魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第364話 ある日の茶店で

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 『キョウ』の都に滞在中、僕らの宿は、こないだ言った通り、大きめの屋敷を丸ごと1つ貸してもらえることになって、そこに住んでいる。

 ドナルド達大使チームや、その部下たち、さらに護衛の人たちも一緒ではあるけども……部屋もいっぱいあるので、不便はない。
 1人1人個室は流石に無理だが、小分けした―チームで複数の部屋を使うくらいは余裕だ。

 加えて、使用人までつけてくれた。……監視とかも兼ねてる可能性はあるが。

 まあ、気にしなければ害はない。単に僕たちが、問題行動さえ起こさなければいいってだけの話だし。普通に過ごしてればそれでOKだ。

 マジックアイテムでの暮らしになれた僕たちには、多少不便と言うか、田舎の旅館に来たような感じに思えなくもなかったものの、さっき言った使用人の人たちが中居さんのごとく献身的にお世話してくれるので、特段不満には感じていない。

 料理も美味しいしね。日本料理というか、高級な和食って感じのが毎食ずらりと。
 しかも、その時にちょっと独り言レベルでこぼした感想なんかも欠かさず取り入れて、回数を経るたびに僕ら好みの感じになっていくのが嬉しかった。

 最初は、テレビとかグルメマンガで見るような、懐石料理みたいな感じだったんだよね。
 美味しいし見た目にも鮮やかで雅だけど、ちょっと薄味傾向で、量が少なかったりする。

 どっちかっていうと僕は、味付け濃いめでガッツリ食べられるようなのが好みなので、そこだけはちょっと不満だったかな、と思っていた。

 それでも、それを直接こぼしたことはなかったはずなんだが、徐々にそういう感じに近づいて行って……しかも、もともとの日本料理のよさとかは崩さないままに調整してくれているのだ。
 このサービス精神と言うか、気配りのきめ細やかさ、感激である。

 転生前に一回行ったちょっと高いレストランでも似たようなことがあったのを思い出した。

 あの時は、内容の決まったコース料理を注文して、1品ずつ味わって食べてたんだけど……その途中、雑談中にぼそっと『私、○○ダメなんだよねー』って、友達の1人が言った。
 その子はアレルギーで、好き嫌いとか関係なく、特定の食材が食べられない。料理にその食材が出た時はいつも、友達にあげたり交換したり、仕方ないので残したりしてた。

 けどその15分後に出て来た次の料理、なんとその問題の食材が別のに変わってたんだよね。
 雑談の中で言ってたのをボーイさんが聞いてたらしくて、急きょ1人分変更してくれたらしい。あの時は僕ら一同、びっくりしつつ、感激したなあ……。あれがおもてなしの精神か……。

 おっと話がそれた。

 ともあれそんな感じで、僕らは『キョウ』の都の観光を満喫している。
 ……もちろんちゃんと護衛もやってるよ? その上でだよ?

 『サカイ』の町とはまた違った街並みはしかし、買い食いができる茶店や食事処もきちんとあるし、『サカイ』にはなかった種類の店とかもあった。

 具体的には、土地柄なのかな、『雅』とか『わびさび』に通じるような系統の店だ。
 茶の湯に使いそうな茶器その他を取り扱っている店、『サカイ』にあったそれよりもさらに種類が多く、細工も見事で、そして高級な布地を取り扱っている呉服屋、他にも、お香や細工物を取り扱っている高級店なんかもあちこちにあった。

 当然ながら、逆にない店もあったな。サカイはすぐ近くに漁港があったから、鮮魚店とかがあちこちにあったし、新鮮な魚を食べられる店も数多くあった。それらを加工して売ってる店も。
 しかし、ここは内陸だからそういう店はないみたいだな、さすがに。

 けど、場所が違えば品ぞろえも変わるのは当然だし、十分僕らは楽しむことができている。

 そして僕ら護衛チームだけでなく、大使チームも連日会議その他を行っている。

 なお、ドナルド達が話しているのは『表側』の代表者の人たちだ。あくまでタマモさんやその部下の人たちは裏方なので、表向きの政治はきちんと表の権力者たちにやらせているらしい。

