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第18章 異世界東方見聞録
第377話 サクヤ・リカバリー
しおりを挟む【治療初日】
「あの……今更なんですが、その……本当に私の腕、治るのですか? あ、いえ、決してミナト殿に不満があるとか、疑っているというわけではなくてですね?」
「あはは、いいよいいよ、そりゃ普通に考えて疑いたくもなるもんね。腕を生やすなんてさ」
「おめーが『普通』を語ると違和感しかねーな」
「クローナさんも人のことは言えないと思いまーす」
「同感」
「うっせーな、自覚してるっつーの」
とまあ、僕と師匠に加え、ネリドラとリュドネラ(実体化)も加わって、医療メンバー総出での治療になるわけだが……今日のところは、ひとまず説明から入るつもりでいます。
何をどうやって治療するかってのを、きちんと把握しておくのは重要だからね。
現代の医療の現場では……何て言うんだっけ? インフォームド・コンセントだったかな?
まあいいや。
「とりあえず、今日は治療法の説明やら、それに関するサクヤさんの意見をもらうのやら……色々だね。疑問に思ったことは一切遠慮なく質問してくれていいから、きちんと理解して進めよう」
「は、はい……よろしくお願いします!」
そうして始まった説明ないし打ち合わせだが、今回、彼女の希望はあくまで『腕を治す』こと。
元の腕を復活させることであって、義手をつけるとかそういう『代わりを用意する』形での解決方法ではない。
それが途方もなく難しいことであろうとは思いつつも、そうしたい、とサクヤさんは言った。
あらためてそれを確認した上で、僕らは治療プランを組み立てていく。
言うまでもないことだが、人間の体には、欠損した腕を再生させるなんて機能は備わっていない。それは、一部の例外を除けば、亜人や魔物だって同様だ。
ちなみにその例外ってのは、『爬虫類系』や『海洋生物系』の一部……トカゲの亜人やタコの半魚人なんかの、欠損した体を再生させる機能をもともと備えている種族である。
残念ながら『土蜘蛛』はそれに該当しないので、こっちで再生能力を補ってやる必要がある。
……というか、あるんだよな既に。欠損を治す薬。
結構前になるけど、既に作ってある。
ノエル姉さんとジェリーラ姉さんに見せて、『何てもん作ってんだ』って怒られた一品……『超超超高品質ポーション』『エリクサー・レプリカ』と、その時は呼んでいた薬だ。
この薬だが、飲むか傷に振りかけると、徐々にではあるが欠損個所を復元するほどの回復力を発揮させるという、自分で言うのも何だが凄まじい薬である。
無論、今も持ってきている。複数。
超長期の遠征ってことで、何が起こるかわからないから、このへんの準備は万端なのだ。
ただ……問題が一つ。いや二つか。
まずこの薬は、飲むと摩訶不思議な奇跡を起こして欠損を復元させるとか、そういう感じのものではなく……あくまで『薬』なのだ。
魔法薬と言えばそうだけど、メインはきちんと、薬効によって回復を促す仕組みなのである。
ゆえに、痕が酷いとはいえ、曲がりなりにももう塞がって治ってしまっている傷に対しては、流石にそこから腕をもう一回生やすっていうのは、ちと期待しづらいもんがあるんだよね……。
それに加え、仮にコレをまだ生傷だった時に使っても、すぐに傷口がふさがってもこもこ肉が盛り上がって、骨が伸びて腕が生えて……って感じで、すぐに腕が再生する、ってわけでもない。
時間がかかるのだ。腕一本再生させるともなれば。
今回のは4本だけど。
何度も言うが、この薬がもたらす者は奇跡ではない。
きちんと薬効によって腕を再生させる以上、その材料は必要になる。
何が言いたいのかと言うと、きちんと食べて寝て、栄養を取って体を休めるという、人の生活において当然であり、同時にとても重要であるプロセスが必要となるのだ。
それも、腕一本再生させるとなれば、大量の栄養が必要だ。当然、体をつくる時間も。
成長期で食べ盛りの子供が、いっぱい食べて体を動かして遊んでも、成長するのは年に数センチだってことを考えれば、『体を作る』ということの大変さがわかるってもんだろう。
『エリクサー・レプリカ』は、欠損を治す薬ではある。
けど、それ単体で治せるに足るわけじゃない。本人もきちんと治療に専念し、力を尽くす必要があるものなのだ。
