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第20章 双月の霊廟
第460話 水底に遺されていたもの
しおりを挟むもともとこの『チャウラ』に来たのは、バカンス的な意味合いも強い。
前に言った通り、あの漁師宿のご飯……全体的にB級グルメっぽいそれが気に入ってたし、のんびり釣りとか素潜り漁をして楽しめる時間ってのも魅力的だった。
この『チャウラ』の海は、海岸からある程度の距離であれば、危険な海の魔物もほとんど出ないので、冒険者や水中特化の種族(マーマンとかギルマンとか)みたいなのでなくても、普通の人間でも素潜り漁で獲物をとれるくらいに平和な海だし。
それ以上沖に行くと魔物や肉食魚も出てくるけど、そこまで行かなくてもいい獲物はたくさんとれるし……その程度の連中が苦にならない実力さえあれば普通にそこでも漁を楽しめる。
なので、この町に来た目的は僕にとっては、まあ半分くらいは達成されたようなものだと言ってよかったのだ。例え、『ダンジョンラッシュ』の方で目当てにしていた『海岸の洞窟』が、当てが外れた結果だったとしても。
だから別に、なんとなくで探索に来てみたここがホントに空振りだったとしても、何も問題というか文句はなかったんだけど……
「嘘つき……絶対何かあんじゃん……」
「まあ、そう言ってやるな。単にわからなかっただけだろう……今までここを訪れた者達は」
「ええ……そうですね。コレは……ミナト様達でなければ気づけませんよ」
今現在、その洞窟の調査中だ。
入り口が小さい割に結構深い。日の光がすぐに入らなくなり……そればかりか一部が水没している洞窟なので、暗い。
薄暗いとかそういうレベルではなく、光源が全くない全くの暗闇なので……全然何も見えないしわからない。
そういう状況でも周囲の状況がわかるような者でなければ、この洞窟の探索は危険だ。
少ないけど魔物も住んでるし……あちこちに尖った形の岩なんかもあるし、滑りやすいし。結構深い水たまりがあったりもするから、足を取られて頭から突っ込んだりしたら真面目に死ぬ。
なので今回この洞窟を探検するメンバーは、水中活動に適応でき、なおかつ暗い中でも目が見える、あるいは周囲の状況を知ることができる面子……僕、サクヤ、シェーン、アルバ、そしてリュドネラの5人だ。あ、4人と1羽か。
僕とアルバは、完全な暗闇でも目が見えるし、『魔緑素』を使うことによって水中でも窒息する心配はない。魔力で体の周りの水流を操れば、水の抵抗もほとんどなく活動できる。
というか僕は、『ダイバーフォルム』にフォルムチェンジしてるので、下手な水中系種族より水中が得意になってるからな。エコーロケーションやロレンチーニだって使えるぞ、今は。
加えてシェーンも、『マーマン』の血を引くという特性上、水の中はむしろホームグラウンド。加えて最近『エコーロケーション』を使えるようになったので、あまり範囲は広くないけど、暗闇や水中での探査もできる。
サクヤは『土蜘蛛』の種族特性として闇は得意だし、泳ぎも得意だ。呼吸に関しては、携帯できる酸素ボンベみたいなマジックアイテムを渡してあるので問題ない。いざって時の仕込みもいくつかあるし。
そしてリュドネラは、そもそもこういう時には『バルゴ』なんかの『CPUM』……人工モンスターやマジックアイテムに憑依する感じで、遠隔操作して活動するので、そもそも暗闇だの過酷な環境だのは得意分野だ。水中だろうが問題にならないし、なんならそれ専用の武装だってある。
というわけで、そんなメンバーで探索してたんだけど……ある程度その洞窟の奥まで入っていったところで……
「情報と違うな……」
「ああ……この洞窟、聞いていたよりも先があるようだ」
ギルドに報告として挙がっていた情報では、この洞窟は奥に行くと岩壁に突き当たり、そこで行き止まりになるというものだった。そこまでのマップも、簡単にだが作られていた。
そこに行くまでもなかなか複雑で、時には水没した通路を通らなければならなかったり、潮の満ち引きで通れる通路が変わったり、吸血蝙蝠や肉食魚が出たり色々あるんだけど……まあそれはいい。
それでも、僕らより先にこの洞窟にダンジョンアタックを挑んでいた先人たちが作ったマップは、それ単独で完成していた。
……が、そのマップと、今僕らが前にしている洞窟の構造ってのがね……違うんだよなあ。
いや、見える範囲では……何なら、『エコーロケーション』でわかる範囲であれば一致している。
シェーンに加え、マジックアイテムでそれを行えるリュドネラや、『ダイバーフォルム』の能力として可能になっている僕がやっても、同じ結果が出ている。
が……それと並行してアルバが展開している『マジックサテライト』で調べると……全くとは言わないまでも、別な構造と、ギルドのマップに記載のない通路が発見できたのだ。