 いざとなったらそこに『鶴の一声』で割り込むそうだが、基本的にはまっとうな、表側から見た通りの権力構造なのだそうだ。

 だから、外交関連の会議については、締結する条約の内容なんかも含めて、原則として表側の者達に一任しているとのこと。
 その人達も、きちんと相応の能力を持っており、それで問題なくこの国は回っている。

 逆に言えば、僕らや師匠と個人的なつながりがあると言う理由で、全くないとはいわないまでも、公私混同して特別扱いし、有利な条件を提示させるようなこともしない、ということだ。あくまで国と国との付き合いになる以上は、自分自身も含めて極力ノータッチってわけだな。

 それについては、当初からそういう形を想定していたわけだし、こちらに否はあるまい。
 ドナルドとオリビアちゃんの、純粋な外交能力が試されている。



 そんなある日のこと。

 僕らは四六時中全員が屋敷にいるわけじゃなく、ローテーションを組んで、『屋敷に残って護衛する組』『外交チームの仕事について行って護衛する組』『休みの組』の3つにメンバーを振り分けている。そして、屋敷には最低1人、『サテライト』を使える者が残るようにしている。

 今日現在、屋敷にはエルクが留守番で残っており、今は僕は『休みの組』で外に出かけているので、別行動だ。
 基本、僕とエルクはほぼいつも一緒に行動するけど、ローテーション組むとどうしてもこうなることはあるんだよね。組み合わせとか順番の問題だから。

 で、今日は僕は、ナナと義姉さん、それにアルバと一緒にそのへんの市場やら何やらを見て回り、購買意欲の赴くままに買い物をして過ごした。
 その後、一息つくために、今は茶店でお団子を食べている所である。

「んぐ……ふぅ。あー……至福のひと時」

「相変わらず美味しそうに食べるわねー、この子は」

「でも、実際美味しいですよね、この『お団子』っていうお菓子。初めて食べた時は、独特の食感でびっくりしましたけど、慣れると病みつきになりますよ。あんまり甘くないのもいい感じで」

「まあ、それはわかるけど限度ってあるでしょ……ちょっとこいつの横に置いてある皿の上の串の数を数えてみなさいよ」

 義姉さんが指さす先には、僕が今まで食べた団子の、その後の串が積み上げられていた。
 からん、と今載せて加えた分で、たしか……20本目だったかな。

 黒餡、醤油、きなこ、みたらし、ゴマ、クルミ、だだちゃ豆、プレーン(って言っていいんだろうか。何もついてない奴)……どれも美味しい。ほうじ茶とよく合う。
 個人的には、緑茶よりほうじ茶が好きです。それよりウーロン茶、さらにそれより麦茶。

「そ、それはまあ……あはは……ミナトさんですし。いつももっといっぱい食べるじゃないですか」

「食事はね。おやつでこれは明らかに多いでしょうが。今11時前よ? 普通こんだけ食べたら、昼ご飯入らなくなるわよ……」

「すいませーん、豆大福とくずもちと栗羊羹追加でー。あとほうじ茶おかわり」

「しかもまだ食べるし」

「……美味しそうに食べるのは見ていて楽しいですけど、ここまでだと見てるだけで太りそうです」

 常連ってほどではないけど、散策の途中でほぼ毎回ここでおやつを食べるから、店員の娘さんにすっかり顔を覚えられてしまったらしい。『いつもありがとうございます』って言われた。

 ……来店するたびにお団子ほぼ全種類食べるから、余計印象に残ったのかもしれないけど。

 そんな感じでくつろいでたんだが……

「あら、奇遇ね、こんなところで会うなんて」

 そんな声が後ろからかかった。つい最近聞いた覚えのある声だ。

「あ、タマモさん……どうもこないだは」

 振り向くと、そこにはやはりと言うか……こないだ会ったばかりの、タマモさんがいた。

 付き添いなのか、謁見の時も一緒にいた、青と白の着物のメガネ美人……ミフユさんも一緒だ。たしか、ちょっと口調が独特だった人だな。

 一応こっちも一言挨拶すると、『隣、失礼するわね』と一言言って、隣のベンチに腰かける。店員を呼んで、おすすめを適当に、と、通っぽい頼み方をしていた。
 その後、僕の卓の上の皿を見て少し驚いたようにして、