さて、話を戻そう。
腕の再生自体は『エリクサー・レプリカ』を使えば、機能自体は足りる。
今回問題になっている点は、既に傷口が、酷い形とは言え塞がってしまっている点。
そして、大量の栄養を必要し、それを材料に肉体を作る関係上、時間がかかる点だ。
もしこれが、僕や母さんレベルで肉体が強靭であれば、さらに強力な薬で無理やり治す、なんてことも可能だったかもしれない。
実際『リアロストピア』の時に、僕はそういう手段で結構な大やけどを即、治したから。
ただその薬は、薬効が強すぎて、普通の人が飲んだら毒にしかならない。飲んでも平気なのは、あくまで僕の肉体だったからだ。
そういう理由で、何でもかんでも薬効を高めて解決しようとしても、かえって使えない薬になってしまう。
ゆえに、ある程度は本人の治癒能力を頼り、そしてきちんとゆっくり時間をかけて治療するということも重要になるのだ。
……とまあ、ここで諦めて止まってたら、マッドサイエンティストじゃないわけだが。
「え? ……あるんですか? 短期間で治す方法とか、傷が一度塞がってても再生させる方法……それも、そこまで肉体が強靭じゃなくても……?」
「あるよ」
だってねえ? 仮にもマッドたる僕らが、問題点を諦めてそのままにしといて、停滞させておく形で妥協するなんてこと……ねえ?
彼女の疑問にはそう答え、僕は……にやりと笑って、『収納』からあるものを取り出した。
左腕に装着される……重厚な腕時計を。
先だっては戦闘に使用されていた『エンドカウンター』を見て、サクヤさんは少し身構えていたが……大丈夫大丈夫、何か手荒な真似をするとかいうわけじゃないからさ。
ただ、『フォルムチェンジ』の中に1つ……こういう時に便利な奴があるんだよね。
僕は、文字盤の『3』を選択し……
「フォルムチェンジ……『クラフターフォルム』……!」
言うと同時に、僕の周囲にいくつもの魔法陣が現れ、そこから無数の、機械のようなパーツが湧き出てくる。それらは、僕の体に装着されるように組み合わさっていき……しかし、スーツとか鎧のような見た目ではなく、まるで小さな乗り物のように僕の体を覆っていく。
何て表現すればいいのかな? ロボットとか、潜水艦や戦闘機のコクピットから、機材だけ取り出して並べたような感じ?
まるで球を形取るように僕の周囲を機材が覆って、ホントに何かのコクピットのようだ。機材とかも思い切り、近未来のそれだし。
そしてその球体の外殻には、いくつもの可変ロボットアームがあり、それも有線・無線あわせて用意されている。それ以外にも、様々なアタッチメントが格納されている。
その中心で僕は、組み上げられた機材に囲まれ、目の前にいくつも並んだモニター(ホログラム含む)やキーボードを前にする形となって……変身を完了させた。
……変身っていうか、もう装着、いや展開、と言ったほうがいいかもだけど。
この『クラフターフォルム』は、僕や師匠が作業中に使う、一人でいくつもの作業を同時にこなすためのデバイス……『アシュラデバイス』や『ヘカトンケイル』の発展形だ。
様々な形状に変形して動き、作業などを行える、有線・無線の可変型超多用途ロボットアームに加え……観察用のカメラアイ、解析用の魔法式コンピューターを備え、あらゆる作業に対応できる。いつものマジックアイテム作成はもちろん、薬品の調合、魔物素材の解析、ワープロソフトや表計算ソフトを利用した事務作業、魔法・術式の解析や演算、果ては手術など医療関係に至るまで。
作業場、あるいは研究室・実験室そのものを限りなくコンパクトにして装備したようなもの、と言えるかもしれない。
できないことと言えば、僕が拠点の『ギンヌンガガプ』……超がつくほど特殊な作業場で行う、虚数魔法を絡めたマジックアイテムの加工ぐらいだ。
ああ、あと……戦闘もできないな。
この『クラフターフォルム』は、完全に作業用として作成したものだから。戦闘能力とかはそもそも持たせていない。多少の強度はあるけどもね。
そんな『クラフターフォルム』に搭載されている、多種多様な研究用デバイスを操作して、僕は彼女の体の解析を始める。
「じゃあまずサクヤさん、簡単に問診始めるね。難しく考えず、けど正直に答えて」
「え? は、はい……!」
