魔拳のデイドリーマー

osho

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第16章 摩天楼の聖女

第304話 中と外、それぞれの死線

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あのヤローは後で絶対とっ捕まえてシメるとして……時間があるわけでもないし、さっさと神殿の中に突入……の前に、やっておくことがいくつかある。

まず、この神殿を可能な限り封鎖すること。

アガトの奴があちこちの壁をぶっ壊してくれたおかげで、獣たちがすさまじい速さでここを抜け出し、町に広まってきている。加えて、その町の東西南北の門は、アザーの手の者達によって封鎖されており……この町は今、モンスター系のパニック映画みたいな状態だ。

みたいっていうか……実際そうだよな、シチュエーションが。
兵器利用しようとした生物兵器の制御に失敗して暴走、来場客を巻き込んでパニック……恐竜とかゾンビでおなじみのパターンだ。現実に起こると洒落にならんが。

そこで、この状況を少しでもマシにするため、テレサさんに頼んでこの神殿全体を覆い隠すバリアを張ってもらう。

流石『元祖否常識』こと『女楼蜘蛛』。この広範囲を、しかも十分な強度で覆い隠すレベルのバリアを張ることなんか、朝飯前だった。
ただ、それの維持とかのために、ここを移動できなくなっちゃったけど。

「私も随分なまってしまったみたいね……昔なら、この規模の障壁を維持したままで戦列に加わるくらい、造作もなかったのに」

「平和ボケだな。まあ、火力が落ちてねーだけよかったじゃねーか。ちょっとは鍛えなおし、もとい、リハビリした方がいいんじゃねーのお前?」

「なぜ今言いなおしたのあなたは」

「クローナ、今一応非常事態なんだから、無駄にテレサを煽るのやめるニャ」

そんなバカなやり取りもあったのは置いといて。

テレサさんは、この障壁を維持していなければならなくなったので、ここで離脱だ。
大小さまざまな穴を全部ふさぐのは、僕の『ドルイドフォルム』でもちょっと厳しい。全部くまなく、残さずに、ってところが特に。ゆえに、バリアでまとめて包み込むことにしたわけだ。

さて、そして……突入前にやること、もう1つ。

バカ話から破壊光線が飛び交う喧嘩に発展しないようにだけ気を配りつつ……僕はポケットから、こないだマリーベルにもらったあの『笛』を取り出して吹いた。

可聴域外の超音波?が響き渡った。例によって僕は聞こえるが。
そして、それに呼ばれた連中が集まってくるのを待つ間……あらためて、動物園、っていうかサファリパーク状態の塀の中を見る。……安全管理が見た目一発完全にアウトですね。

こうしている間にも、続々と地下から出てきているようだ。うじゃうじゃいる獣、獣、獣……サクッと神殿ごと全部消し飛ばしてすっきりさせたくなるな……それなら簡単だし。
それができるマジックアイテムならいくつかあるし、何なら僕が自力でやる方法もある。

「そんくらい俺だってできるぞ」

「まあ、私も……できないことはないわね」

「うーん、私は、基本が接近戦主体だからニャ……ああでも、全部くまなくみじん切りにする要領で真空波とか飛ばしまくれば……ていうか、それができないから困ってるんだけどニャ?」

「……あの、すごい怖い話してらっしゃるのは、スルー……なんですか……?」

『女楼蜘蛛』+僕のスケールでの話に、ソフィーとソニアが戦慄していたのはともかく……っと、そんなことを話してるうちに、『来た』か。早いな。

塀の上に……ひとっ跳びでしゅたっと降り立った影。
女性としては高い、色黒の肌の細身の体。きりっとした気の強そうな目に、流れるような長い黒髪、そして……その髪に隠すように折りたたまれていてわかりにくい、黒色の犬耳。

