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第17章 夢幻と創世の特異点
第337話 おとぎ話? それとも……
しおりを挟む「ふぅ……よっし、完了……」
師匠から『アドバイス』をもらってから、さらにしばらく。
ジャスニアにいるルビスから、『例の遺跡の調査が始まったけど、何も進展はない』なんて報告が届いた頃のことだ。
なお、あの遺跡には多分もう他に何も残ってないので、進展はなくても仕方ないと言うか、むしろ当然だと思っている。
僕は、コピーして持ち帰った『古文書』の解読を、ようやく完了させた。
どうやらいくつもの古代語を組み合わせて書かれていたようで、解読には相当骨が折れた。
『D2ラボ』に置いてるマザーコンピューターまで駆使して、類似の文法を抽出して個別に解読、ってのを繰り返して、ようやく読めた。
……読めたんだが……いや、読めたのはいいとしても……
(……これ、歴史書か? それとも、おとぎ話か何かか……?)
その『古文書』に書かれていたのは、どうやら、あるどこかの国の盛衰を記録した、歴史書のような内容だった。
暗号化したせいで、文法が無茶苦茶になってて、意読するしかなかったので、ちょっと自信ないが……大筋はあってると思う。
てっきり、ジャスニア王国か、そうなる前の3国のいずれか、あるいはその周辺の小国の歴史が書かれてる記録文なんじゃないかな、と思ってた。
けど、解読を完了したそこにかかれていたのは……文体は仕方ないにしても、歴史書というにはどうにも内容が薄っぺらく、しかし無駄に壮大?な物語だった。
正直、フィクションなのか史実なのか見分けがつかん。資料もないし……というかそもそも、仮にノンフィクションだとして、これいったいいつの時代のどこの国の記録なんだか。
幸いと言っていいのか、専門用語ばっかり出てくる専門的な内容っていうわけじゃないので、皆に食事の席で報告がてら話してみて、意見を聞くことにした。
誰か何か知ってるかもしれないし。
そこに書いてあった内容っていうのは……以下のとおりである。
☆☆☆
昔々、あるところに、人々が平和に暮らす小さな国がありました。
その国には、それはそれは美しいお姫様が……
「何それ、そんな風にホントに書いてあったの?」
「母親が子供に聞かせる寝物語みたいですね」
「いや、なんとなくそんな感じ、っていうかいかにもおとぎ話っぽく思えたからアレンジしてこう読んだだけで……あー、いいや、やっぱ普通に説明する。やり直し」
というわけで食堂。食事中の雑談として、皆ちょうど集まってるところでこうして話し始めているわけだが……エルクとミュウにそうツッコまれたので、昔話調はやめることにした。
じゃ、改めて。
いつ、どこのことかもわからないけど……今より少なくとも数百年、あるいは数千年単位で昔のことであろう、ある時代、ある場所のこと。
そこには小さな国があり、人々が平和に暮らしていた。
そしてその国には、とても美しいお姫様がいた。
その美しさゆえに、同じ国の貴族達はもちろんのこと、周囲の他の国の王族や貴族は、こぞってそのお姫様と結婚従ったそうだ。毎日のように様々なところから使者が来て、政略結婚の誘いが届けられていた。
その全てを、お姫様は断っていたそうだけど。
さて、よくある物語とか……いや、史実に置いてもそういう話は、少し調べれば枚挙にいとまがないものだが、美しい女ってのはそれだけで、人気のみならずトラブルも引き寄せる。
具体的には、その女性をモノにしようと、戦争が起こったりする。
しかしながら、このお姫様を狙って、その他の国が戦争を仕掛けてくるなんてことはなかった。なかったというより、ありえなかった。
それはなぜか?
平和を重んじ、争いを嫌うお国柄の国ばっかだったから?
そのお姫様が戦争を嫌っていて、嫌われるのがいやだったから?
そのお姫様の国が、小さいけれどとんでもなく強い軍事国家だったから?
