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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇
第405話 唐突な展開と、1つの真実
しおりを挟む『ヤマタノオロチ』
感じで書くと『八岐大蛇』となるこの怪物は、日本神話においても屈指といっていいレベルの強大な魔物、ないし妖怪であり、八頭八尾からなるその巨体は、8つの山と谷にまたがるほどの大きさだったとか言われる、文句なし超ド級の化け物だ。
1年に1人の生贄を捧げさせて食らっていたとか言われているけども、そんな巨体を持ちながら1年に1人の生贄で満足してくれるとか、燃費がいいというか良心的というか……まあ、そんなツッコミどころはいいとして。
この魔物は、いくつものゲームやら漫画、アニメ、ラノベ、その他諸々にその名を、あるいはその派生形と言ってよさそうな存在を登場させる、日本においてはメジャー中のメジャーと言っていい怪物だ。多分だけど、日本人でこいつの名前をしらない人っていないんじゃないかな? 割と本気でそう思っている。
ゆえに、ゲームだろうがマンガだろうがアニメだろうが、そいつと戦うなんて展開とあれば、それはもう、血沸き肉躍る、胸高鳴り魂燃える一大決戦に他ならないのである。少なくとも、厨二病がまだ終わっていない男の子の感性としてはそうだ。
だというのにこの状況よ。
「おし、ちょうど8匹いるな。ノルマは1人1匹ってことで、各自かかれ! ああ、わかってると思うが、極力損傷を抑えて奇麗に殺せよ!」
「うわー珍しい、クローナがやる気になって先頭に立ってる。まあいいけど」
「各々方、気を付けるでござるよ。毒はないが、固体によっては術を使うし、暴風、ないし衝撃波の息吹を吐いて攻撃してくるでござる。おまけに見ての通り手数が多いゆえ、油断は絶対に禁物でござるよ」
「手数なら私も負けません……と言いたいところですが、成熟度合いでは1~2本足りないか……いや、そこは技術で補えば……」
「単純な馬力も、耐久力も高そうですね。これは根競べになるか……急所にいいのを叩き込めれば違うかもしれませんが、蛇系統の魔物はインファイトは少々危険ですからね……」
「うっはー、久々の大物! これ1人1匹狩っていいってサイコーね! しかも倒したら他の人のに加勢に行ってもいいんでしょ? 必要に応じてだけど」
「張り切りすぎてズタボロにしちゃダメよーシェリーちゃん。うちのマッド共が研究材料にするのと、後で食料として食べるんだから……蛇かあ、野外訓練でよく食べたっけなあ」
この緊張感のなさ。
いや、2~3人くらいきちんと真面目に構えてるのがいたけどさ……それでもちょっとこれは。
伝説の怪物との戦いが、普通のモンスターハントになっちゃってるよ……しかも後で食べるとか話題にだしてるし。
雰囲気も何もあったもんじゃないなあ……
『リューキュー』を出て『シマヅ』を経由し、ここ『イズモ』にやってきた僕らは、そこで日本神話最大クラスの怪物と戦うことになる……と思ってたら、単に育ちすぎた+増えすぎた害獣の間引き的な感じだった件。
山奥にあるそいつの生息地に言ったら、餌の匂いを感知してか、出るわ出るわ。
『ヤマタノオロチ』といいつつ、未成熟で首が4つとか5つしかない奴もいて……最終的に、大小合わせて8匹の『ヤマタノオロチ』が出現。希少価値もへったくれもない事態である。
『成熟個体』である、首が8本ある奴は3匹しかおらず、そいつは僕と師匠、タマモさんでそれぞれ相手することになったので、残りの首4~7本の連中をそれぞれ残ったメンバーが狩る。
狩った。
食べた。
美味しかった。
……何あれ、下手な高級食材とかより美味しかったんですけど。すごいなヤマタノオロチ。
例によって『イズモ』で取っていた高級宿の食堂に持ち込み、蒲焼きみたいにしてたれをつけてご飯と一緒に食べたところ、ふんわりとろ~り柔らかい肉とたっぷりの肉汁、そして純白の米が見事なハーモニーを奏でており、思わず『うッまァ!?』と叫んでしまったくらいである。
しかも、肉以外も美味しいと来た、この蛇。
骨は煮込めばいい出汁が取れるし、ホルモン系も物によっては割と美味しいし栄養満点で滋養強壮によく、脳や目玉は少し癖があるが、ウニみたいに濃厚かつクリーミー。
あと、牙の欠片を熱燗に入れた、『ひれ酒』ならぬ『牙酒』なんてものまであった。僕は飲まなかったけど、酒飲みチームが絶賛してた。