彼女にも……もちろん見覚えがある。というか、知り合いだ。
マリーベルと同じく、特殊部隊『タランテラ』所属……副隊長、メガーヌ・ベルガモット。

「お待たせしました……ミナト・キャドリーユ様。ご用向きをお伺いいたします」

よく言えば真面目でストイック、悪く言えば堅物、って感じの性格の彼女は、お仕事モードなのだろう。僕に対し、以前とは違い、敬語で話してきた。
できれば砕けた話し方にしてほしいけど……まあいいか。それはまた後で。

「うん、久しぶりだね、メガーヌ。時間があるわけじゃないから、単刀直入に言うよ、頼みたいことがある。こいつ持って帰って、どっかに保管……というか、拘束しといて」

さっきから拘束した上で転がしっぱなしにしていた、『枢機卿』の1人だというおっさん(薬品により気絶ないし昏睡中)を指さして僕は、そう言った。

「この者は……『枢機卿』の1人ですね? 保護ではなく、拘束なのですか?」

「ええ、色々と国家ぐるみで後ろ暗いことをやっていますし、今回のこの一件にも関与しています。後日、外交、あるいは国際司法の場で責任追及用のサンドバッグになるかと」

「なるほど……了解しました、おあずかりします」

「任せた。くれぐれも……奪還、あるいは口封じとかされないように」

そう注意付けして、メガーヌは帰らせた。枢機卿のおっさんを持たせて。

さて、じゃあ僕らはいよいよ……入りますか、神殿の中に。

『獣』の元を立つのと……もう1つ。



ネフィアットと、他の『聖女』候補の娘たちのために……『解毒剤』を確保しないと。



ついさっき、枢機卿のおっさんから聞き出したことの1つだ。
胸糞悪い話、第2位。……ネフィアットを含む、『聖女候補』の娘達は、現在すでに『御神酒』の毒を摂取し……その中毒状態になっていると。

もっとも、実はこれは僕も予想していた。

分析させてもらった結果わかったんだけども、あの『御神酒』……本当に毒性が強い。
それこそ、体質や耐性以前に、あんなもの飲んで無事でいられるはずがない、ってレベルだ。常人なら一口飲んだだけで……下手したらひと舐めでショック死してもおかしくない。

いくら、ネフィアットが耐性を持つ体質だったとしても……アレを、儀式の日にいきなり、両手のひらを合わせたよりも大きい杯にいっぱいの量を飲んで、無事でいられるとは思えない。

……ただし、あくまで『いきなり』なら、だ。

それこそが、『聖女候補』の修行に隠された、教皇や枢機卿達の陰謀であり、吐き気がするほどえげつない部分であり……同時に、『聖女候補』を探し出すためのからくりでもあった。

簡潔に言うと、教皇たちは、『聖女候補』の娘たちに……『御神酒』を薄めたり、他の薬品とまぜて毒性を弱めて……日々の食事に混ぜたりして、ちょっとずつ摂取させていたのだ。
ファンタジー忍者の修行か何かみたいに、毒に体を慣れさせるために。

徐々に量を増やしていくその過程で、耐えきれなくなって体を壊すようなら、本職の『聖女』として力不足。ネフィアットみたいに、普通に耐えきれて、順調に耐性をつけていくことに成功した娘は……晴れて原液の『御神酒』を飲んで、操り人形に、ということらしい。

当然ながら、ソフィーとソニアはブチギレそうになってたが……同時に問題も明らかになった。すでにネフィアットが毒に犯されているなら、それをどうにかして除去しないと……今は何ともなくても、今後何かしら不調が出るかもしれない。

それは、『聖女候補』たちも同様だ。現に、耐えきれず体を壊してる娘もいることだし。

だからこそ僕らは、教皇が持っているという『解毒剤』を入手しなきゃならない。
それそのものを持っているのか、作り方を知っているのか、はたまた材料を……ってそのへんはわからないけど、とにかくそれを入手しなければならない。あるいは……教皇が生きていれば、確保したいし、少なくとも部屋は、いや神殿中くまなく家探ししたい。

だってのに、あの野郎……ジャミングばら撒いて生命線の『サテライト』を潰しやがって……! まだ対抗薬はできてないし、出力を上げるにしても……効果が薄まるまで、あとまだ数十分は見なきゃいけないだろうな。ああもう、面倒くさい!

