魔拳のデイドリーマー

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第18章 異世界東方見聞録

第362話 7人目の『女楼蜘蛛』

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 遡ること、百と数十年。
 まだ、伝説の冒険者チーム『女楼蜘蛛』が、現役だった時代のこと。

 自由を旨とし、不必要に権力と関わろうとせず、公的な立場も含めて、全くそれらを欲することのなかった『女楼蜘蛛』達ではあったが、全く国や権力者と関わらなかったわけではない。

 多かれ少なかれ、力を持つ者は、そういったものと無縁ではいられないものだ。
 気にするか否か、積極的に関わろうとするかどうかは別として。

 その力でもって災厄を退け、時には気まぐれで危ないところを助けたりして、様々な国の権力者を相手に友好的な関係を築いていたこともある。

 逆に、時には彼女達の力を利用しようと企んだ者達に対しては、一切容赦することなく、根こそぎ力で駆除したりもしていた。

 普通の、金や名誉で動くような冒険者や傭兵とは違う。彼女達を取り込み、利用しようなどと、考えるべきではない。
 大陸において、当時の主要な国家全体で、そういった共通認識が形作られるまでに、そう時間はかからなかった。

 そんな、彼女達が関わりを持った『権力者』たちの中に……『タマモ』はいた。



 その頃、『女楼蜘蛛』の6人は、ある国の王都に宿を取り、そこを拠点として、あるダンジョンの探索を行っていた。

 普段であれば、危険区域の中だろうとダンジョンだろうと、危険らしい危険を覚えることのない彼女達は、平然とそこにキャンプを張って、泊まり込みで調べるなりなんなりするのだが、そのダンジョンではとある理由でそれが不可能だった。
 ゆえに、1日1日宿に戻り、そこから通って調べる日々を繰り返していた。

 そんなある日、彼女達は行き帰りの道中、魔物に襲われていた『獣人』の少女達を助けた。

 特に何か、特別な理由があったわけではない。
 たまたま襲われているのを見て、見殺しにするのも気分が悪い、と思っただけだった。

 ……約1名、見たことのない魔物だからサンプルを確保したい、と言っていた者もいたが。
 
 話は変わるが、その頃の『女楼蜘蛛』は、自分達が宿を取って滞在していることをいいことに、顔をつなごうと権力者たちがひっきりなしに宿に押しかけてくるのを鬱陶しく思っていた。

 サービスやセキュリティのしっかりした高級宿を使うことで、そういう野次馬などのほとんどはシャットアウトさせていたが、貴族など国家を後ろ盾とした権力があるような場合だとそれも難しく、個々で程度に差はあれど、苛立ちを募らせていた。

 しかし、ある時を境に、それらの面会希望や社交界への誘いといったものが、ぱったりやんだ。

 不思議に思ったエレノアが動いて調べてみると、それはどうやら、この国の国王が直々に、貴族達に『女楼蜘蛛への望まぬ干渉を禁ずる。これを破った者は国益を損なったとみなし、厳罰に処す』と通達を出したことが原因らしいとわかった。

 そして同時に、彼女達が気まぐれで助けた、獣人の少女達……そのまとめ役と思しき、一番年上だった少女が、その国王のお気に入りの妾の1人であったことも。

 その妾こそが、尻尾が9本ある異形の狐獣人――『タマモ』であった。

 そのすぐ後、少し気になってさらにエレノアが調べてみた結果、驚くべきことが明らかになる。

 最初彼女達は、国王が、お気に入りの愛妾を助けてくれた『女楼蜘蛛』に恩返しをするために、国内の貴族達を掣肘してくれたのだ、と思っていたが……エレノアの調査により、それは違うということが知れた。

 逆である。それを命じたのは、彼女……『タマモ』の方だった。
 確かに、命令は王が出したもの。しかし、それを出させたのは、タマモだったのだ。

 さらに言うなら、この国の王は完全なお飾りであり……実際はそのタマモこそが、その実権を握っている。色香で王を篭絡し、意のままに操っていた。政治に介入し、思い通りに国を動かし、王が甘やかしているという体で贅を尽くした生活を送り、それに誰にも文句を言わせないほどに。