無論、魔物らしく各種部位は素材としての価値も高いため、捨てるところがないいい魔物だ。
フロギュリアで『モビーディック』……『白鯨龍』を仕留めた時に近いものを感じる。
「……『ルインガーデン』の端っこの方が空いてたな。餌になる獣も出るし、冬眠に使えそうな穴とかもあるし、ちょうどいいかも」
「あ、ヤバいコレまたこいつ拠点近くに食用の魔物放そうとしてる」
義姉さんに気づかれた。
まあ、気づかれてもやる方向で行くけど。
この美味しさはそれだけの価値がある。エルク達にも食べさせてあげたい。
そんな感じで、僕らの『ヤマタノオロチ』討伐はあっけなく、しかし美味しく終わりましたとさ。
☆☆☆
そして翌日。今日も僕らは時速50㎞超で、次なる目的地へ向けて走っている。
気が付けばこの『諸国行脚』も11日目。終盤に差し掛かり……今回の目的地は『マツヤマ』。
日本で言えば四国にあたる、やはりというか瀬戸内海っぽい海を挟んだ先にあるその地へは、海の上を走っていくことになる。
だが、そのくらいなら苦でもないくらいにまで、ここにいるメンバーは鍛えられている。何も問題ない。
……そう、ここにいるメンバー全員そうなのだ。
こないだまで、陸路だけでもかなりきつくて、翌日以降に疲労を残していたギーナちゃんやサクヤも、今では1日約200㎞の道のりを、楽にとは言わないまでも、最初のころよりははるかに余裕を持って走り切れるようになっているし、水上を走るのもスムーズにやれるようになっている。
具体的に言えば、町に到着後、それまでは宿屋で休憩するばかりだったのが、多少とはいえ僕らと一緒に買い物とかを楽しんだりする余裕が生まれていると言えば、その進歩具合が顕著だとわかるだろう。
単なる脳筋系修行じゃなく、きちんと実のある修行だと証明されたわけだ。
ぎっちり走って、がっつり食べて、しっかり休んで……必要に応じて『房中術』で自然回復を加速させて、っていうのの繰り返しが、言い方ちょっとアレだけど、かなり効率よく体を作ったってことなのかな。バカにできないな、こういうシンプルな修行も……。
「それだけじゃなく、心身に『刺激』になる要素を多分に含んでいるから、っていうのもあると思うわよ?」
と、何となしに呟いていた僕に、横を走るタマモさんからそんな言葉が。
「人間……だけじゃなく、妖怪も亜人もだけど、ただ部屋の中や見慣れた運動場で、ルーチンワークみたいに同じことを繰り返すだけじゃ、心も体もマンネリになっちゃうものよ。適度に刺激してあげることで、それについて行こうとして心が鍛えられて、それに引っ張られる形で体も応えようと成長を促す……っていうの、割とあると思うわ。そういう経験、ない?」
「あー……確かにありますね。何か新しい経験を乗り越えたところでぐぐーっと成長できる的な。確かにこう……堅実さとは遠いというか、そういう意味では邪道かもしれませんけど、経験も印象も確かにあります」
その点この『行脚』は、やることは単純なものが多くても――メインはランニング、要所要所で幅跳びや壁上り、水上歩行や戦闘などを挟む――その経験の1つ1つに、鮮烈なまでに刺激的な要素が多かったから、その分、心身への負担が大きくて、それを乗り越えるために成長しようとする力がより強力に働いた、ってことなのかな。
単なる根性論とか、娯楽メインのなんちゃってデスマーチじゃなく、意外と理に叶ってるというか、よく考えられてる訓練だったんだな。
「もちろん、感性による部分が大きいから、万人に同じ効果が期待できるわけじゃないけどね……他にもいろいろと修行法や修行スポットなら知っているから、後で教えてあげるわよ? よければ、そちらの子たちも一緒に」
と、目配せするようにして聞くと、『喜んで!』とでも言うように、ギーナちゃんとサクヤはうなずいていた。
シェリーはその2人ほどじゃないみたいだけど、戦えるならアリかも、っていう程度の反応かな。
「んで、今日これから海渡って……何つったっけ?」
「『マツヤマ』よ。八百八狸の総本山……『八妖星』の一角・隠神刑部狸の『ロクエモン』が治める土地。ミスズと同じように友好的な関係を築いている相手だから、この間話した件についても協力を要請するつもりでいるの」
「付け加えるならば、サキの祖父殿でござる。少々古風で気難しくはあるものの、古老と呼ばれるにふさわしい知識と思慮、そして実力の持ち主でござるよ」
ほー、そりゃまた大物が出て来たな。
まあ、今回は僕らは同席しなくてもいいみたいだけど。聞く限り、結構古風というか、形式やら何やらを大事にする人らしいので、いきなり行って顔見知りでもないよそ者はまずいか。