「あら……随分と食べたのね。健啖家だとは聞いていたけど」

「1、2、3……20本くらいありますの。お昼、大丈夫ですか?」

「あははは……大丈夫ですよ、これくらいなら。美味しいとつい食べ過ぎちゃうんですよね」

 義姉さんに言われたのと同じことをミフユさんに指摘され、つい苦笑してしまう僕。

「まあ、この店の甘味が美味しいことには同意だけれどね。私もよく来るのよ」

「そうなんですか……ちなみに今日は、仕事の休憩とか、息抜きか何かですか?」

「うーん……強いて言うなら、仕事帰りかしら?」

「へ? 仕事帰り?」

 えっと……今、11時前だけど?
 この時間で、仕事帰り?

 今日は午前中で仕事が終わりとか、有給取ったとか、そういう感じなのかな?

 視界の端で、義姉さんとナナも同じように『?』という顔になっていた。
 と、思ったら、直後に何か思いついたらしいナナが『あ』っていう感じの顔になって……ついでになぜか、ちょっと顔を赤くした。え、何?

 それについて聞く前に……これまたなぜか、タマモさんとミフユさんがにやりと笑って、

「ミナト君。私の仕事……何だったか思いだしてみなさい?」

「? 仕事って……」

 当然、裏の地位……『ヤマト皇国』の影の支配者、っていうアレじゃないだろうし、そうなると表向きの……表向きの……あ゛。

 その瞬間、僕は、この時間に『仕事終わり』というのがどういう意味なのか……そして、ナナの表情の変化の理由も、両方悟った。

 そして同時に、どうやらそれが顔に出たらしい。僕の表情から、僕がそれらに思い当たったことを察知したタマモさんとミフユさんの口角がまた少し上がった。
 加えて、なぜかタマモさん、つつーっ、と、指を唇に沿わせて動かすような……何というか、やけに色っぽさを感じる仕草を……あの、それ狙ってやってますよね。何の暗喩?

 タマモさんの……この人の表向きの職業。それは……『帝』の愛人である。
 つまり、その仕事というのは……うん、そういうことだ。

「昨日の夜にお呼びがかかってね。暗くなってから寝所で『お相手』して、その後そのまま寝入ってしまって……そして朝になってから、もう一度『お相手』して、身支度を整えて一息入れてから屋敷に帰ると、どうしてもこういう時間になってしまうのよ」

「今代の帝は好き者で知られておりまして、朝も大概お盛んですの。朝食とお風呂をいただいて、ついでに野暮用をいくつか済ませてきましたから、今日は特に遅くなってしまいましたの。ですので、昼食までのつなぎに甘味でも、ということになりまして」

 うわあ、生々しい……そして、それを嬉々として語るタマモさんもどうなの?
 ていうかもしかして、ミフユさんも、その……一緒に?

「あの場にいた者のうち、私とミフユ、それにマツリはそうよ。1人だけ呼ばれていくこともあれば、3人一緒に行くこともあるわね」

 ……なんか、思いがけず、帝のハーレム事情を聴いてしまった。お盛んだな……

 今さっき届いたみたらし団子を、大きく口をあけて『あむっ……』と食べるタマモさんの仕草が妙にエロく見えるのは、僕の心が汚れてるからなんだろうか。

 もちろん、帝の愛人は今言った3人だけじゃなく、もっといっぱいいるらしいし、帝はその日の気分で誰を抱くか決めるそうなので、そんなしょっちゅう出番があるってわけじゃないらしいが。
 
 それでも、タマモさんは特にお気に入りとされているうちの1人なので、結構呼ばれる頻度も高いらしいが。……実際はお気に入りどころか、裏で手綱を握られてるんだけどね。

 そんなことを頭の中で思っていると、

「あら? 今、何を想像していたのかしら?」

 獲物を見つけたような光を目に宿し、ニヤニヤと笑っているタマモさんに、そう声をかけられた。

「い、いえ別に何も……」

「ふふっ、女の子を囲ってる割に初心だっていう話は本当みたいね? このくらいの話で赤くなっちゃって、かわいいこと。これがリリンなら、嬉々としてトークに参加してくるでしょうに」