 彼女こそが、この国を裏から操る支配者だったのだ。

 そんなタマモであるが、だからといってそれ以降、『女楼蜘蛛』との関係が悪化したとか、そういう展開になることは別になく、むしろ『何かアイツ面白い』的に興味を持たれ、そのまま友好的な関係を築き上げていっていた。
 権力が好きではないはずの『女楼蜘蛛』達と、特に意図せぬままに。

 愛妾らしくわがままを言って、『女楼蜘蛛』をこっそり離宮に招いて豪華な晩餐を共にした。
 無論そこは、テーブルマナーも何も気にしなくていい、自由に食べて騒ぐだけの宴会だ。

 時に『女楼蜘蛛』が欲しがっている情報を集めるため、王家の伝手を生かして貴族達から情報を集め、同時に国王直属の秘密諜報部隊を動かし、表と裏から情報を集めたりもしていた。

 王宮の宝物庫の中で、古いばかりで大した価値のない骨董品……だと思われているが、実際は貴重なマジックアイテムであったりするものを、『ほしい?』と言って気前よくあげてしまったり、無償で渡すのが流石に難しい場合は、金銭と引き換えに売り渡したりすらしていた。

 そんなタマモに対し、『女楼蜘蛛』もまた、常にないほどに友好的に接していた。

 普通の友人のような気軽さで遊びに訪れ、一緒に食事をしたり、買い物に出かけたり、特に何の理由もないが、気のすむまでおしゃべりして楽しく過ごしたり、

 暇を見て彼女を城の、王都の外に連れ出し、普通なら決して行けないような危険区域に、自分達がきっちり護衛を務めた上で遊びに出たり、

 探索した危険区域で採取したはいいものの、特に誰もいらなそうな素材などを、気前よく譲り渡したり、格安で売ってやったり、

 時には、向上心豊かなタマモに対し、鍛錬を見てやったり、戦闘の稽古をつけてやったりすることすらあった。逆にタマモから、国際情勢や注意すべき国などについて教わることもあった。

 そもそも、彼女達に対して、色眼鏡も下心も何もなく付き合ってくれて、信頼できる『権力者』など、タマモくらいしかいなかった。彼女は自分が握っている権力を駆使し、その国に女楼蜘蛛がいる間、不快な思いをせず暮らせるように万全のバックアップをしてくれていた。
 その居心地がよかったために、猶更彼女達はその国を訪れることが多かった。

 その数年後、タマモがは『飽きた』と言って別の国に移り、またしてもその国の王族を手玉に取って辣腕を振るい始めるのだが、そうなってからも『女楼蜘蛛』は、その移った先の国でのタマモのバックアップで、安心してくつろげる時間というものを満喫していった。

 最初はただの『恩返し』から始まった両者の関係は、何年、何十年という時間の中で、確かな友情と呼べるまでに変化していたのだった。

 その時タマモは……一緒に冒険こそしていなけれど、確かに『女楼蜘蛛』の仲間だったのだ。


 ☆☆☆


「とまあ……こいつのことを簡単に説明するなら、こんなとこだな」

「もう……よく覚えてるわね、そんな昔のこと」

 照れてるのか、ちょっと顔を赤くしているタマモさん。
 その過去を順序立てて僕らに説明してくれた師匠は、なんだか珍しいくらいに機嫌がいい様子。

 やっぱ嬉しいのかな。嬉々として説明してくれるくらいに仲のよかった、かつての友人に再会できて。

「それにその話し方だと、まるで私が権力に取り入って私腹を肥やす悪女みたいに聞こえるじゃない……これから私、この国の政を預かる者として、そちらの2人と色々と外交関係の調整とか進めないといけないんだけど。警戒されたらどうするのよ」

