魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第363話 タマモと5人の側近

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「いや~……すっごいきれいな人だったわね」

「確かに……まさにというか、『傾国』っていう表現が似合いそうな雰囲気の美女でしたね。まあ、効く限りやってることはその『真逆』だそうですが」

「何ていうのかしら……単に見た目がいいだけじゃなくて、仕草とか視線とか、そういうのが異質なほど、こう……色っぽさを醸しだしてるような感じだったわね。そのへんはやっぱり年季っていうか、いくつもの国を股にかけて王族貴族を篭絡してきたがゆえの腕なのかしら?」

「あ、あの皆さん……一応、まだタマモ様のお屋敷の中ですので、もうちょっと……というか、部下の方いらっしゃるんですけど……」

 ヤマト皇国の裏の支配者であるタマモさんとの謁見を終えた僕らは、ここまで連れてきてくれたのと同じ『妖狐』の人案内で、お屋敷の出口まで歩いている最中だ。
 その人以外にも、一緒に来てる人いるけど。2人ほど。

 広い上に入り組んでいる屋敷なので、案内がなければたぶん迷う。
 僕は特に方向音痴なもんでね……一度図面を頭に入れれば、建物内ではその限りじゃないんだが。

 その最中の雑談がさっきのなわけで、遠慮なしな意見をぺらぺら言ってるシェリー達に対し、ギーナちゃんがちょっと慌ててというか、気まずそうにそれを止めてる図である。
 たぶん、『こんなこと話してて悪く思われたりしないだろうか。案内の部下の人にも聞かれてるのに』とか思ってるんだろうけど、

「大丈夫ですよ~、そのくらいで目くじら立てるほど主は細かくありませんから~。昔馴染みであるクローナ様と、その縁者やお知り合いの方々というのもありますしね~」

 横を並んで歩いてるヒナタさんが、相変わらずの間延びする感じの口調でそう言ってくれる。

 数日前の僕らとの面会の後、言いつけられた仕事をこなすために僕らとは別れたヒナタさんだが、その仕事はあっという間に終わらせたらしい。
 事務系の後処理はロクスケさん達に任せ、ハイエルフの護送がてら都に戻ってきたそうだ。

 さらにそれに続ける形で、反対側から、

「……ん。姉さまはそこまで狭量じゃないから、そこまで神経質になる必要はない。最も……あまりあからさまに悪く言われたり、政治が絡んできたりすればその限りではないけど」

 こちらは初めて見る人。
 落ち着いた雰囲気の暗色系の着物を着て、艶のある黒髪を短めにまとめている和服美人。

 ただ、ちょっと顔色と……目つきが悪い?
 ジト目っぽい半開きの三白眼で(個人的には大好物だけども)、目の下に隈みたいなのが……いや、違うな。これ、ただの隈じゃない。わかりにくいけど……『隈取』か?
 歌舞伎役者がやるみたいな、あの目の下とかに紅で線入れる感じのメイク。

 黒色だから、メイクだってぱっと見わからず……目力に変換されてるっぽいな。

 恐らく、ヒナタさんと同じく幹部クラスなのであろうこの人は、『サキ』さんというらしい。
 何か今、タマモさんのこと『姉さま』って読んでた……?

 妹……なわけないか。
 だって、このサキさんのお尻の所に見えてるしっぽは……

「……何か用?」

「あ、いえ、別に大したことじゃ……」

「うふふふ、サキちゃんが『姉さま』なんていうから、姉妹なのかな~、なんて思ったみたいですよ~? でも、尻尾が明らかに違うから、どういうことなのかな~、って悩んでるようです~」

