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第20章 双月の霊廟
第458話 森の異変と、1つの仮説
しおりを挟む「お疲れ様ー、っと。しばらく帰ってこないんじゃなかったの?」
「その予定だったんだけどね、ちょっとミナトが急ぎで調べたい事ができたみたいで、まだ依頼というか、目的地の数的には半分くらいだけど戻ってきて解析するんだって」
「なるほど、それで帰ってきてからずっと、クローナさんとネリドラと一緒にラボに籠ってるんだ」
今は、ミナト達が『深紅の森・深部』の探索を終えて、その翌日である。
予定では、しばらく冒険者として色々と調査やらダンジョンアタックやらに精を出してくる、という話だったにもかかわらず、一週間とかけずに『オルトヘイム号』で戻ってきたため、今回は留守番担当だったクロエは、頭に『?』を浮かべてエルク達に尋ねていた。
そしてそれに対する返答は、いつものミナトの研究者としての癖が出た、というもの。
「『深紅の森』……だっけ? あの、ウォルカから北に行ったとこに広がってるアレだよね?」
エルクやナナと同じく、ネスティア王国出身であり、そのあたりの地理も多少なりあるクロエ。
セレナのように軍人時代に行ったことがあるわけではないが、基本的な知識くらいは持っており……それを含めた国内数カ所に『異変』が起きているという報告を聞いて、多少なり心配に思っていた。
もっとも、現状は冒険者ギルドが調査ないし対処を進めており、『異変が起きている』という点以外には……問題は怒っていない。
せいぜい、実力を勘違いした冒険者が無謀にも挑んでいって自滅する、くらいのものだ。ギルドから注意喚起が出ている以上、完全に自己責任の範疇であろう。
「んで、ミナトさんはそんな場所で何を見つけたっての?」
「んー……専門用語っぽいのがあちこちにあったから、私も全部理解できたわけじゃないんだけど……『化石』と『植生』だったかしらね」
ターニャが持ってきた飲み物を飲み、おつまみの菓子をかじりながらエルクは話す。
「私とアルバも『サテライト』で探索を手伝ったから、知ってるだけは知ってるんだけど……あの森、やたらとあちこちに化石が埋まってたのよ。しかも、色んな種類の。ミナトによれば、どうやら、全く違う年代、場所、生育環境その他を持つはずの生物のものが、ほとんどひとところに……って感じだったんだって。詳しく解析しないとわからないらしいから、あくまで予想らしいけど」
「……えーと、つまり?」
「そうね……海の魚と、川の魚と、山にしかいない獣と、砂漠にしかいない蛇と、雪山にしかいない鳥……これらの化石が一カ所で発掘されたらどう思う?」
「……そりゃ確かに異常事態ね。え、つまりその『深紅の森・深部』で?」
「今言ったのは極端な例だけどね……そういう状態だったらしいよ? で、ミナト君見つけた化石片っ端から掘り出して……それでもきりがないからある程度で切り上げて帰ってきたってわけ」
「ちなみに『異変』自体は、よそからやってきた『ワイバーン』の群れのせいだったわ。森にいる魔物達を食い荒らしてたから、それから逃げるように縄張りやら何やらが動いてたみたい。もっとも……そのワイバーン達が森にやってきた理由自体はまだ……」
「それも大体わかったよ」
そんな言葉と共に、リビングのドアが開いてミナトとネリドラが入ってきた。
エルクの隣に控えていたターニャに『何か甘い飲み物』とリクエストを出してソファに座り、テーブルの上に置かれているお菓子の1つをぱくついて、ふぅ、と一息つく。
助手として今まで一緒にラボに籠っていたネリドラも、その半身であるリュドネラも同じようにする。
「お疲れ様、ミナト。わかったって、ワイバーンの群れが森に来た理由が?」
「それもそうだけど、あんだけ節操なく色んな化石がひとところにまとまってた理由も。この後資料にまとめてギルドとかに報告するつもりだけど……聞きたい?」
「正直興味あるし、聞こうかしら。資料をわざわざ読むのも手間だし……あんたが作るってことは、専門用語だらけの研究資料になるんでしょ?」
「専門家用のそういう感じの奴と、素人でも概要だけはわかるような簡単にまとめた奴の2種類用意する予定ではあるけど……まあいっか。はい、じゃ、聞きたい人注目ー……は、してもしなくてもいいから、まあ何かしながらでも耳だけこっち向けてね」
