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第13章 コード・オブ・デイドリーマー
閑話4 まずは住む場所を作ろう
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今回からちょっとの間、この話を含む『閑話シリーズ』を含め、拠点フェイズ的な感じで進むかと思います。今後に備え、色々整理する事柄とかもあるんで。
人によっては退屈かもしれませんが……ご容赦ください。
あと、リアルが繁忙期なため執筆時間がなかなか取れず申し訳ない……感想についても、後日代えさせていただきますので、こちらもご容赦を。
では、どうぞ。
********************************************
「……何、そのカッコ?」
「いや、ほら、今から建設……はまだ先にしても、現場の下見とか基礎工事とか色々やるわけだし……なら、雰囲気出しとこうと思って」
「雰囲気出すとその変なカッコになるわけ?」
変とは何だ、失礼な。
今の僕は、いつもの黒主体の動きやすい服ではなく……ツナギみたいな感じの上下に、黄色のヘルメットを身に着けている。首からはタオルを下げ、軍手と頑丈そうなブーツを装備。
そしてヘルメットには『安全第一』の文字。まごうことなき工事現場の作業員だ。
……うん、変なカッコだね。
ただ言い訳させてもらうと、今説明した服も装備も全部マジックアイテムであって、今から行う作業その他にはこの上なく適している装備であることは間違いないのだ。
ただ、デザインに僕の遊び心が如実に反映された、というだけである。
そんでもって、今から何をするのか、についてだ。
今僕は、今回イオ兄さんからもらえることになった土地のうち、その真ん中から少し北西に行ったところにある、開けた場所にいる。
色んな条件を考えて決めた……僕らの新しい『拠点』の建設予定地に。
ここに、色々と基礎工事を終えてから、僕らの城、とでも呼ぶべき拠点を作るわけだ。事前に下見はもう済ませてあり、簡単な設計図とかもすでに作ってあるので、今日からもう早速作業に入ることになっている。
そしてそれに際して、協力してもらった人物が2人おり……今日も同行してもらっている。
「ダイアナ姉さん、シャンカス兄さん、どうかな? 工事始めてよさそう?」
「いいんじゃないかい? 地盤もしっかりしてるようだし……これならちょっと基礎の段階で手を入れるだけでよさそうだよ」
「地面の粒礫の質や地下の水脈なんかも問題なさそうだねー。まあ、あっても君なら何とかしちゃうんだろうけどねー」
僕が視線を向けて問いかけた先にいるのは……2人の、それぞれ違う亜人の男女。
1人は、180㎝くらいある長身に、女性にしてはかなりがっしりした体格をしている、ベリーショートヘアーの美女。頑丈そうなツナギ風の上下に、軍靴かと思うほどにごついブーツと、一般の女性が好きそうな服装からはだいぶ外れたファッションに身を包んでいる。
やや浅黒い肌と、黒に近いブラウンの髪と目、そして……同じ色の尻尾が特徴的だ。
もう1人は、かなり小柄な男性。身長はおそらく、150㎝もないくらいだろう。その隣に今言った女性がいることで余計小さく見える。服装は……こちらも作業着にブーツだ。
明るいブラウンの髪と目に、牛乳ビンの底みたいな分厚い丸メガネが特徴と言える。
女性の方は……名前は、ダイアナ・オーエンバーグ。
サルの獣人で、大工兼建築士であり……キャドリーユ家五女。上から数えて11番目。
男性の方は……名前は、シャンカス・ワイドバード。
モグラの獣人で、地質学者であり……キャドリーユ家五男。上から数えて9番目。
2人とも、僕の兄・姉であり……今回、拠点という大規模な建物を作るに際して、専門家としてアドバイスをもらうために来てもらった助っ人である。
何せ、今回作るのは……家だ。
しかも、一時的に使うテントみたいな簡易的なものじゃなく、これから長く使っていく家だ。
拠点をゼロから作る技術力や、工事そのものの方法にはあてはあるものの……さすがに建築関係は、僕も師匠も明るくないので、注意点とかわかんなかったのだ。
地盤とか、基礎工事する時の注意点、必要な強度とか、知っておきたいことは多々あった。
そうノエル姉さんに相談したら、紹介されたのがこの2人だった。
