魔拳のデイドリーマー

osho

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第21章 世界を壊す秘宝

第483話 実る思いと、次なる依頼

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 えー、遡ること数日前。

「お久しぶりです、ミナト殿!」

「おー、久しぶり……かな? そんなでもない気がするけど」

「いえ、1ヶ月もお会いできませんでしたから、十分長かったです! まあ、それまでずっと一緒にいたから余計にそう思う部分もあるかもしれませんが……とにかく、お元気そうで何よりです」

「うん、ありがと、ギーナちゃんもね」

「はい!」

 僕らは拠点にて、ギーナちゃんと再会していた。
 『ヤマト皇国』から戻ってから、仕事やら何やらの関係でネスティア王国に戻ってたんだけど、そういうのが終わったらしく、今日、ここに戻ってきたのである。

「お話は私も聞いております。またこちらでも新たなダンジョンを攻略して功績を打ち立てられたとか……流石ミナト殿ですね!」

「あはは、ありがと」

 どうやら彼女の耳にも、『双月の霊廟』の攻略のことは伝わっていたらしい。
 それと同時に明らかになったとんでもない事実各種については、公開はしてないから知らないだろうけど。今頃、各国やギルドの上層部が対応を協議してるんじゃないかな。

 一応、一般にも知られている、あるいは知ろうと思えば調べられる範囲で、その時のことを語ったりして雑談している感じだ。

 ギーナちゃんの方は、ここしばらくは仕事と訓練ばっかだったみたい。
 まあ、長期出張みたいなものだったとはいえ、かなり長い期間国を離れてたわけだからね。国にいなかった間の状況把握とか、やるべきことは多かったんじゃないかな。

 でも、『ヤマト皇国』での数か月間は決して無駄ではなかったことを、その日々の中で実感できたそうだ。
 同期の兵士達や騎士達と訓練する場面もあったらしいんだけど、その時には、行く前よりすごく強くなって帰ってきてたから驚かれたってさ。

 まあ……『ヤマト皇国』でも中々に濃い日々を送ってたからなあ。
 妖怪大戦争はもちろん、タマモさんやその部下の人達に(人じゃなくて妖怪だけど)稽古をつけてもらったりして、すごく実になる時間を過ごしてたわけだし……途中からは、なんだかんだで仲良くなったサクヤとも、戦友にして好敵手的な感じになって、切磋琢磨し合ってたし。

 またぜひ稽古を一緒にお願いします、とのことなので、後でその成長ぶりをあらためて実感するなんてのもいいかもしれない。

 ところで、そんなギーナちゃんだが……なぜか今日は、エルクに会いたがっていた。
 いや、エルクだけじゃなくて、シェリーとかナナとか、他の仲間達にもお会いしたいです、と。もちろん、サクヤにもだ。

 いや、別にそれが何もおかしなことってわけじゃないんだけどね? 僕らも彼女のことは、紛れもなく仲間だと思ってるし。例え、『邪香猫』のメンバーとして登録されてるわけじゃなくても、色々な場面で苦楽を共にした仲だ。

 ……エルクに言わせると、僕という『否常識』の被害者であるという点でも仲間意識が芽生えるらしいんだけども……まあそれはいいとして(汗)。

 今、エルク達が来るのを待ってるところなんだよね、ちょうど。
 間が悪いことに、皆用事とか仕事とかの最中でさ。

 エルクは、このチームの会計担当なので、こないだの一連のクエストの帳簿とかをまとめてるところ。ナナもそれの手伝いや、物品やスケジュールの管理なんかをしてたはず。
 ザリーも情報の整理。義姉さんはギルドの職員としての仕事。シェリーとクロエは自主トレ……って感じで。

 都合がつくというか、体が空いたメンバーからここに集まってる感じなのだ。

 でも、わざわざ会いたいとか言ってくるってことは、何か用事でもあるのかな……なんて考えてた時、リビングのドアが開いた。
 しかし、入ってきたのはエルクではなく……こないだからこの拠点に置いている、テオ(人間モード)だった。

 あ、今更だけど、テオは今、一時的に『カオスガーデン』で暮らしてもらってます。

 知っての通り、彼女の本来の姿はドラゴンだ。
 僕としては、ゲストハウスとかを使ってもらって、人間モードで暮らしてもらってもよかったんだけど……彼女的には、本来の姿でのびのび暮らせた方がいいそうだ。

