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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇
第433話 決戦前夜
しおりを挟むあっという間に時間は流れ……今日は決戦前夜。
スケジュールを考えて準備を済ませ、事前に移動し……僕らは今、『セキガハラ』近くのある程度開けた場所にて、野営を築いている。
ここで一泊して体を休め、明日は『酒吞童子軍』との決戦に挑む予定である。
ここまでの展開は予想通りと言っていいもので、『酒吞童子軍』は北陸と関東の丁度境目くらいの位置に潜伏していたみたいだが……残存戦力を終結させて、決戦を挑むべくこっちへ向かって来ていた。
途中にいる朝廷側の領地なんかから軍が出て応戦したものの、数が減った分精鋭が多く残った形になっている敵軍を止めることはできず、公式に朝廷が『無理はするな、退け』って通達を出して被害を最小限に抑えることに。
幸いというか、敵はそのまま深く追撃してくるようなことはなく……また、道中の町や村で略奪を行うようなこともほとんどなかった。……残念ながら、全くとは言えないが。
恐らくだけど、進軍スピードを重視してるからだと思う、というのが、こちら側の軍師メンバーの見立てだ。精鋭ぞろいとはいえ、基本的に奴らの周囲は全部敵である。1か所に長くとどまれば攻撃を受けるだろうし、それを撃退したとしても被害は出る。
軍で行動してるからどうしても足は遅いし、そのあたりのバランスを考えると、略奪は最小限にしないと、決戦の場所である『セキガハラ』に来るまでに戦力を摩耗してしまう。
そういう感じでここに向かってきている敵軍と、明日激突する見込みだ。
もちろん、その直前に夜襲を仕掛けてくるような可能性も捨てきれないので、きちんと警戒して周囲に見張りを立ててるし……エルクとアルバが交代で『サテライト』を使って広域監視したり、その他色々と用意してるけども。
しかしそれもどうやら杞憂だったようで、夜、実に穏やかで静かな時間を僕は過ごしていた。
明日には、これまでで最大規模の戦いに身を投じることになるなんていう状況だとは思えないくらいに……不安で騒がしくて眠れないよりはましだけど。
もう少しでエルクが『サテライト』当番から戻ってくるので、そしたら明日に備えて早く寝ようかな、と思ってたんだけども……
「隣、いいかしら?」
ぼーっとしてた僕の隣に、いつの間にかタマモさんが来ていた。
手に……恐らくは酒か何かが入っているんであろう、瓢箪を持って。
一杯付き合えと言われたので……タマモさんが持ってきてくれた湯呑みに半分くらいもらった。
お酒は苦手なんだけど……タマモさんはそれを知ってるはず。それでも誘って来たってことは……まあ、そういう気分だったのかな、とふと思った。
いつだったかのザリーの時みたいに、ひとまず付き合うことにして……ぐいっと飲む。
………………
「……戦の前に飲むにはきつい酒じゃありません? 度数的に……」
「そう思うでしょう? ところが、びっくりするくらい抜けがよくて後に残らないの。寝酒にはぴったりなのよ……美味しいし」
ザリーと一緒に飲んだアレよりもさらにきつめで、喉がかあっと熱くなる感覚だが……そういう酒もあるのかな、と、タマモさんの説明には納得しておいた。
同じようにタマモさんもぐいっと飲む。
一気に煽ったからか、ちょっとだけ口の端から酒が漏れて零れ落ち、豊かな胸元を濡らす。タマモさんは特に気にした様子はないが……僕から見て、月と夜空バックに『ほぅ……』と息をつく彼女は、かなり色っぽかった。濡れた口元とかも含めて、妙に。
リラックスしたように、若干狐耳をたれさせながら、
「災難だったわね、ミナト君」
「はい?」
「護衛任務とはいえ、あくまで物見遊山が半分くらいのつもりで来たというのに……いざ来てみれば、最初の『ハイエルフ』の一件も含めて戦いの連続。挙句、こんな内紛に近い戦いにまで巻き込まれることになって……」
