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第16章 摩天楼の聖女
第303話 加速する大混乱
しおりを挟む「はぁぁああっ!」
僕の目の前で、すっかり回復したソニアが、いつもの盗賊のコスチューム……は目立つので、急遽僕が貸してあげた、動きやすくて頑丈な服を纏って戦っている。
僕用のものの換えなんだけど……本人気にしないらしいので、まあいいとするか。
正面から飛びかかってくる獣に、こっちも正面から右ストレートを叩き込んで首の骨を頭蓋骨ごと粉砕、そのまま別の獣を回し蹴りで背骨を砕き折り、その勢いのまま跳躍して……連続回し蹴りにつなげる。空中で。さらに1匹叩き落した。
が、最後の1匹は死んでいなかったようなので、その後拳でとどめを刺していた。
改めて見ると大したもんだな。ギーナちゃんや僕と同じように徒手空拳での戦いだけど……彼女、技量も相当なものながら、肉体のスペックで魔物をそもそも上回ってるっぽい。
どっちかっていうと僕に近いかな? 僕のも、我流で力技な部分が大きいし。
これについてもさっき説明はもらっている。
彼女は、『スローン族』という亜人の希少種らしい。
ようやく出て来たか、って感じだが……『エクシア』『ケルビム』『アーク』と並ぶ希少種。
種族としての特徴は極めて単純。体が頑丈で、強靭。
人型であり、大きさも普通の人間と変わらないながら……素のスペックが下手な魔物すら上回る、鋼の肉体を持つ亜人だ。鍛えに鍛え上げた肉体を持つ者は、素肌と筋肉で鎧以上の防御力を誇り、拳の一撃で龍すら倒す……とまで言われているそうだ。
見る限り、決して大げさな物言いじゃなさそうだな……さっきから、小細工なしの真っ向勝負で、身体能力的にはかなり強いはずの、獣型の魔物たちを一方的に……
きちんと装備整えて、足手まといがいなければ、この程度の魔物はものともしないようだ。
加えて、さっき僕が渡した解毒剤をあらかじめ飲んでるので、爪と牙の毒ももう効かないし。
もちろん、ソニアだけに戦わせてるわけじゃなく……僕らも戦っている。
ナナは二丁拳銃、時々ショットガンやライフル(型の魔法発動体)で撃ちまくり、獣を仕留める様は、まさにハンターって感じ。
セレナ義姉さんも同じように、剣で魔法で大暴れしてる。こっちはこっちで攻撃力高いから……とくに剣とか、一刀両断の一撃必殺だな。
あっちでは師匠が、鎖鎌みたいな武器を振り回して、向かってくる魔物を片っ端から八つ裂きにしてるし、
空には、空中から魔法を打ちまくって、相変わらず爆撃機みたいになってるアルバが。
そして……隙ができないように、ソニアと背中合わせにして、剣で魔物を迎撃しているソフィー。
以上、僕を含めて、7人のチームだ(6人と1羽か?)。
このメンバーで、途中に居る魔物たちを倒しながら……神殿に向かっている所である。後で、テレサさんとエレノアさんが合流する手はずになってるが。現地で。
何でそうなってるかって? じゃあ説明しようか。走りながら。
☆☆☆
町に獣があふれ出し始めたので、僕らはそれをさっそく迎撃に出ようとして……その時、あらかじめ渡しておいた念話のマジックアイテムで、周囲の状況の偵察に出ているエレノアさんからメッセージが飛んできたのである。
獣の拡散状況とか、神殿の状況とか、色々。
予想はしてたけど、やはりあの『獣』は……どうやら、神殿の中から出てきているらしい。瓦礫の隙間とか、壁に空いた穴とか、いろんな場所から出てきていて……統一性はないが。
そして現在、テロの真っ最中である神殿の門は、権力者たちの逃亡を防ぐために閉ざされている。結果としてそれが、神殿の外に獣が出てくるのを防いでいる……ということはなく、どういうわけか、唯一の出入り口であるはずの正門が閉じてるのに、続々と神殿から獣たちは町に出てきている。塀を乗り越えてるわけでも、壁を壊してるわけでもないのに。
しかし、調べてみれば簡単な話で……おそらくは、お偉いさんたちの避難用であろう、塀の外へ直結の隠し通路を通って、獣たちは出てきていたわけだ。
権力者が護衛を伴って移動できるように、だろうか? かなり広めの通路だったのも災いして……結構体が大きめな獣も出てきてしまっているようで。