……特に師匠とかは、TPOをわきまえるってことをできない……というか、しないからな。
国際問題とかに発展してもアレだし、大人しく宿にでも引っ込んでるか……あるいはいつもどおり食べ歩きかな。マツヤマもとい松山の名物ってーと……何だろ? よく知らないんだよね。
しかし、今回の旅でタマモさん、色んな所の有力者に渡りつけてたな……『八妖星』に関しては、コンプリートしたっぽいし。次のマツヤマでだけど。
それだけ、『四代目酒呑童子』の件は、放っては置けない大ごとってことなんだろうな。
まあ、キョウに残してきたエルク達から、何かあればスマホやその他様々な連絡手段で連絡くる手はずになってるし、それがないってことは、この『諸国行脚』の間は、キョウは平和だったってことだな。
……僕らがここに滞在してる間に何か起こって……欲しくないような欲しいような……
面倒ごとは勘弁だけど、珍しい素材とか武器とかを合法的に入手できそうな戦いにはなりそうなんだよなあ……うーん、複雑。
ちなみに、ここ来るまでに『八妖星』のうち、5人まではわかったな。
北海道……もとい、『エゾ』を治める、『白雪太夫』のミスズさん。
『キョウ』の都を治め、及び表からヤマト皇国全域を支配する『九尾の狐』のタマモさん。
同じく『キョウ』周辺に支配地を持つ『酒呑童子』。ただし、今んとこ欠番。
四国……もとい、『マツヤマ』を支配する、『隠神刑部狸』のロクエモンさん。これから会う。
そして、沖縄もとい『リューキュー』を治める『鳳凰』のおばあさん。実は、名前はないらしい。
残る3人は、『トーノ』と『エド』と『エチゴ』にそれぞれいるらしいんだけど……そういや、どんな人なのか(人じゃないけど)聞いてなかったな。
後で聞いてみようか、と思っていた…………その時。
―――ぞ く り
「…………っ!!?」
背筋に強烈な寒気が走った。
まるで、背骨を中心に体の中が一気に冷えていくような、とんでもなくヤバい気配がして……僕はとっさに臨戦態勢に入り、同時に、後ろから走ってくる皆にぶつからないようにだけ気を付けて、その場で急ブレーキをかけた。
「「「!?」」」
突然の僕の行動に……あるいは、その直前に様子が変わったことを察して、走っていた全員が一拍遅れて急ブレーキをかける。
速度が速度だからちょっとばらけちゃったけど、すぐに僕の所に集まりなおして、
「おい弟子、どうした? 何があった?」
「何か見つけたの?」
と、師匠やタマモさんが矢継ぎ早に聞いてくるが、
「……師匠、タマモさん……お2人共何も感じないんですか?」
僕としてはその一言に尽きる。
こんだけヤバい気配がしてるのに、なんで僕と同等あるいはそれ以上に強くて、そして経験豊富で知識量もけた違いなこの2人が……って、何か前にもこんなことあったな?
あの『凪の海』のことを思いだしかけて、けど今はそんなこと考えてる場合じゃないと思いなおして……
後ろの方でギーナちゃん達も、周囲を油断なく警戒しつつも、戸惑いや不安を浮かべているようだし、簡潔に説明を……っつっても、説明する、できることなんてないんだけど……
そんな風に考えていた……次の瞬間、
突如として僕は、
いや、恐らく僕ら全員が……いきなり『何か』に捕まった。
地面から触手が出て来て縛り上げたとか、何者かがバインド系の術式を使って来たとか、そういう感じじゃない。
まるで……水飴か何かに絡めとられたかのような感覚。
しかもそも水飴は目に見えず、触れられず、流れる音も何もなく……というか、一切こちらから干渉することも感知することもできないような、なすすべなく捕らわれるしかできないようなそれで……それが、巨大なうねりとなって、僕ら全員を絡めとったのだ。抵抗する暇すらなく。
が、僕はその瞬間……というか、一瞬の中、さらにその刹那のタイミングで反応し……そのまま流されそうになる感覚に、泳ぐようにして抵抗する。
すると、その直後に景色がぐにゃりと揺らいで切り替わり……今まで見えていた景色や、師匠達のいる光景とは全く別のものが視界に飛び込んできた。
それは……夜の闇のような、何もない空間。
そして……
(…………何だ、こいつ……魔物……!?)
そこにいたのは……4本の蹄のある足を持ち、馬か鹿のような……しかし、鱗があって、顔がどうみても龍にしか見えない感じの、見たこともない魔物がいた。
髭が生えてたり、角が2本あったり……哺乳類なのか爬虫類なのかあいまいな……待てよ?