「じゃあまず、現在の健康状態は? 良好ですか? どこか具合悪いとかない?」
「は、はい……そうですね。昨日の今日なので多少疲れがあるかもしれませんが」
「うんうん。じゃあ、好きな食べ物、嫌いな食べ物は? あと、体質的に受け付けない食べ物はある? 食べると体がかゆくなったり、熱くなったりするような。あれば、知ってる範囲で教えて」
「そ、そうですね……これといって好き嫌いはないです。体が受け付けない食べ物も、特には」
「ふむふむ。じゃあ……」
そんな感じで、彼女の体の情報を、次々に質問して聞いて、あるいは……彼女の体をカメラアイでスキャンして調べて、片っ端からそれらの情報をキーボードで入力していく。
その途中で、
「? えっと……ネリドラ殿、でしたか? その、針のついた筒のようなものは、何に使うので?」
「コレは注射器。検査に使いたいから、ちょっとあなたの血をもらいたい」
「ち、血をですか? も、そしや、その針を刺して……?」
「ちょっとちくっとするだけ。すぐ終わる」
「わ、わかりました……それが必要だというのであれば。で、ですがその……流石にこういうのは初めての体験なので、できれば、なるべく痛くないように、かつ早く済ませていただければ……」
「もう終わった」
「そうですか、もう終わっ……はい!?」
今ネリドラ、覚悟を決めてサクヤが腕を出した直後……ちょうど『こういうのは初めて』の所で既に動いて、消毒して、素早く刺して血液を抜き取って、針を抜いてバンソーコー貼って……って、ここまでの作業を見事に終わらせてた。
この間、わずかに4秒。痛み、ほぼなし。
「い、いつの間に!? 全然痛くなかったですよ!? 本当に針を刺したんですか!?」
「痛くないならよかった。じゃあミナト、これも解析して」
「OK、サンキューネリドラ」
サクヤさんの血液の入ったアンプルを受け取って、それを『クラフターフォルム』の解析装置の部分に入れる。これも解析をはじめて……と。
(年齢、生年月日、血液型、種族、DNA情報、体質、好き嫌い、アレルゲン反応……うんうん、上々上々。だんだんデータが、必要なのが集まっていく)
この分なら、十分に今日中にプランを提案して、確定させることも可能、かもね。
まあ、既に8割方は頭の中にできてるんだけどさ。
【治療2日目】
「さて、じゃあいよいよ本格的に『治療』に入りますかね!」
「……治療、なんですよね?」
治療ですよー、そうは見えないかもしれないけど。
「まあ、大半が……っつーか、今目の前にあるの、ほとんど何から何まで、見たこともなければ、何に使うかもわからないような機材だろうしな」
「そんなのに囲まれてれば、まあ、不安にもなるのは当然」
『かろうじて用途がわかるの、寝台くらいじゃない?』
と、師匠とネリドラが言う通り、今日僕は、本格的な治療開始のため、治療に使うマジックアイテムを片っ端から取り出して組み上げ、屋敷の一室に特別治療室を設営した。
そこに並んでいるのは、オーバーテクノロジーもいいところの機材ばかりだ。
それらに加えて、僕は今日も『クラフターフォルム』でいるし。
これらと連動させることで、手元で全部を一気に操作できるようになるんだよね。
というわけで、改めて、これらを駆使して始めます。サクヤさんの治療。
現在、サクヤさんには……中央に用意した寝台に横になってもらっている。
着物の上部分をはだけさせるような形で脱がせ、上半身裸になって……うつぶせで。
流石に、治療とはいえ、男性の前で脱ぐのは恥ずかしいのか、少し顔が赤い。
実の所……僕としても、大きくて形のいいバストが、潰れて変形しているのが横から見えて……ちょっとばかり目のやり場にこまる、と最初は思った。健康な男子として、反応してしまうというか……。
……けど、すぐに背中の4つの傷が目に入って、そんなのは吹き飛んでしまった。
(……早く、治してあげなきゃ)
『クラフターフォルム』のロボットアームを起動し、アームの先端を変形させ、細くて長い注射器に変形させる。
同時に僕の目の前に、モノクルみたいな形状の拡大用レンズを持ってくる。それを、魔力で対象の体を透視する『レントゲンモード』にする。
昨日説明した通り、ロボットアームの先端部分は『可変』機構になっているが、これはパーツを組み替えて変形するのではなく、その部分が特殊な液体金属でできていて、任意に形を変えられるようになっているのだ。さすがに、体積までは変えられんけども。