とにかく行こう。さっき言ったようにテレサさんはここで離脱だ。
僕、ナナ、義姉さん、師匠、エレノアさん、アルバ、ソニア、ソフィー……7人と1羽で行く。ガサ入れとかの作業もあるから、人数が必要だ。

ちなみに、『ドルイドフォルム』は解除しない。このまま行く。
理由は……たぶん、この後もバリバリ出番あるから。

この後ってか、今からもだけど。

何度思い出しても腹が立つが、あのバカが外壁を破壊したせいで、少なくない……なんてもんじゃない数の『獣』……『アバドン』って名前だったっけか。アレが町に出た。

この数は……ちょっと、いくらテーガンさんやノエル姉さんでもきついだろう。
倒すのがじゃなくて……こんだけの範囲に散らばってる大小さまざまな獣を掃除するのが。僕が渡した『CPUM』を使ってもきついだろうな。

だから……援軍を呼ぶことにした。
すでに姉さん達には『念話』で通達済みだ。びっくりして襲い掛かったりするようなことはない……町の人たちはびっくりするかもだが。
しかし、そうも言ってられない状況だから、事後承諾……も怪しいけど、とにかく!

『用意できたよ、ミナトさん!』

『こっちもです兄貴! いつでも行けますぜ!』

お、ちょうど『念話』で、その『援軍』の当てから連絡が来た。準備できたか。
じゃあ、早速……『召喚』!

この『ドルイドフォルム』は……『魔法特化』及び『植物操作』の能力を持っている形態だ。さらに、こないだフロギュリアで使った『ハーデスフォルム』と同様、僕の知り合いの、あるモンスターの協力を得て、能力を爆上げすることができる仕様になっている。

僕らの拠点にいる……『ユグドラシルエンジェル』のネールちゃんの力を。

今現在、精神の一部だけを僕と同化させている彼女の力を借りて、さらにそれをブーストさせて魔法を発動。本来、僕にはあんまり才能がない『召喚魔法』を……その魔方陣を、周囲に数十個、一気に作り出す。

そこから、大量の見知った魔物が一斉にあふれ出した。

紅と黒の甲殻を持つスズメバチ、澄んだ水のような羽の蝶、すさまじいスピードで飛翔するカマキリ、黒曜石のような漆黒のクワガタ……その他、色々な種類の、一様に巨大な昆虫たち。
僕の拠点の庭……『カオスガーデン』にいる昆虫の魔物たちだ。

それに加えて、ネールちゃん配下の魔物たちのうち、どうやら飛行能力があって機動力に優れたメンツが来たらしい。高速で飛ぶ荒鷲『フレースヴェルグ』と、魔法を操るリス『ラタトスク』、女性型の精霊『エコー』が出て来た。

そして、極めつけに……こいつ。

『野郎共ォ! ミナトの兄貴の命令だ、気張ってこの獣共狩りまくれやァ!!』

『『『オォォオオ――――ッ』』』

うちの庭の管理担当者、2代巨頭の一角。虫たちのトップ。
ランク測定不能『サンライトエンペラービートル』の、ビートだ。

さっき呼んだ。人海戦術ならぬ虫海戦術のために。
それ以外……鳥とリスと精霊も混じってるけど。

よし、じゃあ後よろしく! 僕らは神殿に突入します!