「ははは、そうですね……まあ、一部タマモさんに巻き込まれたっていうか、ふっかけられた戦いもあった気がしますけど」
「あら、でもそれはきちんと血肉になったでしょう?」
にやり、といたずらっぽい笑みを返してくるタマモさん。
「クローナから聞いたわよ? あなた、最近ちょっと伸び悩んでたから新しい刺激を求めてたんですってね。この外交訪問に同行したのは、そういう刺激を探してっていう面もあったみたいね」
「あー、はい。確かにここでは色々と学べて、しかもまとまった時間があったから、有意義な時間を過ごせましたね。……少し不謹慎な言い方になりますけど、それを実践する機会も多かったし」
「押し付けられた模擬戦とか?」
「あ、それ言っちゃうんですね」
僕としては、まさに今巻き込まれてる『酒吞童子の乱』について言ったつもりだったんだけど……ひょっとしてタマモさん、それをわかってて、アレな空気にならないように気を回してくれたのかな? それとも、単にさっきのお返しで皮肉ってきただけか。
「まあ、それももうすぐ終わるわ……この闘いが終われば、朝廷主導で国家の再編を進められる。大変だけど、不穏分子が大幅に減った分、潜在的な部分を含めて、より強固な基盤づくりができるはずよ……この際だし、私も積極的に手伝おうかしら」
「あっという間に解決しそうですね、色々と。その調子で条約の締結とかも手伝ってもらえると、早く帰れてオリビアちゃん達共々助かるんですけど……」
「あら、そんなに早く帰りたいの? もうちょっとゆっくりしていってくれてもいいのに……何なら、定住してしまっても構わないのよ? 『キョウ』の貴族区に一等地を用意してあげるわ」
と、冗談なのか本気なのかちょっとわからないトーンでそんなことを言ってくるタマモさん。
流し目がまた色っぽくて一瞬ドキッとしたけど、
「いやー、それも面白そうですけど遠慮します。向こうにきちんと拠点もあるんで」
「それは残念。でもそれなら、いつか私もそっちを尋ねて……いや、いっそ何年かしたら、大陸の方に戻るってのも手ね……この国にも随分長くいたことだし」
「え゛!?」
これまた冗談かどうかわからない……冗談じゃなかったらかなり重大なことを、しれっと呟いたタマモさんに、流石に僕はぎょっとした。
え、ちょ……タマモさん!? この国出るつもりなの?
確かに、タマモさんはもともと大陸の出身だし……それに確か、色んな国をとっかえひっかえして権力者に取り入って暮らしてたって話だから、やろうとしてるのは昔と同じようなことなのかもしれないけど……
いやでも、やっぱり大ごと……だよね? 『八妖星』の一角が、引退して(そういう扱いになる……のかな?)国からも出て行っちゃうなんて。
そのネームバリューも含めて、縄張りの治安を維持してるような面も強いだろうし……いやまあ、タマモさんなら後継者を育てるなり、各方面に根回しするなりして、問題ないようにしてから引退するだろうことは予想できるけども……それにしたって重大なことをさらっと……
「……ちなみにすいません、今の、どのくらい本気で言ってます?」
「9割くらいかしら」
あ、コレ割とマジでやる気だぞ。
「どうしても無理そうだったらまた考えるけどね……もともと傷心旅行代わりに、気分転換で居着いた国だもの。色々な人にお世話になったし、その恩返しもかねて長いことこうして色々やってきたけど……あなた達を見てたら、昔のことを思いだしちゃったわ。最近よく、恋しく思うのよ。昔みたいに、気楽で自由な暮らしをね」
「……その場合、ヒナタさん達はどうするんですか?」
「彼女達に任せるわ。私についてきたいならもちろん歓迎、この国に残りたいならそれでもよし。個人的には……長い付き合いだし、一緒に行きたいとも思ってるわね」
「皆さんが一気にこの国からいなくなったら、ちょっと大変なことになりそうですけどね」
