魔拳のデイドリーマー

osho

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第19章 妖怪大戦争と全てを蝕む闇

第395話 諸国行脚、スタート

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今回から新章になります。
まあ……舞台は未だにというか、変わらずヤマト皇国なんですけどね…

『ヤマト皇国編』後半戦だと思ってください。
書きたいこと多すぎて長くなるなこの章……


――――――――――


「さて、それではルールを確認するわ。と、その前に……参加希望者は、そこにいる6人、でいいのね?」

 タマモさんの屋敷の前に集まった、僕ら『邪香猫』及び『大使チーム』の面々。
 それに加え、タマモさんと、側近の人たちもいる。

 その中で、エルク達みたいに、普段通りの服装だったり、一目見て部屋着とわかる服を着ていたりする人がいるのに対し……明らかにアウトドア仕様というか、今からどこかに出かけます、体を動かします、というような服装のメンバーが、8人。

 内2人は、タマモさんとイヅナさんである。
 イヅナさんはいつもの修験者コスだが、タマモさんはいつも着ている着物じゃなく、こないだの模擬戦の時に着た奴と似た道着袴である。サムライガールっぽい、凛々しい見た目だ。

 残りの6人は……『邪香猫』サイドから選抜されたメンバーである。
 直接誘われた、僕と師匠に加え……シェリー、ギーナちゃん、セレナ義姉さん、そしてサクヤという面子。全体的に、フィジカルに自信があるメンバーがそろった感じ。

 今回の『ヤマト一周旅行』について相談した際に、興味を示して参加を申し出て来たのがこの4人……のうち、3人である。

 シェリーは『面白そうだし、ミナト君と一緒にお出かけできる』という理由で。修行なのは理解しつつも、同時に娯楽も行うと聞いていたので、デート感覚でついてくるらしい。

 ギーナちゃんとサクヤは、修行になるから。勤勉コンビらしい理由である。
 どちらも最近壁にぶつかり気味だったっていうこともあって、大変だけど『いい修行になる』とタマモさんのお墨付きのこの修行に参加を決めた。もちろん、内容は聞いた上で。

 そして、残る義姉さんは……不本意ながら、っていう様子で参加を決めた。
 理由は、仕事だから。
 ……うん。姉さん、冒険者ギルド所属の職員で……僕の『現地業務担当職員』だもんね。極力、担当の冒険者である僕にいつでもどこでも同行して、行動を記録しつつ監視する役割だもんね。

 そんな感じで、4人が参加を申し出たことをタマモさんに伝えたところ、彼女は『自分からそう言ってるなら構わない』とは言いつつ……シェリー以外の3人がこれに挑戦することについては、難色を示した。

 理由は……

「ルール説明の前に、改めて最後の確認をさせてもらうわ。ギーナ、サクヤ、セレナ……本当に、この旅に参加するのね? 確かに私やイヅナ、それにミナトやクローナにとっては、この旅は半ばレジャーのようなものだけど、それは実力が伴っていればの話。やる内容を見れば過酷な修行そのものであり、力か、意思のどちらかでも欠如していれば、大事故にもつながりかねないのよ」

 単純な話、タマモさんの見立てでは……任意で参加を申し出た面々のうち、シェリー以外の3人については……この旅に連れていくのに不安があるそうだ。

 ギーナちゃんとサクヤは、実力……すなわち、この旅についてくるだけの体力が、正直ギリギリだと思われたらしい。最近ガンガン修行して調子を取り戻しているサクヤや、もともと『キャッツコロニー』のハイテクトレーニング設備で鍛えているギーナちゃんでもだ。

 正確には、こなせないことはないと思う、とのこと。
 ただ、本当に身体能力的にはギリギリであり……日程通りついてくるだけならできる。ただし、ほぼ確実に、走った後は全力で休まないといけなくなり、行き着いた先の行楽地で遊んでいる暇はなくなるだろうとのこと。
 修行合宿兼レジャー旅行が、ただの修行合宿だけになるわけだな。

 一方でセレナ義姉さんについては、体力的には心配はあまりない。僕や師匠には及ばないため、少々きついかもしれないが、フィジカルは賞賛に値すると言っていいレベルで鍛え上げられているので、ついてこれるだろうとのこと。