ただまあ、構造を見るに、見た目ではわからないくらいに相当複雑だから……見逃しても無理はない……のかな? コレは。
障害物も何もかもほぼ無視して周囲を把握できる『サテライト』だからこそ分かった構造だ。
水没している通路の1つ。そこを進んでいってみると……横穴があるのが肉眼でも確認できた。
音波による反響定位では、ここは……こうして目の前に立っていても、『岩の壁』という形で反応が返ってきている。暗闇の中でこれなら……なるほど、わかりようもない。
水没してる上にかなり深いから、夜目が聞くだけの種族じゃここを肉眼で見ることはできないし、エコーロケーションを使える種族だと、壁として認識してしまう。
水中活動ができて、真っ暗闇でも肉眼で周囲の状況を確認できるような種族じゃなければ見つけられない通路か……どうりで誰も見つけられないわけだ。
「エコーロケーションじゃダメだったのは何でだろう? 同じように……えーと確かコレ、音波で周囲の状況を把握できるんだよね? 障害物とかも見通して」
と、『バルゴ』の機能の1つとして『エコーロケーション』を使って周囲を探査しているリュドネラが言うが、確かにそれは気になるな。
加えて今試してみたけど、この横穴……効果がないのは音波だけじゃないな? 赤外線や生体電気なんかの類も、同様にカモフラージュされてしまうようだ。
しかし魔力は感じない……なんだこの超高性能ステルス?
人為的なものか? だとしたらこの奥、絶対何かあるってことになるんだが……一体誰が何を隠すためにこんなもの……?
なんか奥にやたら広い空間が広がってるようだし……けどこれ以上は、実際に中を調べてみないことにはわからないか。
幸いと言うか、横穴は結構大きい。人1人楽に通れるくらいの大きさがあるから、中を調べるだけならそう苦労はしないだろうし……中の空洞自体も、ここからの『サテライト』で全容が把握できるくらいの大きさしかない。迷子になることもないだろう。
そして、中には生命反応はない。
いや、小魚とか海藻類とかそういうのはあるけど、魔物とかそのへんの類はいないみたいだ。だから、何かヤバい生き物がいて襲われる心配も……多分ないと思う。
念話の通信でエルク達にも、これから中を調べてみる旨を伝えて、その通路の奥へ進んでみる。
……不思議な感覚だな。相変わらずエコーロケーションはこの辺りでは使えないというか、役に立たないみたいだ……カーナビが上手く機能せずに、田んぼの真ん中を車が走ってる状態になってるアレに近い。
反響定位による情報だと、今僕ら、『石の中にいる』状態になってるし……。
暗いところが見える目さえあれば、普通に行けるんだけどね。ホントなんでこんな感じになってるんだか……お、もうちょっとで広い空間に出るな。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……はたまた何も出ないか……
☆☆☆
「で……『何か』は出た、というかあったから、持ち帰ってきたわけだ?」
「しかもコレ……また化石? 最近縁があるわね」
「こっちは……丸い……岩、ですか?」
「ただの岩じゃないと思う。多分だけど、状況からして……卵の化石、とかじゃないかな、と」
宿に戻り、待機組だったエルクやシェリー、ナナ達に、今回の探索で、謎の空洞から持ち帰ったものを見せながらの会話が、今のこれである。
まあ、大体3人が喋ってた通りだな。
たどり着いた空洞は……当然のように水没していて、光源も一切ない空間。
小魚やプランクトン、海藻類何かはともかく、襲ってくるような魔物は全くと言っていいほどいない、ある意味で穏やかな場所になっていて……しかし、何もないただの水中洞窟かと言われれば、どうもそうではないようで。
水の底に何かがあるのを見つけていってみた僕らは、そこに……いくつもの『痕跡』を発見した。
それらは、ここでかつて何か、生き物が暮らしていたことを示すそれだった。
見つけたものは、大きく分けて3つ。
1つ目は、またしても化石。
しかも、水の底に沈んでいたからか……かなり状態のいいもの。表面には海藻類とかが生えてたり、土や砂が積もってたりはしたけど……それでもほぼ完全な、全身の骨が残っていた。
で、その形状が……ぱっと見、巨大な蛇、あるいは東洋の龍の類になる魔物だと思うんだが……流石にどっちなのかはわからんな、形を見ただけじゃ。詳しく調べてみないことには……いや、化石だし、詳しく調べたとしてもわかるかどうかは断言できないけども。
ただ、角の生えた蛇ってあんまりいないと思うし……大きさもかなりデカいんだよ。頭蓋骨の大きさからして……牛くらいなら一飲みにできちゃいそうな感じだし。
それにこの骨格、どっかで見たような気が……?
