魔拳のデイドリーマー

osho

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第20章 双月の霊廟

第474話 廃村

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 第4階層にたどり着いた僕らの目の前に広がっていたのは……またしても意味の分からない光景だった。

 またまた屋外に出てしまったっていうのはもうこの際いいや。気にしても仕方ない。

 ただ……中庭、鉱山ときて、これは……滅んだ村か何かかな?

「……前に軍務で、魔物に襲われて住民が大勢殺されて、生活できなくなって放棄された村を見たことがあるんだけど……その時の光景に似てるわね」

「当たり前だけど、人の気配はないですね。……魔物の気配は、一応ありますが……」

「……弱すぎる。おそらく、初級冒険者でも勝てそうな魔物しかいないぞ」

 これまでは、AランクやAAランクの魔物が普通に出てきていたにも関わらず、この……仮に『廃村』と呼ぶことにしたエリアには、魔物の気配はほとんどないどころか、そのどれもが……非常に弱い。せいぜい、Eランクとかそこらへんの魔物しかいないぞ、多分。

 アンデッドや獣系の魔物が多いようだけど……これなら、ミュウやヴォルフさんが適当に呼び出した『召喚獣』をそこらに数匹放っておくだけでも駆逐できてしまいそうだ。

 ますますわからない。一体ここは、どういうダンジョンなんだ……?

「ひとまず……探索してみますか? ボロボロですが、何件か家もあるようですし……手掛かりになるようなものがあるかもしれません」

「他にやることもないもんね。どのみち、下の階層に行く階段も探さなきゃいけないし……いくつかにチーム分けして、手分けして探さない?」

「危険な魔物どころか、トラップもなさそうですしね。そうしましょう」



 そんなわけで、何チームかに分かれてこのエリアの様子を探ることにした。
 僕は、エルクとサクヤと一緒のチームだ。とりあえず、片っ端から家とか建物に入ってみて、何か手掛かりになるものが落ちていないかとか調べてるんだが……

「なんか……普通の民家、って感じだよね、ここ。ダンジョンっぽさのかけらもないよ」

「そうですね。セレナ殿が言っていた通り、放棄された村、という表現が一番しっくりくる気がします。私も、『ヤマト皇国』にいた頃、そういう村をいくつか見たことがありますので」

「なんだってそんな場所がダンジョンの中に再現されてるのよ……しかも、壊れてるけど戸棚や、その中には食器まであるなんて……ここがダンジョンの中の偽物だって、忘れそうになるわ」

 半分呆れながら、民家の中を調べるエルクの言葉に、確かにその通りだ、と思った。

 もう長いこと放置されていた様子で、家の中はとにかくボロボロだった。壁はちょっと触っただけで剥がれて壊れそうだし、床はつま先を乗せただけでギシギシ言う。ちょっと体重をかけただけで壊れそうだ。
 仕方ないので、魔力で力場を作ってちょっと空中に浮く……というか、空中を歩いている。

 中には、これまた大部分が朽ちているものの、テーブルやいす、ベッドといった家具が並んでいる。壁際には本棚や食器棚もあったが、中身は見事に朽ち果てていた。食器だったものはほとんどが砕けて土に還っていて、原型が残っているものの方が少ない。本は……それ以上だ。少なくとも、読める状態のものはない。一応、原型が少しでも残っているものは回収し……ようとしたが、半分くらいは触った瞬間に崩れ去った。劣化に加えて、カビとかもありそうだな。

 状態はともかく……なんというか、さっきの金属片と同じ『使用感』あるいは『生活感』のある空間や痕跡だ。一体何で、ダンジョンの中にこんな空間がある……?

 その後、いくつか家を回ってみたものの、どこも同じような感じだった。

 探索している最中、何度か魔物と出くわした。
 が、出て来たのはやはり『スケルトン』や『ウルフ』などの、全てにおいて今更なレベルの魔物ばかりで……エルクが放った魔法や、サクヤの手裏剣で一撃で倒せた。

 スケルトンなんか、僕のでこぴん一発で粉々になって消滅したしな……つくづく、さっきまでの階層と強さのバランスが取れてない。

 何件目かの民家から外に出たところで、

「あ、ミナトくーん、こっちこっちー!」

 と、シェリーの声が聞こえたので、僕らがそっちにいくと……そこには、シェリーとミュウ、ニコラさん、の3人が一緒にいて……その傍らには、井戸らしきものがあった。3人とも、その中を覗き込んで何やら話し合ってたみたいだ。

「何か見つけたの、シェリー?」

「あーうん、井戸があったから中を覗いてみたんだけど……そしたら、ニコラちゃんがね」

「水の匂いがおかしかったのです。おそらく……この井戸水、毒です」

「毒!? え……汲み上げてる地下水がってこと?」

「そこまでは……成分を調べればわかるかもしれないので、ちょうどミナトさんかクローナさんにお願いしようと思っていたんです」

「……いえ、その必要はありませんミナト様」

 と、いつの間にか井戸を覗き込んでいたサクヤが、収納から、大きなかぎ針を取り出して、それに自分の手から出す糸をつけ……井戸に放った。
 そうして、十数秒後、引き上げると……

「っ!? こ、これ……魔物の死骸!? こんなに……」

「しかも、見た目からして有毒そうな奴だね……なるほど、コレを投げ入れて井戸水を毒で汚染してたのか」

 ネット状の袋の中に、いかにも有毒ですと言わんばかりの見た目の、蛇やサソリの魔物の死骸や、毒草や毒キノコらしきものまで一緒に詰め込まれて、重りの石と一緒に沈められていたのだ。
 死骸はほとんど白骨化しているが、それでも毒の匂いは漂ってくる。