その注射器に、昨日のうちに作っておいた、あるものの入ったアンプルをセットする。
そして、それを投与する作業に移る。
『レントゲンモード』の拡大レンズの向こうには、サクヤさんの傷の内側……切断されて、雑に処された患部が影になって見える。いびつに残っている骨の継ぎ目部分は、かつてそこに、その先に腕があったという証明だ。……影だけでも、痛々しい。
「じゃあ、サクヤさん……ちょっと痛いよ」
「はい……お願いします」
アーム先端部の、細いが長い注射針を差し込み……同時に、麻酔を流し込むことで、痛みは軽減する。そのまま、針の先端を『継ぎ目』の部分まで届かせ、ちょうどいいところで、注射器にセットしたアンプルの中身を流し込む。たっぷり1分ほどもかけて、ゆっくりと。
それを、他の傷口にも同じように……4カ所全部に行う。
そうして少し待ち、注射したアンプルの中身がなじんだら、今度はあおむけに寝てもらう。
胸の部分にはタオルをかぶせて見えないように配慮しつつ、次の作業の準備に移る。
あおむけで上半身裸のサクヤさんに、今度は、脳波検査か何かに使うような、何本ものコードを、頭のあちこちにぺたぺたと接続する。
刺してるわけじゃないのでご安心を。電極をくっつけてるだけだ。
頭だけじゃなく、肩や腕、胸やお腹、腰や脇腹にもくっつける。
胸の周辺とかは、ネリドラにやってもらった。配慮ね、配慮。
心電図か何かを取るみたいなイメージ図だ。やることは全然違うけどね。
それらのコードは1つの器具に集中して繋がっており、さらにその器具から伸びる1本のコードが、『クラフターフォルム』の設備につながっている。
準備ができたことを確認した僕は、手元のキーボードを操作し、
「電極接続状況チェック……クリア。上半身、患部周辺の経絡系に接続完了。伝導状態問題なし……『遺伝子情報転写霊力』注入開始」
「……んっ、ぅ……っ!」
さて……サクヤさんが何だか悩まし気な、妙に色っぽい声を口から漏らし始めたところで、
この作業、しばらくかかるので……いい加減に今、何をやっているのか解説しよう。
今、彼女の上半身の各部、数十カ所に繋がれているこの電極は、心電図ではなく……サクヤさんの経絡系に霊力を流し込むためのものである。
今まさに流し込んでいるわけだが……流し込んでいるのは、ただの霊力じゃない。『遺伝子情報転写霊力』と名付けた、特殊な霊力だ。
その名の通り、霊力そのものに、彼女の遺伝子情報が転写されて記録されているもの。
昨日、血液検査やら何やらで彼女の体を徹底的に調べた結果、彼女の『万全な状態』の体の情報……すなわち、腕がきちんと六本ある、彼女の本来の姿の遺伝子データを採取することができた。
それを、霊力そのものに刻み込んだものが『遺伝子情報転写霊力』であり……これをサクヤさんの経絡系に注ぎ込むことで、彼女の体を巡る『霊力』と『妖力』に、彼女の体の『完全な形』がどういうものなのかを刻み込み、定着させる。
つまりは、彼女の魂に、彼女の体の『完全な形』が記憶される、と思ってくれればいい。
そうするとどうなるか。
それは、今現在の状態が『完全ではない』という認識が生まれ……彼女の体は、『完全な形』になるために、失われた4本の腕を再生し始めようとするのだ。
しかし、この間も言ったように、人間の体にそこまでの再生機能はない。
だが、そうやって『再生しようとする』『今の形は正しくない』という流れが生まれていれば、そこに『エリクサー・レプリカ』を投与することで、再生は始まる。
この薬を使う上で問題だった、『すでに治っている状態』という壁が突破されたことで。
そしてさらにもう1つ。
さっき、うつぶせに寝ていた状態のサクヤさんに注入した『あるもの』。
アレも実は、再生を促すためのものだが……薬品ではない。
僕が作った汎用ナノマシン『ベルゼブブ』が大量に溶け込んだ溶液だ。
体内……それも『傷口』周辺に散布された『ベルゼブブ』は、『エリクサー・レプリカ』と同じように、霊力に刻まれた、サクヤさんの『完全な姿』を参照し、そうなるように治癒が進むのを手助けする効能を発揮する。そうするように設定してある。
早い話が、傷の治癒を速めるのだ。そしてこの場合の『治癒』は、腕の再生である。