どれも違う。不正解。
正解は……そんなことをしてる場合じゃなかったからだ。
その小さな国……のみならず、その周囲にあった全ての国に、より正確に言えば、全ての『人間の国』に対して言えたことだが……その時代、その地域は、隣接する地域や国に暮らしていた、様々な『亜人』種族や、周囲に住む数々の魔物たちによって常に平穏を脅かされていたのだ。
その『小さな国』は、他の国が緩衝地帯になっているおかげで『比較的』平和だったらしい。
しかしある時、その小さな国と『亜人』や『魔物』のいる国や地域との間にあった国が全て滅んでしまい、その国は直接それらの脅威にさらされるようになった。
戦力の差は絶望的で、人間側は圧倒的に劣勢。
地の利を生かしてなんとか戦えていたものの、そう遠くない未来、その国は滅ぶだろうと言われていた。
前線で戦う兵士たちのみならず、そこに住む民は皆、それらの脅威にさらされて苦しんでいた。
それにに心を痛め、涙を流しながらも、どうか我らをお救い下さいと、日々そのお姫様は神様に祈っていたのだが……ある時、その祈りが奇跡を起こした。
お姫様の祈りを聞き届けた神様は、空から地上に光を降り注がせた。
その光を浴びた兵士たちは、それまでとは比べ物にならないほどに強くなり、またたく間に亜人たちの軍勢を押し返し、その戦いを勝利で終結させた。
人間たちはそのことを喜び、神への祈りで奇跡を起こしたお姫様を『聖女』と読んで称えた。
しかし、それまでの戦いで、国はすでに疲弊しきっており、再起不能と言っていい状態になっていた。
さらにはその『奇跡』の代償として、その聖女様の命もまた、間もなく失われてしまう。
結局その後、数年で国は亡びた。周辺国家に大量の難民を出して。
「……とまあ、ここまでが『物語』形式で語られてた部分なんだけどね……」
「? そうじゃない部分があった、ってこと?」
というエルクの問いに、僕は首肯で返す。
「この本……何て言えばいいかな? 2つの書き方が交互に来るっていうか、物語の解説書みたいな感じになってるっていうか……今言った物語がまずあって、それを要所要所で解説、ないし考察するような感じになってるんだよ」
例えを言うなら、国語の問題集の参考書に近い。
教科書に載っている1つの物語について、作者の考えや登場人物の気持ち、物語を通して言いたいことを詳しく、わかりやすく解説するために、要所要所に説明を盛り込むわけだ。
右側のページに教科書の本文(物語)が掲載されていて、左側のページにその解説とか、ワンポイントアドバイスが書かれてる、っていう形式も多いんじゃないかな。あるいは、本文の行間を広くして、そこにメモ形式で解説が赤字で書かれてるとかも。
その本はそんな感じで、今簡単に説明した『ある小さな国の物語』を、第三者の……おそらくは歴史家や研究者なんかの視点で、解析ないし考察しようとしている、いわば研究資料のようなものだった。
恐らくだが、その……仮に『研究者』として、その研究者、すなわちこの本の作者が生きていたのが、エルドーラ遺跡があった時代。
すなわち、『英雄エルドーラ』が、ジャスニア王国を立ち上げたその時代だったんじゃないか。
もっとも……この解読直後、先んじてルビスに確認を取って聞いてみたんだけども、彼女はもちろんエルビス王子も、そんな、奇跡を起こした末に悲劇的に滅んだ『小さな国』のことは、聞いたこともないらしいし、文献なんかで読んだこともないそうだ。
適当に理由をつけて、王城内の歴史に詳しい人何人かに聞いてみたりもしたそうだが、やはりそんな国は聞いたこともないそうだ。少なくとも、ジャスニアの国史を学ぶ者、研究する者の間に、そんな国の伝承は出てこないという。
「さらに言えば……そこそこながくいきてるが、そんな国は俺も知らねえ。まあ、この弟子と同じで、興味ねーことは学ぼうとはしなかったから、もともとそんなに歴史なんざ詳しくもねーんだが」
と師匠が付け加えてくれる。
「つまり、ジャスニア王国黎明期には……少なくとも、この著者はその存在を知っていたし、それを研究していたような国。しかしながら、今の時代にはそれが受け継がれていない」
「ここに書かれてる物語が史実なら、だけどな。奇跡だのなんだの、いかにもおとぎ話やら創作みてーな内容だぜ?」
「……逆にもしそれが史実なら、色んな国がその事実を知っててもおかしくない」