「……ああ、そういうこと。確かに私は、姉さま……タマモ様とは血は繋がってない。単なる妹分で、部下なだけ。……本当の姉みたいに、お慕いしてはいるけど」

「主のことが大好きですもんね~、サキちゃんは」

「……ん」

 こくり、と頷くサキさん。
 その腰のあたりに生えている尻尾は……黒と茶色の縞々で、先端に行くにつれて太くなる、ふかふかでまるっこい形のそれだ。

 どう見ても、『狸』のそれである。

 それもそのはず。
 先程彼女本人がしてくれた自己紹介によれば、彼女の種族は……『隠神刑部狸』。
 前にちらっと言ったことがあると思うが、四国最強の神通力をもつとされる狸の妖怪である。

 もっとも、ゴン君が言っていた『八妖星』の一角である『ロクエモン』とは、同族なだけで別人みたいだ。まあ、名前思いっきり違うもんな……血縁とかはあるかもだけど。

 ただし彼女自身も、きちんと相当な実力者ではあるようだけどね。ヒナタさんと同じように。
 さすがというか、タマモさんの側近というだけのことはあるようだ。

「それに、そんな風に姉さまを悪く言ったり思ったりするような輩は、事前にヒナタが判別するから、そもそも姉さまに会わせたりしない」

「……そのヒナタさんの能力も大概ぶっとんでますよね」

「うふふふ~、それほどでも~」

 あんまり表情を変えないため、感情の変化がわかりにくいサキさんであるが、こっちはこっちで終始ニコニコしてるのでわかりにくい。ヒナタさん、ホントに照れてるのか、それともポーズなだけか……。
 こっちからはわかりにくいのに、あっちからは全部わかるってんだからずるいよな……。

 ……まあ、こうして考えてるこれも……

「全部はわかりませんよ~。警戒心を持ってる人とかはあんまり読めません・・・・・し~、私より強い人なんかだと、ほとんどだめですね~」

 ……そらきた。
 僕、確実に何も言ってないのに、的確に考えてることに、具体的なまでの答えを返してくる。

「その割に、僕の考えてることきっちり読んでるじゃないですか。現に今も」

「私がミナトさんの思考で読める部分は~、読まれても構わない、困らないと潜在的に思ってるような部分だけですよ~。その他はまるでダメです~。ああもちろん、むやみやたらと心の中を除いたりはするつもりはないので、ご安心くださいね~」

 さっき知ったことだが、ヒナタさんの種族名は……『さとり』。
 割と有名な妖怪だし、知ってる人も多いんじゃなかろうか。

 その最大の特徴は、『人の心を読む』ことができること。
 古今東西、数ある妖怪・魔物たちの中でも、特に協力じゃないかと言われることも多い、とんでもないチート能力である。怖すぎるわ、勝手に頭の中覗かれるって。

 といっても、無条件に、際限なく思考を読めるってわけじゃないらしいんだけどね。

 読心の能力は、相手が自分に好意的であったり、心を開いているほど通じやすい。逆に、敵意や警戒心を強く抱いているほど通じづらい。

 加えて、自分より弱い相手には使いやすいが、自分との実力差が小さい、同等に近くなるほど効きづらくなる。格上ともなると、ほとんど通じないそうだ。
 格上でも、精神系統の術に対する耐性が低ければよく効くこともあるそうだが、逆に格下でも、精神攻撃への耐性が高ければ効きにくい。

 そして僕だが、最強クラスの精神攻撃耐性を持つ『夢魔サキュバス』であり、戦闘の実力においては彼女の上を行っているはずなんだが……その割には、さっきから結構ポンポン思考読まれてるんだが。

 彼女曰く、『独り言みたいに漏れ出した思念を拾ってるだけ』『聞かれても構わないと思ってるレベルのことしか聞けない』とのことだけど……逆に言えば、その部分に関しては僕、思考駄々洩れってことだろうか。

 思えば、こないだヒナタさんと初めてあった時もそんな気配あったな。
 僕が『この人見た目通りの年齢じゃないかも』って思った瞬間、ジト目向けられたっけ。あの時も思考読まれたっていうか、受信されたんだろうな。