また身内かい、とやや脱力しつつも……もうそろそろ身内全員把握しときたいし顔合わせとかしたいので、近々みんなで集まれないかな、とか考えてる。
こないだ、母さんが『ミナトがSSランクになった記念にパーティとかしたいな~♪』って言ってたから、それを口実に兄弟とか集められないかな、とか思ってる。
というか、母さん自身集めたがってるようだ。長らく会ってない人もいるようだし。
さて、話を戻そう。この2人、ダイアナ姉さんとシャンカス兄さんは、今回の僕の注文には、これ以上ないほどうってつけの人材であることは確かである。
兄弟姉妹ってことで信頼できるのはもちろん……似たような『実績』があるからだ。
どういうことかというと……なんと、僕が生まれ育った、あの『グラドエルの樹海』の『洋館』を作ったのが、この2人のコンビだというのである。
事前調査を行い、設計し、森を切り開き、建物を作り……そんな大仕事を、あの、軍隊が簡単に全滅するような森の中で行ったというのだ。家の組み立てだけは、信頼できる屈強な作業員を数人雇ったらしいが。
魔物に邪魔されないように色々仕掛けたらしいし、2人とも戦闘能力はかなり高いらしいので、問題ではなかったそうだが……純粋にすごいな、それは。
もっとも、今回は建築はほとんどこっちでなんとかするつもりなので、あくまで知識のためのアドバイザーがメインなわけだけど……頼もしいのは変わりないので、ありがたい。
必要なところでは、手伝ってもらうつもりだし。
なお今回のコレは、兄弟間のことではあるものの、れっきとした仕事の依頼ってことにしている。それなりの期間、2人を拘束するのは確かだしね。
「じゃ、まずは整地だな……とりあえず、地面を押し固めて、上に家立てても大丈夫なくらいに頑丈にしないと」
「そうだねー。でも、予定地がこれだけ広いと大変だよ? どうするの?」
「あたし達が手伝っても……こりゃしばらくかかるねぇ。かなり大きな建物を、それも魔法を付与するものと作るとなると、なおさらしっかり固めないとだし……」
「心配ご無用。手段は用意してあるからね」
言いながら、僕は帯から――これだけはいつもと同じく身に着けている――『CPUM』のケースを取り出す。……何か、カード以外のCPUM使うの、久しぶりだな。
フィルムケース大のこれには……新しく開発した奴が入っているのだ。
スイッチを押して放ると……魔法陣が現れ、そいつは出てきた。
出てきたものが、何なのかさっぱりわからなかったんだろう。ダイアナ姉さんとシャンカス兄さん、それにエルクは、頭の上に『?』を浮かべて首をかしげていた。
「……何コレ? 亀?」
「機械でできた虫か、カニ……かい?」
「いやー、僕には円盾のお化けに見えるなー?」
「全部はずれ。こいつはね……『ロードローラー』だよ」
ロードローラー……地球における、作業用重車両だ。超重量と車体の前後のローラーによって、地面を押し固めて均すことを目的としているものである。
頭上から落として敵を押しつぶすための鈍器とか戦闘用車両ではない。
そのロードローラーをベースに作ったのが、このCPUMだけど……見た目は大きく違う。
地球のそれは、前後にローラーが1つずつついた車、って感じだけど……これはそもそも、形からして円盤型だし、ローラーはその円周部に20個、さらにその内側に16個、計36個ある。
そしてそれゆえに巨大。直径十数mにもなる円盤型だ。
あれだ、自動で動く掃除機ロボット、あの丸いやつだ。あれをイメージしてもらうと近い。サイズはだいぶでかいけど。
これこそが僕が作り上げた整地用CPUM……『ロードローラークロウラー』だ。
「『クロウラー』って……芋虫とか? そうは見えないけど……」
「それはね……ほれ」
僕が合図すると、『ロードローラークロウラー』は、円形になっていた体を、とぐろをほどくようにして……蛇か芋虫のような長い体に姿を変えた。さっきまでは丸まっていたのだ。
ローラーを足に持つ、長さ数十mの芋虫?となったわけだが……コレに限らず、連結部を色々と組み替えることで、こいつは色々な形になれる。
さっきの円形は、広い範囲を素早く確実に均し、かつ機動性も確保する上では最適なため、基本形態としてああしているのである。
合図して、再び丸まらせ、円形に戻す。
「んじゃ、始めますか……範囲指定して……よし、GO!」