と、ネリドラがそこに続けた。さらに、リュドネラとクロエも、
「小国の寡兵で、数でも質でも上回る亜人の軍団を押し返したんでしょ? しかもその……『奇跡』とかなんとか書かれてた、よくわかんないアレで」
「アレっていうか、もし事実としてそれが起こったんなら、そりゃ『奇跡』そのものよね。まあ……今目の前に、1人で亜人2万人以上全滅させた奴いるけど」
そう言ったクロエの、次いで皆の視線が僕に向いたものの……すぐに話題は元に戻り、
「それはミナトだから仕方ないとして……もし、特別な力を持たない一般兵をして、そんなことを実際に可能にしたんだとすれば、古今東西あらゆる国が欲する力よ? 自分の国がそれを手にできれば、大陸全体の覇権を握ることだって可能になるわけだし」
「逆に、自国以外がそんなものを持っていれば、安心できない。何としても排除しようとするし……それが不可能なら、国防の観点から、確実にその有無を含めて確認・監視しようとするはず。まして、仮にそれが実在するとしたら……それが後世に伝えられず、忘れられるなんて考えにくい」
「もっとも、エルビス殿下やルビスちゃんみたいな、国防とは無関係、ないし立ち位置が国防から遠い人なら、『みだりに情報を広げない』ってんであえて知らされてない可能性もあるし、数百年の間に擦り切れて消えてしまった可能性もある。今、半身は『後世に伝えてないなんて』とは言ってたけど、存在が確認されないままに時間が立ちすぎれば……と考えれば、ね」
「クロエが言ったように、あまりに荒唐無稽、実話とは到底思えない話ですから、時がたてば自然とそういう思いが浸透してしまってもおかしくはないし……というかそもそも、今までの話全部、コレが実話だと仮定しての話ですしね。創作である可能性もあるわけでしょう?」
クロエ、ネリドラ、リュドネラ、そしてナナ。
元貴族としての立場・見解を知る4人の意見は、成程と言えるような意見を次々と並べてはくれるものの……仕方ないとはいえ、答えには行きつかず。
……いや、そりゃあ当然か。答えを出すには情報も何もかも、少なすぎる。
そもそもこの『解読』できた内容自体、不完全なものなんだ。
あの書物は、『異空間』に保管されていた。
正確に言うなら、二重のだ。『異空間遺跡』の中にいた『アスラテスカ』。その体を媒介に形作られ、隠されていたさらなる『異空間』。そこに、隠されるようにして、恐らくは数百年。
その間に劣化したんだろう。保存状態は決して良くはなく……朽ちてこそいなかったものの、ページはどこもかしこも、擦り切れたり、インクが劣化して消えたりで、全部が全部読めたわけじゃない。読めるものを拾ってつなぎ合わせたのが、さっきのアレだ。
『収納』系を代表として、空間系の魔法技術で作り出した保存用の異空間は、ものを保存しておくのには適している。風もなく、湿気もなく、温度も変わらず、光も届かない。
しかし、時間が止まるわけではなく……経年劣化は進むからね。
けど……
「あんなのの中に大事そうにしまってあったもんが、単なるおとぎ話の研究資料だとは、ちょっと考えにくいと思うんだよね……」
「それよね、一番は。『アスラテスカ』だっけ? あんな……ギルドの記録にもない、ミナトでもちょっと手こずるような魔物に、あろうことか『異空間』を仕込んでまで守っていた書物だもの……単なるデタラメ書き込んだだけの創作物だとは思えないか……」
そう、ため息交じりにいうセレナ義姉さんに言って、既に『アスラテスカ』についての情報は、冒険者ギルドに報告済みだ。ちょうどよく、ザリーたちが解析していた時の映像記録も――戦ってた『ツィロケトリ』メインだったけど――あったし、一応最低限の情報は渡せている。
その上でわかったことだが……各国に支部がある冒険者ギルドであっても、あの魔物に関しては、数百年前の口伝の資料と、雑なイラストを最後に、あの『アスラテスカ』と『ツィロケトリ』に関する情報は残っていないそうだ。
皆無ではないにせよ、あれだけの魔物がその存在を知られていない。あれだけの魔物が。
大事なことなので2回……いや、それはまずいい。
そういうこともまあ、なくはないんだろう。ある地域でしか確認されなかったり、目撃者が全員死んでたりして、その情報が残らない、なんてのはよくある話だ。