☆☆☆

同じ頃……聖都シャルクレム、外縁部。

「……来たか。忠告は無駄だったらしいな」

「あの時聞いた内容と同じ条件下であれば、まだ違ったかもしれん。だが……さすがに、今貴様がやろうとしていることは、このまま看過することはできん」

そこではすでに……アザーの『作戦』が始まっていた。
東西南北の門。塀に囲まれたこの『教区』を出入りする、4つだけの出入り口。
その内外を覆うように、蒼い炎が轟々と燃え盛っていた。

神殿で見せたような『閃光』ではなく、普通の炎の色を変えただけ、といった形の見た目だ。
もっとも……そこには膨大な魔力が練り込まれ、水をかけようが、燃えるものがなかろうが、酸素が遮断されようが燃え続ける魔法の炎となっているのだが。

それによって町を出入りする方法を奪われた状態で、今度は町の外縁部から、同じように炎がまき散らされ……徐々にそれが、町の中心部に向かって燃え広がって迫ってきていた。
いや、この場合……燃え『狭まって』とでも言うのが正しいか。

ゆっくりと、だが確実に、そこにある全てを燃え散らしながら。
1匹も逃さず、『獣』達を……この国が、腐敗政治から脱却し、再生して歩み出す障害となりうるものを、残さず排除するために。

それは、確かに……この国を、人の未来を憂いての選択なのかもしれない。
一番確実……とは言わずとも、効果的かつ手っ取り早い方法な方法なのかもしれない。

だとしても、それを看過するかどうかは別。いやむしろ……許されることではない。

「丸ごと焼き払うのなら、殿下たちとて無事ではいられん……待って守っていても状況が改善しないのなら、火元を絶ってこいとの命令だ」

「お前なら、第二王女を抱えて炎上網を突破することも可能だろう」

「だとしても、ここ一帯全ての住民をこのまま見殺しにするのを許容できるかは別問題だ……他国の要人も多くが犠牲になる。……あの炎の壁、見た目に反して熱も性質も凶悪だ。少しでも触れたものを焼き尽くすまで消えんだろう。壁自体の高さもある。魔物を逃がさず仕留めきるためだろうが……あれでは、自力で逃げる手段を持っている者以外は死ねと言っているようなものだ」

「自力で逃げられては困るようなものが多いものでな……まあ、もとより汚名を気にしても仕方のない身の上だ……好きにやらせてもらう」

「貴様の身の上を心配などしていない。それに……好きにやられてもらっても困る」

そうして、ドレークは……腕輪型の収納マジックアイテムの中から、1本の戟を出した。

つい先日完成し、ミナトから受け取った、最新作を。

もっとも、アザーには単純に、武器を取り出したと……戦闘の意思表示だと受け取られた。それゆえに、彼もまた……両腕に魔力を行きわたらせ、青い光を纏わせる。

向かい合う、超のつくレベルの実力者2人。
自然と、周囲に……張り詰めたような空気がまき散らされる。誰かがそこに居れば、理由もなしにして迷わず逃げ出したくなるような……どころか、物理的な圧力すら伴っていそうな空気。

本人達に自覚があるかどうかはわからないが、その場に居れば、余波だけでも大変なことになる、と……肌で、空気で理解するほどの領域が出来上がっていた。

そんな中、アザーは……その素振りを隠そうともせずに、周囲をきょろきょろと見渡し、

「……場所を変えるか」

「何?」

「町自体は、元々焼き払うつもりだった。だが……塀が壊れて穴が開くのは避けたい。俺とお前の戦いなら、余波だけでそれがありうる。お前も……町が巻き添えで破壊されるのは望むまい」

「お前にとっては……時間がかかればかかるほど、炎で燃える範囲が増える。単に俺を抑え込んで、時間稼ぎができていればいいわけか」

「そうなるな。俺の炎は簡単には消えん、お前の妹は来ていないようだし……っ!?」

「っ……これは!?」

その瞬間……町中の一角から、突如として……強烈な殺気が吹き上がった。
ドレークとアザー……2人の気圏を撥ね退けんばかりのそれに、当然ながら2人は気づく。

そして……次の瞬間、


―――ズ バ ァ ア ッ !!


