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第21章 世界を壊す秘宝
第500話 尋問、真実、カウントダウン
しおりを挟む今回の話は、一部軽い?リョナ的な表現があります。苦手な方、ご注意ください。
あと、本話にて本章は終わりとなります。
そして、本作『魔拳のデイドリーマー』ですが、恐らくあと2~3章くらいで完結になるかな、と見ております。あくまで予定というか、見込みですが。
今しばしお付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。
では、第500話、どうぞ。
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今更だけども、この『オルトヘイム号』には、色んな施設がある。
快適に過ごせる居住スペースはもちろんとして、各自の目的・レベルに合わせた様々な鍛え方ができるトレーニングジム、食料その他の物資を貯蔵している保管庫、簡単な資材や加工品などを作り出すことができる加工スペース、もちろん、僕と師匠の縄張りである『ラボ』もだ。
そして、それらに比べて使われる機会は限りなく少ないものの……『牢屋』もある。
今まででも数えるほどしか使われてないこの部屋だけど……性能はきちんと妥協せずに作ってある。サイズも様々用意してあるので、大抵の種族や、魔物すら捕獲して入れておくことが可能だ。鉄格子ではなくガラス張りにして、水を入れることで水棲の種族も入れて置ける。
強度的にも、AAAランクの魔物が暴れてもへっちゃらなくらいのそれになってるし、遠隔操作で電気ショックや麻酔ガスなんかを放出することもできる。
……上手くすれば拷問部屋にも化けるな、って、作ってから思った。
そして今、その牢屋に……こないだの戦いでとらえた捕虜が何人か入っている。
ほとんどは、恐らくは『チラノース帝国』の者と思しき工作員たちだ。マリーベル達が倒した者達の内、まだ死んでなかった者を選んで投獄した。
その際、遅効性の毒を飲んでたのが分かったので無効化しておいた。
一定時間以内に解毒剤を飲まないと死ぬ奴だ。仮に任務に失敗して捕虜になった場合、その毒のおかげで自分は死ぬから、拷問されて相手に情報を渡さないで済む、というわけだ。……ホント、物騒なこと考えるよなこの手の連中は……。
……覚悟の決まり具合で言えば、マリーベル達もどっこいかもしれないけどね。彼女達、自分の体や命を当然のようにかける覚悟をした職場で戦ってるし。
ま、雑兵共のことはおいといて……問題は、捕虜の中で唯一、『チラノース帝国』の工作員でない人を今、捕まえていることなんだけど……
「うっわ……!? ちょっ、何コレ……」
その牢屋に入った瞬間に僕が思わず言ってしまったのが、そんなセリフだった。
目に飛び込んできた光景が……あまりにもちょっと、衝撃的だったもんで。
後ろについてきているエルク達も、絶句している気配が感じ取れる。『ひっ』って息をのむ音も聞こえた気がした。
ただ1人……セレナ義姉さんだけは涼しい顔をしている様だけど……やっぱり元軍人だからなのかな?