けど、そんな規格外の魔物である『アスラテスカ』の中に隠してあった書物が、単なる創作物に関する研究だけのもの、ってのが、そもそもありえないよな……。
そんな小学生の自由研究とか読書感想文みたいなもん……いや、思い出の品には違いないのかもしんないけどさ。あんな、金庫と最強の防衛設備が合体してる入れ物にしまっておくかって話で。
(けど、それを言ったら今回のこの件……そもそも『ありえない』というか、『おかしい』点が多い)
あの状況自体も相当におかしいもんだとは思うけど……あの時戦った『アスラテスカ』。
あれ、何かこう……殴った時に、変な感じがしたんだよな。
最初は『異空間』が組み込まれてるからだと思ってたんだけど……いや、実際そうだったんだけど、それだけじゃなくて。
あいつ自体が、何ていうか……普通の魔物とは違う『何か』であるような感じがした。
殴っても血も流れない、なんてのは別にいい。心臓の動いていないアンデッド系や、そもそも血が流れてない魔法生物系の魔物なんてものも存在するわけだし。
死んだ後、体が消滅する……素材が取れなかったのは残念だが、これもいい。一部の魔法生物系の魔物や、そもそも肉体がないゴースト系の魔物は、もともとそんな感じだ。実態のあるスライムだって、核だけ残して他の部分は四散し、蒸発なり、地面に染み込むなりする。
ただ、そういうのとは違う『何か』が……おかしかったような……
もう検証素材も残っていない今となっては、調べようもないが……僕の拳にわずかに残っているあの感触だけが、それを訴えている。
加えて、そもそも誰がこれをやってのけたのか、って話だ。
さっき言ったように、『アスラテスカ』を防犯に使ったってことだけでも異常だが……それ以前に、防犯に『使えた』事実がそれ以上に異常なことだ。
つまりそれは……早い話が、野生?のアスラテスカを捕らえてきて、体内に『異空間』を作る魔法的措置を施し、そこに本を入れ、そしてアスラテスカをここに閉じ込めた、ってことだから。
最低でもSランク、下手したら『測定不能』の域に達するであろう『アスラテスカ』を生け捕りにし、施術の間大人しくさせておき、その後解放した。あの空間の中で。
……少なくとも、僕レベルの戦闘能力……あるいは、それを可能にするだけの、別の特別な『何か』が必要になる。
さらに言えば、その施術……というか、『遺跡』が入っていた『異空間』自体が問題だ。
あれには、僕が『虚数魔法』を使わなきゃ、干渉・侵入することはできなかった。その存在に気づくこともだ。
虚数魔法を使えるのは、恐らく世界で僕だけだ……今のところは。
だが、あの空間は……全く同じではないとはいえ、限りなく『虚数』に波長が近い魔法、ないし何かの技術で構築されていた。
アスラテスカの捕獲も含め、いったい誰が、あれをやってのけたのか……。
本を執筆した本人がやったのか、それとも別な人物がやったのか……
そして最後に、一番気になってるのは……
「あれ、ところでさ……ミナト君さっき、あの本の半分は『研究資料』だったって言ってたよね? その『小さな国』の物語……実話かどうかは置いといて、それについて誰かが研究ないし考察した内容をまとめられてた、って。その、研究の部分の内容はどんなんだったの?」
と、ふいに気になったのか、シェリーが聞いてきた。
「それについては……ろくにわかんなかったよ。物語の方と比べて、こっちは専門用語ばっかりでね……さらに、殴り書きのメモみたいな部分も多かったから、確かな筆跡で記録されていた物語部分より劣化が激しかった。ただ……」
「ただ……?」
「いくつか、繰り返し出てくるキーワードみたいなものを発見できたくらい……かな」
研究資料の部分は引き続き解読を進めるけど、これ以上の情報を得られる可能性は、ちょっと低い。それくらい、状態がよろしくなかった。
加えて、それをさらに『コピー』して持ってきたもんだからね……オリジナルをそのまま解析するのに比べたら、ひょっとしたらさらにわからなくなってるかもだし。
かといって、オリジナルはジャスニアだ。重要な歴史資料として、政府が回収してしまった。
後からルビスに頼めば、貸し出したりしてくれないもんか。あるいは、ジャスニアの研究機関がそのへんも解明・解読してくれればそれでもいいが……望み薄かなあ。
そもそもあの手の、論文でもない清書されてない資料は……研究者は、自分にだけわかればいい、的な感じで適当に書きなぐっておく人も多い。僕もそうだし。