「あー、やっぱりここでも裏から実権握ってんのな、お前」

「ヒナタからそう聞いてたはずでしょ?」

 そう言いながら、タマモさんはちらりと視線を、ドナルドとオリビアちゃんの方に向ける。

 さっきの師匠の話で、最初よりは幾分緊張も紛れた……と思いきや、そうでもなく。
 いや、確かに、この国の裏の支配者っていう権力者を相手にする感じの緊張はほぐれたかもしれないけど……2人は今は、また別な種類の緊張を胸に抱えているように見えた。

 まあ、無理もないよね。今の話の内容考えれば。

 だって要するに、タマモさん、確かに師匠たちの昔馴染みで、信頼できる人ではあったけど……同時になんか、国の王族に取り入って贅沢三昧する悪女的な生活してたことが明らかになったわけで。
 しかも、政治にまで介入して裏から国を操って……っていうのが昔からだったと知れたわけで。

 地球的に言うなら……『傾国の美女』とかいうんだっけ、こういうの?

 そっちの意味での信頼がちょっと不安、ってとこかな。これから国と国の付き合いをして行く上で……相手の国にそんなフィクサー的な立場の人がいて、ガワを飾っている政府がお飾りそのものだということがわかってる以上、安心して関係の構築に移れるかは微妙なとこだろうし。

 そのへん、この2人はきちんと公人として考えを持てる人間だろうしな。

 実際に話をして内容を詰めていくのは、表の代表である、この国の政治家たちが相手……ではなくなったわけだしね、もう。
 この国の実権を、目の前にいるこの美女が握ってるということが明らかになった以上。

 相手は既に、タマモさんにシフトしている。交渉するのも……警戒するのも。

「あー、そう身構えなくていいぞ、そこのチャラ男に公爵令嬢。お前らが懸念してるようなことは……なんつーかアレだ、こいつが悪意を持って外交関係をどうこうとか、利用しようとー、とか、そういうのはまずねーだろうからな。ま、俺個人の意見だが……むしろ真逆だしな」

「? どういうことです、師匠?」

 かつての仲間のこととはいえ、師匠が他人を擁護するという珍しいものを見れた。キャラじゃないってのが自分でも自覚あるのか、ちょっと気恥ずかしそうに。
 だからってわけじゃないが、僕は普通に気になったのでそう聞き返す。

 聞く限り、まさに『傾国』って感じの暮らしぶりだったように聞こえるんだけど……違うの? しかも、『真逆』って?

「傾国、ね……なるほど、上手いこと言うもんだ。しかしそれなら……ああ、まさに『真逆』だな」

 何か納得した感じでうなずく師匠は、少し考えて、

「例えばな弟子。さっき俺が話の中で言ったが、こいつは俺たちと知り合って数年後に、『飽きた』っつって、また別の国で、王族に取り入って実権裏から握って、好き勝手やり始めたんだがな?」

 うんうん。さっき聞いたな、そこまでは。

「その国な……こいつが来る前から、下手くそな運営で国として既にガタガタになってたんだわ。汚職が蔓延して、財政は赤字で火の車。国民にのしかかる税は重く、反乱を起こされるか餓死者が出るか……って感じで。何もしなくても……10年以内には、破綻は目に見えてた」

 そこそこ大きな国ではあったから、すぐにどうこうはなかったけどな、とのこと。
 そうなんだ……そんな国にね、タマモさんが。

 しかし、そんな国に、『傾国』系の悪女が向かった日にゃ、トドメになりそうだな、なんて思ってたんだが……続けて師匠が言った言葉は、予想を盛大に裏切るものだった。
 いや、事前に言ってたとおりではあったんだけど。

「そんで、その国だが……数年後、見事に持ち直した」

「「「はい?」」」

 思わず、僕も含めて皆の声が揃う。

 え、何だって? 持ち直した? 滅んだとか、反乱がおこったとかじゃなく?