 屋外での野生動物的な暮らし方も普通に平気なので、ネールちゃんやビートと同じように、森の中で好きなように暮らしてもらっている。
 あらかじめ、ここの管理者である2人とその配下の連中には紹介した上で、今日からこのドラゴンがここに一緒に住みます、みたいな感じで。
 食料は好きなように獣とか食べていいと言ってある。いっぱいあるしね。

 ここには最大でAAAランクにもなる強さの食用恐竜なんかがいるわけだけど、彼女はさすが希少種のドラゴンというべきか、それらを相手にしても狩れるだけの戦闘能力を持っていた。なので、特に護衛とかつけなくてもへっちゃらなようだ。

 ……っと、話がそれだけど……テオがここにいる理由はそんな感じだ。

 けど、この話し合いの場に彼女は呼んでない。

 まあ、普段はドラゴンの姿でのびのび森で暮らしてるけど、時々ここに人間の姿で遊びに来たりするので、この拠点にいること自体はおかしくはない。たぶん、たまたま今遊びに来て、あるいは用事があってここに来ていて、偶然今このリビングに来ちゃったってところかな?

 そのテオはというと、どうやら来客中であることに気づいたようで、

「あ、すいません……お邪魔でしたか?」

「ああいえ、大丈夫です。ええと……ミナト殿の、新しいお仲間の方ですか?」

「いえ、そうではないのですが……」

 どうやらテオのことはギーナちゃんは聞いてないようだ。
 まあ、『龍神文明』の史実と同等かそれ以上の爆弾だもんなあ……宇宙から来た龍の、しかも生きた個体なんて。
 公表なんかされたら、どんな物好きが集まってくるか分かったもんじゃない。

 ……まあ、僕や師匠、それにネリドラとかも、どっちかと言えばそれに含まれる感じなのは自覚あるけど……って、それは今はどうでもよくて。

 すると、さっきとは逆にテオの方が質問をしてきた。
 なぜか、何かに気づいたような『あれ?』というリアクションと共に、

「ええと、そういうあなたは……ミナトさんの新しい番(つがい)の方ですか?」

 突然なんてことを聞くのかこのドラゴン娘は。

「え? あ、いえ、まだ違います」

 と、いきなり変なことを聞かれたギーナちゃんだったが、思いのほか冷静にそう返し…………今何て言った?
 えっと……『まだ』?

「まだ、ですか?」

「はい、ですが、ゆくゆくは……いえ、これからそうなれればいいと思っています。と言うよりも……今日正にそのことについてお話させていただければと思っていた次第でして」

「…………へー……」

 突然目の前で始まった、あまりの超展開に、僕が唖然として何も言えずにいる中で、ギーナちゃんとテオが2人で話し続け……そして、いつの間に来たのか、テオの後ろにはエルクが立っていた。
 いつ見てもキュートなジト目で、僕とギーナちゃんを交互に見ながら。



 その後、シェリー、ナナ、ネリドラ、そしてサクヤと……今現在、僕の愛人枠になってる女性が全員揃ったところで、改めてギーナちゃんの話を聞いたんだが……どうやら、冗談でも何でもないようで。

 もともと、僕に対して好意的な思いを抱いてはいた。
 『ヤマト皇国』に滞在してた頃、一緒に訓練とかしたり、あの諸国行脚という名のデスマーチを一緒にやる中で。『ヤマト皇国』以外ででも、戦いの時や、何気ない日常の中で。

 他にも色んなきっかけがある中で、どんどんその思いが強くなっていくのを感じていた。
 同時に、同じように僕と仲が良くて……しかし、自分とは明確に違って、一線を越えた向こう側にいる関係にある、エルクやシェリーのことがどんどん羨ましくなっていった。

 それで……『ヤマト皇国』から帰ってくる途中の船の中で、大陸に帰ったらこの思いを告げよう、と心に決めてたらしい。
 その前に、国に帰って急ぎで仕事を片付けることになって、今まで言えなかったけど。

「……もしかしたらお察しされていたかもしれませんが……私がこの『キャッツコロニー』に出向させられていた理由の中には、ミナト殿と、その……そういう関係になることを期待して、というのもありました。単純に仲がいいというのでも十分ではありますが、その1歩2歩先に進んだ関係になるようであればなおよし……と。あ、ですがもちろん私は、その……そういう仕事としてこうしてこのように告白させていただいたわけではなくてですね?」