 ……思考の制御方法なんて聞いたことないんだがな……どうすりゃいいんだか。

 ちなみに、この明らかに超極秘事項であろう事実……ヒナタさんの種族名について僕らに教えたのは、早い話が、こちらに対しての誠意の一環として、らしい。
 そんな能力持ってるなんて知られたら、そりゃ一発で警戒されるもんな。逆にそれを教えることで、僕らが警戒することができるようにし、それにより『この能力で変なことをする気はない』っていう意思表示にしたわけだ。

「もっとも……なぜか皆さん、普通の方より思考を拾いにくいんですけどね~。私、そのつもりはなくても、常に多少の『心の声』を聴いてしまうんですけど~、皆さんからはほとんどそういうのを感じなくて~。今喋ってることの延長上で、何か思ってるな、くらいしかわからないです~」

「まあ、精神系の干渉技能とかは常に警戒して、そういうのから身を守るアイテムを皆持ってますからね……むしろ、自画自賛ですけど、それでもなおちょっとは拾えてることがすごいと思います」

 言うまでもなく『指輪』である。あれには、精神攻撃やら洗脳やらといった種類の攻撃・干渉から身を守る術式もきちんと組み込んであるのだ。
 それでも少しは読まれてしまうのは、ヒナタさんの実力もそうだけど……アルマンド大陸のそれとは、ややメカニズムが異なるからかもしれないな。今度調べて調整しよう。

「ホントにね。対策してなければ、なすすべもなく頭の中を除かれて情報丸裸なわけでしょ? 尋問とかに便利そうな能力……ああ、だからヒナタさんがハイエルフを回収しに来たのか」

「そういうことです~。私がいれば、『読心』が通じる相手であれば、尋問や拷問なんて面倒なことをする手間はいりませんからね~」

 納得。そりゃ仕事あっという間に終わるわ。
 仕事済ませてからここに向かっても今日の謁見に間に合った理由がよくわかった。

「しかし、ということはあのハイエルフ共の背後関係とか、もう洗い終わったんですよね? 何かわかったりしました? ああもちろん、お聞きして問題なければ、ですけど……」

「問題ないですよ~。というか、後で正式に書類か何かでお知らせします~、そちらのエルクさんも、連中に狙われたという意味では当事者ですしね~」

 そうして、ヒナタさんは歩きながらではあるが、ハイエルフを尋問――と言っていいのだろうか――してわかった事実関係について、簡単に教えてくれた。

 大半は僕がすでに『閻魔喚問』でハイエルフの兵士から聞き出したことと同じだったが、中には僕がまだ聞けていなかったこともあった。

 どうやらハイエルフ達だが、この大陸に来たのは、偶然というか、不本意というか……タマモさんと同じように『気が付いたら来ていた』という感じらしい。

 突如として力の流れが云々、飛ばされたと言うより流されたという感じどうこう、というような表現についてはわからなかったものの、これだけの超長距離を一気に転移させられるような手段がそうそうあるとも思えないし……同じ原因じゃないかな、と僕は見ている。
 確証はないので、色んな可能性を考慮して今後も調査は進めるが。

 そうして飛ばされてきてから数十年の間は、各地を転々としながら、自分達の奴隷とかの確保のために人さらいを繰り返していた。そして十数年前、あの城を乗っ取って拠点にしたようだ。

 ……本当にこいつらときたら、どこに行っても他人に迷惑をかけないと生きていけない種族だな……しかもそれを自重する気が一切ないと来た。

 その過程で略奪したもの(人、物問わず)については、既に処分されてしまっていたものもあれば、城の宝物庫に保管されていたり、あるいは倉庫に雑に突っ込まれていたりもしたようなので、後で確認するそうだ。

 そしてもう1つ。
 これはどっちかと言うと、凶報に分類される情報なんだろうけど……

「どうやら件の『はいえるふ』ですが、残党がいるようでして~」

「残党?」

「はい~。あの城にいた者達と、カグヤさんの屋敷と、ミナト様のところに攻めてきていた者達で全員ではなかったようです~。別件で城を空けていた仲間が、数人ですがいるようでして~」