しかも悪いことに、通路自体が破損して穴とか開いてるせいで、本来はつながりのないあっちこっちとつながって、あっちこっちから獣が出たり入ったりしてる、と。
で、すでに結構な数の獣が外に出てるわけなんだけども……中にはさらに大量の、そしてさらに大きな獣がひしめいているそうだ。通路を通って外に出れないようなのが。
そして、これで獣が全部だとは限らない。まだ神殿の中、あるいは地下あたりに居る可能性がある。それが……まだまだ、どんどん外に出てくる可能性も。
そうなったらヤバいどころじゃないので、すぐさま行動に移ることになり……僕らは3手に分かれることになった。
まず、戦闘に向かないので、宿の部屋にとどまって待機する、あるいは『サテライト』とかを駆使した司令塔として指示を出したり、情報をまとめたりするチーム。その護衛含む。
国賓ズとネフィアット、それにエルク達や、ブルース兄さん何かがここになった。
次に、街中を回って、出て来ている獣を討伐するチーム。
チームというか、これは完全にもう散開して各自獣を見敵必殺、サーチアンドデストロイの方向でひたすら戦うだけなんだけども。
ノエル姉さんとやテーガンさん、シェリーやシェーン、クロエなんかがいる。
そして、あらかじめ渡しておいた、僕特製の『CPUM』達も。
そして、さっき言った僕ら、神殿へ向かうチーム。
目的はもちろん、この獣たちが出てくる元を何とかすること……と、その他にもう1つ。
現状、その『元』がどういうもんなのか、そもそもわかってないが……とりあえず、獣がこれ以上出てこないようにしなきゃいけないわけだ。
ノエル姉さん達が動いて、町に極力被害が出ないように片っ端から討伐してくれてるとはいえ、限界はある。負けることはなくても、少数精鋭ってのは防衛には不向きだし、守る範囲が広すぎる上に三次元的だ。多少は『CPUM』で何とかなるとしても、さすがに長時間はきつい。
だから、その通路を塞ぐなり、『元』を断つなり封じるなりしないとじり貧。だから僕らが殴り込みに行く……ってわけ。
そして、もう1つの方は……こっちも重要なんだけど、どっちかっていうと努力目標になるし、ちょいと説明すると長くなるので、また後で。
そうこうしているうちに、神殿に到着。
正門は相変わらず閉ざされたままで……非常通路はエレノアさんがすでに崩して塞いでいる。なので、侵入は塀を乗り越えていくことにした。
そして、そこに上って中を見下ろすと……いるわいるわ、うじゃうじゃと。
足の踏み場もない……ってほどじゃないけど、何というか、小学校とか幼稚園の運動会を思い出させるな、この光景は。ザ・群れ、って感じだ。
数もそうだけど、体が大きいのが多いのもあって、圧迫感があるのかも。
……これ、隠れながら侵入するの、無理じゃないか?
全部ぶっ飛ばしてからゆっくり侵入とかした方が……いや、いっそのこと一度きれいさっぱり消し飛ばした方がすっきりするような気も……
いや、だめだ。そんなことしたら、『もう1つの目的』の方が……とか考えてたら、
「おい貴様ら! そこで何をしている!?」
同じく塀の上。向こうの方から……武装した数人の男たちが現れた。
塀の上のスペースを走って、こっちに向かってくる。
……武装が統一されてないし、服も……これは多分……と、思っていたら、
ある程度こっちに近づいたところで、なぜかその集団が敵意を突如膨れ上がらせて……言葉もなしに問答無用で襲い掛かってきた。
……まあ、普通に倒したわけだが。
「む、無念……!」
「くっ……殺せ!」
……野郎の『くっ殺』なんて萌えないにもほどがあるものを見て僕がげっそりしている中、こういう場面には慣れているらしい2人がしゃがみこんで、さっさと事情聴取にあたっていた。
流石元軍人×2。手慣れてる。
で、ナナと義姉さんが聞き出したところによると、やはりというかこいつらテロリストの一味。
目的は、教皇と枢機卿連中……権力に酔った腐ったお偉いさん集団とその部下たちの捕縛、もしくは抹殺、だそうだ。
僕らに襲い掛かってきたのは……聖騎士の制服を着てるままのソフィーが一緒にいたから。
ああ、間違えたのね。
「……すると、あんたたちはここに、あの獣が湧いて出る原因があると考えて……それを解決しに来た、ってことか」
「まあ、ざっくり言うとそうなる。で、心当たりない?」