「そうね。でも仮に皆がそう望むなら、私は止めるつもりはないし、むしろ周囲が反対してでも掻っ攫っていくつもりよ? 私だって彼女達のことは大切にしてるし、一緒にいたいと思うもの……あなたもそうでしょう? 国のため、治安のために仲間と別れろって言われたら、納得できる?」
「しませんね。その国滅ぼしてでも仲間を守ります」
「迷いないわね。さすがはリリンの子」
というか、実際にそんな感じの動機で国を相手に喧嘩して滅ぼしてます。2つほど。
「でも、大陸に帰るとして……今度はどの国に取り入ろうかしら。前にあなた達から聞いた限りだと……私が知ってる国って、今もだいぶ減ってしまっているようだし、大国のほとんどは安定していて、潜り込む隙間もなさそうな感じなのよね……」
「あー……またそういうスタイルで行くんです? ブレませんね」
やっぱ好きなのかな、傾国の美女プレイ。
……実際にはむしろ傾いたのを立て直してるわけだけどさ。そしてその枠内で贅沢すると。
「どんな国があるか説明しましょうか?」
「後でいいわ。今聞いても、取らぬ狸の皮算用だもの……そう、戦いが終わった後で、ね」
「……そうですね。さっさと終わらせましょう、こんな戦い」
なんか、ふいに空気がしんみりしてしまった。
お互いに無言で、ちょっと次何言おうか迷ってる感じの中……タマモさんは自分と僕の湯呑みにそれぞれ酒を継ぎ足した。
さっきと同じようにぐいっと……いくかと思いきや、タマモさんはまだそれを飲まずに、湯呑みをこっちに差し出すようにして持っていた。
僕は僕で持ってるので、渡そうとしてるわけじゃないだろう。というか、これは……
「ミナト君」
「?」
「改めて……明日はよろしく頼むわ」
顔はほんのり赤く、優しい笑みのまま……しかし、目は真剣だ。
自然と僕も、彼女に習って……湯呑みを差し出すようにする。
「あの大馬鹿者共が、己のわがままで起こした、内紛でしかないこの戦いに……あなたを巻き込んでしまったことは申し訳なく思う。でもそんな反面、あなたという人が一緒に戦ってくれることほど心強いことはないわ……」
「何度も言ってるように……他人事じゃないですからね、もう、僕らにとっても。サクヤが狙われてた状況はもちろん……『百物語』なんてもんを感染されたり、敵に因縁のあるのが混じってたりしましたし……できれば明日で全部清算したいですね。それに……」
「? それに……?」
僕は、その後に続ける言葉を……少し考えて、慎重に選んだ。
今の『それに』は……ちょっと何というか、つい口をついて出てきてしまった感じなのだ。
別にリップサービスってわけじゃなく、先に述べた理由と同じで、きちんと僕の本心なんだが……ボキャブラリーが貧弱なせいで、稚拙な感じのもの言いになってしまう。
けど、変に婉曲していうのも違う気がするし……いいや、普通に言っちゃえ。
「……なんか最近は、タマモさん達のことも、他人とは思えないというか……どっちかっていうと身内判定になってきてますんで。ここで見捨てるとか、選択肢にないです、もう」
その言葉に、一瞬きょとんとした顔を見せたタマモさんだが、すぐに嬉しそうに笑いだし……
「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるわね。そんな風なこと言われたら……私、本格的に期待したくなってきちゃったわ………………色々とね」
「はい?」
「何でもないわ。明日……きっちり勝ちましょ。その上で、大陸に帰るなり、リリンに挨拶しに行くなり、楽しい未来を築いていきましょう。こんなところで足踏みなんかしてられないわ」
「ははは、そうですね……よろしくお願いします」
――チン
酒の入った湯呑み同士をそっとぶつけて、甲高い音が鳴る。
そして僕らは、景気づけよろしく、その酒をぐいっと一気に飲み干した。
いい具合に気分がほぐれた。
アルコールなんて速攻で分解しちゃう僕の肝臓の前では、寝酒なんてものの効能は期待できないけど……単純に不安自体が紛れたというか、押しのけて明日へのやる気って奴が出て来た。うん……気分よく眠れそうだ。