「はいはい、わかってるわかってる」

「そうね……仕事でミナト君に近づいてきてる子が、そんな顔できないもんねぇ」

「あぅ……」

 ニヤニヤと笑いながら返すシェリーさん。ギーナちゃんの反応を楽しむように。

 その視線の先にいるギーナちゃんはと言うと、顔を赤くしてうつむいてしまっている。恥ずかしいのを懸命にこらえている感じだ。
 最初こそ、あっさりテオに『これから云々』と、何でこんな話題をそんなにはきはき喋れるんだ、ってくらいのテンションだったんだけど……なんか、徐々に恥ずかしくなっていったみたいで。

 エルク達を相手に、気圧された……というのはまた違うかもだけど、最終的に、精一杯勇気を振り絞って話してます、って感じになりながら、

「どうか……皆様の末席に、この私が加わることを、お許しいただければと……!」
 
 それでも、どうにか、って感じではあるが、きちんとまっすぐ目を見て、そう言って来た。

 よく見るとぷるぷる震えてて、目は潤んで涙をこらえてる感じになってて、今すぐにでも逃げだしたそうなくらいの有様。
 なんだけども、彼女が本気であることは伝わってくるし……僕の方はというと、その気持ちを『嬉しい』と思ってしまうんだからどうしようもないよなあ……

 ……毎度、女の子にこうしてストレートに気持ちを伝えられるたびに思うんだが……僕のどこがそんなにいいのやら。
 自分勝手で、鈍感で、マッド気質でたびたび暴走して周囲を唖然とさせたり振り回したりする……自分で言うのもなんだけど、精神的にあんまし大人とは言えないであろう、こんな僕がさあ。

「そーいうのは、あんたを好きだって言ってる全員に対して失礼だからやめなさい」

「……もうなんか、エルクに心を読まれることにも慣れてきちゃったよ僕は」

「あっそ。私もだんだんあんたの頭の中がわかって当然、みたいな認識になりつつあるわ。……お互いにまあ、『否常識』な領域に来ちゃったもんね」

「うーん、流石は正妻……私達もまだまだね」

「……研究分野なら以心伝心できてる自信はある」

「しょ……精進します!」

 シェリー、ネリドラ、サクヤとそれぞれなんか意気込んでくれてるな。
 それに続けてナナも、

「そのくらいあなたが魅力的な男性だ、ってことですよ。まあ……確かに欠点も多いし、色々大変なこともありますけど、それも含めて私達にとっては、あなたはずっと一緒にいたい相手なんです。……ほら、彼女もそう思ってるはずですから……きちんと返事、してあげてくださいね」

 そう言って、テーブルをはさんで……今もなお、恥ずかしさの中で目をそらさずにこっちを見据えてくる彼女……ギーナちゃんと向き合う僕。

 ギーナちゃんはと言えば、何を言われても受け止める、とでも言うがごとき……覚悟と、あとやっぱり緊張羞恥心その他が入り混じった表情でぷるぷる震えている。かわいい。

 ……もうちょっと見ていたいというアホな衝動に駆られなくもないものの……もう僕の中で、答えは決まってる。

 僕は、ギーナちゃんの手を取った。
 びくっと身を震わせるギーナちゃんに対し……その場にいる全員からの視線を感じながら……僕自身も恥ずかしいけれど、きちんと言う。

「えっと……不束者どころか、なんて言ったらいいのかもわからない『否常識』な身ですが……ってのは知ってると思うけども……そんな風に思ってもらえてうれしいよ。僕なんかでよければ……これからもよろしく、ギーナ・・・

「……っ……はい、こちらこそ、ふ、不束者ですが……よろしくお願いします。ミナトさん!」

 その瞬間……嬉し涙だろうけど……とうとう我慢できなくなって……微笑まし気に皆が見守る前で、ギーナは涙腺を決壊させていた。


 ☆☆☆


 こうして、あらたにそのー……僕の愛人枠の中に、5人目としてギーナが名を連ねることになったわけだが(エルクは正妻なので別枠)……今僕は、その一部始終を、結果的に見ていることとなったうちの2人から、ジト目というか、何か言いたげな視線をいただいている。