同じく元軍人のナナもちょっときつそうにしてるけど、従軍経験というか、期間の差だろうか。
「お疲れ様です、ミナト・キャドリーユ殿。お待ちしておりました」
「捕虜の尋問、いつでも始められる用意はできております」
部屋に待っていたのは、『タランテラ』の隊長であるカタリナさんと、副隊長であるメガーヌ。それにマリーベルの3人。3人共、涼しい顔で普通に立っている。極めて事務的というか、仕事上のことだからだろう……『それ』に対して何かを思ってる様子は見せない。
で、もう1人……この部屋には、こないだの戦いで捕虜にした者達のうち、唯一チラノース帝国関係でない者を入れている。
元AAAランク冒険者にして、『ダモクレス財団』所属……だった、セイランさんを。
そのセイランさんなんだが……現在、ちょっと凄惨な状態になっていまして……。
まず、全裸である。パンツ一枚纏っていない、生まれたままの姿だ。
しかも、五体全てに拘束具をつけられた状態。両手……いや、両腕にはまった枷からは鎖が伸びていて、それが天井に繋がっているため、強制的にバンザイさせられているような状態になってる。
……今、『両手』を『両腕』って言い直したのは……彼女の手が半ばから切断されていて、ないからだ。カタリナさんとの戦いの最中にこうなったらしい。
そのため、本来は手首につける拘束用のリングを、肘のところにつけて……そこから引っ張って腕を釣り上げさせている状態である。
よ、容赦ないな……色んな意味で。
まあ、僕も似たようなことしたことはあるけどもね……随分前に。某正義バカに。
一応手当はしてあるんだけど、流石に傷が傷だから、腕というか、切り口のところの包帯からはやや血がにじんでいる。
切り落とされた腕があれば、くっつけることは簡単だったんだけど……恐らくはあそこでのあの規模の戦いの中で、瓦礫に潰されるか、魔法やら何やらに巻き込まれて木っ端微塵になってしまったらしい。見つけることはできなかった。
オマケに……色々な理由で憔悴しきっているらしく、目の下には熊があり、顔色も悪い。
正直、痛々しすぎて直視したくないレベルだ。
女の子が裸で拘束されているっていうアレな状況だけど……ぶっちゃけ性欲が欠片も刺激されない。全然ムラッと来ない。ヒェッてなる。早くも帰りたい。
それでもこうして僕がここに来たのは……呼ばれたからだ。
他ならぬ、セイランさんに。
『尋問にミナト殿が立ち会うのであれば話す。それ以外ではどんな拷問を受けようとも何1つ話さない』って言ったそうだ。
おかげでこんなリョナ現場を見る羽目になったわけだが……さっさと終わらせてほしいもんだ。
「起きろ、シン・セイラン」
僕が入ってきたところで、メガーヌが置いてあったバケツの水をばしゃっとセイランさんの顔にかけて、強制的に目覚めさせた。つくづく容赦ないな。
「っ、は……げほっ……ごほ」
「望み通り、ミナト殿が足を運んでくださった。コレで話す気になったか?」
「けほ……ああ、もちろんだとも……済まないな、ミナト殿、こんなところまできてもらって……おまけに、こんな見苦しいものを見せてしまって」
「……配慮が足らないこと言うかもしれないけど、ごめん、純粋にその通りな気持ちだよ今。何で僕を呼んだのか知らないけど……できれば手短に終わらせてもらえる?」
「安心してくれ、約束は守る。あなたに聞いてもらえるのなら……話す甲斐があるというものだ」
もともと、彼女の尋問は『タランテラ』が自分達の仕事ってことで、数日前からやってたんだけど……一向に口を割らなかったらしい。
『ダモクレス財団』の内情についてや、彼女自身の身の上や目的、その他色々と知りたいことについて、手段を択ばず聞いたらしいけど……聞き出せなかったそうだ。
『手段を選ばず』ってところに闇を感じる。『タランテラ』は、拷問も得意らしいしな……。
なのに、僕には話す……と。ホント、どういうことなんだか。
横に立っているメガーヌが、書類の挟まっているバインダーを取り出し、
「では尋問を執り行う。シン・セイラン、お前の身の上、及び出自について簡潔に答えろ」
「……身の上、と言ってもな……今現在、私はどこの組織にも属していないから何とも言えん。少し前まで『ダモクレス財団』に所属してはいたが、裏切ってクビになった。今はむしろ追われる身……フリーランスだな」
シェリーが言ってた通りだ。敵の幹部……グナザイアがそう言ってたらしいけど、マジらしいな。