 ……それは厄介だな。あいつら、無駄に1人1人の戦闘能力は高いから、ゲリラ的に潜伏とかされたら厄介なことになる。
 加えて逆恨みも連中の得意技というか、むしろお家芸だ。今回のことで、極めて政党に司法権の行使が行われようとも、暴論そのものの理屈で逆切れしてくるだろう。

 山の中にでも逃げ込んで、そのまま引きこもってくれればまだマシだが、最悪こいつらテロリスト化しそうだよなー……あー、考えるだけで気が滅入る。

 その辺もうちょっと考慮した上で動ければ一番よかったのかもしんないけど……あの夜は僕も師匠も切れてたからな、地味に。反省だなこれは。


 ☆☆☆


 ミナト達がヒナタから話を聞いていた、ちょうどその頃。

 先程ミナト達と面会した部屋を後にし、自分用の仕事部屋に場所を移していたタマモは……偶然ではあるが、同じように、ヒナタが行った尋問の結果に目を通していた。
 こちらは、文面に起こされた報告書を読むという形でだが。

 ぱらり、ぱらり、と音を立て、ゆっくりではあるがその内容を頭に染み込ませていくタマモ。
 その表情は……先ほどまで、ミナト達を相手に終始浮かべていた微笑とは打って変わって真剣なもので、室内にはぴりぴりと張り詰めた空気が立ち込めている気配すらする。

 もっとも、その室内で主と共にいる者達は皆、その程度の空気には……より正確に言えば、この仕事モードとでも言うべきタマモの気圏には、いつものことと慣れているのだが。


 読み終えると、タマモはふぅ、と短く息をつき、

「……失態ね」

 呟くように言った。
 短い、しかし、怒りと悲しみの感情の込められた一言だった。

「目と鼻の先にあった大江山で、斯様な事態が起こっていながらそれに気付けず、今日こんにちにいたるまで賊の蠢動を許していたこと……この国を治める者として、恥ずべきことだわ」

「しかしタマモ様。大江山の三代目酒呑童子とは、四半世紀前より、相互不干渉の条約を結んでおりました……それを守っていた以上、必要以上に立ち入ることができないのはいたしかたないかと」

「それでも、よ。民に被害が出ているというのに、自体の本質を見抜くことができていなかった……為政者として、この責から逃れることはできない、いや、逃れるべきではないわ」

「そうは言われましても、いくらタマモ様とはいえ、手勢にも限りがありますの。あくまで表の武力を動かしているのは表の者達……いえ、たとえそれらを思うがままに扱ったとしても、この国の全てを常に把握しているなどということは、現実的に考えて不可能ですの」

「最近では表の連中の成長を促すため、可能な限りまつりごとも任せるようにしているでござるからなあ。それが裏目に出た、か……」

 一緒に部屋にいる、タマモの側近と思しき3人は、反応は芳しくないと見ながらも、一応口々にタマモを擁護していた。

 1人目は、白と青をベースにした、寒色系の色合いの着物を纏っている女性。つやのある黒髪を肩のあたりまで伸ばし、メガネをかけている。

 2人目は、厚着……を通り越して、もはや『重厚な』と言ってよさそうな、十二単のように何枚もの着物を重ねて身にまとっている女性。服事態がかなり重そうに見える。
 同じく黒髪で、長さは腰のあたりまであるロングヘアだ。
 
 3人目は、鎖骨のあたりまであるセミロングの白髪と、恐らく190㎝を超えているであろう身長、そして、山伏や修験者が着るような意匠の服が特徴的な女性だ。

 3人共、言っていることは本音であり、世辞や慰めの方便はほとんどない。それでも、声音と表情に悲痛さを滲ませるタマモはそれを変えず、その様子は彼女の責任感の強さをうかがわせる。

