魔拳のデイドリーマー

osho

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第18章 異世界東方見聞録

第343話 大海原に漂うモノ

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 相変わらず暇な時間が続く中、ミュウちゃんが久方ぶりに『占い』を披露してくれてから、さらに1週間ほどが経った。

 順調にいけば、そろそろ到着してもおかしくない区域に至っているはずなんだけども……やっぱりそう簡単にはいかないってことかな。
 まだ、周囲は見渡す限りの水平線である。島影1つ見えやしない。

 『遠征失敗』を判断する期間的には、折り返しに差し掛かったところになる。
 まだ余裕はあるとはいえ、こう何もないと少しずつ不安になってはくるな……。

 やっぱり、その人達が漂流しながら測量してたっていうデータにも、限界はあったというか、測定ミスもあったというか……そういう感じなんだろうな。無理もないけど。

 ああ、それと話変わるけど、その『ヤマト皇国』から来たっていう人達にも、こないだ1回会った。

 全員、フロギュリアの軍艦のうちの1つに、客室的な区画を用意されて、そこで暮らしているとのことで……会ってみると、やはり『アルマンド大陸』の人間とはどこか違う雰囲気はあった。

 髪色は黒、目の色も黒。肌の色も、東洋系というか、黄色人種っぽいそれ。

 ただ、顔つきとかは特には変わらなかったな。
 東洋系っぽくはあるけど、そこまで差はない。アルマンド大陸のどこかの都市に紛れていても、その違いに気づく人はそんなにいないんじゃなかろうか。髪色と目の色はともかくとして。

 転生前に見たとある映画で、主人公?の西洋人が、日本人のことを『平たい顔』って言ってたけど、この世界では両民族の間にそれほどの差はないように思えた。
 それもあってか、僕が彼らに初めてあった時、『もしかして同郷か?』って聞かれたし。

 顔はいいとして、その人達と軽く話をした感じ……感覚だけど、やっぱりその『ヤマト皇国』とやらは、和製ファンタジーというか、僕の頭の中にある『ファンタジー作品に日本が出てくる場合』な感じに近いように思えたので、重ねて楽しみのなったな、行くの。

 それに加えて、もう数か月故郷の土を踏んでいない彼らのためにも、この遠征、失敗して港に帰還、なんてことにならないように、上手くいってほしいもんである。

 なお、今もまだ『暇』との戦いもまた継続中であるが……一週間前よりはいくらかマシになっていたりする。

 というのも、最近オリビアちゃんから『ちょうど時間があるわけですし、今から始めますか?』って、前に相談した『貴族案件対策講座』を、1日あたり数十分くらい時間を取って、教わっているからだ。

 オリビアちゃん、立ち位置としてはフロギュリアの使節団の一員だし、それ関係の業務とかも色々あるから、出発してしばらくはそっちに主に出ていた。
 寝泊りは基本こっち(オルトヘイム号)でしてたけど、帰ってくるのは夕方とか夜になってからだったんだよね。

 そしてそれ以降は、昼間の疲れがあるから部屋でゆっくり休んだり、ザリーと恋人同士の時間を過ごしたり、っていう感じで過ごしていたので、邪魔しちゃ悪いと思って、その『講義』に限らず、こっちから干渉はしないようにしてたんだ。

 けど、オリビアちゃんが日中もこっちで過ごすようになり、同じように『暇』という敵ができたため、互いの暇つぶしと研鑽を兼ねて『講義』を開くことになった。

 内容は、特に面白みもない礼儀作法や伝統の勉強……かと思いきや、意外と楽しんで学ぶことができている。

 確かに堅苦しい知識やら何やらが大半を占める感じではあるんだけども……合間合間に豆知識とか挟んでくれたり、実際に体を動かしてやってみよう、みたいな展開になったりと、退屈しないようにカリキュラムを組んでくれるので、学ぶのが楽しい。