こいつは自動で動くけど、鳴らす範囲や程度なんかの細かい設定は精霊魔法で行えるので、それを済ませてゴーサインを出す。
すると……『ゴォォオオ……』という、重い感じの駆動音と共に、魔力を放ちながら『ロードローラークロウラー』は稼働をはじめ……地面を滑るように滑らかに動いていく。
通った後の地面は、漆喰で塗り固めたかのようにきれいに整地されている。
もちろん、単にローラーと重量で整地しただけじゃこうはならない。
こいつには、魔法の術式……それも、『精霊魔法』によるそれを組み込んである。
『精霊魔法』は、自然に、そしてそこにいる精霊などに働きかけて現象を引き起こすものなので、物体に干渉する形で使う場合、普通の魔法よりも効果が大きい。
僕は『シャーマン』の能力に覚醒したことで、『精霊魔法』を使えるようになった。
詳しく解析して知識として吸収し、こうして発明に応用させてもらっている。
結果、起動や設定にも精霊魔法が、しかもプログラミング時に設定した術者による行使が必要となるため、相変わらず僕にしか使えないものの……貸し出す予定はないし、問題はない。
兄弟の誰かに頼まれたら、自分で行くし。
そうこうしている間に、整地するエリアの端を走っていた『ロードローラークロウラー』が、とぐろを一部ほどいて突き出し、隅の細かい部分を整地している。
そうそう、ああいう感じで使うためにほどけるようにしてるんだよね。大きな岩とかの障害物をよけなきゃいけなかったり、狭くて円形のままじゃ入れないような所もあるだろうし。
「……ミナト、念のために聞きたいんだけど……アレ、売り出したりはするのかい?」
「しないつもりだよ。アレ、今んとこ僕にしか使えないし……あ、欲しい?」
「いや、あんなもんが出回るようになったら……整地用の作業員の仕事がなくなっちまうからね。ちょっと不安になっちまったのさ。まあ……そこらの商人や大工がホイホイ買えるようなもんにも見えないから、せいぜい貴族御用達の店にわたるくらいかな、とは思ったけど」
「ああ、そういうこと」
ダイアナ姉さんの懸念はもっともだ。
僕も、新しい発明品を流通させる時とかは、そういう既存の事業者の過剰な損につながったりするようなことが無いように、一応気を付けるようにしている。ノエル姉さんとかに相談して。
値段を品質にあった形に設定したり、販売・公表する相手を絞ったり……場合によっては、公表自体しないように自粛する形にすることもあった。
販売を全面的にノエル姉さんに丸投げ……もとい、委託してるから、例外なくそういうチェックが入ったうえで売る形になってるので、僕としては安心している。
「そこは心配いらないよ、一応。アレ精霊魔法で動いてる上、作る段階で使う人を設定しないといけないし、駆動に必要な魔力もバカみたいに多いから。それに、仮に値段つけるとしたら……希少な材料もかなり使ってるから、金貨1000枚でも足りないね、多分」
「あー、なるほど。それなら心配ないね。精霊魔法の使い手なんて、数百人に1人かそこらだし……単に使えればいいわけでもなさそうだ。アレ、『土』と『水』の魔力を感じるよ」
と、シャンカス兄さん。
おっしゃる通り、種族的にそれに向いている、エルフ系やドワーフ、ピクシーやマーメイドなんかならともかく、精霊魔法は使える者が普通の魔法よりも圧倒的に少ない。
加えて、仮に使えたとしても……アレを動かすためには、すさまじく精密なコントロール、魔法の術式を理解できるだけの知識、そして膨大な魔力が必要だ。
それに加えて、言ってないけどシャンカス兄さんは気づいた通り、あの整地の術式、『土』と『水』の2属性を同時に発動させているため、その2つともに同様の才能が必要になる。
そんなの、限られるどころじゃない。ドワーフなら『土』、マーメイドなら『水』には適性があれど、他の属性を同じレベルで扱えるか、なんて言われれば……Noだからだ。
「あんなもん使えるの、ミナト以外だと……アクィラ姉さんか、ギルドマスターさんくらいだよ。精霊魔法の適正の問題があるから、ママだって無理だ」
「そりゃたしかに大丈夫だね……ところでミナト、あんた建てるのも自分でやる、って言ってたね? もしかして、アレと同じようなとんでもないアイテムがまだあるのかい?」
「うん。今から見せるよ、はいコレ」
言いながら僕は、帯から次なるマジックアイテムを取り出し……どすん、と地面に置く。