「……ない。我々も、神殿の中から出てきている、ということぐらいしかつかめていない」
「見た目一発そうですよね」
と、ナナが言った瞬間……塀の下から、突然何かが飛び上がって飛び出した。
いきなり現れたその何かに、『魔物か!?』と僕ら一同ぎょっとして身構えたものの……
「あれ、エレノアさん?」
「やっほー。待ってたニャ、皆」
しゅたっ、とそこに降り立ったのは……『女楼蜘蛛』の偵察兵で、この神殿にも先んじて潜入して内部を探ってもらっていた、猫獣人のお姉さんだった。よかった、無事合流できた。
あとはテレサさんだけだな……しかし、その前に1つ気になる点が。
「おいエレノア? その手に持ってるのは何だ?」
「情報源ニャ」
「ひぃ……ひぃ……たす、助けて……」
豪華な意匠と装飾の……しかし、土埃とかで汚れたり、あちこち破けたりしてボロボロになっている服をまとった、中年……壮年?のおっさんが、エレノアさんに首根っこをつかまれて引きずられてきていた。
☆☆☆
予想通りと言えばそれまでだけども……おっさんの正体は『枢機卿』の1人だった。
『教皇』に次ぐ権力者(ただし俗物)だけあり、色々と情報は手に入った。
……中には、いくつか胸糞悪くなるようなものもあったんだけども……その辺はとりあえず置いておいて、今のこの事態に、まず間違いなく関係ありそうな部分をまとめてみる。
まず、大方の予想通り、あの獣――『アバドン』という名前らしいんだけども、やはりシャルム教の『秘密兵器』的な立ち位置の奴だった。
どうやら、『教典』とかいう、古文書だからなんだかわからないものを解読してその存在が明らかになったそうで、この神殿の地下の空間に住んでいたらしい。
その地下空間を探索させ、数年かけて7匹を発見・捕獲。
さらに数年かけてそれを繁殖させ、しかしこれはあまりうまくいかずに2匹が増えただけ。
合計9匹。AAからAAA程度の『聖なる獣』が、シャルム教が保有する新たな戦力で、彼らはこれを、他の国々との外交を優位に進める手札にしようとしていた。
……どっかの北の国と同じ恫喝外交かよ……ろくなこと考えないな、俗物。
と、思ったらその国も絡んでいて……この枢機卿、教皇らを裏切ってその国にあれらの情報を売りつけようとしていたらしい。現物と、そのコントローラーである『聖女』もセットで。
ホントに腐ってるな……もうどうしようもないんじゃないか、この国。
このへんで全員が嫌悪感と呆れを全面に出す中、しかし説明は続き、佳境に入る。
9匹しかいなかったはずの『アバドン』。それを率いて、テロリストの迎撃にさあ出るぞ、ってところで……どこからともなく無数のアバドンがあふれ出て来たという。
桁が違う……数十とか、数百とかの数が。
当然、そんな数をたった3人の『聖女』で制御できるはずもない。
またたく間に、中にいた者達はそのアバドンの軍団に飲み込まれ……とにかく大混乱だったので、その後はわからないとのこと。誰が死んだとか、生き残って逃げ延びたとかも。
……全員死んでてもおかしくない事態ではあるな。
この枢機卿が生き残ったのは、チラノースの護衛の人らと一緒にいたからで……しかし、それも最後には散り散りになり、自分は他の人が襲われている隙に運よく逃げ延びて……しかし、その先でエレノアさんに捕まって……今に至る。
この枢機卿から聞き出せた話はここまで。やはり神殿の中……それもおそらくは、その『地下空間』とやらに何かの秘密がありそうではある。
偶然見つけた、よくわかってないものを使おうとするなよとか、色々言いたいことはあるものの……とにかくそれを何とかしなきゃ、っていうところに話が行ったんだが、ここで横から口をはさんでくる者がいた。
さっきから拘束しっぱなしで、危うく存在を忘れかけていた……テロリストの皆さんが。
何か焦ってる様子で、こっちを止めようとしてきた。
どういうことか聞いてみたら……ちょっとコレ、大変に輪をかけて大変なことになってるな、この事態!?
そういやさっきから、ちょっと不思議には思ってたんだよ……この神殿、あっちこっちでテロリストやら聖騎士やら『アバドン』やらが戦ってるものの……肝心のこいつらのボス『蒼炎』の姿が、そしてその戦闘の痕跡になる青い光が、さっきから全然見られないから!