そのまま少し話して、タマモさんは『自分ももう休む』と言って、自分の天幕(テントみたいな仮設の寝床)へ引っ込んでいった。
天幕といっても、その実態は例によって僕作成のマジックアイテムだ。歪曲空間内部にビジネスホテルのような、広くはないけどゆったりくつろげる空間が用意されております。ゆっくり休んで万全の体調で明日を迎えてほしい。
僕も、そろそろエルク帰ってくる頃だろうし、もう寝ようかな…………っと、その前に。
「……ミュウ。そんなとこにいないで……そろそろ寝ないと風邪ひくよ」
首だけ振り返って……後ろに見える木の影に視線をやる。
そこに、隠れるようにして小さくなっている……クリーム色の毛の子猫。僕に名前を呼ばれた瞬間、少し驚いたのか、ぴくっと反応してたけど……すぐに観念して出て来た。
あの様子だと、もともと隠れきれるとは思ってなかったようだな。まあ……喋ってる最中に近づいてきてたの、タマモさんも僕も気づいてたしね。
『混ざってこないのかなー』とは思ってたけど、くる様子ないから放っておいた。
もしかしたら、何か内緒……ないし、2人きりで話したいことがあるのかもしれなかったし。
けどどうやらそうではなく……しかし、一応真面目な話ではあるようだった。
『変身』を解除して元の姿に戻った彼女は、僕の隣にちょこんと座り、
「……ミナトさん」
「ん、何?」
……何か、この様子見てると大体わかるな、用件。
ここ最近、時々だけど……こういう弱弱しいミュウの姿をよく見るから。
「……もう、戦いの前日ですから、四の五の言うつもりはありません。ただ……さっき、ここ最近で一番詳細な『夢』を見ました。例によって、不吉であるということ以外よくわからないんですが……とりあえず、伝えなきゃと思って来たんです」
……予知夢か。
明日に備えて、今日の仕事が終わった人から早く寝るようにしてたシフトだけど……それが裏目に出たか。いや、裏目かどうかはわからんけども。何か悪いことがあったわけじゃないし。
幸か不幸か見ることができた『予知夢』。その中身はというと。
暗闇の中、『鬼』と戦う僕。その『鬼』は何者なのかはわからない。キリツナなのか……あるいは、他の何かなのか。
すると、夜が明けたように太陽が昇り……あたりを明るく照らし出す。
しかしその光は、僕らの周りにだけは届かず、そこだけは暗いまま。むしろ、さらに暗くなり……夜の闇どころか、墨汁をぶちまけたような真っ黒な世界が広がる。
そして僕の目の前で、『鬼』は……『龍』に姿を変えた。
その龍の一撃で、僕の足元の地面が割れる。周囲よりもさらに暗い……漆黒よりも暗い、僅かな光も届かない闇の中に、僕は落ちていく。
僕は動かない。上がってくる気配もなく……力なく、落ちていく。
そして……世界は暗転する。
光も闇も、何もかも見えなくなり……夢は、終わる。
…………うん、わからん。
☆☆☆
「明日の一戦こそが、我ら『鬼』の理想を体現する第一歩となる戦いである! 数多の死を乗り越えて手にした力が、我らに勝利をもたらすだろう。我らを阻むことができる者など何もない……力こそ全て、この世における原初の断りを取り戻すのだ!」
ところ変わって……ここは、『鬼』の陣地。
移動しつつかき集めて来た、『酒吞童子軍』に賛同する者達の前で……四代目酒吞童子・キリツナは、鎧兜を身に着けて完全武装の状態で立っていた。
その脇には、傷を癒して力を戻したタキとリグンがいる。
かつてはここに、もう2人、志を同じくした同胞がいたことを、2人は少し頭に浮かべつつも、考えても仕方のないことだとすぐに振り払った。
今、目に映すのは、力強く兵たちを鼓舞する、自分達の総大将のみ。
自分達がやるべきことは、その命に代えても彼の理想を成就させ、彼に天下を献上することなのだと。
(オウバとサカマタはその信念に殉じた。ならばその遺志を受け継ぎ、キリツナ様をお守りし、支えることこそ、私達のなすべきこと……!)