そこから、巨大な赤黒い衝撃波のようなものが巻き起こり……なんと、蒼い炎を、そして外側の塀を切り裂いて、町の外まで突き進んだ。

当然、そこに空白ができ……獣たちが、あるいは、炎と獣を恐れた人々が殺到し……しかし、その一瞬で頭を回したアザーが、特大の炎の弾丸を放つ。その炎が、今の一撃でできた空白を、一瞬にして埋めてしまった。獣一匹通る前に。

しかし、その直前……1人の人間が、そこを凄まじい速さで走り抜けていったのを、ドレークとアザーは見ていた。
そして、その人物が……あろうことか、壁を垂直に走って登ってくるのも。

飛び上がったその陰に、とっさにアザーは火炎弾を放つ。
空中で直撃。超高熱の爆炎にさらされた何者かは――ほんの一瞬だが、男か女かもわからない、随分と若い顔で、剣を構えていたように見えた――そのまま、力なく墜落する。

地面につくまでに燃え尽き、風に乗って灰が舞い散る……と、思われたその時、蒼い炎の向こうに見えた影が、突如2つに分かれた。

そして、その片方が……先程と同じような勢いで上に跳ねあがる。
直後に放たれた、2発めの火炎弾を……今度は、手に持った刃で切り裂いて、そのまま塀の上に着地した。ドレークとアザーが立っている場所から、10mと離れていない場所に。

それは……中年の男性だった。

黒髪に、赤い目。やせ型だが、よく見ると鍛えていて引き締まっているのがわかる体躯。
無精ひげを生やし……髪の毛は、手入れなどしていない様子で、ぼさぼさだ。

特徴的なのは、その装束だろう。白を基調としたその服は……いわゆる『和装』に近い意匠になっていてた。羽織るように着ている上着に加え、地下足袋や脚絆、草履といった、まずこの国……いや、この大陸全体でもほとんど見られないような装備が随所に目立つ。

そして、手に持っていたのは……これも、あまりこの辺りでは見られない武器。
『大灼天』の名で知られる、ドレークの妹……ノエルが持っているものと同じ……『刀』。

それも、柄から刃まで合わせると、身の丈ほどもあろうかという、大太刀だった。

それを肩に担ぐようにして持つ、その男は……ゆらり、という擬音が尽きそうな、独特な……しかし、全く隙のない身のこなしで振り返り、ドレークとアザーを視界に収める。

「戦の香りをかぎ取って来てみれば……懐かしい顔が2つ。正直に言って予想以上だな」

「貴様……リュウベエか!」

「『骸刃』……なぜここに……?」

まさかここにいるとは思っていなかった、しかし、アザー同様に『顔見知り』であるその男の姿に、ドレークは驚きをあらわにし……

同様に驚きつつも、アザーは、一瞬だけ視線を下の方に……自分が火炎弾で燃やした、あの小さな影があったところに向けていた。今はもう、何も残っていないが。

「……どうやら貴様また、『殻』をかぶって隠れていたらしいな。ならば、誰も……ドレークすらも気づかなくとも、無理はないか。……今一度聞く、何をしに来た、この人斬りめ」

「片手の指ほどしか会ったこともないというのに、随分と嫌われたものだな」

とげのあるアザーの口調と、それに乗って叩きつけられた強烈な敵意と殺気。
しかし、『骸刃』『リュウベエ』と呼ばれたその男は、それらを全く意に介さず、むしろ心地よく思っているようにさえ見えた。