(アイテム、っていうか……素材なんだけどね、コレ)
「なんだいこりゃ? 箱がどっさり出てきたけど……」
「いや、箱っていうか……ただの、切り出された石材、かな? それも、ただの石じゃない」
そこには……一辺10㎝ほどの立方形の石材が、すごい数どさっと積まれている。
そのうちの1つを手に取ると、シャンカス兄さんは観察を始めた。
懐から取り出したルーペで表面を拡大して見てみたり、指でこすってみたり、爪で引っかいたり、叩いたりしている。おお、なんか地質学者っぽいな。
「……かなり細粒な砂岩? でも、これ……ひっかいても……だし……ミナトー、コレもしかして、君オリジナルの岩石じゃない? しかも、精霊魔法で固めてるよね?」
「正解。さすがシャンカス兄さん。人工的に作った物質を混ぜて固めてあるんだ」
「やっぱり……ひっかいても削れないし、結晶してる物質もでたらめだからおかしいと思ったんだ。でも、コレどうするんだい? レンガみたいにして、積み上げて塗り固めて家にするの?」
「それはこれから見せるよ。ちょうど、作業中に休憩できるプレハブ小屋みたいなのが必要だと思ってたしね……じゃ、見てて」
僕は、2人にそういうと同時に、手をかざして、精霊魔法を発動させる。
すると……山のように積み上げられていた石材のキューブたちに、異変が起こった。
ふわりと浮き上がり始め……少し離れたところの地面に、隙間なくびっちり並んで積み重なって、簡単な家というか、小屋の形を成していく。
そうだな……昔のゲームの『ドット絵』をイメージしてくれるとわかりやすいと思う。
昔のゲームは、正方形のブロックの組み合わせで絵を表示していた。
目とか、黒い点1つだったし、かなり表現として苦しいな……っていう感じのも多かった。
キーチェーンゲームなんかは、特にそうだった。それでも、面白がってやったもんだけど。
あれを僕は、正方形のブロックを使って、立体の世界でやっている。
壮大な積み木遊びとかだと思ってくれれば、間違いじゃない。数百個のブロックが組み合わさり、簡単な小屋に組みあがっていく。天井とか、地面から支えて積んでるわけじゃない部分も、崩れ落ちたりしないで。
1分とかからずに、精霊魔法で操作してくみ上げた小屋が形になると……僕は仕上げに、その壁に手をついて、ある特殊な精霊魔法を発動させる。
そこから波紋のように柔らかな光が広がっていき……ほどなくして小屋全体にいきわたり、すぐに収まって消えた。
すると、そこには……ブロック同士の接着面が全くわからなくなっている。
まるで、1つの巨大な石から削り出したかのように、つなぎ目がない1つの物体になっていた。
そのことに気づいたダイアナ姉さんも、シャンカス兄さんも、唖然としている。
「……何だい、コレは? 今、何をやったのか、まったくわからなかったよ?」
「浮いて、動いて、組みあがったのはまだいいとしても……接合面が……だめだ、まったくわからない。精霊魔法で? いや、それだってこんなこと不可能だ、ミナト、これ何!?」
「一応、精霊魔法なんだよ。ただ……ちょっとどころじゃなく、特殊なんだけど……ね」
一度切り出した石材を、しかも、全然別な岩石の、全く縁もゆかりもない切断面同士を、強度も問題なく、つなぎ目1つない状態にする。というのは……精霊魔法でも無理だ。
正確に言えば、普通の精霊魔法……こういう時に使われる、『土』の属性には、無理だ。
『水』でも『火』でも、その他の……魔法8属性のどれでも無理だろう。
……が、僕には……他の人にはない、9番目の属性がある。
それを、この立方体素材……『マテリアルブロック』を製造する段階から応用して使い、それを使って組み上げて成型し、最後に、組み込んでおいた術式を発動すると……まるで削り出しの芸術品のように、継ぎ目1つない状態に仕上げることが可能になる。
こいつを使えば、ブロックをくみ上げて『繋げる』だけでいいので、大規模な建造物も、事前に材料を用意さえしていれば、あっという間に作ることができる。
地面にぎっしり敷き詰めれば、石畳……どころか、アスファルトのごとき道路舗装や、河川の護岸だって簡単にできるだろうし、もっと小さいブロックを使えば、もっと細かい細工もできる。材質を変えれば、ガラス窓や天窓だって作れるし、魔法金属でも同じことができる。