(カムロやリュウベエは何事か企んで別行動をとっているらしいが、最早奴らの手など借りぬ! さらなる『百物語』によって得たキリツナ様の、私とタキの、そして鬼達の力をもってすれば、『九尾の狐』も大陸の異邦人も恐るるに足らん!)
「勝利はすでに我が前にある! 死を恐れるな、戦友の屍を超えて進め! 全ては、『鬼の天下』という明日を勝ち取るために、我らの力でこの国を獲るのだ!!」
―――おおおぉぉぉおお――――っ!!
鬨の声がとどろく中、キリツナもまた……口だけでなく、自らの勝利を疑っていない、強い意思を感じさせる瞳で、眼科に広がる大軍勢を見据えていた。
☆☆☆
……そして、また別なある場所にて。
『セキガハラ』から遠く離れたその場所に、その男はたたずんでいた。
この国では、おそらく他に着用するものなど――使節団のドナルドなどといった男性職員を除けば――いないであろう、ピシッとノリの効いたスーツに身を包み、やや不釣り合いな和の趣のデザインで作られた煙管をふかしてる。
ふぅ、と吐き出した紫煙は、夜の風に散らされ、すぐにとけてきえた。
「静かないい夜だ……ほどほどに冷たい風、月明かりも明るい。酒でも用意して一杯やりたい気分になる。明日の祭には急げば間に合うし、景気づけくらいにはいいかと思ってたんだが……」
ちらりと足元を見る。
そこには、無残に砕け散った瓢箪が一つ。中に入っていた酒は、全て地面にぶちまけられてしまって台無しだ。
ふぅ、と……今度のはため息だ。同じように紫煙をくゆらせてはいるが、少しの苛立ちと呆れが含まれている。
「こんな夜によぉ……風情ってもんがねえんじゃねえのかい? じい様方……」
カムロはそう言って、今一度……自分の周囲を見渡した。
そこには、彼を囲むように……10や20では到底きかない数の妖怪達が降り立って、あるいは宙に浮いて身構えていた。
皆、一様に戦意あるいは殺気をたぎらせて、その包囲の中心にいるカムロから、一瞬たりとも目を放すまいとして睨みつけている。
様々な見た目の妖怪が集まっているが、よく見ると、特に多い種類は3つ存在した。
狸と河童、そして……天狗である。
その区分の中でも違いは多々存在する。
例えば、赤い顔に長い鼻という普通の『天狗』もいれば、黒い羽毛にくちばし、背中からは黒い羽根の生えた『烏天狗』もいる。
緑色の体に水が滴る『河童』もいれば、茶色の体に泥をこびりつかせた『沼河童』、海に棲む青い肌の『海河童』もいる。
狸は種族的に大きく差があるわけではないが、装束や装飾品などによる自らの飾り立て方は一番多彩と言ってよく、にぎやかな見た目をしていた。
そして、それらを率いるように最前列に立っている者達。
ひと際大きな力を持ち、威圧感を放っている彼らこそが、この軍団の頭3傑であり、『八妖星』に名を連ねる大物中の大物であった。
見上げるほどの巨体を持ち、太鼓のように膨れた腹とずんぐりした体躯が特徴的な狸の総大将。
『マツヤマ』周辺の妖怪達の総元締……『隠神刑部狸』のロクエモン。
背中の甲羅を含め、甲冑のような重厚で金属質な装甲を全身に纏った河童の総大将。
『トーノ』周辺の妖怪達を率いる大御所……『鎧河童』のヨゴウ。
前2人に比べれば小柄だが、それでも2m近い体躯を誇る、赤顔に長い鼻、山伏装束の益荒男。
『エチゴ』周辺の妖怪達を束ねる巨怪……『大天狗』のタロウボウ。
「俺一人とっちめるために何百人寄こしてんだよ、爺共がよ……てめえの3分の1も生きてねえガキ相手に、流石に大人げねえと思わないのか?」
「ほざけ、小童。『イズモ』に居た頃から、ふらふらと好き勝手をやる軟弱者だとは思っていたが、調子に乗りすぎたな……よそで遊び歩いたり喧嘩をするならまだしも、我らの土地の安寧にけちをつける者は、生かしてはおかん」