 1人は……あの時、偶然ギーナに会って(初対面)、『番(つがい)ですか?』なんて爆弾発言からあの流れを作った、テオ。

 そしてもう1人は……アイドローネ姉さんである。
 あの話の途中でとことこ歩いてリビングにやってきて、何も言わずに壁際でじっと立って待ってた。何か用事だったみたいだけど、真面目な話の最中だったので入り込めなかったと見える。
 
 祝賀ムードから少しして、温かい……とも違う視線を送ってくる2人に気付いて、ギーナがまた恥ずかしそうにしていた。
 まあ、僕の関係者だってことはわかれど、彼女にとってはあんまりよく知らない他人だからね……最初にかけられた言葉のインパクトがアレだったから今まで気にしてなかった感じみたいだが。

 そのテオなんだが……彼女は僕がそうだとはっきり言うよりも前から、僕と、エルクやシェリー、ナナといった面々が『そういう関係』だと察していた。
 龍の能力なのか、はたまた彼女個人の感性なのか……そういうの鋭いらしい。
 
 そしてそのことに対して、特に嫌悪感は持ってなかったみたいで……よかった。

 故郷の『渡り星』では、『ジャバウォック』とかいう龍に手籠めにされそうになったのが嫌で家出したわけだから、そういう……何だろ、何人もの女の人とそういう関係にあるのとか、あんまりよく思われないんじゃないかと思ってたんだけど、

「いえ、双方同意の上であればいいのではないでしょうか? 龍もそういうとこありますし……私としては、脅して無理やりとかそういうのでなければ、甲斐性の内だと思います」

「あ、そういう感じなんだ」

「はい。ジャバウォックアレはあくまで、私が色々な意味で受け付けないだけなので。それに、皆さんすごく幸せそうにしてるのが伝わってきてましたから。ギーナさんもそうだったので、もしかして彼女もなのかな、って思ったんです」

 あー、あの初めて会った時にか。
 ギーナは最初から、今日僕に告白して、エルク達には自分も愛人になる許可をもらうために覚悟を決めてここに来てたんだもんな。その好意を感じ取った、と?

 それで初対面の相手にあんな爆弾発言を……いやまあ、もともとこの子天然っぽいところあるしな。

 そして、もう1人……アイドローネ姉さんの方なんだが、こちらは何だか不機嫌そうだ。

 どうやら、さっさと今日の分の仕事を済ませて寝ようと思ってたところ、待たされることになって、その分寝るのが遅くなりそうなのがちょっと嫌だったみたい。
 ……あの、まだ今日午前中なんだけど……いやまあ、別にいいけどさ。きちんと仕事した上でのことであればね。

 で、その仕事として僕に、『邪香猫』向けに届いている依頼について報告しに来たそうだ。

 アイドローネ姉さんがやってくれてる『ギルド出張所』には、いつもは僕らの方から『何か依頼とか面白そうなのない?』って聞きに行く形にしている。普通のギルドと同じように。
 けど、何か重要そうな依頼や、緊急の依頼、あるいは僕らと個人的に仲がよかったり大事な人からの依頼だったりした場合、こうして姉さんの方から知らせてくれるのだ。

 なお、ただ単に偉い人ってだけではそうはならない。うち……キャドリーユ家は、たとえ相手が王族だろうが、気に入らない相手に対して媚びへつらったりすることはないです。貴族からの指名での依頼だろうが、普通に弾きます。

 で、今回は誰からの依頼なのかと言うと……

「指名依頼。シャラムスカの、聖女アエルイルシャリウスから」

「え? アエルイル、って……ネフィちゃん?」

 それはまた、懐かしい上に意外な名前が出て来たな。

 およそ1年前、宗教国家『シャラムスカ皇国』で知り合った……まさにその時、国家と宗教の象徴である『聖女』に就任した女の子。
 その時に起こった色々なトラブル関係の対処とかもあって、僕に限らず、うちの仲間達とも友達関係とも呼べる仲になったんだが……どうやら、今回の依頼主はその子であるようだ。

「一国の象徴というか、最高権力者からの依頼が『珍しい』扱いなのよね、ここだと……」

「ははは、今更今更。んで姉さん、どんな依頼だって?」

「領内に出没するようになった、未確認の魔物の討伐らしい。できれば急ぎで、だって」

 へー……



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