☆☆☆
どっから話そうか……簡単な説明で済む、ワイバーン&ワイバーンロードの襲来の理由からかな。
簡単な話なようなそうでもないような、って感じだが……あのワイバーン達は、どうやら繁殖期だったらしい。
狩ったうちの何匹かが雌だったんだが、その体を調べたら、腹の中に卵、あるいは卵になりかけの……何て言ったらいいんだ? 受精卵? を持っている個体が何匹かいた。
そうでない雌も、体の状態……ホルモンとかそういうのが繁殖に適した状態になっていた。
動物、ないし魔物の中には、繁殖を行う際、時期や環境が重要な要素になる種類のものが少なからず存在する。そういう種類の奴は、時期になったら子孫を残すために、雌が、あるいはつがいが揃って、あるいは群れ単位で、繁殖に適した場所へ向かう習性がある。
その場で放浪して探すのか、あるいは知識としてそういう条件の場所を知っているのかは、種類によって、あるいは群れによっても違うが。
どうやらワイバーン達はその類らしい。彼らにとって、繁殖を行う際にちょうどいい環境が揃っているのが、あの『深紅の森・深部』だったみたいだ。
調べてみたら、過去にもワイバーンがあの森に出没したことはあったらしい。
が、『深部』から外側には出てこなかったうえ、わずか数週間でいなくなってしまったということもあって、その時はあまり詳細に調査はされず、理由はわからないままだったそうだが。
……他にもいるかもしれないな、そういう理由で『深紅の森』あるいはその『深部』を訪れたり離れたりしてるような魔物。
案外……『ネヴァーリデス』もそんな感じの存在だったのかも?
さて、ワイバーンについてはこの辺にして……『化石』と『植生』の話の方に移ろうか。
つっても……こっちは引き続き調査やら研究が必要そうなんだけどなあ。
なんか……仮説は立ったんだけど、あんまりにも……それこそ、ここが『剣と魔法のファンタジー』な世界だってことを差っ引いても滅茶苦茶なアレだから……。
「さっきの話聞こえてたんだけどさ、エルクが言ってた、魚とか蛇とか鳥とかの化石の例。それ、実際に起こるとしたらどういう状況だと思う?」
「……ありそうにない例として話したから、ぶっちゃけ思いつかないんだけど……」
「そーね……時代が違うとかどお? 例えば、100年前はそこは海で、200年前は川で、300年前は砂漠で……みたいな感じで、時代と共に環境が変わったから、違う種類の化石が出るの」
「お、クロエお見事。まあ、ぶっちゃけそれが正解なんだよね。100年や200年じゃそう簡単に気候帯まで含めた変動なんて起こらないんだけど……あそこではそれが起こってた」
ぱちぱちぱち、と拍手してクロエをほめながら、説明する。
それこそ場合によっては、どんなに時間がたとうが環境なんてそうそう変わらないもんだ。
まあ、相当な天変地異や自然災害でもあれば別だけどね……大規模な山火事で一気に砂漠化が進んだとか、そういうのであればなくはないだろう。
けど、気候帯ごと書き変わるようなのは……まあ、ないだろう。
赤道付近で寒帯に済む生き物が見られるなんてことあるはずもない。仮にそうなるとしたら、一体どんな規模で異常気象が起こって、どれだけの時間がかかるか。
しかし、あの『深紅の森・深部』では、それが起こっていた。
そしてその名残こそが、あの、地上部分に見られた滅茶苦茶な植生だったのだ。
結論から言おう。あの森は……いや、今でこそあそこは『森』だが、恐らくはそうでなかった時期もあると思われる。それこそ、水の底に沈んでいた時代や、砂漠だった時代、あるいは……雪に覆われていた時代すらあるのかもしれない。
それだけの環境の激変が……まあ、短い間に出はなかったとはいえ、あそこで起こっていた。何度も、何度も。
そして、そのたびに生息する魔物が変わり……それらが化石となって残っていた。
さらに言えば、頻繁に地震、ないし地殻変動か何かが起こっていたんだろう。あの森の地下……というか地層、かなり滅茶苦茶になってるんだよな。上下とか順番が。
上の地層と下の地層と真ん中の地層とその他色々な地層がシェイクされてて、地表に出てる『地面』の種類がすごいごちゃ混ぜなんだよ。
何か上手い例は……そうだな、『石焼ビビンバ』なんてどうだろう?