「私の伸ばせる腕の長さに限界があるのは否めないけど、今回の一件に関しては、現行の制度にも改善点があったと言わざるを得ない部分も少なからずあるわ。そこから目を背けてはならない……この教訓を生かす形で改めなければ、犠牲者たちに申し訳が立たないというものよ。それは近いうちに考えるとして……直近の問題は、この後始末ね。残党が逃げ回っているのでしょう?」

「すでに捜索の手を広げるように指示を出しております。もっとも、性根が下衆なれども、相応の使い手ではある様子。発見してもひとまず手出しせず、報告を持ち帰るよう言い含めております」

「それがいいですの。報告を見る限り、我々側近級か、最低でも幹部級でなくては対応は難しい、という程度の強さはあるようですし……無用な犠牲を出さないため、油断は禁物ですの」

「うむ、そうでござるな。……して主よ。もう1つ、今回の件で目を向けなければならぬ点があると思うのだが」

「わかっているわよ、イヅナ。『酒呑童子』の方の残党の件ね」

 そう言って、タマモは手元の資料に今一度目を落とす。

 そこには、今回の顛末と合わせて、『城』から保護した妖怪達についても書かれていた。

 彼ら、彼女らを保護するために城へむかったのは、イヅナと呼ばれた山伏姿の女性である。

 彼女の種族である『天狗』の神通力を使い、部下たちを率いてありえないほどの速さで『キョウ』の都と『大江山』の城を往復、奴隷ないし被害者たちを回収してきたわけだが、その際に思ったのは『鬼、及びその眷属の数が少ない』というものだった。

「たしかヒナタとミナト殿の報告では、共通して、三代目は『毒の酒を飲まされて弱らされた上で謀殺された』というものだったわね」

「それ自体に間違いはないと思うでござるが、拙者の意見を言わせてもらえれば、あそこに住んでいた鬼達が何の抵抗もできず全員やられてしまったとは考えにくいでござる。何より、はいえるふ共を尋問した結果の中に、『4代目』以降については何一つ出てこなかったでござる」

「当時の戦いでは、鬼たちも決死の抵抗をしてかなりの激闘になり、またハイエルフ共が何の配慮もなく高火力の術……『魔法』とやらを連発したこともあって、誰がどこでどう死んだか誰も把握できていなかったみたいですの。加えて、酒呑童子の系譜譜代、古参のしもべたちは、その戦いで全員死んだ、とのこと。有用な話を聞ける相手がいませんでした」

「ですが、実際にはそこで全員死んだわけではない可能性もあります。いえ、むしろその可能性の方が高いでしょう」

「……ハイエルフ共を鬼たちが相手をしている間に、一部の鬼たちが、『4代目』を逃がした可能性がある、ということね」

 謀略を仕掛けられ、圧倒的に不利な状況の中で、全員が玉砕覚悟で最後まで戦ったのではなく……その戦いは、逃がしたい誰かを逃がすための時間稼ぎだった可能性がある。
 鬼達もバカではない。そのくらいのことを考え、決断する可能性は十分ある。

 しかし、そうなると問題……というか、疑問がまた別にあった。
 
「けれど、それならなぜその逃げ出した4代目やその家臣たちが、今に至るまで何の行動も起こさなかったのか……もし、例えば、私達の所に助けを求めるとかしてくれれば、私達もこれだけ長い間、この事件に気づかずにいる、なんてことはなかったですのに」

「意地、ないし面子でしょうか? 我々と『酒呑童子』の一味は、かつて……二代目酒呑童子の時代は、不俱戴天の敵同士だった身ですから」

「さもありなん。連中はそういうの気にするでござるからな……だがそうなると余計にというか、別の意味で面倒でござるよ。城を奪われ、屈辱にまみれた鬼たちが、このまま黙っているとは考えにくいでござる」