 やだ、うすうすわかってはいたけどあらためて、この娘、教師としても超有能。

 母さんと師匠に引き続き、3人目だ。こういうデスク系の勉強が、純粋に『楽しい』って思えたの……おそるべしオリビアちゃん。フロギュリアの未来は明るいな。

 そして、そうやってインドアな時間を過ごすことが増えたから、メリハリができたのかな?
 アウトドアで時間を潰すのが楽しくなってきたんだよね。

 前からやってた『釣り』もそうだけど、そこから1歩さらに進めて、素潜り漁で魚取ったりするのも始めて……これがけっこうまた楽しい。

 魔物もいる海に長時間、しかも足のつかない深さの海に、素潜りで潜るなんて、普通に考えて自殺行為だけど……僕にはそのくらい余裕なので。

 加えて、念のため『ダイバーフォルム』も使っていたので、魚より全然早く動けたし、『魔緑素』で呼吸もしなくていいし、『エコーロケーション』と『サーモアイ(暗視魔法)』使えるから、深い所まで潜っていって暗くても心配ないし。

 美味しそうな魚を見つけたら――取った獲物は食べる前提で考えてるので――水中用にカスタマイズしたボウガンで一発。

 その射出されるボルト(ボウガンの矢ね)は、魔力と海水で作られるようになってて、弾数無制限でいくらでも撃てる上、着弾と同時に電撃が流れて魚を感電させられるようになっていたため、大型の魚(魔物含む)もイチコロで、次々に仕留めていった。

 けど途中で『このやり方だと電撃で魚の身が痛むな』って気づいて、それからは素手で締め落としたり、頭とかの急所を狙って『鎧通し』で衝撃を叩き込んで瞬殺したりして狩っていった。
 『ダイバーフォルム』なら、水中でも体術の威力も速度もほぼ衰えさせずに繰り出せるので。

 あと、僕だけじゃなく、シェーンとネリドラ、そしてリュドネラも一緒に潜ってた。
 この三人は、『邪香猫』の中では、戦闘も視野に入れた上での水中活動の手段を持っている数少ないメンバーなので。

 シェーンは説明の必要はないだろう。彼女は『マーマン族』のクォーターだから、もともと水の中はホームグラウンドである。
 愛用のククリナイフと、対大型魚用に僕が作った水中用三叉矛型マジックアイテムを使って、僕同様次々に魚を仕留めていた。

 それらの獲物が、この後彼女自身の手で美味しいディナーに生まれ変わるんだと思うと、その時から楽しみでしかたなかったっけな。

 一方、ネリドラは……こちらは個人の能力とかではなく、マジックアイテムを使ってだ。
 そもそも、彼女は戦闘要員でも何でもないしね。
 
 水中での調査活動用に、一人乗りの小型潜水艦みたいなのを前に作って、船に積み込んで置いていたので、それに乗りこんで参加したのである。
 小型と侮るなかれ。きちんと乗りこなせば、AAAランクの魔物とすら十分やり合える性能だ。

 僕が使ってた水中電撃ボウガンはもちろん、投網やワイヤー付きアンカー、拡散放電魚雷まで、水中で使えそうな兵装は一通りつけていたので、シェーンに負けず劣らずの勢いで次々に獲物を確保していた。状態はどうしてもシェーンの方がきれいだったけど。

 そしてリュドネラは、CPUM『バルゴ』に憑依した状態で、水中行動用のアタッチメントを追加装備して、シェーンと似たスタイルで漁をしていた。

 それも、ダイビング的な装備じゃなく……戦乙女風味のバトルドレスに、背中と両足にスラスターつけて高速で水中移動できるようにして、っていう感じだから、随分重装備の海女さんだな、って思いながら見てた。作ったの僕だけど。