見たことはない、けど……これと似た特徴の生物は知ってるぞ?
前世では割と有名な、伝説上の生き物だ……龍の一種とも言われているが、鹿や馬、山羊や牛などの様々な生物の特徴を併せ持つ、いうなればキメラ系のモンスター。
その名は……
「『麒麟』……!」
立ち泳ぎみたいな感覚でその場に漂っている僕には目もくれず、そいつは悠々とそこにいた。
一瞬、その姿を見て呆気にとられたものの、直後にはっとして……何となくだが、今の僕のこの状況を理解した。
何も根拠はなく、感覚から導き出した答えでしかないんだけど……今僕は多分、こいつに『巻き込まれて』いる。
船とか鯨とかが水中を進む時、それにそって水流ができるように……こいつの動きに従って何かの『流れ』ができ、それが僕らを持って行こうとしている。
しかも何かよく見れば、その蹄で地面を(地面ないけど)今まさに踏みしめて、走り出すか飛び跳ねようとしているようにも見える。
それを理解した僕は、半ば反射的に体を動かし……同時に、左腕に出現させた腕時計『エンドカウンター』を使い、エフェクトを省略して『アルティメットジョーカー』を発動。
髪の一部を金色に、瞳を翠色に、装束をライダースーツ調に変え、その状態で……思いっきり空間を殴りつけた。
「――はァッ!!」
――バキィィィイィッ!!
干渉できないはずの空間に気合で干渉し、空間そのものを殴りつけてひび割れさせ、破壊し、穴をあける。
その穴とひび割れは一瞬にして広がり、周囲のその不思議空間が消えていき……それと同時に、体をからめとられる感覚も消えた。
それによって、どうやらあの『麒麟』と別の空間に来た扱いになったのか、はたまたもっと違う理由かはわからないけど……僕の目の前で、その姿が見えなくなり、視界から消えていった。
消えながら……すさまじい勢いで跳躍し、彼方に飛んでいった……ように見えた。
……その瞬間、その瞳がちらりとこっちを見たような気がした。
しかし、そのことにぎょっとするより先に……僕の周囲の空間は完全に元に戻り、師匠やタマモさん達も一緒の、普通の景色に戻っていた。あの、空間が水飴みたいに絡みつくような、謎な感触もなくなっている。
どうやら今の一瞬で何か起こったってことは、皆さすがに感じたらしく……『何だ今の!?』って感じになってるみたいでけど……僕も含めて、次の瞬間には、別な異常事態に驚くことになった。
さっきまでと同じ空間に出た。
皆、1人もかけることはなくそろっている……ここまではいい。
しかし、さっきまでと決定的に違う点がある。それは……
「…………ここ、どこ!?」
場所が変わってる。
さっきまで走ってた山道じゃなく、だだっ広い平原に。
しかも、何か、感じ取れるあたりだと……温度とか湿度も違う気がするし、風向きや太陽の向きも……何もかも、さっきまでいた場所と違うぞ!?
何が起こったんだ!? 僕ら……今の一瞬で『転移』させられたのか!?
「……お、お待ちを! この景色、見覚えがあるでござる! ここは確か……『大江山』の近くにある平原でござるよ!」
「……そういえば、こんな場所があった気が……奴隷時代に何度か見覚えが……あっちの山々や、森の位置、気候も……た、確かにそうかもしれません……!」
「『大江山』ってことは……『キョウ』の近くってことですか!?」
「ちょっと待った!? 今まで私達、『マツヤマ』に向かう途中の、『ヤマト皇国』北西部にいたわよね!? 『キョウ』って確か南側のほぼど真ん中でしょ!? 距離数百キロじゃきかないわよ!?」
「一瞬でそれだけの距離を移動……ないし、転移したってこと!? それじゃ、まるで……」
「そうだわ……同じよ。今のこの感覚よ! あの時……私がこの『ヤマト皇国』に来た時に味わったのと、同じ感覚だわ!」
そう、タマモさんが愕然としたようにつぶやく。
それを聞いて、僕は……1つの真実にたどり着いた気がした。
今の一瞬で、僕らは転移した。これは確かだ。
あと残り3日をかけて走破するはずだった、この、『行脚』のほぼゴール地点近くにまで。
まだ色々と、アレの接近を何で僕だけが察知できたのかとか、わからないことは多々あるけど……この超々長距離の集団転移現象といい、タマモさんの証言といい……
(昔から『ヤマト皇国』と『アルマンド大陸』の間にあった、人やモノの、謎の行き来ルート……ひょっとして、その原因は……!)
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◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
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