 ただ、それでも楽勝ってわけじゃない。過酷な道のりであることに変わりはない。
 そんな旅程を、『仕事だから嫌々』で参加するのは、やる方としては気分がよくないのはもちろん、そういう『覚悟』や『意思』が伴わないでこういう修行をするのは、思わぬ事故につながりかねないものなので、出来ればやめたほうがいいとのことだった。

 なるほど、もっともな理屈だ。

 そう、事前の相談で言われたものの、ギーナちゃんとサクヤさんは『もとより修行のつもりです』って真面目根性そのままに、義姉さんは、そういう危険性は承知しつつも、『仕事だし、義姉としてこいつを放ってはおけないので』と、形や理由は違えど、はっきりと言い切った。

 そこまで言うなら止めない、ってことで、タマモさんも承諾し、今回のメンバーが確定した。

 ちなみに、シェリーは普通に許可が出た。
 フィジカル的にも、意欲的にも及第点だそうだ。確かに彼女、僕ら『邪香猫』の中では――師匠やミシェル兄さんみたいな『顧問枠』を除いた正式メンバー内では――戦闘能力でも3指に入るレベルだし、それに見合った、バランスよく鍛えられた優秀なフィジカルも持ってる。

 パワーでは義姉さんに、頑丈さやタフネスではギーナちゃんに一歩劣るとはいえ、剣も魔法も自在に使いこなす彼女の実力は高い。

 それに加えて、何やら別な基準においても『ばっちり』だとタマモさんは言ってたけど……はて、彼女の何をさしてそんなことを言ったのやら……?

 そんなことを考えている間に、全員同じように返事を返していたため、意思確認を終えたタマモさんは、改めてルール説明に移った。

「では、ルールを説明するわ。基本的にこの旅は、修行と言いつつ自由度は高く、いくつかのルールさえ守っていれば、その他は何をやってもいい。空いた時間で観光するもよし、人里で買い物するもよし、狩りとかして素材ゲットするもよし、何なら遊郭や賭場にいってもよし、全て自由よ。そして、その数少ない『守るべきルール』についてだけど……全部で5つだけ」

 そしてタマモさんは、そのルールを1つずつ、指折り数えて、声に出して説明していった。まるで、自分でもそれを再度確認するかのように。

 1つ。期間は14日間。今日の正午から、14日後の正午まで。その間に、ヤマト皇国を一周して『キョウ』の都に帰ってくるものとする。

 1つ。移動手段は徒歩あるいは水泳のみとする。いかなる乗り物の使用も認められない。

 1つ。各地で設定された14の『指令』を1日に1つこなしていくものとする。

 1つ。持ち込む道具や金銭、使用する魔法に制限はないが、いずれも移動及び疲労回復目的での使用は禁ずる。ケガや病気などの対処は認められる。

 1つ。規定に違反した者、旅の続行が不可能であると判断された者については『脱落』とする。後者については、速やかに医療的なものなど必要な措置を施した上で、都に帰還すること。

 なるほど。シンプルなルールでいいな。わかりやすい。
 特に質問とか確認はないのか、『何か質問は?』ってタマモさんは聞いても、誰も挙手とかしないし、何も言わない。当然、僕もだ。

 ちなみに、こないだ聞いた情報では、日程は『10日間』だったはずで、今回の説明では『14日間』に変更されているが、これは事前の説明で聞いていたことだ。
 ギーナちゃん達のような『若干心配』な面々も参加することだし、って変更してくれた。

 まあそれ以外にも、タマモさん達の方の事情というか、思惑もあるようなこと言ってたけど。

「よし、なら用意はいいわね? それじゃあ皆……14日間の楽しい旅行に行くわよ!」

 こうして僕らは、タマモさんの号令に従い、普通に歩いてキョウの都の外にでた。
 そこで最後に、エルク達留守番組に『行ってきます』ってきちんと言った上で……走り出した。

 2800km、文字通り山あり谷ありのデスマーチトラベルへと。

 
 ☆☆☆


 思えば、この世界に来てから……一定のペースで長距離を延々と走り続ける、っていう経験は、あんまりなかったかもしれない。
 舗装されてはいないが、それなりに平らな平原を走りながら、僕はそんなことを思っていた。