強い口調で、『大天狗』のタロウボウが吐き捨てるように言い放つ。言い訳も泣き言も聞く気はない、とでも言わんばかりに突き放す言い方だった。
それに続く形で、ヨゴウとロクエモンも口を開く。
「『トーノ』ではよくもやってくれたものだ……あそこに生きる者達を率いる身として、やられっぱなしでいるわけにはいかん。『キョウ』の若い連中の手伝いでもさせてもらわんとな」
「お主の性根を見抜けず、また叩きなおせなんだのはわしの不明……できるならわし一人でけじめをつけたかったんじゃがの。お節介な顔なじみがこうして集ってくれたわけじゃ」
一度はカムロを後継者に指名し、自分はその座を引いたロクエモンは、怒りや悲しみ、失望や後悔など、様々な感情が乗った瞳をカムロに向けているが、それで見つめられている当のカムロは、何も応えていないようにしれっとしている。
「貴様の強さはワシらもよく知っている。油断も手加減も期待せんことだ」
「袋叩きにさせてもらうが悪く思うなよ。ここで確実に殺す」
「……もうちっと、周りを見て歩み寄ることさえできていればな……こんなことはせずに済んだのにのう」
厳しい言葉をかける者もいれば、これから待ち受ける戦いを残念がる者もいた。
しかしそんな言葉は、そこに込められた思いは……等しくカムロには届かない。
『やれやれ』と言わんばかりに首を振り、呆れのこもった、なんなら迷惑そうな視線を彼らに向ける。
「縁側で茶でも飲んでりゃいいものを……年寄りの冷や水、って知ってるかじい様方。こんなガキ1人に『八妖星』が3人もそろって、よっぽど暇……」
「いいや、4人だよ……人じゃないがね」
その瞬間、月明かりを押しのける勢いの強烈な光を放つ何かが、空から現れた。
カムロのみならず、ロクエモンたちやその部下達もまた、驚きと共にそれを見上げ……何が来たのかを目にした瞬間、さらに驚いた。
そこには、両翼を広げて数mにもなろうかという大きさの、黄金の羽毛を持つ鳥が飛んでいた。
圧倒的な存在感、迸る膨大な……しかし澄み切った妖力。
見る者に問答無用で畏敬の念を抱かせんばかりのその存在が何者なのか、見ていた者達は一瞬で悟った。
「「「『鳳凰』……!?」」」
かつてミナト達の前にも姿を現した、小柄な老婆。
その真の姿……『リューキュー』を統べる『八妖星』最古老たる霊鳥、『鳳凰』。
その実力は疑うべくもないが、争いを好まず、またよその領地でのもめごとには徹頭徹尾関わる姿勢を見せない穏健派たる古老。鳳凰を知る者は、彼女をそう認識している。
ゆえに、今回の戦いにも、領地を守るために加わることはないだろうと見ていたが……その予想を裏切られ、『八妖星』3人はもちろん、カムロも驚いていた。
「これはおったまげた……まさかあんたまで出てくるとは。てっきり今回の戦乱にはノータッチかと思ってたんだがな。半分隠居のばあさんが……どういう心境の変化だ?」
「本当なら若いもんに任せて、あたしは見守っているつもりだったともさ。でもね……あんたが、あんた達がやろうとしていることに気づいちまった今、最早あたし達にとっても、この戦は他人事じゃなくなっちまったんだよ」
その言葉を聞いて、何のことだと不思議な顔をする3人。
対してカムロは、驚いたような表情をするとともに……にやりと笑う。
「……あらら、気づいちまったのか、婆さん……流石、最年長は頭の中も別格だねえ」
「ちょいと大それたことを考えすぎたよ、悪ガキ。あんたのバカな遊びのために、この国を闇で覆わせるわけにはいかないね」
「闇……? おい、『鳳凰』の婆様、何を言っている? こいつの目的とは何だ!? 『鬼』共を煽って戦乱を巻き起こし、方々にちょっかいをかける以外に何かあるのか!?」