「やり方は雑だけど、有効と言えば有効、か……でも。なんでこんなことを……?」

「ひょっとしてこの村、たった1つしかないこの井戸が毒で汚染されちゃったから、滅びたんでしょうか? 村人は皆、毒の水を飲んで死んでしまったとか……」

「でもそれにしては、どこの家にも死体とかなかったけど……あ、でもアンデッドになっちゃったのかもしれないか。うわ、だとしたらさっきまで倒してたのって……あー……」

「それは仕方ないのではないですか? 最早、魔物となってしまっていたのですから……しかし、そうだとしたら、どこの誰だかわからないが、惨いことをする……」

 と、その場にいる皆で言っていたんだが、『ちょっと待て』とエルクがその会話をぶった切って止める。

「落ち着きなさいあんたら……いや、忘れてない? ここはダンジョンの中で、この村はその階層の1つなのよ? この村も、井戸も、只の作り物、偽物だってば」

「「「……あ」」」

 そうだ、つい忘れてた……ここ、ダンジョンだった。

 いやでも、正直仕方ないと思うんだけど……こんな風に、生活感があったり、意味ありげな毒井戸なんてものがあったり……作り物の世界だってこと、忘れるってマジで。
 というか……

「……ねえ、今更だけど……ここ、ホントにダンジョンの中なの?」

 と、ちょうど僕も思ったことを、シェリーがぽつりと呟くように言った。

「いや、何言ってんのよシェリー、今更……」

「だってさっきからおかしいことばっかりじゃない。どこからどう見ても、人が住んでたけど棄てられたようにしか見えない建物、毒が投げ込まれた井戸……さっきの鉱山の階層でミナト君達が言ってた、龍神文明云々もだし……おまけに見てこれ、日が暮れてきてる」

 シェリーが空を指さすと……確かに空が赤く、そして暗くなってきていた。
 そういえば、朝のうちに迷宮に潜って、そっからぶっ続けて攻略・探索を続けてたから、時間的には確かにそろそろ日暮れの時間だ。このダンジョンは、時間経過で夜まで再現されるのか……

「いやでもシェリー、あんただって覚えてるでしょ? 私達、確かにダンジョンの中に入ってきたじゃない、石造りの門くぐってさ……しかも、階段下に下に降りて……」

「そーだけど……ぶっちゃけここまでくると、あの階段が転移装置か何かになってて、どこか別な場所に飛ばされてるって思った方がしっくりくるのよ……いくらわけのわからないダンジョンだからって、こんな、どこの誰に需要があるのかもわからない、しかも実用性のない設備を置く必要ってないじゃない。井戸だって、トラップだとしても、水だけ毒になってれば十分でしょ?」

「それは……そうかもしれないけど……」

「でもシェリー、ここは間違いなく『異空間』の中だよ。感覚でわかる。『ザ・デイドリーマー』が絡んでるから、余計にね……それに、転位系のトラップなら、たとえ防げなかったとしても、僕らが身に着けてる『指輪』が反応してるはずだし」

「え~……まあ、ミナト君がそう言うなら、そうなんだろうけど……」

 しぶしぶ納得した様子のシェリーだが……ぶっちゃけ僕もそろそろ違和感が限界になってきた。

 ダンジョンなんだから細かいことを気にしても仕方ない、とか思ってはいたけど、いい加減に何かしらの答えが欲しいところだ。このダンジョン、一体誰が何の目的で作り上げたのやら……その手掛かりになるものが、何かホントに……

「おい、弟子」

 と、今度は背後からそんな声が。

「あ、師匠。お疲れ様です……何か見つけました?」

「ああ、見つけた」

 そう言って、師匠がこっちに突き出すように見せてきたのは……本?

「俺らが調べた家の1つで見つけたもんだ。当然ながら見事に全部古代文字だったから、解読必須だが……見た感じ、龍神文明時代のもんだ」

「っ! マジですか……でもコレ、やけに状態いいですね」

 新品、とまではいわないけど、古本屋とかで取り扱ってそうな、普通に読める状態だ。
 僕らが入った家に置いてあった本なんて、風化して触っただけで崩れるようなのが大半だったのに……何か、特別な本なんだろうか? 魔法書物の中には、経年劣化が著しく遅い、あるいは劣化自体しない本もあるらしいけど……その類か?

 ぱっと見ではそんな特別な感じはしない。解析しないとわからないけども……いや、どっちみち読むために『解読』が要るんだ。その時一緒にやればいいか。

 そんなことを考えながら、本を開いて見る。
 ……まあ、昔のものだから予想はしてたけど……手書きだ。字体が結構崩れてて、解読に苦労しそうな個所もいくつかある……こりゃ骨が折れるな。

 けど、もしこの書物が特別なものなら……このダンジョンに関して、何かわかることがあるかもしれない。

「……もう日もくれるし、今日は探索、ここまでにしよう。寝泊まりできる状態の家はないから……野営でいいかな」

「この付近には強力な魔物は出ないようですし、結界を張っていれば、安全地帯の確保は問題ないでしょう。全員戻ってきたら……休みましょうか」

「そうだね。サクヤ、皆に『指輪』でそう伝えて。僕は結界を張る準備するから」

「心得ました」

 というわけで……『双月の霊廟』、探索1日目。本日はここまで。

 しっかり食べて、ゆっくり休んで……明日また頑張ろう。

 あ、でも本の解読と解析はするけどね。今日のうちに、できるだけ。



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