「ああ、そう言った。汚職は駆逐され、税率は適正なものになり、権力を傘にバカやってた貴族達は一掃され、無駄の多い政治形態も一新されて効率的なそれに変わり、事業やら何やらの国家運営がきちんと黒字収支になるまでになった。たった数年のうちにな」

 ……すごいなんてもんじゃなくない、それ?
 聞く限り、相当根幹の部分から腐敗し始めていたらしい国を、たった数年で健全な運営に?

 しかも、元々国内にあった産業とか雇用の促進も同時進行で進め、それらがきちんと復活して自立してやって行ける所まで叩きなおすところまでやってのけたそうだ。

 ……異世界転生モノの知識系内政チートでもそんなん無理じゃないか? どれだけ見事に国のかじ取りしてたら、わずか数年で国家規模のデトックスとリビルドが完了するんだよ。ていうか……

「……あの、もしかしてそれ……」

「おう、こいつがやったんだよ」

 くい、と、親指でタマモさんを指し示しながら、あっさりそう言う師匠。
 やっぱりか。

 タマモさんはそう言われて、ちょっと照れたように顔を赤くしていたけど……それにも構わず、師匠は話を続ける。

「まー、さっきは確かに誤解される感じで言っちまったけどよ。こいつが裏から国の実権握ってやることって、私利私欲をどうこうとか、悪逆非道な遊びとかじゃなくて、もっぱら国の立て直しだからな。毎度毎度、もう駄目じゃねーかってくらいに傾いた国を見事に立て直してよ」

「その言い方だと……何か、その国以外にも同じようなことを以前にも何度もやってた、っていう風に聞こえるんですけど?」

「やってたぞ? っていうか、俺が知ってる限り、そういうケースしかねえぞこいつの場合」

 どういうことなの、それ?

 権力に取り入って政治に口を出し、悪政と贅沢の限りを尽くすような悪女系傾国美女だと思ってたんだけど……ごめんなさい、それあまりにも失礼な勘違いだったっぽい?

 控えめに言ってもそれ、『傾国』とか『悪女』どころか、むしろ『救世主』とか呼ぶレベルじゃない? 行く先々でむしろ、傾いた国を救ってたのこの人?

「結論というか答えから言っちまうが、こいつの政治手腕は、そこらの王族や貴族なんぞ比較にならねえレベルだし、それを生かして今までいくつもの国を救ってきてる。システムの無駄を省き、汚職役人やバカ貴族といった内憂を排し、民の不満を取り除き……それら一切を手駒である王族や貴族の手柄にして、自分の存在を微塵も表に出さない。あくまで裏から指示だけを出し、それすら上手く意識を誘導するような形で行うことで、あたかも自力で立ち直ったように見せかける」

「……精神干渉系の魔法かなんかですか?」

「そんなの使わなくても、ちょっとやさしくシてあげれば、遊び慣れてないお子様なんてコロッといっちゃうわよ。あとは私に溺れさせつつ、適宜色々と囁いて思考を誘導して、様々教え込みつつ政治を動かさせるだけ。その道程で、色々と知識や手管を覚えさせて、経験を積ませて、政治ってものを身に着けさせると後々楽ね。むしろリスクが増すだけだし、術なんて使う必要はないわ」

 ……すげー……。ちょっと怖いけど。

「こんな風に、俺達とは別ベクトルで化け物なんだよ、こいつは。まあ、実際に愛妾として贅沢な暮らしとかもしてたし、色々と職権乱用もやらかしてたとは思うが、倫理的にアウトじゃねーか、っていうようなことは一度もなかった。そもそも、こいつがその国にもたらした利益を考えれば、そんなもん当然の報酬だ……いや、明らかに割安と言っていいくらいだ」

 こんな感じなので、単に仲がいいということを差し引いても、タマモさんは師匠たち『女楼蜘蛛』メンバー全員から、超一流の為政者であると評価されていたそうだ。
 親しい人以外にはその事実を知る者はいなかったから、別に異名とかはついてなかったそうだけど……母さんたちが勝手に、からかい半分、称賛半分で呼んでたことには、

 曰く『完璧超人』
 曰く『ダメ人間製造機』
 曰く『世直し請負人』
 曰く『国家再生の最終兵器』
 曰く『ガチの救世主』
 曰く『うちの子の嫁に来てほしい』……これ母さんじゃね?

