魔拳のデイドリーマー

osho

文字の大きさ
上 下
503 / 611
第22章 双黒の魔拳

第503話 常識破壊と、見え始めた輪郭

しおりを挟む


 最後に使ったのは、『ヤマト皇国』で、サクヤの治療をした時だっただろうか。
 『他者強化』……僕が使える、自分以外の身体能力を一時的に強化する技法……の、皮をかぶった、僕が使える中でも屈指の『否常識魔法』。

 僕が作り出した『魔粒子』を、手をつなぐなり触れるなりして相手の体に流し込むことで、身体強化の魔法と同じように、相手の身体能力を強化することができる。

 しかし、これにはそれ以外にもいくつか副次的な効果がある。

 体内に注ぎ込んだ『魔粒子』を介して、相手の体の状態や、体内の魔力の流れなんかをスキャンすることができる。

 また、強化されるのは身体機能全般なので、単に身体能力が上がるだけでなく、代謝や治癒力、その他種族特有の能力なんかも強化される。種族差や個人差のある強化ではあるけど。

 そして、最も重要なのが……この技を使うと、相手の眠っている『才能』や『潜在能力』を強制的に覚醒させることができるということだ。
 これは正直、僕も作った当初は気付いていなかった能力なんだけど。

 しかもコレ、相手によってはだが……筋力や持久力、魔力といった、単純な能力が強化されるだけにとどまらない。
 エルクを『ハイエルフ』の先祖返りとして覚醒させ、シェーンの『マーマン』のクォーターとしての能力を目覚めさせた。ミュウの『ケルビム族』としての使える能力を増やしたり、記憶喪失だったナナの記憶を取り戻させたりもした。

 『邪香猫』のメンバーのほとんどは、この『他者強化』を、何らかの形で受けたことがあり、その結果として能力の底上げや新能力の覚醒という恩恵にあずかっている。
 コレを使って、今回も強くなれないか……というのが、僕のアイデアだ。

「でもミナト、それって……前にもう『他者強化』されたことがある人には無意味なんじゃない?」

「確かに……もう新たに覚醒するような潜在能力とか残ってないわよね、それだと」

 と、エルクとシェリーの指摘。
 それは確かに僕も考えた。前回既に、眠っていた『潜在能力』を目覚めさせ、今現在もうそれを使っている人からしたら、言ってみればもう引き出しの中身がないような状態だからな。

 ただ……ここに、僕もごく最近使えるようになった、ある技を組み合わせると……多分だけど、話は変わってくるんだなコレが。

「エルク達の言う通り、『もともとあった力』はもうネタ切れになってると思う。けど……その先に行けるなら、話も変わってくると思わない?」

「その先?」

「うん。具体的に言うと、今度は『才能を呼び覚ます』じゃなく……『才能そのものを強化する』あるいは『成長させる』感じにする」

 話を聞いていた全員が……それこそ師匠すらも、僕の提案に驚いた顔になった。

「え……そんなこと、できるの?」

「わかんないけど、多分できる気がする」

「多分って……でも、そんな風に言うってことは、何も根拠とかあてもなくそういうことを言ったわけじゃないんだよね?」

 ザリーの指摘に、こくり、と頷いておく。

「正直、検証も何もしてない、まだ全くの思い付きの段階だけどね……『他者強化』に、『エクリプスジョーカー』を組み合わせようと思う」

「『エクリプスジョーカー』? って……ミナトの、現時点での最強形態よね? それが何の関係があるの?」

「単純に『他者強化』の出力を上げる、ってわけじゃないですよね?」

 クロエもナナもわからないようだ。ネリドラや義姉さんも黙って考え込んでるけど、答えは出ないらしい。
 ただ1人、師匠だけが……目を細めて、何かに思い至った。

「……『ザ・デイドリーマー』か」

「はい。師匠、正解です」

 その通り。今回の核になる能力は……『エクリプスジョーカー』そのものというよりは、その状態で使う『ザ・デイドリーマー』だ。

 知っての通り、『ザ・デイドリーマー』は、『気合で不可能を可能にする』能力だ。僕の意思やテンション1つで、限界を超えた力を発揮させ……突破不可能の結界を破壊し、物理攻撃が効かない敵を殴って粉砕し、不死身の能力を無視して相手に死を与えることすら可能。

 しかし欠点として、狙ってその効果を発現させるのは難しいという点がある。
 基本的に僕の気合、やる気、テンション……そういったものに呼応して効果を発揮するから、任意で『こういう効果、発動!』みたいにすることができない。さらに言えば、たいていの相手ならそんなのなくても困らないくらいには僕は強いので、ぶっちゃけ意識する場面が少ない。

 なので、この能力の覚醒直後は、『別に気にしなくてもいいと思う』とすら言われた。この能力の先輩である、母さんから。実際その時は僕もそう思った。
 意識して使える能力でもないし、日常生活や普通の戦闘でそうそう出番があるようなものでもないなら、ふとした時にちょっとお得な追加効果が付くかもしれない、程度の認識でいいか、と。

 が、僕の新技『エクリプスジョーカー』は……『ザ・デイドリーマー』にある程度指向性を持たせて能力を使うことができる。

 その最たるものとして、『エクリプスジョーカー』発動と同時に展開する領域の中では、フレンドリーファイアと地形へのダメージが無効化されることがある。
 カムロとの戦いの時、僕の願望に呼応して発現した力だ。技の1つ1つが強力過ぎて、地形変わるわ味方を巻き込むわ異常気象起こすわ……強いけど危なっかしくて戦えない、ゲームみたいにそこらへんいい感じに処理してくれたらいいのに……という願望に。