 そうして、レクリエーション的に漁を楽しんで、気が済むまで獲ったら陸に上がる。

 例によって釣果は、自分達が食べる分だけ取って、残りはフロギュリアの軍艦の皆さんにプレゼントしていった。いつもありがとうございます、って超喜ばれた。



 さて、そんな風に暇をつぶしながら日々を過ごしてたわけだけど……最近、ちょっとした変化が起こってたりする。

 というのも、今話した『釣り』や『素潜り漁』の時に明らかになったというか、実際に目視で確かめた話なんだけど……なんか、だんだんととれる魚が違って来たのだ。

 出航からしばらく……それこそ、2週間前後くらいまでは、まあ見たこともない魚類もそこそこいたものの、全体的に、陸の鮮魚店に並んでるような魚がほとんどだった。

 僕が知らない魚も、シェーンとかミュウに聞けばほぼ知ってたし、『アルマンド大陸』の漁師が船で海に出て取って来れる範囲の魚なんだな、ってのがよくわかった。

 多分だけど、徐々に近づいてはいるんじゃないかな。
 僕らが目指している、暫定『未知の領域』に……


 ☆☆☆


 例によって僕が、甲板でビーチチェアに寝転がってのんびりしていた時のこと。
 その知らせは、唐突に飛び込んできた。

 今日はオリビアちゃんも仕事で別な艦にいるから『講義』も受けられないし、また釣りでもしようかなー、なんて思ってた時だ。

『こちらクロエ、こちらクロエ。ミナト、聞こえる?』

「!」

 突如、メインコンピュータールームでこの船の操縦を任せている、オペレーターのクロエから、念話スピーカーで脳内に直接声が届いた。

 どうやら僕だけじゃなく、甲板のメンバーにそれは聞こえたらしい。一緒にくつろいでいたエルクやシェリー、それに子猫モードのミュウも何事かと思って体を起こし――ミュウは子猫モードも解除して――周囲を確認していた。

 範囲指定でスピーカー使ったのかな……いや、それはいい。
 それよりも、要件の方だ。いったい何だろう、こんな、緊急連絡みたいな形で。

「こちらミナト、聞こえてるよクロエ。どうかしたの?」

『よかった。じゃ、簡潔に……たった今、『オルトヘイム号』搭載のレーダーに、素性不明の中型船らしきものを確認、進行方向おおよそ1時方向、距離約6km。目視確認お願いできる?』

「船?」

 クロエのお仕事口調っぽい報告を聞きながら、僕は隣にいるシェリーとエルクと一緒に、船のへりに移動して、クロエが指示した方向を見て目を凝らす。

 ……距離が距離だからか、まだ何も見えないが……魔力で視力を強化してやると、確かに遠くの方に何かが浮いて、漂っているのが見えてきた。アレか。

 確かに船みたいに見えるな。小型~中型。木製か? 塗装とかはあんまり見られない。
 ……外洋に出るには明らかに小さい船だな。何か特別な加工や設備がついてるってわけでもなさそうだし……ひょっとして、漂流してる、とか?

 しかも何か、その周囲にちょっとばかり不吉なものがウロウロしてるのが見えますけど……

「クロエ、そっちで魚影か何か探知できてない?」

『魚影? ちょっと待って。ええと、レーダー調整して……あ、うん、いるね。その船(仮)の周りに数匹……ん、これひょっとして空にも何か飛んでる、かも?』

「みたいだね。……うん、ちょっとひとっ走り近くまで行ってみて、直接見てくる」

 そう言って僕は、軽くウォーミングアップ的に体を動かし始める。手首と足首をぷらぷらほぐして、屈伸したり、体ひねったりしてると、今の話を聞いていたエルク達から、

「1人で行くの?」

「ただの様子見だからね。何かあったら『スマホ』使って船に映像送るから、それ皆で見て確認して。見た感じ、海賊とかじゃないみたいだから、戦闘はないと思うし」

「なーんだ、つまんない。海賊船とかだったらついてこうと思ったのに」

「こらシェリー。ったく毎度あんたは……仮にそうだったらあんた100%偵察で済まないでしょ」

「あははは……護衛任務に一生懸命だと解釈して? あ、ていうかミナト君、真面目にその……1人で大丈夫? 誰か一緒に行かなくていい?」

「んー……じゃ、一応。アルバ、おいで!」

 ――ぴーっ!!

 僕の声にこたえて、甲板の手すりを止まり木代わりにして休んでいたアルバが飛んできて、差し出した僕の腕に止まる。

「よしよし。じゃ、行先はあっちの方向にある船ね。戦闘は基本的になし、様子見るだけ。行ける?」

――ぴーっ!