「石焼ビビンバって……あの、なんか前にあんたが作ってた、色んな具……野菜とか肉とか漬物とかを適当にご飯に乗っけてかき混ぜて食べるアレ?」
「そう、『ヤマト皇国』で和食に飽きて、記憶の中から引っ張り出して独自に作ったアレ。ついでに言うなら、ご飯入れる器が熱した石の器で、めっちゃ熱くなってたアレ」
「あー、アレ美味しかったよね……ちょっと見た目とか食べ方は好み分かれそうだけど。……で、アレがどうしたの?」
と、好奇心で真似して一緒に食べたのを思い出しながら、クロエがしかし、その料理名が出て来た意図まではわからなかったのか、聞いてくる。
「あの料理さ、まず一番上に野菜とか肉とか味噌とか漬物とかの具が乗っかってたじゃん? そんでその下にご飯があった。で、そのご飯も、上からかけたタレがしみてる部分と、そうなってない白い部分、器の熱で『お焦げ』になってる部分に別れてたでしょ? その後、食べる時に中と外でごっちゃごちゃになるまで混ぜたじゃない? 結果どうなってた?」
「そりゃ、具もご飯も、お焦げもタレも全然関係ないくらいになって、見た目かなり……ああ、そういうことか」
「その、具とか、ご飯の状態が違う部分が『地層』だってこと?」
「そうそう。あんな感じになってたの。地表に出てる『地面』がさ、位置によって年代も環境も何もかも、全然違うのがごっちゃ混ぜになってたんだよ」
多分、最初はあの森に地面は、普通に積み重なった地層だったんだろう。
流れる水に運ばれて砂が積もれば、そこには砂の地面ができる。それが時間経過で押し固められていけば、岩になり、『砂岩』の地層になる。
その上に、大きさの異なる粒の……粘土とかが堆積すれば、粘土の層ができる。火山が噴火したとかで火山灰が積もれば、火山灰の層ができる。そして通常、『地表』ってのは、それらのうち一番上になる、新しい層が来ているもんだ。
ただし例外として、色んな出来事で表面が削れたり風化したり、あるいは土石流なんかで下の層がむき出しになったりすることもあるため、年代の違う層が地表に現れる、という現象自体はそう珍しいものでもない。
山行って崖とか見ると、普通に地層とか出てたりするしね。
が……それを鑑みてもあの森は異常だ。
ホントになんか……一部が露出してるとかならまだしも、そういう『違う層』がいくつも、狭い範囲でごちゃごちゃに露出してるんだよ。それこそ、さっき例に出したビビンバ(混ぜた後)みたいに。スプーンで直接かきまぜたみたいになってる。
局地的に、相当に強力な地殻変動が起こったか、あるいは……ホントに何かしらの要因で物理的にかき混ぜられでもしない限り、あんな状態にはならない。
それに加えて、環境までもが激変していると来た。あそこで表出している『地面』の中には、熱帯雨林のような環境の地面、亜寒帯のような環境の地面、砂漠地帯のような、その他色々……気候帯からしてことなる『地面』が混ざっていた。
そしてそこに、それぞれの地面に対応した植生が分布している。あの滅茶苦茶な植生分布はそれが理由だった。
砂漠地帯の地面が出ているところにはサボテンが生えていた。
亜寒帯の地面には針葉樹林ができていた。
熱帯の地面にはマングローブやバナナが。
その他、オリーブが、広葉樹が、ヤシの木が……キリがないのでこのへんで。
そして、それらの地面の下に、それらの時代を生きていたであろう生き物の化石が眠っていた。状態はいいものから悪いものまで様々だったが、ほぼ必ず、何かしらは出てきていた。
ネスティア王国は、四季の変化がほとんど感じ取れないくらいに安定した気候が特徴だ。当然、『深紅の森』だって例外じゃない。
過去はそうではなかった? だとしたらそれはいつのことだ? 少なくとも……今まで自分が呼んだ資料の中に、そんな天変地異じみた環境の激変の記録はなかった。
というかそもそも、百歩譲って過去にそういう時代があって、そういう植物が生えていたとしてもだ。今その時の土が地表にあるからって……思いっきり温帯気候のこの国で、そんなもんが育つはずないだろうに……
「適した気候でもないのに育つ植物、か……聞けば聞くほど、異常事態ね」
「しかもさ……仮にその『地面がシェイクされて』っていう話が正しいなら、その植物の元になった種とか枝木って、それだけ昔のものってことでしょ? ギルドに記録がないレベルで。そんな昔の種が、地の底でそのまま生きてて、地表に出た途端に元気に育ち始めるとか、あるの?」