「何、簡単なことさ。随分と楽しそうなことをしているものだから……混ぜてもらおうかとな」

「……今、貴様の相手をしている暇はない。失せろ」

「待てアザー! こいつは……」

何かに気づいた、あるいは思いついたように、アザーを制するドレーク。
その止める意図がわからず、アザーが不思議そうな顔をする中、リュウベエはため息をついて、

「つれないな……時にお前達、うっすら聞こえたんだが……戦う場所に難儀しているのか?」

言いながら、すっ……と、わずかな音もなく、肩にかけていた刀を動かした。
ゆっくりと、片手で中段の構えまで持ってきて……その瞬間、口元に笑みが浮かぶ。

「おい、『骸刃』、貴様何を……」

「場所を移すなどまどろっこしい……ちょうどいい場所がないなら、作ればいい。要は、貴様たちが暴れると周りが壊れるから……周りに何もなければいいわけだな?」

「よせ、リュウベエ!!」

その瞬間、またしてもすさまじい速さで駆け出したリュウベエは、勢いをつけて塀から飛び降り……撃ち落とそうと飛んできた、ドレークの風の刃と、アザーの火炎弾を空中で切り払い、
そのまま、狙った場所に着地した……市街地のど真ん中に。

まだまだ外縁部と言えるで、廃れた領域ではあるが、そこにはやはり多くの人がいる。獣もいる。建物の中にいる者も合わせれば、もっと多いだろう。

その中心で……人が降ってきた、何事か、と戸惑う人々に構わず、リュウベエは刀を構え……そのまま、一回転して振りぬいた。

その瞬間、リュウベエを中心にして強烈な風の刃が、全方位を巻き込む竜巻となって発生し……周囲半径数十mを、切り刻み、吹き飛ばしながら撫で上げ……外に押し出した。

その周辺は、ほんの一瞬にして、更地になり……周囲に、無数の瓦礫と、人や獣の死体が混ざって作り上げられた囲いのようなものができていた。

その光景に絶句するドレークとアザーに対し、リュウベエは視線を向け、

「これで足りなければ、そのあたりにある邪魔くさい壁でも斬り払おうか? 個人的には……折角だ、このまま街中で、と行きたいところだがな」

そして、周りを……逃げ惑う人々や、それを襲う獣たち、あちこちで起こる惨劇を見ながら、

「悲鳴、絶望、どうあがいても避けられぬ死……しかし、それを押しのけて生き延びんとする、人の力、生への執着、命の刹那の輝き……常ならば、戦場鉄火場にしかないものが、今は町一つを包んでいる……そして、それら飛び交う中で、食するは最高の馳走。素晴らしいとは思わんか?」

「貴様は……っ!」

「熱くなるな、アザー! 耳を貸す必要はない! ……いや、だがそうもいかんか……放置すれば、これ以上に被害が拡大する」

「っ……全て焼き払おうとしていた身で言うことでもないだろうが……当てつけで壁を壊されるわけにはいかんな。だが、それ以前に……貴様は、この場で! 今度こそ俺が殺す!」

直後、地を蹴って跳んだアザーは、両手に発生させた青い閃光を……着弾と同時にとてつもない大爆発を引き起こすであろうそれを放った。

しかし、空中で横から割り込んできたドレークが、暴風を纏わせた刃を叩き込んでそれを砕く。
余波で飛んできた熱風にはさらされるも、リュウベエは身じろぎ一つ見せない。

「邪魔をするな、ドレーク!」

「町を破壊するなと言っている! 今ので何百人巻き添えにするつもりだった!?」

「奴1人を放置する方が問題だ! それで仕留められれば……いや、これについては元々か。仕方がない……不本意だが乗ってやろう。ここが戦いの場だ!」

「っ……どちらか片方でも放置すれば、リュウベエは暴れ、アザーが焼く。ある程度は目を瞑らざるをえん、か……この2人が相手では……さすがに余裕はないな」

「小難しいことをさっきから……年寄りを待たせるものじゃあないぞ、若造共。ここまで御膳立てしてやったんだ、さっさと諦めて……三つ巴の宴を始めようじゃないか!」

『天戟』のドレーク
『蒼炎』のアザー
『骸刃』のリュウベエ

誰も予想しえなかった、破壊的な三つ巴の戦いが、唐突に……始まった。



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