そんな、とんでもないことを可能にする……第9の分類。
その名も……『虚数属性』。
詳しい説明は、また今度するけど……おそらくは、世界で僕だけの属性だ。
人によっては退屈かもしれませんが……ご容赦ください。
あと、リアルが繁忙期なため執筆時間がなかなか取れず申し訳ない……感想についても、後日代えさせていただきますので、こちらもご容赦を。
では、どうぞ。
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「……何、そのカッコ?」
「いや、ほら、今から建設……はまだ先にしても、現場の下見とか基礎工事とか色々やるわけだし……なら、雰囲気出しとこうと思って」
「雰囲気出すとその変なカッコになるわけ?」
変とは何だ、失礼な。
今の僕は、いつもの黒主体の動きやすい服ではなく……ツナギみたいな感じの上下に、黄色のヘルメットを身に着けている。首からはタオルを下げ、軍手と頑丈そうなブーツを装備。
そしてヘルメットには『安全第一』の文字。まごうことなき工事現場の作業員だ。
……うん、変なカッコだね。
ただ言い訳させてもらうと、今説明した服も装備も全部マジックアイテムであって、今から行う作業その他にはこの上なく適している装備であることは間違いないのだ。
ただ、デザインに僕の遊び心が如実に反映された、というだけである。
そんでもって、今から何をするのか、についてだ。
今僕は、今回イオ兄さんからもらえることになった土地のうち、その真ん中から少し北西に行ったところにある、開けた場所にいる。
色んな条件を考えて決めた……僕らの新しい『拠点』の建設予定地に。
ここに、色々と基礎工事を終えてから、僕らの城、とでも呼ぶべき拠点を作るわけだ。事前に下見はもう済ませてあり、簡単な設計図とかもすでに作ってあるので、今日からもう早速作業に入ることになっている。
そしてそれに際して、協力してもらった人物が2人おり……今日も同行してもらっている。
「ダイアナ姉さん、シャンカス兄さん、どうかな? 工事始めてよさそう?」
「いいんじゃないかい? 地盤もしっかりしてるようだし……これならちょっと基礎の段階で手を入れるだけでよさそうだよ」
「地面の粒礫の質や地下の水脈なんかも問題なさそうだねー。まあ、あっても君なら何とかしちゃうんだろうけどねー」
僕が視線を向けて問いかけた先にいるのは……2人の、それぞれ違う亜人の男女。
1人は、180㎝くらいある長身に、女性にしてはかなりがっしりした体格をしている、ベリーショートヘアーの美女。頑丈そうなツナギ風の上下に、軍靴かと思うほどにごついブーツと、一般の女性が好きそうな服装からはだいぶ外れたファッションに身を包んでいる。
やや浅黒い肌と、黒に近いブラウンの髪と目、そして……同じ色の尻尾が特徴的だ。
もう1人は、かなり小柄な男性。身長はおそらく、150㎝もないくらいだろう。その隣に今言った女性がいることで余計小さく見える。服装は……こちらも作業着にブーツだ。
明るいブラウンの髪と目に、牛乳ビンの底みたいな分厚い丸メガネが特徴と言える。
女性の方は……名前は、ダイアナ・オーエンバーグ。
サルの獣人で、大工兼建築士であり……キャドリーユ家五女。上から数えて11番目。
男性の方は……名前は、シャンカス・ワイドバード。
モグラの獣人で、地質学者であり……キャドリーユ家五男。上から数えて9番目。
2人とも、僕の兄・姉であり……今回、拠点という大規模な建物を作るに際して、専門家としてアドバイスをもらうために来てもらった助っ人である。
何せ、今回作るのは……家だ。
しかも、一時的に使うテントみたいな簡易的なものじゃなく、これから長く使っていく家だ。
拠点をゼロから作る技術力や、工事そのものの方法にはあてはあるものの……さすがに建築関係は、僕も師匠も明るくないので、注意点とかわかんなかったのだ。
地盤とか、基礎工事する時の注意点、必要な強度とか、知っておきたいことは多々あった。
そうノエル姉さんに相談したら、紹介されたのがこの2人だった。
また身内かい、とやや脱力しつつも……もうそろそろ身内全員把握しときたいし顔合わせとかしたいので、近々みんなで集まれないかな、とか考えてる。
こないだ、母さんが『ミナトがSSランクになった記念にパーティとかしたいな~♪』って言ってたから、それを口実に兄弟とか集められないかな、とか思ってる。