「普通は、ない。そんだけの期間が経過すれば、どれだけ頑丈で燃費のいい種子や細胞でも、死滅……いや、それこそ『化石化』するだろうし。それこそ、特殊な休眠状態や冷凍状態になって保存されてた、とかならまだしも……」
数千年もの期間、仮にも『生物』である種子や苗木を……その細胞構造を壊さず、生命活動を止めずに生きながらえさせ続ける……僕のテクノロジーでもさすがに難しいぞ、多分。
そんなことができるとしたら、それこそ……
「そういうことに特化した権能・生態を持つ、相当に強力な魔物なら、あるいは……?」
「……いるの? そんなの?」
「……いないわけじゃない、と思う。魔物の中には、そういう感じで、他の生物と共生関係になって、お互いに好条件・好環境で生き続けるようなのもいるから」
口の中に無数のバクテリアを飼っているコモドオオトカゲとか、体内に細菌や寄生虫(ただし宿主には無害)を住まわせる魚類とか……全く別種の生き物と、利害の一致によって一緒に暮らしているような生き物は意外と多い。
魔物の中にもそういうのはいて、例えば極端な例だと……『グランドタートル』なんかがいい例だ。かなり大型だが比較的温厚な亀の魔物だ。
背中の甲羅が土みたいな材質で、そこに植物が生えている。で、その植物は『グランドタートル』から養分をもらって育つ。
それだけだったらただの寄生植物だが、その植物はかなりいい匂いの花や実をつけるため、それを目当てに寄ってくる魔物が多い。そして、『グランドタートル』は普段じっとしていて岩と見間違えることも多く、その存在を察知されづらいので、寄ってきた魔物をまんまと捕食するという関係が出来上がっている。
亀なので動きが鈍く、自力では獲物を捕らえるのが難しいってこともあって、理想的な協力関係?になってるのだ。栄養とられても、収支プラスになるくらいには。
そしてそういう関係を築くことができた両者は、うまいこと長い期間を……それこそ、片方の寿命が来るまでは上手に生き延びていく場合が多い。
最大級の『グランドタートル』は……数百年生きるものもいるとされ、その背中に生える樹木も、それに見合った、樹齢何百年っていう大木に育つらしい。普通なら数年から数十年で朽ちてしまってもおかしくない木でも、豊富な栄養と、『グランドタートル』の背中という最適な環境で生き続けられた結果、自然に地面に生えるよりも長く、力強く生きるそうだ。記録がないだけで、上手いこと生き延びれば専念単位になるんじゃないか、とまで言われるらしいし。
これと似たようなことが起こったとすれば……何らかの魔物、あるいは魔法か何かの作用により、地面に残されていた植物の種子やら何やらの生命力がけた外れに強化されたり……あるいは、劣化しないくらいに優れた保存環境に置かれていたり……そういう状況にあったと仮定すれば、あの森の状態も納得できなくもない。
もっとも、起こっている事態は今だした例とは段違いだけどね。
何せこっちの原因となる魔物は――魔物が原因だという過程のもとで話すけど――環境が激変しようが一切構わず森に生息し続け、ほぼ種類を問わずといっていい数の植物に対して、あれだけの広範囲に力を及ばせ続けたわけだから。
そして……そんなとんでもないことを引き起こせそうな魔物を、僕は……2種類ほど、知っている。
「聞く限り、かなり『とんでもない』部類の奴に思えるんだけど……2種類もか。それって、何? 私達も知ってる奴?」
「どっちも知ってる。片方は超知ってるし、もう片方は……知ってると言えば知ってる。見たこともある。1つは……『ユグドラシルエンジェル』」
「ちょ、それって……ネールの!?」
そう、ネールちゃんの種族。
植物系最強種とまで評される、ランク測定不能の、森の精霊。
けど、僕個人的には、この可能性は低いと思ってる。
存在自体は希少どころじゃない、ってところには一旦目をつぶるとして……森の規模を考えれば、なくはない可能性だろう。
けど……もしあそこに『ユグドラシルエンジェル』がいたとするなら……そもそも環境の激変自体を起こさなかっただろうと思う。周囲が砂漠化しようが土壌汚染が起ころうが、そんな危機から森を守るだけの力すら発揮するのが『ユグドラシルエンジェル』だ。