なんでも、ダモクレスに所属しつつ、他の裏組織ともつながりを持って、時にダモクレスの内部情報を売るような真似をしてたらしい。多重スパイみたいなもんか。
「裏社会でも一番嫌われるタイプの奴ね。信用できない、金や損得で簡単に裏切る構成員なんて、そりゃ粛清対象にもなるわ」
呆れた様子でマリーベルが言うと、自嘲するようにセイランさんはふっ、と笑った。
「返す言葉もないな。……それでも、私の目的のためには必要だと思っていたから、やらないという選択肢はなかったよ……もっとも、この通り全て水泡に帰してしまったがな。私は両手を失って戦士としては死に、『血晶』は……よりにもよってチラノースに渡ると来た」
そう吐き捨てるセイランさんからは、なんだか自棄になったような雰囲気すら感じる。
「……なあミナト殿……風のうわさで、あなたは欠損を回復させられる魔法薬を作れると聞いたんだが……この腕、どうにか治らんものかな? もし治してくれるのなら、あなたに忠誠を……いや、全て差し出してもいがはっ!」
言っている最中に、メガーヌがセイランさんの腹を殴りつけてやめさせた。
……結構洒落にならないめり込み方してた。拳が半分くらい鳩尾に……何度目になるかわからない『うわぁ』な気分にさせられた。仕方ないとはいえ、惨い。
「余計なことをほざくな。貴様は聞かれたことにだけ答えていろ」
「……っ……」
返事はない。まあ、単純にできないんだろうけど。
しかし気にせず質問を続けるメガーヌ。……仕事モード怖い。
マリーベルは隣でボソッと、
「ミナト、わかってると思うけど……裏切りの常習犯の言うことなんてまともに聞いちゃダメだよ。同情もしなくていいから。あくまで仕事、こいつは情報さえ聞ければ用済み、くらいに考えて」
……皆さん仕事人ですね……。
普段、すっごくフレンドリーで軽い感じのマリーベルすら、真顔でこんなことを言ってくる現場……特殊部隊ってやばいな、って改めて思った。
「質問を続ける。お前の身の上だ、さっさと話せ」
「ごほっ、わ、わかったわかった……。先に言っておくと、中々に突拍子もない話になる……信じてもらえないかもわからんが、そのときはせめて口で指摘してくれよ」
ふぅ、とセイランさんは呼吸を整えて……
「私の名……『シン・セイラン』だが……これは偽名だ」
いきなり結構なカミングアウトから入った。
え、そうなの? 偽名? マジか……名前からか。
「本名は……『ファン・シャロン』。もっとも、こちらは既に捨てた名前だと思ってるから……まあ、どっちででも好きなように呼んでくれ。『セイラン』と同じく、苗字が前、名前が後だ」
「……『ファン』? その苗字は確か……」
すると、セイランさんの本名を聞いた義姉さんが、何かに思い至ったらしい。
「それに、名前の順番がそうってことは、大陸北部の出よね? あんたまさか……『リャン王国』の……?」
「……そうか、ご存じか。確かあなたは、元軍人で……私と同じハーフエルフだものな」
「義姉さん、『リャン王国』って? 今ある国じゃないよね?」
「大陸北部にかつて存在した国よ。数十年前、『チラノース帝国』に最後に侵略されて滅び、吸収されて消滅した国。そして、その国の王族の家名が……『ファン』家だったはず」
……え、じゃあまさか……
「ご明察……私はその、王族最後の生き残りだよ。王位継承権はなかったがね」
当時……といっても数十年前になるわけだが、セイランさん――どっちでもいいって言うからこっちで引き続き呼ぶことにした――は、『リャン王国』の国王様が愛人の1人であるエルフの娘に産ませた子だった。
そのエルフの愛人は、元は奴隷だったらしく……愛人になって奴隷から解放こそされはしたものの、元奴隷の子に王位継承権は持たせられず、田舎に隠居して暮らすことになった。
だがそれ以外は、幸せに暮らしていられた。生活に不自由しないだけのお金を毎月もらい、時にはお忍びで兄弟姉妹たち(王族)が遊びに来たりして。
しかしある時、『チラノース帝国』の侵略があり、国は滅亡。
王都にいた王族は、1人残らず処刑されてしまったそうだ。赤ん坊から老人まで、容赦なく。
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全てを奪われたセイランさんは、家族を奪った『チラノース帝国』に、なんとしても復讐することを誓い……以来数十年、鍛錬を重ねて牙を研いできたらしい。