 移動は大体『オルトヘイム号』か『ナイトライナー』、その他代わりのマジックアイテムを使うから、長距離を歩いて移動するってことが最近はなかった。
 戦闘中は、長距離の移動なんてなおさらやらないしな。

 今僕らは、先導してくれるイヅナさんを先頭にして、その後ろに義姉さん、僕、シェリー、ギーナちゃん、サクヤ、師匠、そしてタマモさんが一番後ろ……っていう順番で並んで走っている。
 速さは大体、時速40~50kmくらいだろうか。僕らにしてみれば、さほど苦労せずに出せるし、走り続けられる速度だ。

 ギーナちゃんとサクヤもそれは同じである。
 もともとフィジカルではかなり優秀な部類に入る2人だ。このくらいの速さで走るのは、さして難しいことじゃなかった。

 軍人として日々厳しい訓練をこなし、『キャッツコロニー』に来てからも、鍛錬を欠かすことなくめきめきと実力を上げてきていたギーナちゃんは、コツコツと力をつけ、積み重ね、『邪香猫』メンバーに近いと言える戦闘能力を身に着けつつある。

 シェリーやナナといった面々にはさすがに及ばないが、それでも一線で戦えるレベルだ。『エクシア』の力や、僕が作ってあげた装備を合わせれば、AAAランクの戦闘能力は確実にあるだろう。

 一方のサクヤは、衰弱していた期間が長かったため、リハビリは必要だったけど、それもあっという間に終わり、彼女本来のスペックを取り戻しつつあった。

 もともと『土蜘蛛』は、妖怪の中でも上位に数えられる強力な種族であるらしい。高い敏捷性と持久力、忍耐力を兼ね備え、かといって腕力が弱いわけでもない。さらに、手や口から出す糸や、牙や爪から毒を出したりといった絡め手まで使う。

 もちろん彼女はそんな種族ゆえの強さなんかに頼って驕ることはなく、堅実に1つ1つ積み重ねて強くなってきていた。ゆえに、全盛期には及ばないまでも、体力的に十分ついてこれている。
 むしろ、その『全盛期』に戻す、あるいはそれを超えるために今回のコレに参加した節もある。

 その他のメンバーについてだが……タマモさんと師匠は特に何も言うことはないな
 流石は『準』含め『女楼蜘蛛』。涼しい顔で何も負担感じてないがごとく走っている。

 僕の前後にいるシェリーと義姉さんも同じ感じだな。
 師匠たちほど楽勝、って感じではないけど、合間合間に雑談とかしたり、周囲の景色を見て楽しみながら走る程度の余裕は全然残されているようだ。相性とか戦い方の問題で苦労したりすることはあるけど、能力的にはギーナちゃんやサクヤより上だからね、この2人。

 そして、先頭を走っているイヅナさんも当然、危なげない足取りで道なき道を進んでいる。
 修験者服って、お遍路さんとか山歩き的なイメージあるんだけど、その通りどんな地形も全く問題なく、平地と同じようにあっさりと踏破していく。
 タマモさんの側近の中で一番の武闘派だっていう評価に偽りなしだな。見事な動きだ。

「しかし、ちょうど雪降ってない時でよかったですね……少なくともこの辺は」

 今、冬だからね、一応。
 走れないほど寒いわけじゃないから全然大丈夫だけど。日本でも、正月とか駅伝やってるし。

「うむ。まあ、ある程度は雲の動きなどから天候は予想できるゆえ、そのような時期を選んだのでござるが……当たってよかったでござるよ。さすがに雪道を走るのは大変でござるからなあ。気温が低いのはまあ、体が温まればどうにでもなるとはいえ、足を取られるのは労力倍増しでござる」

「この辺ってどうなんですかね? 雪ってやっぱもともと少ない方ですか」

「『キョウ』や『エド』のあたりはそうでござるが、途中に通る『エチゴ』や『シナノ』はちょっと覚悟した方がいいかもでござるなあ。あそこは雪が多いゆえ……それに、『トーノ』から先も、冬場は単純に寒いだけでなく、すさまじい大雪や猛吹雪が吹き付けるでござるし」

 あー……そのへん通るっけね、そう言えば。
 
 『エチゴ』と『シナノ』……たしか日本だと、新潟と長野あたりだっけ? そして『トーノ』は岩手……その先って言うと、東北地方だな。
 いずれも豪雪地帯で知られる場所だ。この世界でもそれは同じらしいな。

「ま、だからこそ修行にはいいんだけどね。10日間……今回は14日間の間にだけど、色んな気候や足場の条件の中で走って鍛えられるわけだし、景色が色々変わるのも見ていて楽しいし」

「と、主は言っているが、まあ……普通の人からすれば地獄そのものでござるが」

 だよねー。……極寒の中、300km近く走るとか、最早自殺である。常識的に考えて。
 僕はどうなのかって? 『否常識』にそんなこと聞かれてもねえ?