 ……あーまあ、母さんならそうでしょうねー……。

 視界の端で、義姉さんも『想像できるなあ』っていう感じの表情になっている。
 よくわかってるな、義姉さんはもちろん……タマモさんも。母さんのこと。

「実をいうと、そのリリンの息子……それも、リリンに一番似てるっていうあなたがどんな子なのか、興味はあるのよね。ねえ、もしよかったら……また私の屋敷に来ない? 今日の夜とか」

「ちょっ……何言ってんですか、そんな……」

 冗談か本気かわからないが、突如そんなことを言い出したタマモさんに、慌てて僕が答えると、タマモさんは余計に笑みを深く……というか、面白そうにして、

「あら? 私は、『夜に屋敷に来ない?』って言っただけなのに、何を想像したの? 夜、ディナーに誘ったとか、大陸の今の話を聞きたかったとか、そういう話かもしれないのに」

 そ、そう来るか……!
 いや、でも、それは無理があるだろ……いくら何でも、この空気で『夜に』なんて言われたら、そっちの話を想像するのは無理ないだろうし……確信犯だろこれ。

「つまり、私との『そっち』を想像したのは認めるわけね?」

「………………」

 何か、この人と話していくと、どんどん引きずり込まれていくような気がするんだが。
 セルフで墓穴を掘らされてるような……底なし沼でもがいているような……

「ていうか今、心読みました? ヒナタさんみたいに……」

「そんな能力は持ってないわよ。けど、思春期の男の子の考えてることくらい、顔を見ればわかるわ。猥談の年季が違うのよ、年季が」

「そんなもん自慢する人見たの生まれて初めてですよ……」

 年季はともかく、猥談の、って……そんなもん、母さんでも自慢したことなかったぞ。

「ここで躊躇いなくお義母様を例に出すミナトさんも随分ですけどね……」

「気持ちはわかるけどね」

 ナナと義姉さんからそんな言葉が飛んでくる。

「ていうかタマモさん、こんなとこでそんな話しちゃまずいんじゃないですか?」

「? あら、なぜかしら?」

「その……タマモさんって、『帝』の愛人でしょう? それが、冗談でも他人を誘ったりするようなことって、見つかったら問題になるんじゃないですか? 帝だって、自分の愛人が他の男に声をかけたり、あるいはかけられたりしたなんて聞いたら、怒るでしょうし……」

「……ふぅ~ん……?」

 ……あの、何でまたそこでニヤッと笑うんですかね?
 えっと……僕、何か変なこと言ったか?

「ふふふ、リサーチ不足よミナト君。確かにその理屈は間違ってはいないけど、そういう価値観、国や地域の風習で変わると知っていたかしら?」

「? どういう意味ですか?」

「極端な例だけど、ハーレムっていうものをどうとらえるかは、その主の価値観1つなのよ。お気に入りの女を囲っておくっていう所は共通なれど、君が言うように、囲っている女を独占して他人に触らせることを嫌う者もいれば……あくまで夜具として扱うものもいる」

「や……ぐ?」

「そのままズバリ、夜の道具、という意味ね。気に入っている間は頻繁に使うし、甘やかして大事にするけど、飽きたらそれまでで捨ててしまうとか、武功を上げた部下に褒賞として一晩貸し出したり、下賜する……そのままあげてしまう、なんていう使い方をすることもあるわ。もちろんこのヤマト皇国のみならず、アルマンド大陸でもそういう国はあったわね」

「え……もしかして、この国の帝って……」

「帝は、どっちもね。今言ったような扱い方をしたこともあるけど、全員にじゃないし、きちんと大切にされている女もいるわよ? 私はその筆頭ね……私もミフユもマツリも、帝以外の『お相手』をしたことはないし、今でもお気に入りだから」

 あ、そうですか……なんかちょっと安心。

 いや、別にタマモさんをそういう目で見てるわけじゃなくても、母さんの知人がそんな扱いされてるとかいう話になったら、気分よくはないじゃん。仮に、いくら本人が納得してるとしても。

「でもそれだったら、結局そういう話するのまずいんじゃないですか?」

「大丈夫ですの。さっきから私が、きちんと盗聴防止の結界を張っていますの」

 と、ミフユさん。あ、そうだったの?
 さっきっていつから? え、ここに来てすぐ? 何だ、言ってよそれなら……。

「それくらい感じ取りなさいな。術式は違えど、違和感くらいわかるでしょう。……ところでミナト君? さっきの話に関連してだけど……」

「……今度は何ですか?」

 だんだんこの人に対する緊張がほぐれたというか、遠慮がなくなってきたのを自分で感じつつ、

「ハーレムってもののあり方をそういう風に、ごく自然ないし、当然のものとしてとらえているということは……あなたのハーレムに対する考え方はそうなっている、という解釈でいいのかしら」

「ぅえ!? ちょっ、何を……」

 ホントにいきなり何を聞くんだよこの人は!
 