 謎の船が浮かんでる方角を指さしてそう言ってやると、元気よく返事が返ってきた。
 多分『OK』って意味だろうとだいたいあたりをつけて、僕はそっちに向けて腕を差し出し……アルバはすぐに飛び立って、船の方向に飛んでいった。

「よし。じゃ、僕も行ってくる」

「……気をつけてくださいね、その……何かあるといけませんから」

「? ああ、うん……ありがと。じゃね」

 なぜか、行く直前……ミュウに上目遣いで、ちょっと心配するような目で、気遣うようにそんなことを言われたのがちょっと気になったけど、僕はそのまま海に飛び降りた。

 そして、魔力操作の応用で水面に着地。
 沈まないで水の上に立ち、そのまま走る。

 右足を前に出して、沈む前に左足を、また右足……っていう、マンガとかにあるような強引な水上走行じゃなく、きちんと踏ん張って加速できる形なので、陸を走る時ほどじゃないものの、きっちり踏みしめてスピード出せる。水面蹴るのには変わりないから、水しぶきはすごいけど。

(……しかし、なんか出発する前のミュウ、ちょっと変だったな?)

 走りながら僕は、そんなことをふと考えていた。

 普段ならエルク達も含めて、最近は皆『ミナトの心配はするだけ無駄』みたいな感じで、ある意味安心というか信頼して任せてくれることが多い。
 ……若干の寂しさを感じなくもないが、まあ、信頼してくれてるってことだと思うし、いいことにしてる。

 実際大概の場合は問題ないし、例外的にヤバい敵と戦うような『僕でも安心はできない』ケースではきちんと心配してくれるしね……滅多にないけどそんなの。

 しかし、この所のミュウは……何故か、妙に僕に対して、心配するような視線を向けてくることが多いような……というか、何かいつもより一緒にいる時間が長いような気がするんだよな。

 基本、好きな時に好きなところにいて、好きなようにしているミュウが、なぜか最近はいつも僕の近くというか、目の届く範囲にいる。

 ある時は猫モードで日向ぼっこして、またある時は人間モードで椅子に座ったりビーチチェアに寝転んで、またある時はこないだみたいに僕の膝の上に座って。

 理由を聞いても『特に理由はないですよ?』って言ってた。
 シェリーなんかは『ひょっとしてミュウちゃんも狙う? 加わっちゃう?』なんて面白そうにしてたけど、それをはぐらかして受け流す軽やかさはいつものミュウそのものだったし、違いそうだ。

 一番付き合いの長いシェーンでも、どういう意図なのかはわからないし、教えてもらってないそうで……曰く、『あんなミュウは初めて見る……と、思う』とのこと。

 ……考え始めたら気になってきた。後でそれとなく聞いてみよう。

 けど今は、目の前にある……この船のことだな。

 考えてる間に目的地?に到着。
 予想通り、やはり船だ。

 水面から飛びあがり、今度は魔力で空中に『立つ』。先に着いて、滞空しながら待ってたアルバの横あたりに。

 そして、船を見下ろしてよく観察……する前にちょっと、

「こいつらが鬱陶しいな……アルバ」

 ――ぴーっ!

 僕の合図に合わせて、アルバがその場で魔法を発動し、僕とアルバの周囲に強風の大渦を作る。
 そしてその範囲を一気に広げて拡散させ……周囲を飛び回り、僕らを追い払おうと威嚇していたハゲワシっぽい魔物を、逆に散らして追い払った。

 今の一発で、自分達じゃ分が悪い相手だと、野生の本能か何かで悟ったらしいそいつらは、蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていった。
 
 今のハゲワシたちは、僕がこの船を遠目で見、クロエがレーダーで探知した時から既にこのあたり……すなわち、船の上空を飛び回っていた。

 加えて、船の周囲にはサメらしき魚が何匹か囲んで泳ぎ、付きまとっている。

 サメはどうやって察知しているのか知らないが、ハゲワシ(っぽい魔物)が飛んでたってことは、ある1つの可能性を示している。

 ハゲワシは狩りで獲物をしとめたりもするが、獲物がもともと弱っている場合、そいつが死ぬのを待ち、死んだあとその肉を食らう、というような習性も持っている。

 つまり、ハゲワシが群れを成して同じところを飛び回っていたり、じっと木や地面にとまっていたりした場合、その下ないし近くに『獲物』がいると考えられるわけだ。

(周囲をしつこく付きまとってるサメといい、つまり、あの船には……)