それこそ、気候そのものの変化が起こったって、それを抑え込んでしまうくらいのことはしそうである。だから、あそこまで気候が激変したっていう状況証拠が残っている以上は、可能性は低い。
「なるほど……『マザーコンピューター』のバックアップありとはいえ、この拠点の森全体を完全に掌握してるスペックだものね。でもだとすると……もう1つの可能性は?」
「……僕としては、こっちが本命かな、と思ってる。こっちの可能性なら……環境の激変はともかく、そんなのにも一切ひるまずあの森に生息し続けて……何百年、何千年もの時間を耐えて植物達を生存させて、あまつさえ育たせて……しかもそれどころか、あのしっちゃかめっちゃかな地表の状況そのものの原因にすらなったんじゃないか、って可能性すらあるから」
「地表が滅茶苦茶になった原因……そのレベルの地震を引き起こした……?」
「いや、それも考えられなくはないけど……多分、直接かき混ぜたみたいになったんじゃないかな? 僕の予想が正しければ……あの魔物なら、多少身じろぎする程度でも、そうなる可能性高いし」
「ええぇ……身じろぎするだけで地表が滅茶苦茶に掻き回されるって、どんな化け物よ……? というか、私達そんな化け物、見た記憶ないんだけど?」
いかにも『記憶にございません』とでも言いたげな顔になっているエルク達。
まあ、確かに……そういう場面を目にしたわけじゃないからね。
けどね、間違いなく……そういうことができる奴と、僕らは以前、ガッツリ会ってるんだよ。
いや、会うどころか船……オルトヘイム号に乗せてるし、そもそも僕、そいつと16年ばかり一緒に暮らしてたんだけどさ。
「え!? それってもしかして、つまり……」
「……お義母さんの……ペット?」
「そう……いたでしょ? 僕らが『アトランティス』に行ってる間とかに、この船の番人役してもらってた……あの、でっかい亀。『バベル』って名前なんだけどさ」
種族名……『コアトータス』。
母さんの他のペットたち……『フェニックス』のストーク、『龍狼・覚醒種』のペル、『ソレイユタイガー・始原種』のビィと同じく……ランク『測定不能』の怪物だ。
あいつの生態、相当に独特なんだよな……石材とか、岩とか、宝石とか食べるし……甲羅は、僕が本気で殴っても傷一つつかないくらいには硬い。
……多分、今でも無理。壊せる自信、ちょっとない。『エクリプスジョーカー』で全力出せばあるいは……ってレベルかも。
そしてあいつ……土を取り込んで巨大化するっていう能力を持ってるんだよな……
前に一回見せてもらった時には、特撮映画の大怪獣かってレベルにまで巨大化して……それを相手に母さん、修行ださあ戦えとか無茶苦茶言われ……うっ、頭が……
まあ、それは置いといて……その時に、当然土だけじゃなく、草木とかも一緒くたに取り込むんだけど……それを体の中で、異化した状態で保管してたりするらしいんだよな、あいつ。
当然、木とかは取り込む段階で、あるいは戦闘中に破砕されて粉々になっちゃうんだけど……種とかは無事に済む場合が多い。
で、巨大化解除時に、取り込んでた土を放出するんだけど……その土、どういうわけか栄養満点になるらしいんだよ。植物とかの生育に適した感じのそれに。
『コアトータス』自体が強大な水と土の魔力を持った存在だから、その恩恵なのかもしれない、って言ってたな、母さんは。
で、その土に、生き残った種とかが含まれていれば……もしかしたら、豊富すぎる栄養や、その他謎な恩恵ないし作用に充てられて、そのまま育ったりする可能性も……なくはない、かも。
だとすれば、あの辺に昔……それこそ、どれくらい昔のことなのかは分かんないけど……いたのかもしれないわけだ。
バベルとは別個体の『コアトータス』……ランク測定不能の怪物が。
……いや、待て。本当にそれ……『昔』か?
最近頻発してる地震……ネスティア王国のあちこちで、場所は違えど毎回結構な規模で起こって、山崩れなり何なり引き起こしてるそれ……
ひょっとしたら、それら……あるいは、そのうちのいくつかは……
だとしたら……今も…………? ……考えすぎ、だろうか?
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