「放置しておくことはできないわね……イヅナ」

「はっ!」

「サキとヒナタが戻り次第、詳細を詰めて方々に斥候を出しなさい。『ハイエルフ』の残党と、『4代目』をはじめ、酒呑童子の一派の生き残りが落ち伸びていないかどうか、至急調べるのよ」

「承知!」

 背筋を正し、イヅナが元気よく返事をする。

「ミフユは今回押収できた物品を解析して、出来る限り情報を収集してちょうだい。書類一枚残さずヒナタとイヅナが回収してきてくれたから、行動計画などから大まかな潜伏場所、その候補や傾向だけでも絞り込めればやりやすくなるわ」

「了解ですの」

 白と青の着物に身を包んだ女性……ミフユは、こくりと頷いて承諾の意を示す。

「マツリはこの後はここに残りなさい。今回の件について、帝及び朝廷に報告する表向きの報告を作成するから手伝ってちょうだい。その後は、必要に応じてミフユを手伝ってあげて」

「心得ました」

 長い黒髪に重厚な着物の女性・マツリが、そう頷いて……その直後、ふと思い至ったように、

「して、当初この後予定しておりました、ミナト様方と友好を深めていくという件はいかがなされますか? 延期なさるのでしたら、予定を組みなおしますが……」

「いえ、それは並行して行いましょう、できないことはないし……息抜きにもなるわ」

 そう言って、タマモは座椅子に座りなおし、机の上に置かれたお茶を一口飲んで喉を潤す。

「純粋に楽しみだったしね。私にとっては……そうね、リリンの子どもで弟子なら、弟弟子になるのかしら……まあ、私別にリリンの弟子ってほどでもなかったかもだけど」

「実際に会ってみてどうでござったか? 随分と気さくに話していたようでござるが……気に入ったでござるか?」

「んー……」

 少し考えこむような素振りを見せるタマモ。
 その様子からは、先程までの刺々しい……とは言わないまでも、真剣な雰囲気が多少薄れ、険の取れた雰囲気になっているような気配が見て取れた。

 今の彼女は、公私で言えば『私』に当たる状態のようである。

「まださすがにわからないけど……リリンに似ていた気はしたわね。見た目も可愛かったし、それに……何というかあの、強者特有の底知れない気配と言うか、どうしようもない雰囲気と言うか」

「あらあら、それは頼もしいと言うべきか、恐ろしいと言うべきか」

「リリンもそうだったし、悪い奴じゃなさそうよ。むしろ謙虚で誠実そうだし……好感触ね」

 それに、と続ける。

「彼、クローナの弟子だっていうじゃない。調べた感じ、技術者・研究者としても一流で、大陸でも広く名を知られているとか……お互いにとって有益な関係性を構築できると思うわ。大陸の技術やら何やら……興味あるでしょ? ミフユに、マツリも」

 その問いかけに、マツリは微笑を浮かべながらこくりと頷き……一方のミフユは満面の笑みで、しかしどことなく『怪しい』と評することもできそうな笑顔で、同じく頷いた。

 残るイヅナは、その2人の様子に苦笑しつつも……

「しかしその様子だと、一番興味津々なのは主でござるな。まだ興味の段階ではあろうが……相当気に入ったと見える」

 その指摘に、タマモははじめ、いたずらがばれた子供のような苦笑を浮かべたものの、

「……まあ、否定はしないわ。さすがというか、リリンの息子だけあるわね。気配だけでわかるのよ……彼、すっごく……」

 一拍、



「……ええ、それはもう、すっごく…………美味しそう……♪」



 先程までの『為政者』としての真剣な顔でもなく、クローナやミナト達の前で見せた温和な顔でもない。
 己の欲望に忠実な、1人の『女』としての顔を、一瞬だけ浮かべて……タマモはにやりと笑う。

 それを見て、3人の側近は、『やれやれ』と苦笑するのだった。

 これからあの純粋そうな少年は、苦労することになりそうだ、と悟って。



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