 ハゲワシがいなくなったのを改めて確認し、僕はスマホを取り出して映像を撮影して『オルトヘイム号』のメインコンピューターにリアルタイムで送りながら、その船に降り立つ。
 踏むと、ぎし、と嫌な音が鳴った。抜けはしないだろうけど、少々痛んでるっぽいな。

「クロエ、見えてる?」

『見えてるし聞こえてる。報告お願い』

「了解。見ての通り、予測通りに木造船。大きさは中型……の、中では比較的大きめかも。動力装置等は見当たらないけど、甲板にマストがあったような痕跡あり。元々は中型の帆船だったと思われる。ただしそれは根元から折れていて喪失しており、残骸等は見当たらない」

 歩き回って船の状態を観察しながら、簡単に、簡潔に報告していく。
 通信(念話)の向こうでは、クロエがメモとか取って記録してるはずだ。念話スピーカー使ってれば、彼女以外のメンバーも多分同時に聞いてると思う。

「今ちょっと軽く見て回った結果、各所に戦闘の痕跡あり。結構船自体もダメージ受けてるし。舵は無事だけど、恐らくその戦闘でマストがやられて推進機構を失ってそのまま漂流したと思われる。で、この船、内部に入れるようになってるみたいなので……今から中を調べる」

『了解。何があるかわからないから、十分気を付けて』

 クロエに一言断った上で、船の外部の観察を終了し……甲板部分に一つついてる扉から、中に入る。……ちょっと変形してたけど、ちゃんと開いた。

 ……横に。

「引き戸とは珍しい……ん? 鍵壊れてたのか……っと、そうだ。アルバ、『サテライト』」

 ――ぴーっ!

 アルバに頼んで発動してもらった『マジックサテライト』により、この船の内部も含めた立体のマップが作成され、頭に浮かびあがる。
 これで構造を把握すると同時に……中に何がある、あるいは『いる』かもわかる。

(ハゲワシがああして飛んでたってことは、恐らく中に…………やっぱり)

 マップの中に予想通りのあるものを発見した僕は、その場所を目指して歩いて行く。
 入り口から入って、薄暗い通路を少し歩き……その先にあった、比較的大きな空間に出る。

 そこは、座卓や敷物、戸棚などの物入が置かれている部屋。生活スペースのようだ。

 そこに……ぐったりと横になったり、あるいは卓につっぷして動かない、数人の人間がいた。
 全員、揃いも揃って痩せていて……見るからに弱ってる感じ。

(やはり、漂流者か……いや、それよりも、彼らのこの髪と服装……それに、そもそもこの船のつくりは……)

 見たところ、全部で6人いるらしい。その全員が……黒髪か、限りなくそれに近い濃さの茶髪。
 加えて着ている服は、作務衣とか着物、浴衣みたいなつくりの……和装だ。薄暗いせいでわかりにくいが、肌の色もそれっぽいし……入り口の近くに草履ぞうり草鞋わらじ?が置いてあった。

 そして、明らかに大陸のそれとはつくりの異なる船に加え……トドメとばかりに、この部屋の床、木造じゃない……『畳』だ。
 これは、つまり……

「……だ……誰、だ……?」

「!」

 唐突に聞こえたそんな声に振り向くと、気絶していると思っていた1人が、首だけ動かしてこっちを向いていた。まだ若い……というか、小さい、少年のように見える。
 ……それで精一杯のようだが。体の方……首より下は、ぴくりとも動かない。

 どうやら僕を警戒しているようだが、それに答えるより前に僕は、
 
「船内に漂流者と思しき者達を発見。数、6名。種族は……見る限り人間か、その近縁種。全員、空腹から来る栄養失調と思われ、ほぼ全く動けない状態。なお、髪色や服装、この船自体のつくりから考えて、目的地である『ヤマト皇国』の者である可能性大。至急、オリビアちゃんとドナルドに報告して、保護を含めた対応の検討と指示を請う。おーばー」



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