幸いと言っていいのか、彼女は冒険者として……いや、戦士として破格の才能を持っており、また小さい頃、城の兵士達の訓練を見ていたから、体の鍛え方も知っていた。
同時進行で、様々な組織に出たり入ったりして情報を集めつつ、人脈を築いていった。
彼女の目的は、今言った通り『チラノース帝国』への復讐。
しかし、いくら強くとも、一個人が国を相手に戦うことなどできない。
……一部、そんなこともない例外も存在するが……まあそれは置いとくとして。
彼女自身の戦闘能力も、冒険者ランクAAA程度のところで頭打ちとなってしまっていた。
ゆえに、復讐のための手段として、彼女が目をつけたもの……それが『血晶』だった。
「『血晶』は元々、『リャン王国』の王家が先祖代々の秘宝として管理していたものの1つだった……数万年前、かの『龍神文明』の代よりの秘宝だと、眉唾物の伝承を聞いたことがあった。それが本当だとは、その時は思わなかったがな……」
王家の伝承について独自の知識や情報を持っていたセイランさんは、帝国が目を向けもしない田舎の村にある伝承や記録を調べる中で、ある時その事実に気づいた。
『血晶』は、太古の昔に存在した龍を復活させ、使役することができるものである、と。
『チラノース帝国』はそのことを、さらに早いうちから知っていたらしい。しかし、王家の保管庫に保管されていた『血晶』は偽物だった。ただ魔力を含んでいるだけの希少な宝石でしかなかったため、侵略直後は『なんだデタラメかよ』で終わっていたそうだ。
しかし、数十年の時を経た調査で、本物が他に存在することが明らかになった。両者ともそれを知り、血眼になって探し始めた。
……一部間違ってるけどもね、認識。具体的には、龍を使役できるってあたりが。
数百年前、『シャラムスカ皇国』との友好の証として、『龍神文明』の遺産の1つであるとされている『血晶』を……よくわからないまま、ただの宝石として渡してしまったらしい。
後から、単なる財宝じゃなくて王家の秘宝だとわかり、やばいあげちゃまずかった、でも返してなんて言えない、ってことで偽物を用意していたそうだ。
そして本物の方の『血晶』は……こっちはこっちで、何があって『賢者の石』なんてトンチキな名前に変身して飾られてたんだが……。
……『シャルム教』の腐敗って相当昔からだったよな? ひょっとして、それっぽい古い宝石を適当にそう『聖遺物』と偽って置いといただけとか……あーもう、ろくな奴がいないな。
まあそれはともかく、セイランさんはそうして『血晶』の存在を知り、その力を使って『チラノース』に復讐するために動いていた。
情報を集めるために様々な裏組織に所属し、人には言えないようなことも色々とやって……しかしその血晶も、とうとう手に入らなかった。
しかもよりによって、復讐するはずだった『チラノース帝国』にそれはわたってしまった。自分が何もできず、無力に転がっているだけだった間に。
「私の身の上というか、顛末についてはこんなところだよ……王族云々のところは、証明しろと言われても困るがね。私生児だった私の記録なぞもう、どこにも残ってはいないだろうから」
「……そうか。では、次に貴様が所属していた『ダモクレス』についてだ。知っていることを話してもらう」
「知っていることと言っても……あまり細かいことまで含めると、それこそ口頭で全て話すのは難しいんだが……。あの組織は裏で相当手広くやっていて、私自身が関わった、あるいは知れたものだけでも、語りつくそうとしたら半日でも足りん」
「……ならひとまず、奴らが保有する戦力や技術の中で、特に要注意であろうものについて聞かせろ。特に『最高幹部』やその周辺の側近についてだ」
「承知した。知っている情報も含まれているかもしれんが……『ダモクレス財団』の最高幹部は全部で8人。様々な魔法や特殊技能を操る剣士・ウェスカー。スローン族の生き残りで、規格外の肉体強度を誇る素手格闘の達人・ハイロック。財団の技術で全身を強化した改造人間・グナザイア。女でありながら『ドラゴノーシス』により龍化した強靭な肉体を持つ『龍人』・プラセリエル。東洋の国を出身とする妖怪・カムロ……は倒したんだったな。残り3人のうち、2人は私も知らない……が、最後の1人。これが一番問題と言えば問題だな」
「問題?」
「……確か、『ジャスニア王国』で公職についていたはずだったな。その実、財団と繋がっている、言うなればスパイのような立ち位置なわけだが……ドロシー・グレーテル、という女だ」
…………は?