というか、母さん自身集めたがってるようだ。長らく会ってない人もいるようだし。
さて、話を戻そう。この2人、ダイアナ姉さんとシャンカス兄さんは、今回の僕の注文には、これ以上ないほどうってつけの人材であることは確かである。
兄弟姉妹ってことで信頼できるのはもちろん……似たような『実績』があるからだ。
どういうことかというと……なんと、僕が生まれ育った、あの『グラドエルの樹海』の『洋館』を作ったのが、この2人のコンビだというのである。
事前調査を行い、設計し、森を切り開き、建物を作り……そんな大仕事を、あの、軍隊が簡単に全滅するような森の中で行ったというのだ。家の組み立てだけは、信頼できる屈強な作業員を数人雇ったらしいが。
魔物に邪魔されないように色々仕掛けたらしいし、2人とも戦闘能力はかなり高いらしいので、問題ではなかったそうだが……純粋にすごいな、それは。
もっとも、今回は建築はほとんどこっちでなんとかするつもりなので、あくまで知識のためのアドバイザーがメインなわけだけど……頼もしいのは変わりないので、ありがたい。
必要なところでは、手伝ってもらうつもりだし。
なお今回のコレは、兄弟間のことではあるものの、れっきとした仕事の依頼ってことにしている。それなりの期間、2人を拘束するのは確かだしね。
「じゃ、まずは整地だな……とりあえず、地面を押し固めて、上に家立てても大丈夫なくらいに頑丈にしないと」
「そうだねー。でも、予定地がこれだけ広いと大変だよ? どうするの?」
「あたし達が手伝っても……こりゃしばらくかかるねぇ。かなり大きな建物を、それも魔法を付与するものと作るとなると、なおさらしっかり固めないとだし……」
「心配ご無用。手段は用意してあるからね」
言いながら、僕は帯から――これだけはいつもと同じく身に着けている――『CPUM』のケースを取り出す。……何か、カード以外のCPUM使うの、久しぶりだな。
フィルムケース大のこれには……新しく開発した奴が入っているのだ。
スイッチを押して放ると……魔法陣が現れ、そいつは出てきた。
出てきたものが、何なのかさっぱりわからなかったんだろう。ダイアナ姉さんとシャンカス兄さん、それにエルクは、頭の上に『?』を浮かべて首をかしげていた。
「……何コレ? 亀?」
「機械でできた虫か、カニ……かい?」
「いやー、僕には円盾のお化けに見えるなー?」
「全部はずれ。こいつはね……『ロードローラー』だよ」
ロードローラー……地球における、作業用重車両だ。超重量と車体の前後のローラーによって、地面を押し固めて均すことを目的としているものである。
頭上から落として敵を押しつぶすための鈍器とか戦闘用車両ではない。
そのロードローラーをベースに作ったのが、このCPUMだけど……見た目は大きく違う。
地球のそれは、前後にローラーが1つずつついた車、って感じだけど……これはそもそも、形からして円盤型だし、ローラーはその円周部に20個、さらにその内側に16個、計36個ある。
そしてそれゆえに巨大。直径十数mにもなる円盤型だ。
あれだ、自動で動く掃除機ロボット、あの丸いやつだ。あれをイメージしてもらうと近い。サイズはだいぶでかいけど。
これこそが僕が作り上げた整地用CPUM……『ロードローラークロウラー』だ。
「『クロウラー』って……芋虫とか? そうは見えないけど……」
「それはね……ほれ」
僕が合図すると、『ロードローラークロウラー』は、円形になっていた体を、とぐろをほどくようにして……蛇か芋虫のような長い体に姿を変えた。さっきまでは丸まっていたのだ。
ローラーを足に持つ、長さ数十mの芋虫?となったわけだが……コレに限らず、連結部を色々と組み替えることで、こいつは色々な形になれる。
さっきの円形は、広い範囲を素早く確実に均し、かつ機動性も確保する上では最適なため、基本形態としてああしているのである。
合図して、再び丸まらせ、円形に戻す。
「んじゃ、始めますか……範囲指定して……よし、GO!」
こいつは自動で動くけど、鳴らす範囲や程度なんかの細かい設定は精霊魔法で行えるので、それを済ませてゴーサインを出す。
すると……『ゴォォオオ……』という、重い感じの駆動音と共に、魔力を放ちながら『ロードローラークロウラー』は稼働をはじめ……地面を滑るように滑らかに動いていく。