 というか、景色や出てくる魔物が色々変わるのも、確かに僕楽しみにしてるしね……。
 『キョウ』に来るまで乗っていた馬車の、めっちゃスローペースでいつまでも景色がほぼほぼ変わらなかったあの時のことを考えれば、刺激はあったほうがいいし。

 そのための道のりが過酷でも、それはそれで修行になるわけだし。
 
「そんで、確認するんだけど……今日この後の行先は『オワリ』とかいう所なのよね?」

 と、義姉さん。それに答えてイヅナさんは、

「うむ。エビや豚肉といったものの揚げ物が美味でござるゆえ、期待してほしいでござる。ああ、個人的に小豆もうまいし……揚げ物についてくる味噌だれがまた絶品でござるな」

 ……なんか時代的におかしなアレを感じるけど、まあいいか。美味しいものに罪はない。

 ところで、そろそろ走り始めて2時間くらい経つな。距離的には、100㎞弱ってところか?

「ギーナちゃん、サクヤ、大丈夫? 少し休憩入れる?」

 なんかさっきから話してても、会話に入ってこないからな、2人共。
 ちょっとバテてきたかと思ってちらっと振り返ってみると、やや息が荒くなって汗も結構かいているものの、二人とも足取りとかはしっかりしていた。

「いえ、問題ありません。まだまだいけます!」

「私もです。喋る余裕はそこまでありませんが、体力的にはまだ余裕はあります」

 とのこと。
 サクヤさん、正直で結構。

 ……嘘はついてないみたいだな。まあ、この辺は平野とか平らな部分ががかなり多かったから、あまり上り下りとかしてないし、まだ大丈夫だと言えるだろう。うん。

「では、この後今日の『指令』をこなさねばならんでござるゆえ、一旦『オウミ』に寄り道するでござる。その時に休憩も一緒に取ることにするでござるよ」

「そうですね、それがいいかも」


 ☆☆☆


 で、到着しました『オウミ』。
 そこで僕らは、とある超大きな湖に来ていた。

(形からして、琵琶湖だと思うんだが……名前は違ったな。……この国、なんかちくはぐだなぁ……『大江山』みたいに、日本そのままの地名もあれば、『キョウ』とか『オウミ』とか、ちょっと感じが違ってるものもあるし……呼び方が昔っぽいものがメインだし)

 考えても仕方ないかもしれないけど、ちょっと気になったな。

 ともあれ、その湖畔で、座ってゆっくり休憩し、疲れを癒しているところだ。

 そこまで息を乱してはいなかったとはいえ、やはり疲れてないわけじゃなかったんだろう。ギーナちゃんとサクヤは、足を延ばしてリラックスして、持ってきた水筒で水分補給している。

 中身はただの水……ではなく、スポーツドリンクである。蜂蜜、砂糖、塩、果汁その他を溶かして作られたもので、水分だけでなく塩分も取れるので、汗をかいた時の水分補給には最適な一品。

 なお、『キャッツコロニー』では普通に飲まれているものであり、材料は全て『ロストガーデン』で取れたものなので、いわば自家製である。

 あと2人共、ブーツと靴下脱いで足冷やしてるな。
 アレって結構、長距離歩いたり走ったりする時にいいらしいね。足が痛くなりにくくなるって聞いたことある。

 他のメンバーも、思い思いの方法で休憩やら水分補給をしている。
 シェリーと義姉さんは、『少しきついけどまだまだ余裕』で、その他は『全然まだまだ余裕』って感じだな。タマモさんやイヅナさんは、慣れも大きいかもだが。