「実際、俺達は……チームの仲間以外で一番信用してるのが誰かって聞かれれば、こいつの名前が真っ先に出て来ただろうし……もし仮に、こいつが『女楼蜘蛛』に入りたい、と望んだとすれば、反対する奴は1人もいなかっただろうさ」

 ……師匠にここまで言わせるとは……ホントにすごいな、この人。

「私としては、正真正銘、やりたいようにやっていただけよ? 国政に口を出したのだって、面白かったからだし、やり方を覚えたのも興味があったから。そういう国ばかり選んで潜り込んだのは……まあ、ただ単に、趣味と言うか、好みと言うか、ね……男の」

「好み?」

「あー、お前たしか、ダメな男好きだったもんな。なんつーか、自分がいないと何もできないようなヘタレとか根性なしの近くにいて世話焼いてやるのが好きな感じだったか?」

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでくれる? 私はただダメな男が好きなんじゃなくて、今はまだ未熟なだけの、いわば『青い果実』が好きなの。右も左もわからないぼうやを手取り足取り教えて少しずつ育てながら、一人前になるまで、その一番近くで支えて見ているのが好きなだけであって……ただ無能な男を甘やかすだけの趣味なんて、私にはないわよ? 傾いた国を立て直してあげるのも、いい経験になるからそうしてるだけだし。あと、私自身の純粋な暇つぶしかしらね」

 ……なるほど。確かにこの人、とんでもないな。

 世の為政者達が、高尚な志の元に祖国の繁栄を、あるいは立て直しを思い立って、しかし様々な理由で夢破れることが圧倒的に多い、政治という名の戦いの場において……『趣味』だの『好み』だの『暇つぶし』だの、そんな軽い感じで凄まじい成果を出せるということがどれほどのことか。

 聞く限り、戦闘能力においては、そこまでじゃなさそうな感じだけど、師匠が言っていた通り、母さんたちとは別ベクトルで化け物じみた能力を持っているわけだ。

 その気になれば、表舞台に出て大国を牛耳ることすらできそうな……そんな才覚の持ち主。
 なるほど、確かに……ある意味で『世界最強レベル』だな、これは。

 いや、その戦闘能力だって、一時とはいえ母さんたちが鍛えた以上、一角のそれにはなってるだろうし……向上心豊かって聞いたから、恐らく研鑽は欠かしてないんだろうし。

「まだ何もわからない未熟な、お尻に殻のついた雛鳥を、じっくりと私の手で、私の色に染め上げながら育てていく。やがて幾多の試練を乗り越え、大成し、翼を広げ、大空へ羽ばたいていくその『王』を、家臣が、民が、皆が褒め称える。しかしその者はすでに私のもので、頭のてっぺんから足の先まで私の色に染まっているのよ……はあ、この良さがどうしてわからないのかしら」

 ……あと、趣味嗜好のぶっ飛び具合も、かな。

「クローナが弟子を取ったなんて聞いたから、てっきり私、ようやくあなたも私の趣味を理解できるようになってくれたのかなー、って思ったんだけど……違うみたいね、残念だわ」

「俺の場合は、ただ単にコイツと趣味が合ったというか、同類だったというか、そんな感じだよ。ま、育てるのが面白そうだったから鍛えた、ってのは同じだけどな……つか、だとしても俺がお前の趣味を理解するのはありえねえだろ。俺が権力嫌いなの知ってんだろうが」