そもそもが、他人が読んで理解できるような文章でない可能性すらあるのだ。
そんな中にあって、何度も登場し……『キーワード』だと思えた、7つの単語。
『古代人』
『新人類』
『人類の進化』
『創世』
『大戦』
『聖女リリス』
そして……『特異点』
口に出して話してみたものの……当然ながら、そのどれ1つとして、知っている、心当たりのあるような人はいなかった。
師匠やアドリアナ母さんですらそうだったんだし、予想はしてたけどね。
貴族出身組とかならワンチャンあるかと思ったけど、ダメだったっぽいし。
となると、あと聞けそうな人は……師匠以外の『女楼蜘蛛』メンバーや、僕の兄・姉達くらいか。ああでも、ジャスニアの国有の遺跡からでてきた奴だから……その内容について聞くなら、ルビスに念のため許可取っといた方がいいな。
あとは……
―――コンコン
「? どーぞー、入って」
と、唐突に食堂のドアがノックされた。
入室の許可を出すと、入ってきたのは、ターニャちゃんやコレットの部下として家事を任せている『メイドロボ』の1体。
『失礼します。今しがたコレが届きましたので、お届けに上がりました』
そう言って持ってきたのは、
(……手紙? いや、コレは……『リビングメール』の便箋か)
結構前に僕が開発した、それ自体が鳥とかに変身して飛んでいく、マジックアイテムの便箋。
それも、コレは縁が赤色……超音速出る、一番速い奴だ。
差出人は……ルビス?
「え、それルビスから?」
「うん、そういや渡してたっけ。しかしまたタイムリーな、何かあったん……」
そこまで口に出して……僕は、黙った。
黙らざるを得なかった。そこに……手紙に書いてあった内容に。
突然黙った僕に、皆がきょとんとして視線を集中させる中……
「何かあったのか、弟子?」
「はい。……もしかしたらこの後……早ければ明日にでも、もっかいジャスニアに行くことになりそうです」
「「「!?」」」
皆が驚いているのが気配でわかるが……さて、ここでちょっと時間を戻して、だ。
僕はさっき、『この件は『おかしい』ことばかりだ』と言ったと思う。
その中で、一番おかしい……というか、気になっている点について、まだ言っていなかった。
アスラテスカの強さや、『虚数』に近い波長を持つ魔法空間以上に気になる……いや、『気にしなければいけない』点だったし……それは、ルビス達ジャスニア勢にも言ってあった。
そもそも『資料』ってのは、自分の研究の成果をまとめ、記録しておくためのものだ。
それは、普通に考えてもとても大切なことだし、ずっと残しておきたいがため、誰にも奪われず隠しておきたいがために、あんな超がつくほど堅牢な隠し場所を用意したんだろう。多分。
しかし問題は……資料ってのは、保管して終わりってわけじゃない、という点だ。
そのまま、一定期間だけ保管して捨てるとかならともかく、多くの資料は、その後『読み返す』ことを前提にしている。続く研究の際の参考として、あるいは後輩や後に続く者が、それを再び、三度読んで、研究の参考にしたりするわけだ。
だとすれば……ああして『保管』してあったあの本も……ひょっとしたら、誰かが後から見に来るんじゃないか、と思っていた。
無論、どう考えても数百年以上前の書物だ。よほど長命な種族でもなきゃ、その頃の『著者』が生きてるわけもない。今に至るまで、長いこと誰の手にも触れずに放置されていた、って感じの状態だったしね。
しかし、既に『常識的』に考えるということが通用しない状況ができあがっていたので……万が一ということも考えて、ルビス達にはそれを警戒するように言っておいたのだ。
この遺跡で、この本が見つかったことを知って、奪いに来る者が、もしかしたらいるかもしれないから、と。
そして……あくまで『万が一』、あるいはそれ以下だったはずの想定の自体は……現実化した。
リビングメールに、そう書かれていた。
『『本』が、何者かによって盗まれた』
『『エルドーラ遺跡』の中にできた、『異空間』につながる門も消滅していた』
当たってほしくない予想ほど当たるもんだ。
やれやれ……これで、原本を再調査する希望は失われた……かな。
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