 あと、シェリーが水分補給と称して酒を飲もうとしてたのは流石に止めた。
 昼間から飲むだけならまだしも、運動中は流石にやめなさい。

 それはさておいて、

 この湖が、僕らが今日やることになる『指令』の場である。

 十分休憩した後、僕は水の上を歩いて、湖の中心付近まで行き……そこで、釣竿を持ってたたずんでいる所である。
 どこからどう見ても、釣りをしている最中という光景だ。立ってる場所が異常ではあるが。

 けど、僕以外のメンバーもほぼ全員そうやって『水上歩行』で湖の上を歩いて、各々好きな場所で釣りを楽しんでいる……おっと、またヒット。

 ぐいっと竿を引くと、ばしゃっ、と水音を立てて水面に上がってくる獲物。
 今回のは……サケみたいな魚だな。いや、湖だから……マスか?

 横を見ると、義姉さんとタマモさんもそれぞれ別な魚をヒットしていた。

「しっかしよく釣れるわねコレ……あんたは相変わらずおもしろいアイテム作るわ」

「喜んでもらえたなら何より。でも、こんだけ短い時間で色々釣れるっていうのは、やっぱこの湖自体に栄養が豊富で生き物がたくさんいるっていうのが大きいと思うよ……っと、また来た」

「釣りっていうのは待っている時間も醍醐味の1つだから、それが好きな人には不評かもしれないけれど……私としては好きね。時間を無駄にせず食料確保できるのは助かるわ」

「私は待っている時間も好きだけど……今回に限っては好都合ね。時間もあんまりないし」

 と、セレナ義姉さんとタマモさんの感想。

 彼女達……というか、僕らが使ってるのは僕特性の釣竿だ。無論マジックアイテムでなので、魚を探知して自動で襲い掛かる釣り針がついているので、釣れる釣れる。
 しかも、まだ小さな稚魚とか、毒のある魚には見向きもせず、それなりに大きくて食いでのある魚を選ぶようにインプットしてあるので、総じて大物多し。

 そしてこのオートハンティング機能のおかげで、長くても1~2分で成果が出るので、シェリーみたいな待ってるのが苦手な人でも楽しめるってわけだ。
 今タマモさんが言ってたように、待ってるのが好きな人には逆に不評だろうけどね。

 しかし、ナマズとかコイみたいな魚に、ブルーギルやブラックバスみたいな魚……いろいろ釣れるな。……外来種っぽいのまでいるっていうのが、妙に生々しい気もするが。
 どれも食べられるらしいので、後で焼き魚にでもして塩で食べる予定だ。

 ……いや、もちろんやってることは『指令』のためなんだけどね? 忘れてないよ?
 というか、今まさに取り組んでいる所だしね。この『釣り』で。

 何でこんなところで、僕らが釣りなんかしているのかと言えば…………おっ!

「……! 来た!」

 僕が垂らしていた竿が、急に大きくしなり、糸がぴんと張って、かなりの力で水の中に引っ張られていく。

 それを、魔力で足場をきっちり強化しながら、僕はリールを回して糸を巻き取り、針にかかった獲物をどんどん水面まで引き寄せる。

 そんなに深くないところで引っかかったのが幸いしたらしい。縦横無尽に動いて逃げようとする獲物は、徐々にその姿が水面下に確認できるようになってくる。
 細長い、しかし大きい……銀色の蛇のような体が。

 そして、一気に腕に力を籠め、水面にそいつを……引っ張り出す!
 
 ――バッシャァァアン!!

 派手な水柱を立てて出て来たのは……見覚えのある、巨大な蛇のような姿の『妖怪』。
 水陸両用の銀色の捕食者……『みずち』だ。

 水の中から引っ張り出された蛟は、釣竿を握っている……ってのがわかったかどうかはわからないが、恐らく直感的に、僕が今、自分をこんなところに引っ張り上げた犯人だと悟ったんだろう。長大な体をうねらせ、牙をむき出しにして、僕を食い殺さんんと襲い掛かってきて……

「よっしまずは一匹!」

 一瞬で仕留めたけどさ、うん。
 海で見たことあるし、戦ったこともあるんだから、別に苦戦するなんてことありません。

 それより……これで、『まず』1匹だ。

 今回の『指令』……『湖に住む『蛟』を5匹釣って狩る』。
 達成まで、残り4匹。この分ならすぐだな。



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