え、ドロシーって……あのドロシーさん!? ジャスニア王国の、茶髪の!?
エルビスとルビスの一件の時にも交渉とか打ち合わせの場にも出てきてたあの人!?
あの人が……『ダモクレス財団』の最高幹部!?
「最高幹部の中でただ1人、戦闘能力によらず選ばれた存在であるらしい。排除するなら早い方がいいだろう……もう手遅れかもしれんがね」
☆☆☆
「ウェスカー、それにバスクも……お疲れ様。中々の大仕事だったみたいね」
「ドロシーですか。ええ……余裕のない仕事でしたよ……何もかも割とギリギリでした」
「ハイロックのおっさん達まで動員しても、な。……最初からミナトの旦那に『強化変身』使われてたら、多分負けてたわ」
どこかにある、洋館風の邸宅。
『ダモクレス財団』のアジトの1つであるここで、今しがた、ちょうどセイランの話に上がっていた者達が面を合わせていた。
ウェスカーとバスクは、次の仕事の準備のため。
そしてドロシーは……今しがた終わった、ある仕事の帰りだ。
「それでも、ハイロックとグナザイアの2人でならどうにか抑え込めていたと聞いたわ。それに……あなた達誰も、奥の手までは使っていないんでしょう? それなら、今後またことを構えることが合ってもやりようはあるわよ」
「だといいんだが。それよりあんたの方は? 上手くやったのか?」
「ええ、きちんと『死んできた』わ……ほら」
ドロシーが懐から何かの紙を取り出し、ウェスカー達に渡す。
それは、何か事件などがあった時に、王都などで不定期で出回る新聞、ないし情報誌の類だった。
その一面に書かれているのは、政府の高官を乗せた船が、洋上で不審船に襲撃され、積み荷が奪われたというもの。
その際、多数の死傷者が発生し……その死者の中に、ドロシーの名もあった。
この、一般にも広く知られている不幸な事件により、公的にドロシーは既に『死んだ』。
「立つ鳥跡を濁さず、ってね。王都の屋敷やその周辺の隠れ家からも、やばいものは全て取り払ってあるから……正真正銘、1人の優秀な文官の不幸な死、ってことで片が付くわ」
「でも、あの裏切り者が話しちまったら、それもバレちまうんじゃねえの? まあ、信じられるかどうかは別としてもさ」
「問題ないわ。内部で情報共有する程度ならそれで別によしとするわ。でも、外部にまでわざわざ話を広めることはしないでしょう……国の恥になるだけだもの。『死んで逃げ』られるまでスパイに気づけませんでした……ってね。むしろ、この偽装は国の体面のための、私からのプレゼントよ」
しれっとそう言ってのけるドロシーに、ウェスカーは呆れたようにため息をつき、
「どの道、これから忙しくなりますからね……潜入先の国でのんびりしている暇ももうないでしょう。……我々『ダモクレス財団』の計画も、いよいよ最終段階に入ります」
「カウントダウンは始まった、ってことか。ふふふ……ゾクゾクするねえ、こりゃ」
「それをお支えするために、無用な荷物は今のうちに全て捨てておかなくてはね。すでに『血晶』はかの国に渡った。あとは、あの愚かな国の愚かな王達を礎として……この世界の浄化が、総裁の宿願が、とうとう始まるのよ」
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