「まあ、それはね。王様に謁見する時とか、話が長いってあなた平然と舌打ちとかしてたものね」

 し、舌打ち……王様の前で……相変わらず怖いもの知らずだな、この人……。

「まあ、お前がいた頃からそうだったけど、その後色々あってな、余計それに拍車かかってんだよ……自分でいうのもなんだけどな」

「そうなの? 逆に何があったのか気になるわね、それ……私があなた達と別れた後、か……」

「つか、その話で思い出した。今更な質問だけどよ、タマモ。お前一体、何でこんなとこにいんだ? お前確かに、150年前は『アルマンド大陸』にいたよな? 海の向こうの」

 それがなぜ、この『ヤマト皇国』に……海路も何も確立されておらず、現存する国家のいずれもが、国交はおろか、その存在すら最近まで認識していなかった国に、なぜ自分の昔馴染みがいて……しかも、裏の支配者として君臨しているのか。

 ずっとそれを気にしていたのであろう師匠がそう尋ねると……どうやら、その質問はタマモさんも予想済みだったようで、

「ああ……やっぱりそこ気になるわよね? そうね……どう説明したものかしら?」

「俺の最後の記憶だと……お前と俺らが一緒にいたのって、男の取り合いでお前とリリンがガチバトルしてお前が負けた時が最後だよな?」

「そんなことしてたんですか!?」

 お、男の取り合いって……しかも、母さんと?

「ああ、うん、覚えているわ。まだ立ち上げたばかりの小さな商会を大きくしようと地道に真面目に頑張ってる、私と同族……狐の獣人の男の子だったわね。たまには権力が大きい相手でなくてもいいかな、って思って狙ったんだけど……まさかリリンと被るとは思わなかったし」

「そのままぼろ負けして、結局お前それっきり姿を消したんだよな。てっきり傷心旅行にでも行ったのかと思ってたんだが、流石にもう100年以上も会ってないから地味に心配してたぞ」

「ありがとう。そうね……機会があれば、そして可能なのであれば、また会いたいと思うわ」

 ……身内のそういう話聞くの、地味にちょっと気まずいんですけど……

 ていうか……商会? 狐の獣人?
 あの、めっちゃ心当たりあるんですけど……そういう感じの身の上の姉が一人いるんですけど。

 その真実を聞く前に、

「そうね……私も最初は傷心旅行のつもりだったんだけどね、ただの。でも……」

 そこでタマモさんは、少し目を細める。何か、嫌なことでも思いだすかのように。
 雰囲気と言うか、纏う空気が変わったことに、僕以外の人たちも気づいたようだった。

「……うまく説明できないわ。けど……気が付いたら、ここにいたの」

「気が付いたら? 強制転移のトラップか何かにでも引っかかったってのか?」

 だとしたら、とんでもねえ出力の罠だな、なんて冗談めかして言う師匠。
 ……軽い感じで言ってるけど、もしその通りだったら、とんでもないどころじゃない話だけどね……ゆっくりとはいえ、船で1ヶ月以上かかる道のりを転移できる術式なんて……。

 しかし、そんな予想に反してタマモさんは、

「それに近いかもしれないわ。ただ、飛ばされた、って感じじゃなく……『流された』?」

「……? どういうこった?」

「何もない場所に、突然発生した何らかの力、その流れに飲まれたような感覚があったのよ。そして、一瞬のうちに、私はその場から消えていた」

 タマモさん、少し考えて、

「たとえ話としては……海辺の砂浜で、くるぶしくらいにしか水のないような場所に立っていると考えて。当然、きちんと意識して油断せずに立ってれば、転ぶこともない。それだけの水深なら、波にさらわれることもない。そのはずなのに……突然、背後に10m超の大津波が現れて、抵抗する暇もなく押し流されてしまった。……そんな感じの経験だったわ」

 ……なるほど、な。感知も抵抗もできない、何かの『力』の流れ、か。
 また1つ、調べなきゃいけないことが増えた。

(ハイエルフ共がどうやってこの国に来たのか……また、アルマンド大陸の随所にみられる、この国の文化が流れ込んだ痕跡はどういうルートで来たのか。ずっと謎だったけど……)

 今回の訪問中に、何かわかるかもしれないな。いや、わかりたいもんだ。



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