そしたら、作戦変更後にさらに作戦変更したとのことで。
何でも……ああ、ちょっとここでおさらいしようか。
この『聖都シャルクレム』は、町の中心に『神殿』がある。そして、そこから徐々に、円形に広がっていく形で、区画分けされた形の町が広がっている……というのは、前にも言った。
『シャルム・レル・ナーヴァ』は、日程が進むにつれて中心部での式典になる、とも。
分かりにくければ、弓道とか、ダーツとか、吹き矢で使う『的』を想像すればいい。
あれって、真ん中に一番小さな○というか円があって、そこが一番点数高いじゃん? その外側に、だんだん直径を大きくした円が描かれていて、外側に行くほど点数が低くなる。多分。
この町はそういう形になっている。そして、外側に行くほど……発展度合いとか、施設の充実具合、暮らしてる人の身分なんかが……悪化して低くなっていく。
一番内側と外側では、同じ町なのか疑わしくなるくらいの、貧富の差がある。
一番内側の『神殿』、その外に……宗教国家の首都らしくなのか、『第一教区』『第二教区』……って形で広がっていく。大体『第三』までが、成金・富裕層の連中の縄張りのようだ。
一番外が『一般教区』で……そのさらに外に『スラム』がある。
で、話を戻すが……さっき、テロリストが作戦を変更したって。
何でも、『第三教区』と『第四教区』を隔てる壁……富裕層ゾーンと一般ゾーンを分けるものなので、神殿ほどじゃないけど結構立派な壁、っていうか塀があるのね?
そこにテロリストの部下が向かって、その壁の内外を行き来する門を封鎖したって。
神殿からあふれ出した『獣』と、彼らテログループの標的である『教皇』そして『枢機卿』以下の宗教幹部たち……腐敗してる感じのそれらを逃がさないために。
しかし、閉じ込めたところで、時間をかければ……金なり、権力なり、はたまた秘密の抜け道なりを使って権力者は抜け出してしまう。そうなれば、またどこかで腐った権力という悪の芽が出てしまう。それでは意味がない。
『獣』についてもそう。外に出て、無差別に一般人を襲ってしまうかもしれない。
まあ、言ってることはわかる。で、じゃあどうするかって話なんだが……。
封鎖した『神殿』から『第三教区』まで全部焼き滅ぼして確実に全滅させる、って何だよ!?
そのとんでもない案に……僕ら、しばし唖然。
何をどう思考を飛躍させてそんなところに至ったんだ……
目の前で、アザーに心酔しているらしい部下テロリストたちが、『この国の未来のためには必要』『最小限の被害で未曽有の災害を食い止める』『どの道この都市には害になる俗物がはびこっている』とかなんとかさっきから言ってるものの……とりあえず耳を貸す必要はないと判断。
本当に……どいつもこいつも……!
よくもまあ、これだけ見事に事態を悪い方へ悪い方へ持っていけるもんだ。底についたと思ったら、それを掘削してさらに下に……ある種の才能じゃないのかこれ!?
「……どうすんだよ、コレ? こいつらの言う通りなら、もうすぐこいつらの親玉が都市中央部そのものをぶっ壊し始めるんだよな?」
「ですけど、どうやらここを……というか、獣共を放置もできないようですよ。ほら」
と、僕が指さす先には……
――ドゴォォォオオォン!!
――グォォオオォ―――ン!!
神殿の壁を突き破って出て来た、ひときわ巨大な『アバドン』が。
どう見ても10m近くあるな……5m程度とは何だったのか。Sランクくらい強いんじゃね? 下手したら、この塀も普通にぶっ壊せそうだ。
それに、大きいのばかりじゃなく、小さいのも総じて危険なわけで。毒あるし。
要するに、あの獣共を放っておくわけには行かない。予定通り、『元』を何とかするために僕らも行動しなきゃいけないってことだ……追加で、すでに出てきてる連中をどうにかしなきゃ、ってのもあるが。あのデカブツとか。
これは、チームをさらに分けて、突入する組と、この辺を守る、あるいは獣を討伐する組で行動しないといけないかもしれない。
幸いというか、神殿の塀のおかげで、小型~中型程度の連中しか外に……街中には出ていないみたいだし、このままキープすればなんとかなると思う。
一刻も早く動くべく、まずは『サテライト』で神殿内部の状況を確認しようかとそれを作動させた…………が、
「……っ……!?」
「おい、どうしたバカ弟子、さっさと『サテライト』を……ああ、そういうことか」
……映らない。
『サテライト』が映らない。使えない。……ノイズが不自然に入りまくってる。
……こんなこと、前にもあったな。
まさか、と思って周囲を見回した瞬間、更にとんでもない事態が起こった。
ドゴオォォオオン!!!