しかし、ただ単に再生を促すだけじゃなく、その邪魔になる、歪んでしまった骨とか、変な形で声量して癒着した筋肉組織なんかの一時的な分解なんかもできる。
ちなみにこのナノマシン『ベルゼブブ』だが、『汎用』の名に偽りはなく、様々な用途に使うことができる。
何を隠そう、かつて僕が『キャッツコロニー』周辺の自然環境を捻じ曲げ、弄り回し、その後でしかるべき形に整えた時に使ったのも、このナノマシンである。
事前にプログラムを組み込んでおけば、環境改変から医療行為まで可能になるわけだ。
『遺伝子情報転写霊力』で、体内に設計図を設置し、
『エリクサー・レプリカ』が、その状態に体を『治す』ために薬効を発揮し、
ナノマシン『ベルゼブブ』が、その治癒を手助けして回復を早める。
この3つを体に入れることで、彼女の失った4本の腕の再生は急速に進んでいく……っと、霊力の注入が終わったようだ。
ネリドラとリュドネラに任せて、電極を外して服を着なおさせてもらっている間に……僕は、『エリクサー・レプリカ』と、後いくつか、彼女に摂取してもらうものを用意しておく。
着物を整えたサクヤさんは、ほのかに顔を赤くして、上気させているような感じに見えた。……霊力注入されると、なんかあったかくて気持ち良かったり、血行促進されて実際に体が温まったりするからかな。
……ちょっと色っぽい。もう露出はなくなってるのに、不思議と目がいく。
極力気にしないようにして……仕上げに移る。
「じゃあサクヤさん、まず、これを」
そう言って、ビンのまま『エリクサー・レプリカ』を渡す。
サクヤさんには、先に既にこの薬がどんなものかについては話してある。
とんでもなく貴重で強力なもの(一般的に)だと知って、ちょっと恐縮してる様子だったけど……サクヤさんは、手渡されたそれを、こくん、こくん、と数回に分けて飲み干した。
飲み干した後、僕はもう1つ、彼女に飲み物を手渡した。
「ミナト殿……これは?」
「んー……言ってみれば、ミックスジュースかな。単なる栄養補給用だよ」
「栄養補給用……みっくす、じゅうす、ですか?」
「ああ、うん……果実水、とか訳せばいいのかな? 色んな果物とか、甘味料を混ぜて美味しく味付けした飲み物の。栄養満点で、バランスも良く、エネルギーも大量に取れるように作ってある。さっき言った通り、きちんと栄養を取らないと体は育たないからね」
なるほど、と頷いて、サクヤさんは僕が差し出したジュースに口を付ける。
直後、驚いた様子で目を見開いて……またごくごくと飲み始める。気に入ったようだ。
けっこう大きめのコップになみなみと入っていたそれを、あっという間に空にした。
ふぅ、と息をつくサクヤさんに、僕は念押しするように言う。
「重ねて言うけども、きちんと食事をとってきちんと休むこと。そうしないと、栄養やら何やらが足りなくて『腕』は育たないからね。そして、体に変調があったらすぐに言うこと。放っておいて何かアレなことが起こるのが一番まずいから、これに関しては、何かあったなら夜中だろうがいつだろうが僕に声かけてくれていい。居場所がわからなければ、僕の仲間の誰かに聞けば連絡とれるし、いざとなったら師匠やネリドラ、リュドネラでも対処はできるだろうから」
せっかく一緒の家で暮らすことになったんだから、いいね? とさらに念押しして、僕は説明を終えた。きちんとサクヤさんが頷くのを確認して。
さて……明日以降の経過観察が楽しみだ。
それと、今回こういうややこしいというか、面倒な――こんなこと言ったら不謹慎かもだけど――プロセスを経て治療を進めることになったわけだが、その途中に思ったことがある。
もし、こういう処置の一切をすっ飛ばして、飲むだけであらゆる異常・問題を解決して完治するまで持っていける薬を作れたとしたら……そのときは正真正銘、『レプリカ』を取った……『エリクサー』と名付けてもいいんじゃないかな、とも。
あるいは、全く新しい名前を考えてつけてもいいな。
難しい試みになるだろう。
けど、不可能じゃないと思っている。今まさに学んでいる、『霊力』の制御や『陰陽術』をうまく取り込んでいければ、あるいは……
……ふふ、腕が鳴る。
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