まあいいや。で、2つ目ね。
といってもコレは、この龍(仮定)の化石とセットにして考えていいと思うんだよな。単なる生活痕というか、恐らくはコレ……食べ残し、あるいは食べた後のゴミの類だろうし。
大小さまざまな魚、あるいは海生生物の骨……の、化石だ。
恐らくは、この龍が獲物として食べていたもの。その食べかすを、住処の端っこにでもおっつけておいたんだろう。で、その一部がこうして化石になって残ったと。
地球で言うところの『貝塚』って奴と同じようなもんか。アレは確か、昔の人が食べた貝殻や、その他動物の骨何かを棄てていたゴミ捨て場で、それが化石として出土して……当時の人々の食生活なんかを知る手掛かりになるんだっけか。
そして3つ目。
今更ながら、あの空間を、この龍の住処だったと仮定して話すけど……そのど真ん中に置かれていたものがあった。
それは、見た目は……単なる丸い岩のようなもの。
龍の化石と同じように、表面には砂や土が積もって定着してざらざらしてるし、ものによっては海藻類なんかも生えてたりするが……どれもくらいの大きさで、同じように丸い形をしている。
ここまで大きさも形もそろっているとなると……ちょっと自然にこんなものできるのかな、と思わざるを得ない。
加えて、角が丸い岩ってのは、主に、川の上流から下流への流れの中で、転がって削れて、角がとれることで徐々にそうなってできるものだ。ゆえに、流れが急な川の上流よりも、そのずっと下流にそういう岩・石は多い。
こういう、流れもへったくれもないような場所にいくつも同じようにできるとは考えづらい。
そして、この洞窟に住んでいたのが龍……爬虫類だってことを考えると……ね。
さっき言ったように、その卵が孵化せず、化石化したのがコレなんじゃないかな……と。
とはいえ、実験機材も何もない現状……軽く調べてみただけだから、ほぼ全部推測。詳しく調べてみないことには、何も確かなことは言えないんだけどね……。
……『深紅の森・深部』の時にも同じこと思ったな。最近そういう……一筋縄ではいかないような痕跡の類を目にする機会が多い。
……というより……そういう痕跡が、『ダンジョンラッシュ』っていう形で最近、一度に表面化してきているわけで……それにこそ何かきっかけ、ないし理由があってそれが起こっていると見るべきか……? ……ダメだな、それこそ今、どう考えても答えなんかでないよ。
とりあえず今回は、あの空間の存在と、そこにあったものについて、これらの証拠品込みで報告して終わりかな……宿に戻ったらそれ用の書類作って、明日か明後日にでもギルドへ……
その後、どうしよう? 拠点のラボに戻ってコレ早速調べようか。それとも……残る調査予定地『サンセスタ島』の方も調べてからにするか……
……今回の外出は、僕はもちろん、クロエにとっての気分転換も兼ねてるからな。ひとまず、行けるところには行ってからにしようか。
そんな風に考えていた僕の耳に、
「しかし……なんだかかわいそうですねえ。この卵たち、孵るというか、生まれることもできずにこうして化石などになってしまったのか、と考えると……」
「それは確かにそうかもね……まあ、その分きっちり調べて、無駄にはしない、的な感じで役立ててあげることで供養に……なる、かな?」
ミュウとクロエのそんな会話が届いて……なんだか耳に残った。
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