「「「!?」」」
僕がたまたま目を向けた先。
そこで、神殿を囲んでいる塀の一部が……崩れ落ちた。
大穴が開いている……明らかに、他の『避難通路』よりも大型の、多くの獣が通れそうな穴が。
実際に、そこを通って、目の前でもう何匹もの獣が外に……
テロリストと獣と聖騎士との戦いの余波で? いや違う、そんな規模じゃない。
老朽化してたわけでもなさそうだ、崩れ方があまりに不自然だ……デカブツが攻撃して崩したわけでもない。まだそこまでは至ってない。
その答えは……土煙の中から跳び出してきた、1人の人影が教えてくれた。
「あーあー、失敗したな。もっと静かに、気づかれねー程度に穴あけるつもりだったのによ」
「……アガト……!」
こないだとは違う、動きやすそうな……しかし、黒を基調とした戦闘服に身を包み、
こないだと同じ黒い、やたら大きな手甲をつけている、黒髪黒目の少年がそこにいた。
「……何してんの、お前?」
「見てわかんだろ? せっかくの祭りだからな、もっと騒がしくしてやろうと思ってよ」
眼下でどんどん町に出ていっている獣たちを見て、ニヤニヤと笑いながらそんなことを言っているアガトを見て、僕が言いようのない感情を胸に覚えている時……テロリストの1人がはっとしたように、
「ま、まさか……! 避難通路はどれも、入り口のところに、殴って破壊されたかのような荒々しい破壊痕があった……それで、隠されていたはずのそれだが獣たちに見つかってしまったようだったが……まさか、あれはお前が!?」
「ご明察。あんなんじゃ見つからねーからな……人間でも無理なのに、それより知能の足りない獣にきちんと『ここだ』ってわからせるために、一か所一か所丁寧にぶっ壊してたんだよ」
「なぜそんなことをした!? そのせいで……そのせいで、罪なき民に被害が出ると考えなかったのか!? そもそも、そこが獣たちにばれさえしなければ、この神殿の中で全て終わっていたものを……このような取り返しのつかない大災害になってしまったのだぞ!?」
「それをさらに大惨事にしようとしてるのはお前らだろうによ? まあでも、それにどうこう言う気はねえさ……俺はただ、この方が盛り上がるし、いい『試練』になるんじゃねーかと思ってがんばっただけだからな……大勢死ぬだろうが、運がいい奴は生き残るだろ、祈っとけ」
恐らく、『試練』だの何だの言っても……『ダモクレス』というバックグラウンドを知らない彼らには、何のことかわからないだろう。……わかってもどうにかなるってもんでもないが。
……そして、こいつのこの行動が、『ダモクレス』という組織に属する者としてのものなのか、はたまた……こないだからそのケがあると思ってたんだけども、気分でその場を引っ掻き回して悦楽に浸るためだけのものなのか……あるいは、僕に対する当てつけなのか。その辺も不明。
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その代わりに、どうやって戦うのかを示すように……僕の手には、武器が握られている。
こちらも緑色をベースにしていて、先端がとがっている……杖にも槍にも見える、棒状の武器。僕の身長よりも大きいそれを、僕は肩に乗せるように持つ。
そして、もう片方の手に……1つの『CPUM』を取り出した。
それは一見すると、魔物の形をしていない。
ただの……植物の種に見える。というか、実際に植物の種だ。僕オリジナルの。
これをこの『ドルイドフォルム』で使うと……どうなるか。
僕はそれに魔力を込めて、指弾のように親指で弾いて飛ばし、崩れた壁の根元に着弾させ……同時に杖の先端を向ける。そこから特殊な魔力の波動を放ち……すると、すぐに異変が起こる。
打ち込んだ種が発芽し……みるみるうちに成長。まるで何匹、何十匹もの大蛇のように、無数の蔦が伸びて……それが絡み合い、壁に張り付き、絡みつき……あっという間に、そこに空いた大穴を塞いでしまった。
それどころか、獣も何匹か巻き込んで、成長の勢いで絞め殺したりしている。
さらに、その勢いで蔦は――もうお分かりかとは思うが、僕がコントロールしているんだけども――アガトにも襲い掛かる。
『うぉっ!?』と驚いた声を残し、アガトはその蔦に包まれて捕らわれ……そうになった瞬間にしかし、するりとそれを抜けて、土煙の中に消える。
……逃げられたか……すばしっこいな。『サテライト』のジャミングが続いてるから、追跡も難しいだろう。樹のツタじゃなくて、自分でとっ捕まえに行けばよかったか。
だが、今はもういい。構ってる暇はない。
どうやら、この事態をさらに引っ掻き回す連中がいることが判明した以上……一刻も早く『元』を断たないと、本当に取り返しがつかないことになりそうだ。
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