 え、僕のハーレム!? いや、僕ハーレムなんて……あー、いや、まあ、複数の女性とそういう関係になっている点については否定できませんけれども……

「この間会った時にいた女の子たちのうち……4人ね? そういう関係のお相手は……恐らく、エルクちゃんとシェリーちゃん、ネリドラちゃん、そしてそこにいるナナちゃんね? さっき、ごく自然にリリンのこと『お義母様』って呼んでたし」

「っ!?」

「そしてミナト君の価値観としては、そういう関係になった女の子を他人に触れさせるのは論外。独占欲が強い、というか……単に愛されて、大事にされてる、ってところかしら」

 怖い! 全部当たってる! 何だこの人のこの嗅覚!?(猥談関連)

「あ、あぅ……」

 今しがた話を向けられたナナも、びっくりしつつ、しっかり顔赤くしちゃってるし。

 ていうか、やばいな……この人、砕けた感じだけど真面目で有能なできる女、っていうイメージだったんだけど……猥談になると遠慮のなさは母さんと同等かそれ以上だよ……。
 男巡って母さんとガチバトルしたって話も、これなら不思議と頷けるわ。

「ふふっ、こんな話してると火照ってきちゃうわね……ミフユ、これやっぱり冷やして頂戴」

「かしこまりました。失礼して……」

 そう言って、タマモさんから飲み物のほうじ茶(ホット)を受け取ったミフユさんは、何か術を発動させると……その周囲に、わずかだが冷気が渦巻くのを感じた。
 直後、空中にやや大粒の氷が現れ、それを彼女は受け取った湯飲みにぽちゃんと入れる。

 氷は少し溶けたが、すぐにほうじ茶の方の温度が下がり切り、アイスティーに変わった。

「どうぞですの」

「ありがと」

「……やっぱり、大陸のそれとは術式が違うみたいですね。氷を出す『陰陽術』ですか?」

「いえ、今のはどっちかというと、私の種族固有の技能ですの。私、『雪女』ですから」

 へー、そうなんだ。これまたメジャーな妖怪が出て来たな。

 確かに言われてみれば、青と白がベースの着物って、涼し気というか寒々しい感じで、そういう種族を連想させなくもないな。

 するとタマモさんが、アイスティーを飲みながら、ふと思いついたように、

「……ああ、それを聞いて思い出したわ。ミナト君、あなた……『陰陽術』に興味があるのよね?」

「? はい、そうですけど……いや、僕だけじゃなくて、師匠とか他にも数名」

「それともう1つ。あなたは大陸では『冒険者』なのよね? しかも、かつてのリリン達と同じSSランクの。今は護衛依頼の最中だけど、それに影響を及ぼさない範囲・程度であれば、こちらで何か頼みごとをした時にも応じてくれる、と聞いたのだけど?」

 再度、それに首肯を返す。
 よく知ってるな……ああ、フロギュリアの軍人さんあたりから聞いたのかもな。向こうの大陸じゃ別に隠してもいない、常識レベルの話だから。

 けど、それがどうしたんだろう、と思っていたら、タマモさんは今度は、笑みの中にも真剣さが見え隠れしているような表情になった。
 さっきの、全力で猥談で僕をいじくっていた時とは違う……こないだの『謁見』の時の雰囲気を、さらに真面目に、しかし同時に親しみやすくもしたような雰囲気だ。

 そうして、何を言うのかと思えば……

「私と取引しない? ミナト君」

「取引?」

「ええ、あなたの力を借りたいことが、いくつかあるのよ。リリンの戦闘能力と、クローナの知識と技術力を受け継いだあなたに、ね。報酬は……『陰陽術』の指導を最高水準で、でどう?」



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