 こんな風に、既存の法則を蝕み、塗りつぶすほどの力を発揮することもあって、『日食(エクリプス)』の名をつけたわけだけど……まあそれはいい。
 そんなわけで、『エクリプスジョーカー』の状態であれば、僕は『ザ・デイドリーマー』にいる理論突破、常識破壊の方向性をある程度望むままにできる。

 だから、『エクリプスジョーカー』の状態で『他者強化』を皆に使い、その状態でもっと強くなれるように修行を重ねれば……

「何か都合いいように限界突破して強くなれる可能性が無きにしも非ず、みたいな」

「あんた、そんなふわっとした……いや、でも実際コイツならやってのけそうな気もする……」

「相変わらずいろんなものに喧嘩売って粉砕する勢いの理屈ね……ぶっ飛びすぎて最早何に喧嘩売ってるのかすらもう分かんないわコレ」

「完全には難しいとはいえ、任意で成長限界すら突破できる可能性があるとは……」

「……少なくとも、多少なりお前の意思、ないし願望が現実に反映されるようになるのなら……成長速度や成長幅に補正がかかるくらいは大いにあり得る話だな」

 ゲームで言うなら、『成長速度UP』や,『取得経験値○倍』みたいな感じになるんだと思う。上手くすれば、『レベル上限突破』や『新スキル覚醒』みたいなのも出てくるかも。

 仮に上手く成長できたなら、それに合わせてさらに装備を更新するのもありだ。性能を強化するのはもちろんとして、新たに獲得できた技や能力に合わせた新機能や、装備由来の新技を実装するとかでもいい強化になる。
 ゲームやアニメでもよくあるからな、特定の装備を身に着けている時だけ発動するスキルや、使えるようになる技みたいなの。

 ……こんなことを考えていると、以前エルクに指摘された、悪い意味での『デイドリーマー』が、まだ僕の中にしぶとく根付いてるんだな、っていうのを実感してしまう。

 が、今回ばかりはあえてこの流れに逆らわずに行く。
 むしろ現実の方を、僕のこの都合のいい幻想や夢想で浸食し、塗りつぶし、ねじ伏せるくらいの気持ちでいけばいい。

 ……僕自身からみても、とんでもない手段だとは思う。この世界の法則、ないし理(ことわり)そのものを思いっきり無視したやり方だから、よく思わない人も多いだろう。

 生まれ持った力、努力して手に入れた力を鍛え上げて強くなった人なんかからすれば、間違いなく邪道だ。生粋の武人や求道者なんかには、そういう人が多いイメージがある。
 宗教的にそういうのをよく思わない人も多いだろうし。悪魔に魂を売るような手段だとか、神の定めた運命に背く冒涜だとか……色々言われるような所業かもしれない。

 手段が僕(夢魔)の固有能力由来ってだけで、そういう人達からしたら、薬物によるドーピングや禁忌の魔法を使った強化と変わらないものとして見るだろうから。

 ……けど、そんなもんを大事にしたところで問題が解決するわけじゃないのも事実。

 いるかどうかもわからない神様に義理立てする気はない。それよりも今は、今ある手札を最大限に生かして、バグ技でも何でも使って打開策を導き出すべきだ。
 何、常識なんて今までも散々ぶっちぎってきたんだ。今更今更。

 我ながらひどい開き直りだとは思うが……それを言えば、そんな僕に、呆れながらも今までついてきてくれたのがこのメンバーである。

 見れば……嬉しいことに、皆同じように……決意や覚悟を秘めた表情で僕を見返してくれている。
 ……若干の呆れと諦めも混じっている気がするが、繰り返すが今更である。

「ホント、あんたといると常識外れなんて驚くだけ無駄ってもんよね……うん、今更今更」

「いいじゃん、限界超えて強くなるなんて夢があってさ! この際だし、皆行けるとこまで行ってみようよ!」

「そうですね……たまにはブレーキも何も無視してやってみるのもいい経験かもしれないです」

 よし、方針は決まった。
 今日1日で色々と準備したり計画を練って……明日から修行開始、だな。



 ……ただ……まだ1つだけ、修行に関しては問題が残ってる。

 『他者強化』と『ザ・デイドリーマー』を組み合わせた修行で、皆は多分強くなるだろう。
 しかし……多分、僕だけはそこに含まれない。

 名前の通り、『他者強化』は、僕以外を対象とした強化であり……僕自身を強化することはできない。

 いや、僕はそもそも、その根本になる技能である『エレメンタルブラッド』で体を常に強化してるわけなんだけど……なまじ常に発動させてる能力だけに、今更コレを使ってさらにパワーアップ、みたいなイメージが浮かびづらいんだよな。
 『エレメンタルブラッド』そのものを強化ないし改良すればその限りじゃないだろうが……他の皆と同じように『ザ・デイドリーマー』を使って強くなることを見据えると、なんとなく……何か違う気がするんだ。

 ……こないだから、何となく輪郭が見えてきてるんだ。僕が更に先へ行くための、こう……ビジョンみたいなものの。

 根拠とかを説明しろって言われると困るんだけど……本当に『何となく』でしかないから。

 それなのに……上手く説明できないけど、半ば確信じみた予感がある。
 もうすぐ僕は、そこに至る、と。その時が近づいてきている、と。

 多分それは、『ダークジョーカー』『アメイジングジョーカー』『アルティメットジョーカー』『エクリプスジョーカー』と続いた、僕の強化変身の、最後の到達点。
 僕の持病である『デイドリーマー』が、行くところまで行った結果……だと思う。

 けど、そこに至るまでに何が必要なのか……僕はどこで、何をすればいいのか、わからない。

 今は、まだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。