通った後の地面は、漆喰で塗り固めたかのようにきれいに整地されている。
もちろん、単にローラーと重量で整地しただけじゃこうはならない。
こいつには、魔法の術式……それも、『精霊魔法』によるそれを組み込んである。
『精霊魔法』は、自然に、そしてそこにいる精霊などに働きかけて現象を引き起こすものなので、物体に干渉する形で使う場合、普通の魔法よりも効果が大きい。
僕は『シャーマン』の能力に覚醒したことで、『精霊魔法』を使えるようになった。
詳しく解析して知識として吸収し、こうして発明に応用させてもらっている。
結果、起動や設定にも精霊魔法が、しかもプログラミング時に設定した術者による行使が必要となるため、相変わらず僕にしか使えないものの……貸し出す予定はないし、問題はない。
兄弟の誰かに頼まれたら、自分で行くし。
そうこうしている間に、整地するエリアの端を走っていた『ロードローラークロウラー』が、とぐろを一部ほどいて突き出し、隅の細かい部分を整地している。
そうそう、ああいう感じで使うためにほどけるようにしてるんだよね。大きな岩とかの障害物をよけなきゃいけなかったり、狭くて円形のままじゃ入れないような所もあるだろうし。
「……ミナト、念のために聞きたいんだけど……アレ、売り出したりはするのかい?」
「しないつもりだよ。アレ、今んとこ僕にしか使えないし……あ、欲しい?」
「いや、あんなもんが出回るようになったら……整地用の作業員の仕事がなくなっちまうからね。ちょっと不安になっちまったのさ。まあ……そこらの商人や大工がホイホイ買えるようなもんにも見えないから、せいぜい貴族御用達の店にわたるくらいかな、とは思ったけど」
「ああ、そういうこと」
ダイアナ姉さんの懸念はもっともだ。
僕も、新しい発明品を流通させる時とかは、そういう既存の事業者の過剰な損につながったりするようなことが無いように、一応気を付けるようにしている。ノエル姉さんとかに相談して。
値段を品質にあった形に設定したり、販売・公表する相手を絞ったり……場合によっては、公表自体しないように自粛する形にすることもあった。
販売を全面的にノエル姉さんに丸投げ……もとい、委託してるから、例外なくそういうチェックが入ったうえで売る形になってるので、僕としては安心している。
「そこは心配いらないよ、一応。アレ精霊魔法で動いてる上、作る段階で使う人を設定しないといけないし、駆動に必要な魔力もバカみたいに多いから。それに、仮に値段つけるとしたら……希少な材料もかなり使ってるから、金貨1000枚でも足りないね、多分」
「あー、なるほど。それなら心配ないね。精霊魔法の使い手なんて、数百人に1人かそこらだし……単に使えればいいわけでもなさそうだ。アレ、『土』と『水』の魔力を感じるよ」
と、シャンカス兄さん。
おっしゃる通り、種族的にそれに向いている、エルフ系やドワーフ、ピクシーやマーメイドなんかならともかく、精霊魔法は使える者が普通の魔法よりも圧倒的に少ない。
加えて、仮に使えたとしても……アレを動かすためには、すさまじく精密なコントロール、魔法の術式を理解できるだけの知識、そして膨大な魔力が必要だ。
それに加えて、言ってないけどシャンカス兄さんは気づいた通り、あの整地の術式、『土』と『水』の2属性を同時に発動させているため、その2つともに同様の才能が必要になる。
そんなの、限られるどころじゃない。ドワーフなら『土』、マーメイドなら『水』には適性があれど、他の属性を同じレベルで扱えるか、なんて言われれば……Noだからだ。
「あんなもん使えるの、ミナト以外だと……アクィラ姉さんか、ギルドマスターさんくらいだよ。精霊魔法の適正の問題があるから、ママだって無理だ」
「そりゃたしかに大丈夫だね……ところでミナト、あんた建てるのも自分でやる、って言ってたね? もしかして、アレと同じようなとんでもないアイテムがまだあるのかい?」
「うん。今から見せるよ、はいコレ」
言いながら僕は、帯から次なるマジックアイテムを取り出し……どすん、と地面に置く。
(アイテム、っていうか……素材なんだけどね、コレ)
「なんだいこりゃ? 箱がどっさり出てきたけど……」
「いや、箱っていうか……ただの、切り出された石材、かな? それも、ただの石じゃない」
