディをとらえる。

 内臓を破壊し、肋骨を砕き割り……さらにその勢いはハイロックを打ち上げ花火のように垂直に吹き飛ばし……その衝撃で隔離空間が粉々に砕け散った。

 通常空間に復帰し、空高い位置まで吹き飛ばされたハイロック。こんどは衝撃が大きすぎるがために、逆に意識を手放せない。

 それにまたしてもミナトは、その場で跳躍して追いつくと……アイアンクローの要領でハイロックの頭をガシッとつかみ、そのまま勢いを緩めることなくぐんぐん上昇していく。

 それはすでに、跳躍ではなく飛翔だった。ミナトの背中に生えた琥珀色の魔力の光翼が輝き、たやすく重力を振り切って舞い上がる。

「ッ……ぐ、があぁぁあっ!?」

 メキメキと頭蓋骨が悲鳴を上げる音を聞きながら、ハイロックはミナトにつかまれたまま、雲を突き抜け、体に霜が降り、ついには宇宙空間一歩手前の、呼吸などほとんどできないほどの高さにまで到達……そこで初めて、放り投げられるようにハイロックは解放された。

 しかし、十数秒ぶりにミナトの手のひら以外のものを目に移したハイロックは……その瞬間、この戦いの終わりを悟る。

「『原点回帰』のついでに、こんなもの作ってみた。最後だし、せっかくだから見ていけよ」

 自らの正面で、ミナトは浮遊したまま、もはや形容するのも難しい、ありえないほどの魔力を練り上げている……かと思えば次の瞬間、不思議なことが起こり始めた。

 黒と琥珀色の手甲に覆われた両手。
 右と左、それぞれに……異なる色の……否、異なる『黒』の魔力が練り上げられていく。

「右手に悪夢を」

 右手には、黒と紫色の混じった……ミナトが生み出す『闇』に由来する黒。
 周囲の空間全てを塗りつぶして取り込まんばかりに強烈な闇の力が渦巻く。

「左手に龍を」

 左手には、黒と琥珀色の混じった……ゼットのそれをほうふつとさせる黒。
 鮮烈かつ凄絶なまでの純粋な力。空間が悲鳴を上げ、今にも張り裂けそうに鳴く。

 2つの黒を拳に握りこんだかと思うと、ミナトはその手を、胸の前で合わせてガツン、と打ち鳴らし……その瞬間、2つの黒が融合する。
 金色、あるいは琥珀色と、黒と紫色の混ざり合った凄絶な輝きとなる。

「『魔法格闘術マジックアーツ』……奥義『双黒魔拳』」

(……やはり……貴様は、危険、だった……総裁、に……合わせる、べき、では……)

 ミナトを……その拳を中心に渦を巻き始め、膨張と収縮を繰り返し、ありえない密度の魔力の台風のように……そしてそれは、やがて球体となる。
 まるで黄金と漆黒の混ざった太陽を身にまとっているかのようなミナトの姿は……ハイロックの数秒後の結末をこれ以上なく雄弁に語っていた。

(……閣下、申し訳……ありませ―――)

 薄れゆく意識の中、もはや声も出せないハイロックは、その心の中だけで、忠誠を誓った主君に別れを告げ……



「ツインダークネス……ビッグバンナックル!!」



 それはハイロックの目に見えた幻覚か、それとも実際に浮き出していたのか。
 黒い龍の幻影とともに放たれたミナトの拳は、ハイロックに直撃した瞬間……握りこんでいた魔力の全てを解き放つ。

 空気も、塵も、水も、空間そのものすらも押しのけ、全てを消滅させながら広がっていく漆黒と黄金の大爆発は、まるで禍々しい太陽……否、超新星爆発、あるいは、その名の通りの天地開闢のようにその周囲を照らし……その輝きは地上からも観測可能なほどだったと、後に語られる。

 宇宙空間の闇を押しのけて真昼のように照らし、その衝撃波は、眼下に見えていた雲にまで届いた。『ネスティア王国』北部上空に漂っていた雲の大部分が、その余波で吹き飛ばされて千々にちぎれて消えていった。

 局所的ながら、天文学で推し量る必要があるレベルの破壊が吹き荒れ……ほんの十数秒ほどで収まった後、その場には……拳を振りぬいたミナト以外、何も残されてはおらず……直前までとはうってかわった静寂だけが、その場を支配していた。



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