「『エゾ』の封印、禁忌の術『百物語』……そういった派手な部分に隠れて、ちょいと盲点だったが……あんたが最も得意とする『陰陽術』。その基礎中の基礎にして同時に極意である……『相反する2つの力の調和・融合』。あんたの陰陽術の腕なら……やりかねないと思ったよ」
「やろうとしてることは単純だからなあ……ただ、スケールが違うだけで。それにしたって、よくもまあ気付いたもんだ。自分で言うのもなんだが、普通考えないだろ、こんなこと」
「ええい、先程から何を話している! 一体こいつは何を企んでいるというのだ!? 『鳳凰』! あなたがそこまで危惧し、自らここに現れるほどの脅威とは、一体何だ!?」
タロウボウが苛立ちを隠そうともせずにそう怒鳴って問いただすが……カムロはやはり、答える気配を見せない。
もともとタロウボウも、カムロが答えてくれるとも思っていない。ゆえに、真実を知っていると思しきもう1人……『鳳凰』に視線を向ける。
しかし、鳳凰が口を開こうとした瞬間…………その一体を、すさまじい妖力が席巻した。
「……っ……!? 何だと……?」
「まさかっ、これは……」
「何と、これほどまでに……カムロ……!」
「……やる気になったってわけかい、悪ガキ」
迸る妖力。それにあてられて、『八妖星』の部下たちの中には……あまりの威圧感に、恐慌状態になりかけたり、気絶する者すら現れている。
だがこの妖力の奔流は、別にカムロが威圧目的で放ったわけではない。
さらに言うなら、意図して放ったものですらない。
カムロが臨戦態勢に入りつつあるのは確かだ。加えて、『八妖星』4人が相手とあって、気の抜けない戦いになると認識している。
しかも、そこには滅多に表舞台に出てこない『鳳凰』までもがいる。自分を『危険である』と認識し、自ら動いて手を下さねばならないと、その重い腰を上げた。
裏を返せば、自分が『認められている』ということに……カムロは、柄にもなく、嬉しくなってしまっていた。その抑えきれない歓喜が漏れ出た結果が……あの、途方もない妖力だったのだ。
彼にしてみれば、嬉しさのあまり思わず声が出てしまった……という程度のものだ。
「何だかなあ……ここまでくると逆に面白くなってきやがった! はっはっは、いいじゃねえか、本番前の前夜祭って奴だ! 盛り上がっていこうぜジジババ共!」
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「ここですんなり言っちゃあ面白くねーだろう? せっかくこうして囲ってんだ、当初の予定通りにやりゃあいいだろう! 聞き出してみな、俺の目的を! 止めてみな、俺の凶行を! じゃなきゃどの道、あんたら全員死ぬだけだ。これから来る新たな時代、生き残るべき者を選別する破壊と絶望の奔流、その先駆けがこの俺さ! まあでもわからなくても心配するな、答え合わせは明日できる! あの世からでも見えるくらいに、ド派手にやってやるからよ!」
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婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
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【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
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