そこには……一辺10㎝ほどの立方形の石材が、すごい数どさっと積まれている。
そのうちの1つを手に取ると、シャンカス兄さんは観察を始めた。
懐から取り出したルーペで表面を拡大して見てみたり、指でこすってみたり、爪で引っかいたり、叩いたりしている。おお、なんか地質学者っぽいな。
「……かなり細粒な砂岩? でも、これ……ひっかいても……だし……ミナトー、コレもしかして、君オリジナルの岩石じゃない? しかも、精霊魔法で固めてるよね?」
「正解。さすがシャンカス兄さん。人工的に作った物質を混ぜて固めてあるんだ」
「やっぱり……ひっかいても削れないし、結晶してる物質もでたらめだからおかしいと思ったんだ。でも、コレどうするんだい? レンガみたいにして、積み上げて塗り固めて家にするの?」
「それはこれから見せるよ。ちょうど、作業中に休憩できるプレハブ小屋みたいなのが必要だと思ってたしね……じゃ、見てて」
僕は、2人にそういうと同時に、手をかざして、精霊魔法を発動させる。
すると……山のように積み上げられていた石材のキューブたちに、異変が起こった。
ふわりと浮き上がり始め……少し離れたところの地面に、隙間なくびっちり並んで積み重なって、簡単な家というか、小屋の形を成していく。
そうだな……昔のゲームの『ドット絵』をイメージしてくれるとわかりやすいと思う。
昔のゲームは、正方形のブロックの組み合わせで絵を表示していた。
目とか、黒い点1つだったし、かなり表現として苦しいな……っていう感じのも多かった。
キーチェーンゲームなんかは、特にそうだった。それでも、面白がってやったもんだけど。
あれを僕は、正方形のブロックを使って、立体の世界でやっている。
壮大な積み木遊びとかだと思ってくれれば、間違いじゃない。数百個のブロックが組み合わさり、簡単な小屋に組みあがっていく。天井とか、地面から支えて積んでるわけじゃない部分も、崩れ落ちたりしないで。
1分とかからずに、精霊魔法で操作してくみ上げた小屋が形になると……僕は仕上げに、その壁に手をついて、ある特殊な精霊魔法を発動させる。
そこから波紋のように柔らかな光が広がっていき……ほどなくして小屋全体にいきわたり、すぐに収まって消えた。
すると、そこには……ブロック同士の接着面が全くわからなくなっている。
まるで、1つの巨大な石から削り出したかのように、つなぎ目がない1つの物体になっていた。
そのことに気づいたダイアナ姉さんも、シャンカス兄さんも、唖然としている。
「……何だい、コレは? 今、何をやったのか、まったくわからなかったよ?」
「浮いて、動いて、組みあがったのはまだいいとしても……接合面が……だめだ、まったくわからない。精霊魔法で? いや、それだってこんなこと不可能だ、ミナト、これ何!?」
「一応、精霊魔法なんだよ。ただ……ちょっとどころじゃなく、特殊なんだけど……ね」
一度切り出した石材を、しかも、全然別な岩石の、全く縁もゆかりもない切断面同士を、強度も問題なく、つなぎ目1つない状態にする。というのは……精霊魔法でも無理だ。
正確に言えば、普通の精霊魔法……こういう時に使われる、『土』の属性には、無理だ。
『水』でも『火』でも、その他の……魔法8属性のどれでも無理だろう。
……が、僕には……他の人にはない、9番目の属性がある。
それを、この立方体素材……『マテリアルブロック』を製造する段階から応用して使い、それを使って組み上げて成型し、最後に、組み込んでおいた術式を発動すると……まるで削り出しの芸術品のように、継ぎ目1つない状態に仕上げることが可能になる。
こいつを使えば、ブロックをくみ上げて『繋げる』だけでいいので、大規模な建造物も、事前に材料を用意さえしていれば、あっという間に作ることができる。
地面にぎっしり敷き詰めれば、石畳……どころか、アスファルトのごとき道路舗装や、河川の護岸だって簡単にできるだろうし、もっと小さいブロックを使えば、もっと細かい細工もできる。材質を変えれば、ガラス窓や天窓だって作れるし、魔法金属でも同じことができる。
そんな、とんでもないことを可能にする……第9の分類。
その名も……『虚数属性』。
詳しい説明は、また今度するけど……おそらくは、世界で僕だけの属性だ。
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